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第一章 宿命を背負う男
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「何でしょう」
「別当さんのお誕生日って、いつかしら?」
「そんなことですか。昭和……」
と言い始めたとき、恭子が口を挟んだ。
「待って。私が質問するから、それに答えて下さらない?」
「良いよ」
「年は私と一緒だから、昭和五十五年よね。じゃあ、月は前半? それとも後半?」
「ぎりぎり前半」
「じゃあ、六月ね?」
「そう」
「わあ、私と同じだわ」
童女のような無邪気な目をする。
「それじゃあ。日は……そうね、星座は双子座、それとも蟹座?」
「蟹座」
「やったあ」
胸の前で拳を作り、
「また同じだわ。何だか、わくわくしてきた」
とはしゃぎ声に変わる。男性客は二人の会話に釘付けになり、玲子は黙ったまま柔和な眼差しを向けている。
「いったい、どういうこと?」
真司が堪らず二人の中に割って入った。
「もしかしたら、私とお誕生日が同じかもしれないと思って……」
「そうすると、恭子ちゃんも昭和五十五年の六月で、蟹座なの?」
「そういうこと」
恭子は目も合わさず、おざなりに言った。
「じゃあ、六月の蟹座は二十二日から三十日までだけど、前半? それとも後半?」
「前半」
「また同じだ。なんだか、絶対同じ日のような気がしてきた」
恭子は、興奮を抑え切れないように言うと、
「それでは、最後の質問です。その日は、特別な日じゃない?」
と、光智の口元を凝視した。だが、彼の頭には何も響かなかった。
「特別な日?」
転瞬、恭子の顔が曇った。
「そう。四年に三回、特別な日……」
そう聞いて、ようやく光智はピンときた。彼はにやりと笑みを零す。
「たしかにそうだ。四年に三回、特別な日だね」
「やっぱり。私も二十二日、夏至の日なの」
恭子は店内に響き渡るような声で言った。
「こんな偶然もあるんだな。生年月日が全く同じ人に出会ったのは初めてだ。もっとも、いちいち相手の生年月日なんか訊かないけど」
「私の方はこういう仕事なので、母がよく訊いているの。でも、二人目が見つかるなんて驚きだわ。ねえ、ママ」
恭子は、両手を胸のあたりで合わせ、身体を小さく上下しながら、玲子を見た。
「もう一人はね、矢崎秀輝(やざきひでき)さんといって、帝大の医学部生なのよ」
意味ありげな口調で補足した後、
「それにしても、因縁を感じるわねえ」
玲子はしみじみとした顔つきで言った。
「生年月日が全く一緒なんて、たしかに因縁と言えば奇しき因縁ですね」
そう同調した光智だったが、玲子の真意までは知る由もなかった。
「別当さんのお誕生日って、いつかしら?」
「そんなことですか。昭和……」
と言い始めたとき、恭子が口を挟んだ。
「待って。私が質問するから、それに答えて下さらない?」
「良いよ」
「年は私と一緒だから、昭和五十五年よね。じゃあ、月は前半? それとも後半?」
「ぎりぎり前半」
「じゃあ、六月ね?」
「そう」
「わあ、私と同じだわ」
童女のような無邪気な目をする。
「それじゃあ。日は……そうね、星座は双子座、それとも蟹座?」
「蟹座」
「やったあ」
胸の前で拳を作り、
「また同じだわ。何だか、わくわくしてきた」
とはしゃぎ声に変わる。男性客は二人の会話に釘付けになり、玲子は黙ったまま柔和な眼差しを向けている。
「いったい、どういうこと?」
真司が堪らず二人の中に割って入った。
「もしかしたら、私とお誕生日が同じかもしれないと思って……」
「そうすると、恭子ちゃんも昭和五十五年の六月で、蟹座なの?」
「そういうこと」
恭子は目も合わさず、おざなりに言った。
「じゃあ、六月の蟹座は二十二日から三十日までだけど、前半? それとも後半?」
「前半」
「また同じだ。なんだか、絶対同じ日のような気がしてきた」
恭子は、興奮を抑え切れないように言うと、
「それでは、最後の質問です。その日は、特別な日じゃない?」
と、光智の口元を凝視した。だが、彼の頭には何も響かなかった。
「特別な日?」
転瞬、恭子の顔が曇った。
「そう。四年に三回、特別な日……」
そう聞いて、ようやく光智はピンときた。彼はにやりと笑みを零す。
「たしかにそうだ。四年に三回、特別な日だね」
「やっぱり。私も二十二日、夏至の日なの」
恭子は店内に響き渡るような声で言った。
「こんな偶然もあるんだな。生年月日が全く同じ人に出会ったのは初めてだ。もっとも、いちいち相手の生年月日なんか訊かないけど」
「私の方はこういう仕事なので、母がよく訊いているの。でも、二人目が見つかるなんて驚きだわ。ねえ、ママ」
恭子は、両手を胸のあたりで合わせ、身体を小さく上下しながら、玲子を見た。
「もう一人はね、矢崎秀輝(やざきひでき)さんといって、帝大の医学部生なのよ」
意味ありげな口調で補足した後、
「それにしても、因縁を感じるわねえ」
玲子はしみじみとした顔つきで言った。
「生年月日が全く一緒なんて、たしかに因縁と言えば奇しき因縁ですね」
そう同調した光智だったが、玲子の真意までは知る由もなかった。
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