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第一章 君はこれから少年ヒーローだ‼︎
第三話 根っこを切るんだ!
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「くそっ‼ 埒が明かねぇ‼」
俺は無数に生えてくるハエトリグサを、屋上から何度も打ち抜いていた。しかし、屋上から狙い撃つことのできない根っこの部分から、ハエトリグサが何匹も生まれてくるせいで、いくら茎を打ち抜いても勢いが衰える様子がない。逆に言えば勢いは激しくはならないのだが、俺の体力は消耗される。このままじゃ、俺の体力がつぶれるのも時間の問題だ。
「やっぱりあいつに根っこを切ってもらうしかない! あいつはどこ行ったんだ⁉」
無理だってえええええ! と叫んで逃げていったあいつ。追おうとしても、ハエトリグサの増殖を止めるために俺は動くことができなかった。
……いくら百万人が見てくれてるとはいえ、このままじゃ……。
体力が減っていく中そう思っていると、俺の目の端に一瞬まばゆい光が貫くのを捉えた。
「なんだ⁉」
そう言って、左の方へ向く。
その光は、俺の立っている屋上の校舎の隣の別校舎、二階の廊下から見えた。
すると、イヤホンマイクからアゲハの声が聞こえた。
「やったーっ! カブトが戦ってくれたぞ!」
「本当か⁉」
俺は声を上げる。懲りずに突撃してくるハエトリグサを打ち抜く。
「え、やっぱり僕、カブトって名前なの⁉」
すると、あいつの声が聞こえた。やっぱりやってくれたかと、俺は心底嬉しくなる。
「君たちにはニックネームで呼び合ってもらうから!」
「え、でもカブトって名前、だ……」
「それより! 剣が扱えるようになってくれたんなら、ハエトリグサの根っこを切ってくれないか⁉ 頼む! 俺は持ちこたえるのに精いっぱいなんだ!」
カブトの言葉の語尾を遮るように、俺は叫んだ。
「う、うん! 分かった!」
======================================
「アゲハ蝶さん! ハエトリグサの根っこってどこ⁉」
僕は、ハエトリグサの一匹が倒れて灰まみれになった廊下で、左耳を押さえながら訊いた。
「君から見て左の方にある、校舎に囲まれたテニスコートだ!」
「そこに出たら俺が屋上から援護する! いけっ‼」
クワの声が、僕の鼓膜を揺るがすように聞こえてくる。
「了解っ‼」
僕はほぼにやけ顔で答える。今の僕、超カッコいい‼ なんて思いながら。
心臓がドクドクと興奮し、体内に駆け巡る血液が僕の衝動を駆り立てる。
光剣を柄に戻し、鞘に直して、僕はぼろぼろになった廊下を走って引き返す。渡り廊下の床はハエトリグサのせいでガラス片と灰まみれになっている。
「あそこか‼」
渡り廊下の割れた窓から見えるテニスコートに、ハエトリグサは太く根を張っていた。そこから小さなハエトリグサの口が生まれ、別校舎の屋上にいるクワへと茎を伸ばし、成長している。
勝負はそろそろ大詰め! 面白くなってきた!
外から吹く涼しい夜風が、灰で汚れた僕の頬を撫でようとも、僕の興奮は引いては行かない。
イヤホンマイクからは、僕とクワを応援する少年少女の声。
その声に突き動かされるように、僕は割れた窓の縁に乗っかり、そこから飛び降りた。
「おお! いいアクションだ!」
アゲハ蝶さんの声が聞こえる。
学校の入り口への坂に、僕はどしっと両足をつける。体の芯まで響くような衝撃が伝わり、僕の心は震える。それと連動するみたいに、シューズの蛍光色は風を起こしながらブオォン! と光った。
その光を捉えたのか、無数のハエトリグサはこちらへと標的を変え、口を大きく開けテニスコートに涎を垂らしながら迫ってくる。
「っ‼」
感情の分からない、ハエトリグサの無数の口に僕は怯みそうになるが、即座にクワの声が聞こえる。
「任せろ!」
その声が聞こえると同時に、屋上から斜めにいくつもの閃光が降り注ぐ。その光は全てハエトリグサの茎を貫き、一瞬でテニスコートに灰が降る。
「ありがとう!」
僕は屋上を見上げながら叫ぶ。
「お礼は後からだ! カブトは目の前の根っこを切断することだけを考えろ!」
屋上の柵に肘を預け、ライフルを持っているクワが僕を見降ろしながら叫ぶ。
「うん!」
僕は前へと向きなおし、そのままテニスコートの中へと入っていく。
僕は鞘から柄を取り出し、スイッチを押す。白いラインを超え、光剣が出来上がると同時に、根っこからのものすごい風圧と、頭を上からがしっと押さえつけるような頭痛を感じた。
「うっ……‼」
なんだ、これは⁉
「根っこに近づくと、相手の精神攻撃が始まるんだ! 苦しいかもしれないけど、そのまま突っ込んで!」
「うん!」
僕はアゲハ蝶さんの声を聴きとり、そう返す。走りだすと、足が地面を踏みしめると同時に同じ頭痛が降りかかる。
そして、僕は少年の声を聞き取る。まるで、眠っているときに謎の爆音が聞こえてくるみたいに。頭の血液がバクバクと悲鳴を上げるように。
……なんで俺は、親の言うことばっかり聞いてなきゃいけないんだよ!
