破壊は追憶の果てに

奏紫 零慈

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7 ソウグウ

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  ここはβ区のポートエリア。外の区や地域から資源やその他諸々が集められる港である。Arizが現場に来たのは日曜日のことだった。日曜日には人が働くことはなく、業務用ドローンがその代役を務めていた。人がいないのをいい事にArizは業務用のドローンすら破壊してしまう。
「おりゃあ!!」
赤いガントレッドのようなパンチグローブでエムは小型の営業用ドローンを殴り、ドローンは勢いよくコンテナにぶつかる。
「なんて言うか、攻撃してこないドローンが壊されるって、可哀想だなぁ」
「心配するな、エムのグローブも俺もドローンを壊すほどの威力には設定していない。ドローンにバグが起きたとしても故障してると思われて終わるだろう」
小動物サイズの白い、羽の付いたドローンがアゲハの声を発声する。Ariz本部室のラボのコンピュータを通じてアゲハが白いドローンを操縦しているのだ。

「セトもやってみろよっ」
エムが後ろを振り返り腰に手を当てている。
「じゃあセト。俺を掴め」
「ここでいいのかな?」
黒い取っ手のようなところを掴むと白いドローンは一瞬で銃に変形する。
「これぞプラズマブラスターだ」
「おお…!」
セトは営業用ドローンに向かってブラスターを構え、緊張で震えながらゆっくり引き金を引く。
ー  ズキューーィン  ー
すると青白い光線が放たれそれがドローンに当たり、撃ち倒す。
「す、すごい…」
「やるなぁ!セトー!」
「えへへ~」
そのときだった。突然セトの懐で何か違和感が生じ始める。
「んぇ?」
「どした?」
首のネックレスのような物を取り外し見てみると、それが縦長の長方形から十字型に変形していたことと一緒に、青く点滅している事に気付く。
「光ってる?」
「それは一体なんなんだ?」
ラボでアゲハは液晶画面に顔を近づける。
「何かに引き寄せられてる」
「磁石か何かなのか?」
十字型のネックレスは長い先端を真正面に向けている。
「コンテナのある所に引き付けられてるみたいなんだ」
コンテナの方に向かう。
「この開いてるコンテナの中に何かあるみたい」
中に入ると、人と同じぐらいの背丈のドローンがずらっと左右に並んでいた。
「β区にこんな複数。アレイザーの存在を知られたのか?」
「それって結構マズイんじゃ…」
「そうだな。ん?奥に何か見えないか?」
アゲハの言葉にセトは不安になる。
1番奥には球体に近い形の機械が設置されていた。
「もしかして、これに引き付けられ…あっ!
強い引力でネックレスのチェーンが外れ、機械の中心に飛んでいき、カチャっとハマる。
すると、眩い光がコンテナ中の空間に広がる。
「何だこれ?眩しいぃ!」

あまりの光に目を逸らす2人。
~ ガシュガジガジギョーンガチーン ~
奥にあった機械が変形し始め、卵に四肢が生えたような人型ドローンになる。ネックレスはその頭部と思われるシールドの中に隠れてしまった。
「マズイ!これ、絶対ヤバいやつだよ!!」
使い道の分からないネックレスのことよりも自分達の命の心配をし始めるセト。
「なぁ、アゲハ。やるか?」
構え始めるエム。
「いや、左右のドローンを見てみろ。今の光で起動し始めた。流石に数が多すぎる。一旦ここから引こう」
出来る限りコンテナから離れようとした。そして問題なのは他のコンテナからもドローンが大量に出て来たことだ。飛行型のドローン、鋭い刃の前足に昆虫のような顎から円盤を発射するドローン。大きさは人とは変わらないが、ゆうに50機を超えるドローンがポートエリアに散らばろうとしていた。
「な!?あのボールみたいなの、空も飛べるのかよ!?」
エムはグルグル回転している卵型ドローン、恐らくこのドローン軍団のチーフであろう機体を見て口をポカーンと開けている。
~ ガシュシュシューン ~
人型に変形し派手に地面に着地する。

右腕をこちらに伸ばしており、そこからエネルギーが放たれる。

ー今度こそ終わる-

セトはそう思っていた。
「…あれ?何も当たってない?」
恐る恐る前を見る。目の前にはエムが立っていた。そして周囲を囲むのは橙のドーム状の
壁だった。
「へへーん♪どうよ?アタシの能力」
エムの能力、それは結界を張り、己と弱い者を守る為の能力……




