破壊は追憶の果てに

奏紫 零慈

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9 レンケイ

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  アゲハは目にくまを浮かべ、かなり眠そうな様子で呟いた。
「俺はなお前らと遊びに行った後、1分たりとも睡眠を取ることなくメカの製造や情報収集に明け暮れていたんだぞ。そして今ようやくお前らが現れた」
「そかそかー偉いえらーい」
「おっと、させねーよ?自分より背の低い人間に撫で撫でされてたまるか。背の高い奴でもいやだがな。とりあえずな、貴様はとんでもない愚行を犯したエムよ。それはまるで少女の処女を奪うのと同じほどの罪だ。だがお前は幸運にも俺の頭に触れることはなかった。だから今回は見逃してやろう。そして言わせてもらう、俺の頭を撫で撫でしていいのは広い心と豊満な胸を兼ね備えた温かいお姉さんだけだ!以上だ」
「でもさ、ナデナデなら大人とか親にされてもらったんじゃねーの?」
「…過去のことなんて知らん。俺は優しいお姉さんに甘えさせて貰えばそれでいい。いや、しかし強気な姉さまに苛められるのも悪くない…!」
「うわぁ…仮想アイドルに姉萌えとかコイツ趣味が濃すぎて引くなっ!つーかエンジェルスイーツどちらかと言ったらロリじゃね?なんで好きなんだよ意味わかんねーよ!」
「エンジェルスイーツじゃない、エンジェルスイートだ!貴様には分からなくていい、踏み込む必要のない領域だ。おとなしくヤクルトでもグビグビ飲んでおけこの化け男ロリータ!」
「違うアタシはロリータじゃない!アタシはー」
「なんだ!?頭おかしいからラリってるラリラリラリータか!?そうかそうか、ラリータちゃんおまるの中にちゃんと出そうね~はいはいワロスワロス」
「アタシは合法ロリだぁ!!!小さいか!?そうか!?悪いか!?てめぇみたいな趣味持ってるよりは第二次性徴をあまり迎えられなかったアタシの方が軽症だっての!!つーわけでキモメガネ殺す」
「まぁまぁ2人とも、落ち着こうよ。話がどんどん回っていて、もう頭ぐるぐる回って気絶しそうだよ」
「…そうだな。本題に入ろう。β区に送り込まれたドローンについて調べたんだが前回行ったポートエリアを除く4つのブロックに30機ずつドローンがいるらしい。」
「β区に120体もあれがいるんだ…」
がっくりと肩を落とす。
「前も30体ぐらいはいたし、1つのブロックずつ潰していけば余裕っしょ!」
「今日はハイワェイエリアに行こうと思うんだが、お前達には夜の11時まで寝てもらう」
「え?ね、寝るの?」
「なんで夜行く必要があるんだ?」
「今の時間だと明るいし、人に見られては不都合だ。夜の時間ならハイワェイエリアにはほぼ人は現れない」
「なるほど、そうなんだ~」
「アタシそんなに眠くないから起きてていいか?」
「ダメだ」
「なんでよー!!」
「ドローンと言ってもこの前と同じタイプとは限らない。予想以上に時間がかかるだろうしコンディションも完璧にしておきたい。だから寝ろ、そして俺も眠すぎて死ぬから寝る!」
「むぅー…解せねぇ」
アゲハについて行くと、そこには人が1人入ることの出来る程の大きさのカプセルが3つあった。
「ねぇアゲハ。何だコレ?」
「見ての通り仮眠カプセルだ。この中で11時まで寝てもらう。心配するな、この中に入ってしまえばどんなに興奮していても10分後には夢の中だ。それに安眠出来るように中の感触や香り、音などに工夫も凝らしているから気持ちよく目覚められるだろう」
「10分だけ我慢すればいいんだな」
「寝起きに戦いに行くって不思議な気分だな~」