……なんで親も教師も、俺の意見を聞いてくれないんだよ!
……どうして自分の将来に嘘をつかないといけないんだよ!
「ええっ……。なにこれ……」
これは、子供たちの声援の声じゃない。そもそも、イヤホンマイクから聞こえてくるものではない。
もしかして、あのハエトリグサが……⁉
一歩一歩踏みしめるほど、その悲鳴は大きくなる。そして、僕はとある幻覚に陥る。
それは、とある映像として頭の中に流れてくる。
リビングで、男の子は自分の夢をその男の子のお母さんに語っている。しかし、お母さんはそれをまともに聞き入れてくれない。あんたはもっと学力あるんだからさ、なんていう言葉が聞こえてくる。
そして、また別の映像。
この学校の、教員室なのだろうか。先生の机に置かれた希望届。姿勢悪く座って、悪態をつく先生。それを絶望の表情で見下ろしている男の子。
そして男の子は、暗闇の中で一人泣いている。叫び声を上げている。
「ああああああああああああああああああああああああああああああああっ‼」
なんだこれ……。心が、痛い。辛い、辛い、辛い……。
その男の子の心が僕に乗り移ってしまったみたいに、僕の胸は苦しくなる。力がだんだん抜けて、目に涙が溜まっていく。
……ト‼
別の誰かが、叫んでいる。この声は……。
「カブト‼」
そう言われて、僕ははっと正気に戻る。目の前には、力強くテニスコートに這っているハエトリグサの根っこ。
「良かった! 正気を取り戻した!」
アゲハ蝶は左耳の中で声を上げる。もしかして、と僕は思う。
今見えた男の子は、もしかして、このハエトリグサなんじゃないか⁉ だとしたら、この男の子が取り囲む環境は、なんてひどい……。
他人事のはず。知ることのなかったことのはず。それでも、僕は許せなくなる。今までになかった怒りが、僕の内側からふつふつと湧き上がってくる。
根っこからまた無数のハエトリグサが生え、僕の周りを取り囲もうとする。しかし、屋上からのクワの射撃で、それは拒まれる。
僕はきりっと根っこに目を向け、両手で光り輝く光剣の柄を強く握りしめ、全速力で走って切りかかった。
「んんっ‼」
横むきに、僕は切り込む。カラフルに燃え滾る光剣は、根っこの繊維をバチバチと焼き切っていく。色を変えていく手持ち花火みたいに煙が生まれ、僕の衣装を乱暴に靡かせる風圧で硝煙が流れていく。
「う、ううっ‼」
切れ込みは根っこの真ん中まで入っている。このままの調子なら切れる! 僕はそう確信し、前にありったけの力を込める。
……いけえええっ、カブトおおおおっ‼
イヤホンから聞こえる、どこの誰とも知らない、女の子の声。そして、無数に聞こえる声援。みんなで、みんなでこの男の子を救うんだ!