「てめぇ!こんな小さな子に手出しはさせねえぞ!!」
半年前、ショッピングエリアで突如、中型のドローンが幼い女の子を襲うという事件が起きたときだった。中型ドローンは乗用車1台分程の大きさだ。
「えぐっえぐふえぇ…」
どんなものかは分からないが虹色の光を纏った幼女は能力者ソフィキエータだろう。
それを庇うのは通りすがりの赤髪のお姉ちゃん。彼女もまた小さな身体であったが幼女からすれば背が高く見え、心強かった。と言っても赤髪のお姉ちゃんに出来ることは身体を大の字にし、ドローンの前に立ちはだかる事くらいだった。それでも無慈悲にドローンは2人まとめて排除しようとする。たとえ非能力者オーマニティであっても目的の邪魔をする者なら御構い無しにデリートしてしまう。
そう、非能力者でも。




「今のは、褒めてやる。よくやった」
「へへへー!!もっと褒めろー!」
ドローンにエネルギーが跳ね返り、後ろに倒れる。
「ど、どうしよう。他のドローンが近づいてくるよ」
恐怖と焦りで声が震えている。
チーフドローンは体制を直し、両腕をあげる。手のようなシールドから、電気がバチバチと荒々しく弾いているのが見える。
「え?う、うそだ…」
「コイツ、なんて力だ」
チーフドローンの周囲のコンテナが宙に浮き始める。するとコンテナは縦長の向きになり、潰しにかかるかのように落下してくる。
セトとアゲハはそれを回避する。
「ふぅ…危なかった。あれ?エムは??」
エムの姿がない。前を見るとそこには綺麗に何かを囲むかのように配列したコンテナがあった。
「逃げるぞ。セト」
「え?でも中にエムが…」
「今のお前にはまだどうすることもできない。それにドローン達はお前を狙っているようだ。逃げたほうがいい。エムのことなら大丈夫だ。アイツがガサツなのは性格だけじゃない」
「エムっごめん!!」
そう言い、出来るだけドローンの軍団から離れようと走り去る。

ー分かってた。これは命懸けなんだ。                       
            怖い、殺される                    
               でも助けたい
               でも僕は臆病だー

コンテナに囲まれ、上を見上げている。
「来いよ」
ガードの構えをし、結界を張る。
飛行型ドローンが砲を向けてローターを回転させながらエムを見下している。
土砂降りのように無数の弾がエムに飛んでくる。
「アタシは強いんだぁ!!!!」

弾丸を弾き返し、反発の勢いでコンテナも吹っ飛ばす。
                ー    ドゴーン    ー
「さぁ、修羅場の始まりだぜ…」
エムの履いていた赤い厚底靴が変形し出し、豪快にコンテナを蹴り倒し、ガントレッドグローブの強度をMAXに設定し、静かに楽しそうな笑みを浮かべる。
               ー   ボフシューゥ   ー
ガントレッドからは煙のような湯気が出ていて、燃えるような緋色の光を灯し始めていた


走り、とにかく止まることなく走り、へとへとになりながら、ポートエリアの外に繋がるスロープを登っていく。
「もう直ぐだ。がんばれ」
「だめだ。頭がクラクラする」
坂を登り、人工芝を越え、【rental move】という大きめの自動販売機のような所で立ち止まる。
「これからこれで逃げるぞ」
それは安価な値段で目的地へ迎えるボード型のタクシーのようなものだった。セトはPASでお金を払い、ボードに乗る。
《目的地を設定してください》
無機質な音声が流れてくる。
「カルティベーション・グリーンエリアまで頼む」
《了解いたしました。安全のため取っ手にしっかりとおつかまりください》
アゲハの操縦するドローンから機械へしっかりと言葉が伝達された。
                 ー   フォーン  ー
ボードは宙にゆっくりと浮き上がり、周りに透明の膜のようなものが出てくる。これは万が一のとき、乗客を危険から守る為や、雨水で濡れるのを防止する為の役割を果たす。
飛行型ドローンが追ってくる。しかし
「は、速い」
ボードは猛スピードで加速して行き、飛行型ドローンと距離を放していく。涼しい空気がセトにぶつかってくる。やがてドローンは見えなくなり、グリーンエリアまで到達する。入り口を潜るとその名の通り、あたり一面は緑だ。様々な植物や木々が並んでいる。真上を見れば、人口太陽と人口雲が動いている。エリア全体はつぼみ状のドームの中にあり、晴れの日には天井が開いていて、雨の日には閉じているらしい。長いベルトコンベアが果物や野菜を運んでいる。植物だけでなく、生き物も飼育されているようだ。
「少しここで休もうか」
「そうだね」
綺麗に整えられた芝生の上に腰を下ろす。



