破壊は追憶の果てに

奏紫 零慈

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8 ジュウジツ

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 翌日になってもセトはドローンを倒した余韻に浸っていた。逃げてばっかりだった自分が相手の頭部を撃ち落とし、人を救うまでに成長した喜びが心から離れない。それはエムも同じで、授業など聞きもせず幸せそうに昨日の自分のバトルシーンを脳内で再生していた。
   そんな日の放課後、Ariz本部室に2人はやって来る。
「アゲハー!遊びに行くぞー!!」
扉を盛大に開き、エムが叫ぶ。
それを見てアゲハはため息をつき、
「折角身体を休めるために休みの日を入れたというのに遊びに行くとは何を考えている」
「いいじゃんそんなに動くわけじゃないし。どうせお前ぼっちなんだろ?一緒にリア充してやるからありがたく思え!」
「1つ言わせてもらう。俺はぼっちではない。俺は好きで研究に時間を注いでる訳であり誰かと戯れたくても戯れられない訳ではない。というか戯れるつもりもない。そんなことに時間を費やすぐらいならラボの中に缶詰にされる方がマシだ。」
「セトもぼっちらしいぜ~」
「え!?ちょっと!」
エムの後ろにいたセトはストレートにぼっちと言われてしまったことにショックを受ける
「うん、まぁそうだよ…ぼっちなんだよ…それでもね、話しかけてくれる人はいるよ?でも友達と呼んでいいのか不安でさ…」
セトはクラスのことを思い浮かべる。クラスメイトは皆優しいし、挨拶はしてくれる。でもセトが誰かとたむろっていることはほとんどなく、強いて言えば黄土色のくせ毛の陽気な男子生徒に話しかけられ、ちょっとした会話をするほどだ。その男子生徒はセトだけではなく色々な生徒にそう接しているためか、セトは彼が特別な友人なのかどうか分からない。
「な?」
「そうゆうお前はどうなんだエム。うるさすぎて浮いてるんじゃないのか?」
「へへん、アタシはちゃーんとクラスに友達いるぜ~」
エムは誇らしげに胸を張る。だが胸はない。
「な!?」
「どうよ~?お前もリア充したくなっただろ?憧れちゃっただろ?」
「は!今回ばかりは馬鹿に流されて時間を浪費してやるか」
「よし!じゃあまずはゲーセン行くぞー!」


   β区の住宅街エリアとショッピングエリアの間のブロックにアミューズエリアという所があった。そこのゲームセンターでクレーンゲームを始める。
「ぬぅー…取れねーんだけど~」
チョコレートのお菓子を取ろうとするが中々上手くいかず、
「僕も手伝おうか?」
セトが助太刀
「あーダメか~」
「セトでも無理かー」
「くくく、貴様らまだまだだな。クレーンなんぞまるで自分の指先のようだ。」
白衣を脱ぎ、カーディガン姿のアゲハが不敵な笑みを浮かべている。
「くっこのっ…」
エムが邪魔をしようとアゲハを横から押す
「な!?貴様!!俺の計算で確実に取れる角度にしたというのに俺のワンコインが台無しじゃないか!」
「あはは!お前も苦戦してるじゃん!何が指先のようだだよ!」
「許さん。貴様だけは絶対に許さん」
「まぁまぁ行き詰まるとイライラしてくるし、とりあえずは他のゲームしようよ」
2人の間に入り、セトはシューティングゲームの方を指し示す。
「待て!俺はまだエンジェルスイートのフィギュアをお持ち帰り出来ていない!せめてこの子をゲットしてからー」
「はいはい、また後でなー」
アゲハをシューティングゲームの方へ引っ張っていく。
それからカーレースに音ゲー、アーケードで勝ち負け争いを行い、最後にプリクラを撮ってゲームセンターを出る。

 「お前プリコラで撮ってもオモロイ顔してんのなwww」
「それは変顔だ。貴様はこうゆうときだけ可愛い子ぶるのな、ドン引きに値するな」
プリコラで撮れた写真を見ながら2人がまた言い争いをしている。
「次はカラオケだったよね。何歌おうかな」
「決まっている。エンジェルスイートの『トキメキ・メモリメモリだろ」
「お前ホントそれ好きだな~まぁアタシもおんなじ曲ばっかだけど」
カラオケBOXで好きな曲をいくつか歌いきった3人は小腹を満たす物を探してさまよっていた。

「やっぱり疲れた後は甘いものだな~」
「辛いものや苦いものの方が刺激になると俺は思うが」
「甘いものならあそこのクレープ屋はどうかな?」
クレープを買い、噴水の近くのベンチに腰掛けて休んでいた。
「そう言えばさ、2人のクレープの味アタシのと違うよな~交換しないかー?」
「え!?ああ、うん。良いよーエムのヤツも美味しそうだと思ってたし」
「ふん、クレーンゲームでの無念は残ってるぞ。俺に食べ物を頂こうとは随分と図々しいなエム。答えはNOだ」
アゲハはふて腐れた素振りをする。プリクラの後、クレーンゲームにリベンジ出来なかったことを根に持っているようだ。
「ぶーぅ、アゲハのケチ!ありがとなセト、アタシの分も食べなっ」
セトはエムの提案に少し驚いた様子だった。

ーこうゆうのって友達なら男女関係なく交換    するものなのかな?ん?友達?ー  

「あのさ、2人に聞きたいんだけど」
「なんだ?」
「エムとアゲハは僕の友達で良いのかな?」
セトの発言に2人は顔を合わせ、吹き出す。
「ぶっ…あははは!当たり前じゃーん!セトもアゲハもアタシの友達だー!」
「初めて会って次の日に行った喫茶店もそうだし、お前と灯台を見に行ったときも今日もお前を友達だと思わなかったことはないよ」
「アゲハ、エム…!僕も君達の事友達だって自信を持って言えるよ!」
ほっと安心するセトの横でエムがクレープを頬張る。
「んんん~んっま」
満足そうなエムの顔を見たアゲハは自分のクレープをエムに差し出す。
「やはり俺は甘いものが苦手なようだ。それで俺が言いたいのはな…えと…その…やっぱり俺のクレープを食べてくれ…」
少し照れているのか顔を逸らしている
「仕方ないな~アタシが美味しく頂いてやるとするか!」


翌日、学園の教室で…
「あ、あのさ!今度遊びに行かない??例えばゲーセンとかカラオケとか喫茶店とか映画とか遊園地とか!」
少しぎこちなくなってしまったが、セトは黄土色のくせ毛の少年を遊びに誘ってみる。
少し驚いたように目を見開き、その後すぐに笑顔で少年は答える。
「おう!もちろんだ我が友よ!何処までもついてくぜ!」
親指を立てた少年を見て、セトも笑顔を返す
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