「はああああああああああああああああああっ‼」
僕の体内の空気を全て吐き出すかのように叫び、みんなの声援と混じる。右端の数字がとんでもない速度で増量していく。それに連動して、光剣は爆音を上げて勢いを増す。
「はあああああああああああああああああああああああああっ‼」
僕は全力で叫ぶ。
根っこの繊維がぶちぶちと斬れ、焦げた断面が円状に近づいていく。
そして、根っこが切れたと同時に、無数のハエトリグサは灰へと化したのだった。
俺は無数に生えてくるハエトリグサを、屋上から何度も打ち抜いていた。しかし、屋上から狙い撃つことのできない根っこの部分から、ハエトリグサが何匹も生まれてくるせいで、いくら茎を打ち抜いても勢いが衰える様子がない。逆に言えば勢いは激しくはならないのだが、俺の体力は消耗される。このままじゃ、俺の体力がつぶれるのも時間の問題だ。
「やっぱりあいつに根っこを切ってもらうしかない! あいつはどこ行ったんだ⁉」
無理だってえええええ! と叫んで逃げていったあいつ。追おうとしても、ハエトリグサの増殖を止めるために俺は動くことができなかった。
……いくら百万人が見てくれてるとはいえ、このままじゃ……。
体力が減っていく中そう思っていると、俺の目の端に一瞬まばゆい光が貫くのを捉えた。
「なんだ⁉」
そう言って、左の方へ向く。
その光は、俺の立っている屋上の校舎の隣の別校舎、二階の廊下から見えた。
すると、イヤホンマイクからアゲハの声が聞こえた。
「やったーっ! カブトが戦ってくれたぞ!」
「本当か⁉」
俺は声を上げる。懲りずに突撃してくるハエトリグサを打ち抜く。
「え、やっぱり僕、カブトって名前なの⁉」
すると、あいつの声が聞こえた。やっぱりやってくれたかと、俺は心底嬉しくなる。
「君たちにはニックネームで呼び合ってもらうから!」
「え、でもカブトって名前、だ……」
「それより! 剣が扱えるようになってくれたんなら、ハエトリグサの根っこを切ってくれないか⁉ 頼む! 俺は持ちこたえるのに精いっぱいなんだ!」
カブトの言葉の語尾を遮るように、俺は叫んだ。
「う、うん! 分かった!」
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「アゲハ蝶さん! ハエトリグサの根っこってどこ⁉」
僕は、ハエトリグサの一匹が倒れて灰まみれになった廊下で、左耳を押さえながら訊いた。
「君から見て左の方にある、校舎に囲まれたテニスコートだ!」
「そこに出たら俺が屋上から援護する! いけっ‼」
クワの声が、僕の鼓膜を揺るがすように聞こえてくる。
「了解っ‼」
僕はほぼにやけ顔で答える。今の僕、超カッコいい‼ なんて思いながら。
心臓がドクドクと興奮し、体内に駆け巡る血液が僕の衝動を駆り立てる。
光剣を柄に戻し、鞘に直して、僕はぼろぼろになった廊下を走って引き返す。渡り廊下の床はハエトリグサのせいでガラス片と灰まみれになっている。
「あそこか‼」
渡り廊下の割れた窓から見えるテニスコートに、ハエトリグサは太く根を張っていた。そこから小さなハエトリグサの口が生まれ、別校舎の屋上にいるクワへと茎を伸ばし、成長している。
勝負はそろそろ大詰め! 面白くなってきた!
外から吹く涼しい夜風が、灰で汚れた僕の頬を撫でようとも、僕の興奮は引いては行かない。
イヤホンマイクからは、僕とクワを応援する少年少女の声。
その声に突き動かされるように、僕は割れた窓の縁に乗っかり、そこから飛び降りた。
「おお! いいアクションだ!」
アゲハ蝶さんの声が聞こえる。
学校の入り口への坂に、僕はどしっと両足をつける。体の芯まで響くような衝撃が伝わり、僕の心は震える。それと連動するみたいに、シューズの蛍光色は風を起こしながらブオォン! と光った。
その光を捉えたのか、無数のハエトリグサはこちらへと標的を変え、口を大きく開けテニスコートに涎を垂らしながら迫ってくる。
「っ‼」
感情の分からない、ハエトリグサの無数の口に僕は怯みそうになるが、即座にクワの声が聞こえる。
「任せろ!」
その声が聞こえると同時に、屋上から斜めにいくつもの閃光が降り注ぐ。その光は全てハエトリグサの茎を貫き、一瞬でテニスコートに灰が降る。
「ありがとう!」
僕は屋上を見上げながら叫ぶ。
「お礼は後からだ! カブトは目の前の根っこを切断することだけを考えろ!」
屋上の柵に肘を預け、ライフルを持っているクワが僕を見降ろしながら叫ぶ。
「うん!」
僕は前へと向きなおし、そのままテニスコートの中へと入っていく。
僕は鞘から柄を取り出し、スイッチを押す。白いラインを超え、光剣が出来上がると同時に、根っこからのものすごい風圧と、頭を上からがしっと押さえつけるような頭痛を感じた。
「うっ……‼」
なんだ、これは⁉
「根っこに近づくと、相手の精神攻撃が始まるんだ! 苦しいかもしれないけど、そのまま突っ込んで!」
「うん!」
僕はアゲハ蝶さんの声を聴きとり、そう返す。走りだすと、足が地面を踏みしめると同時に同じ頭痛が降りかかる。
そして、僕は少年の声を聞き取る。まるで、眠っているときに謎の爆音が聞こえてくるみたいに。頭の血液がバクバクと悲鳴を上げるように。
……なんで俺は、親の言うことばっかり聞いてなきゃいけないんだよ!