11時になり、準備をしてロードシフター(2人乗りの小さな車のような乗り物)に乗りハイワェイエリアへ向かう。
「凄い、高速道路がグルグル巻きだ。エム、目的地の場所大丈夫?」
「アタシに任っかせとけ!」
前の席でエムが運転している。
「奥に立ち入り禁止の板があるからそこを突っ切ってくれ」
セトの膝の上で羽の生えた白いメカからアゲハの声が聞こえる。
「おらよっと!」
言われた通りに突っ切ると、すぐにそれを察知した小型の走行用ドローンが追いかけてくる。
「僕がドローンを倒していくからエムは運転に集中してね」
「おーサンキュー」
アゲハをブラスターに変形し、ドローンを狙って撃つとドローンのホイールが破裂しそのまま動かなくなる。追いかけてくる次々のドローンを撃ち潰していく。
「おお!セト撃つの上手くなったなー」
「これなら30機でも結構楽に済みそう。強いドローンじゃなくてよかったぁ~」
「そうだな30機駆逐したらすぐに切り上げよう」
ゲーム感覚でスムーズにドローンを駆逐していき、残り後1体となった。
「後1機は何処にいるんだろ」
「ぬぁ!?なんかデカイのがこっち来てるぞ!!!」
「え?うそ…ヤバそうなの来たぁぁああ!!」
道路に足を付けることなく摩擦を受けずに滑るようにこちらに接近してくるのは準大型のドローンだった。
「まさか。β区にあのサイズのドローンが送られることはないはずでは…想定外だ」
「…ブラスターの攻撃が効かない?そんな、アレ速い上に頑丈なの??」
「うおおおりゃあああ!!!」
全力で加速させてドローンとの距離を離そうとするが、
「あ…」
「どうしたエム?」
「スピード出しすぎたら動かなくなった」
「え…」
「貴様このドアホツインテール!!!」
すぐにドローンはやって来てロードシフターを横に吹っ飛ばしてしまう。
「平気か2人とも」
「やりやがったなデカブツ野郎…アタシがぶっ飛ばしてやるよ!!」
赤いハーフフィンガー手袋と厚底の靴がエムの手足にまとわりつくように変形しパンチガントレッドとアイアンキッカーになる。エムの戦闘形態、モンクモードである。
~ブゥルルル~  
ドローン側もエムの売った喧嘩に乗ったのか声のような機械音をあげる。

ーズッカーンー
ドローンの背に付いたサソリのような鋭いスピアがエムを突き刺そうとするが避けられ道路に刺さる。
「あっぶねー」
ーダンッダンッダンッー
「やっぱりあんまり効かないな」
「とにかく撃ち続けてみろ」
「あ、一応効いてる」
ドローンの肩部の装甲が剥がれ、青いゴム性の丸い膨らみが剥き出しになる。
「あれを壊せば結構なダメージになりそう」
ーダンッダンッー
丸い膨らみは水風船のように破裂しドローンの左腕のパーツが外れていく。
「いい感じだ」
「こ、こっちに来る!」
肩部を破壊され、ターゲットがエムからセトに変わる。
「よそ見すんなー!てめえの相手はこのアタシだ!!」
横からドローンの頭部目掛けて強烈なパンチをお見舞いする。
~ブゥロロ~
そのままバランスを崩し横に倒れる。
「今だ。セト、奴の弱点を剥き出しにするんだ。」
「おーけー」
「へへー!ぶっ倒れてやんの!」
ドローンの背部に座るエム。するとドローンは再起動し青い光をボディから放って装甲が開きゴムの肉体があらわになる。
ーギョオオオオンー
物凄い回転をし、エムは何処かへ飛ばされる。
「エム!」
物凄いスピードでこちらにやって来てスピアを向けて来たと思ったら槍の針が開き、昨日目にしたUFOキャッチャーのようなアームでセトを掴む。
「うわっ」
胴体と腕をきつく締め付けられ、ブラスターを落としてしまう。
「な!?マズイぞエム、セトが捕まった」
「らぁ!!セトを離せ!!」
ドローンの腕に飛びかかるが、反対腕から発射された黒い粘液がエムに付着しエムを動けなくする。
「くそぉ…」
ドローンはセトを背中のアームで掴んだまま、何処かに行ってしまう。
「…仕方ない。俺も現場に向かうか。少し待っていてくれ。すぐにそっちに向かう」

コンピュータモニターの席から立ち上がり、ラボの方に向かう。
「まさかこんなに早くコイツを操縦することになるとはな…」
白衣を翻し、眼鏡をカチャっと装着し直す。
そして決め台詞。
「俺たちの正義という名のテロリズム(叛逆)は始まったばかりだというのに…」



「うわぁあああ!!!!無理だ無理だ怖い怖い!!なんだこれ~!!死ぬって!!」
アームに捕らえられ、6メートル程の高さから猛スピードで移動しながら下を見せられると恐怖しかない。もうセトにはどうすることも出来なかった。
~プルルルル~
するとローターが風を切って回転する音が聞こえた。前を見上げると無数の装備をしたヘリコプターのような乗り物がアゲハを乗せて空中で停滞した。

「アゲハ?」
「待ってろ、今助けてやる」
ドローンと同じ高さまで急降下して、迎撃しようとしている。
「え、でも今攻撃したら…」
「その心配はない」
セトの言いたいことを察したようだったが、ヘリのフロントに装備されたボウガンのような形の所から円盤をドローン目掛けて飛ばす。
~ブロロロ~
すると背中のアームが開き、囚われの身であったセトはそのまま下に落下する。
「あぁあぁあああぁあ!!!!」