……なんで親も教師も、俺の意見を聞いてくれないんだよ!
……どうして自分の将来に嘘をつかないといけないんだよ!
「ええっ……。なにこれ……」
これは、子供たちの声援の声じゃない。そもそも、イヤホンマイクから聞こえてくるものではない。
もしかして、あのハエトリグサが……⁉
一歩一歩踏みしめるほど、その悲鳴は大きくなる。そして、僕はとある幻覚に陥る。
それは、とある映像として頭の中に流れてくる。
リビングで、男の子は自分の夢をその男の子のお母さんに語っている。しかし、お母さんはそれをまともに聞き入れてくれない。あんたはもっと学力あるんだからさ、なんていう言葉が聞こえてくる。
そして、また別の映像。
この学校の、教員室なのだろうか。先生の机に置かれた希望届。姿勢悪く座って、悪態をつく先生。それを絶望の表情で見下ろしている男の子。
そして男の子は、暗闇の中で一人泣いている。叫び声を上げている。
「ああああああああああああああああああああああああああああああああっ‼」
なんだこれ……。心が、痛い。辛い、辛い、辛い……。
その男の子の心が僕に乗り移ってしまったみたいに、僕の胸は苦しくなる。力がだんだん抜けて、目に涙が溜まっていく。
……ト‼
別の誰かが、叫んでいる。この声は……。
「カブト‼」
そう言われて、僕ははっと正気に戻る。目の前には、力強くテニスコートに這っているハエトリグサの根っこ。
「良かった! 正気を取り戻した!」
アゲハ蝶は左耳の中で声を上げる。もしかして、と僕は思う。
今見えた男の子は、もしかして、このハエトリグサなんじゃないか⁉ だとしたら、この男の子が取り囲む環境は、なんてひどい……。
他人事のはず。知ることのなかったことのはず。それでも、僕は許せなくなる。今までになかった怒りが、僕の内側からふつふつと湧き上がってくる。
根っこからまた無数のハエトリグサが生え、僕の周りを取り囲もうとする。しかし、屋上からのクワの射撃で、それは拒まれる。
僕はきりっと根っこに目を向け、両手で光り輝く光剣の柄を強く握りしめ、全速力で走って切りかかった。
「んんっ‼」
横むきに、僕は切り込む。カラフルに燃え滾る光剣は、根っこの繊維をバチバチと焼き切っていく。色を変えていく手持ち花火みたいに煙が生まれ、僕の衣装を乱暴に靡かせる風圧で硝煙が流れていく。
「う、ううっ‼」
切れ込みは根っこの真ん中まで入っている。このままの調子なら切れる! 僕はそう確信し、前にありったけの力を込める。
……いけえええっ、カブトおおおおっ‼
イヤホンから聞こえる、どこの誰とも知らない、女の子の声。そして、無数に聞こえる声援。みんなで、みんなでこの男の子を救うんだ!
「はああああああああああああああああああっ‼」
僕の体内の空気を全て吐き出すかのように叫び、みんなの声援と混じる。右端の数字がとんでもない速度で増量していく。それに連動して、光剣は爆音を上げて勢いを増す。
「はあああああああああああああああああああああああああっ‼」
僕は全力で叫ぶ。
根っこの繊維がぶちぶちと斬れ、焦げた断面が円状に近づいていく。
そして、根っこが切れたと同時に、無数のハエトリグサは灰へと化したのだった。
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