「ふぅ…もう心配ない。しっかりキャッチしたぞ」
ヘリ左右に付いていた腕のような物がセトを拾い上げ、下にゆっくり降ろす。
「はぁはぁ、なんとか助かった。ありがと」
セトは地面に足をついてようやく、死神に自分の心臓をお手玉として遊ばれるような気分の悪さと恐怖から解放された。
「潰れろぉぉおおお!!!」
荒々しい、少女の声を耳にした。エムがかかと落としでドローンの頭部をアタックする。
「エムも大丈夫だったんだね!」
「あれぐらいのネバネバ…アタシには効かねぇっての!」
アレイザーから分裂したアウラ核を吸収した者しか発現することの出来ない2つの特殊能力。1つは固有能力、もう1つは属性能力。そのうちの属性能力が発現したのだろうか。エムの腕や脚に付着していた粘液が『熱』で徐々に溶かされていく。
弱点である青い膨らみをいくつか破壊した。しかしドローンはまだ衰えを見せていない。
~ヴォルルルルル~
青い膨らみが装甲の中に隠れてしまう。
「ちょっとブラスター取ってくるね」
そう言い、セトは元来た方へと走っていく。
「なぁ、コイツどうやって倒す?」
「おそらくこのタイプは複数の形態を持っている。1つは防御に徹した装甲に覆われた今の形態、そして機動力に特化したさっきまでの弱点を露わにしていた形態。防御、起動、と来たら残りは攻撃ー」
「なぁ!!お前の話長ーい長い!余計分かんなくなるからもういい!コイツを殴って倒す、それだけでいいだろー!!」
アゲハの話を途中で切り上げドローンに向かって行ってしまう。
「おい貴様!!聞いておいてなんて態度だ!!しつけがなってないな!!まぁいい、バカツインテールにはテキトーに闘わさせておいて…」
アゲハの武装ヘリが二足歩行ロボットに変形する。

「俺が言いたかったのはな、あのタイプのドローンには攻撃に特化した形態がある。だが取り敢えず今は考えなくて良い。まずは防御形態の相手をエムと俺で追い詰める。するとドローンはリミッター解除を行い防御力を捨てて機動形態になる。その時の相手は動きが速く、俺のメカの機動力の1枚いや、2枚以上はウワテだろう。エムの攻撃も当たらずにカウンターを受けてしまうだろう。だがそれで良い。このドローンはターゲットを1人にしか定めることが出来ない。だからターゲットを俺とエムで右往左往させているうちにドローンの弱点をセトが破壊していけば勝利は見えてくる。」
アゲハの作戦通り、エムとアゲハが左右から交互に攻撃をしていく。予想通りドローンは機動形態化する。
「…2人とも戦ってる。僕も協力しないと」
戻って来たセトが全ての青い膨らみを撃ち壊し、アゲハのメカがドローンを投げ飛ばす。
「ヤツは地面に足を付けず浮いている為摩擦を受けない。これは利点のようで大きな弱点だ。足場が不安定な分地面に重さをかけているこちらの方が取っ組み合いでは有利だ」
~ブゥ.ル.ル~
「なぁ、ウチらやったのか?」
~ブォルルルルンググググググ~
「貴様が変なフラグ立てるから攻撃形態になったぞ」
「そんな、急所は破壊したはずなのに」
ドローンのパーツがバラバラになり四肢も胴体も何処にあったのか分からなくなる。大蛇のような姿になり宙をグルグルと動き回る。
「なんか、蛇みたいな形になった」
「来るぞ、槍はしっかり避けるぞ」
~ズガーーン~
鋭い針が自分達の方へ、それは獲物を一瞬で仕留めるかのように残酷に伸びてくる。幸い槍が貫通した者はいなかった。ドローンの槍は道路に突き刺さり動けなくなる。
「今だぁ!!かかれ!」
エムが尾を殴ろうとするが弾かれる。
「がああ!!?」
「俺のメカの凄さを思い知れ、SOGの鉄屑め」
アゲハのロボは尾を掴みハンマー投げが如くドローンを振り回す。すぐにドローンは立ち直り、黒い粘液をロボのフロントシールドに発射し、アゲハの視界が塞がれる。
「機械の分際が人間様みたいなあざとい事をするとはな。お前気に入った」
ドローンの槍の針が開き、アームとなってアゲハのロボの腰に飛び掛る。
「ふっ…コイツ、腰を掴んでいるな?おかげで何処にいるのかよく分かった」
ロボの両腕がドローンの長い胴体を掴み、アームを腰から引き離す。
~ガガガガガガガガ~
胴体を引きちぎり、赤く膨らんだ物がいくつか出てくる。
「さぁ、エム、セト。コイツの急所をぶっ壊してやれ」
「あいよー!!」
「オーケー」
エムの熱を纏った蹴りと突き、セトのブラスター撃ちにより、とうとうドローンのパーツは分裂し、ガラクタの山だけがそこに残る。
「よっし!!終わった終わったぁ!!屋上行くぞー!!」
「え?屋上?」
「待て待て。まずはこの金属の山を回収してからな。悔しいがSOGのドローンの構造や仕組みは為になる。Arizの進歩の為にも良い技術を吸収した方が良い」
「へぇ~やっぱりドローンで武器とか装備作ったりするんだ~」
「まあな。2人とも、今日はお疲れ様。今夜はAriz本部室の屋上で夜空の会を開くぞ」
3人はドローンのパーツを集め、学園に帰還するのであった。
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