「おりゃあ!!!!」
攻撃される前に次々とドローンを猛烈な威力のパンチやキックで倒していく。
「ドローンなんて大したことねーな!!」
ドローンの頭部にアッパーを食らわせ、決め台詞を吐き上げる
「アタシのパンチが1番熱いんだぁ!!!」
確かにエムのパンチは熱い。精神的ではない。物理的にだ。ガントレッドから炎が出てきている。その時、飛行型ドローンの弾がエムめがけて飛んで来るが、結界で弾の動きを止め、跳ね返す。
「残りはお前だけだな」
コンテナの側面を思い切り蹴りミサイルのようにチーフドローンに飛んでいく。
「あたしの拳の威力を思い知れ!!」
力任せに拳を突きつけ、チーフドローンは吹っ飛ぶ。
「どうよ?アタシのパンチ」
~ ガ  ガ   ガガガ ~
チーフドローンはまだやられていない。ゆっくりと胴体を持ち上げ、球体に変形し、エムの方に転がっていく。
「とうっ!」
ジャンプで華麗にかわし、かかと落とし。
チーフドローンは地面に倒される。
「なか…なか壊れない…な!」
何度も殴るが壊れそうにない。
ー   ドガ    ー
チーフドローンの首が伸び、大きい頭部による頭突きで今度はエムがふっとばされる。
「なぁああああ!!」
結界を張ったため、コンテナにぶつかっても自身にダメージはない。
「こっちは全力だってーのによっ!なんで壊れないんだぁ!!」
またコンテナの側面を思い切り蹴り、チーフドローンに飛んで行き今度は蹴りで突っ込む
「潰れろぉ!!」
チーフドローンはコンテナにぶつかり、さらにそのコンテナも動き、他のコンテナを押す
ー   ドガーン   ー
「にゃあああ!!!」
チーフドローンに頭突きで吹っ飛ばされ地面に転がり落ちる。
「くっ…強い」
チーフドローンの頭部のシールドの瞳のような模様が青く光りだし、横についてる逆三角形の双眸も同じように光りだす。その瞬間チーフドローンは青い光線を放出しエムを消し去ろうとする。エムは結界を張り自身を守る。青い光線が絶えることなく放出され続けている。エムの異能力に限界が訪れようとしていた。
「くそっ使い過ぎたか…」
身体が震えだす。
「いや、まだアタシはいける!」
全身のオーラをかき集め、結界を膨張させ光線を跳ね返す。
ー    ドゴォ    -
物凄い音が響く。
「なんか知らねーけど、気合い入れ直したら、元気出てきた!まだアタシはやれるぞ!」
ー   ヴォーン ー
コンテナが飛んで来る。
「っと、あぶね」
なんとかかわす。
~  ガションガショ ~
チーフドローンがまた球体に変形する。
「ゴロゴロくるか!?」
しかし、チーフドローンはエムに攻撃することなく、手の部分であろうシールドを広げ、何処かへ飛んでいってしまう。
「ふぁ?おい待てよ!まだアタシとの決着がついてないぞ!それに、それにセトのネックレス返せぇ!!このドローボー!!


グリーンエリアで一休みしていると、1人の女の子が目に入る。長い亜麻色の髪で、一部を三つ編みにしている。瞳の色は先ほどセトがこっそり食べたブルーベリーの色よりも薄い紫をしている。木に実った果物を採ろうとしている。
「ラミィ、美味しくて新鮮な桃とってあげるから待っててね!あっでも私も食べたいなーもう1個は奥の方だけど採れるよねっ」
ラミィとは、木下にいた白い綿飴のようなモフモフの毛を身にまとったウサギのような生き物のことらしい。
目線を女の子と木から下斜め左に目線をズラすと、とんでもないものを目にしてしまう。
「う、嘘だろ?」
「どうしたセト」
セトの指指した所には刃のような脚で四足歩行をするドローンだった。女の子の方に近づいてくる。
「まさか、こんな所にまでくるなんて」

「んーー採れなーい。ううん、採れる!」
ぐっと腕を伸ばし果物を採ろうとする、が、はしごが倒れてしまいドローンにぶつかる。
「ひゃっ」
足場をなくして、木の幹にしがみつく。
《攻撃を受動、ターゲットをマークします》
ドローンは頭部を女の子の幹の方に向け、昆虫顎から円盤の投擲物を飛ばす。
「きゃあああ!!」
円盤が幹を切断し、女の子が地面に落ちる。
「いててて…え!?いや、私が狙われてる?ち、違うの!これは不可抗力で悪意があったわけじゃないの!お願い許して!きゃっ!」
命乞いする女の子に容赦なく円盤を飛ばす。運良く女の子には当たらなかったが、ドローンというのは一度殺ると決めたものはとことん殺らないと気がすまないプログラムに設定されているようだ。
「う、うぅ、お願い…命だけは…」
流石にドローンに恐怖を覚え、涙目で震えている。すると、女の子を助けようとラミィというウサギがドローンに飛びかかる。しかし、ドローンの刃が2つに分かれラミィを挟み込み、スイカが入っている大きなバケツの中に投げ入れる。
「ラミィ…」

「ねぇ、アゲハあれ、助けた方がいいよね」
「救うか救わないかはお前次第だ。ただ、救わなければ彼女の命に保証はないけどな」
「ゴクッ…行こう!アゲハガンモード!」
「あ、一応言わなくても銃になれるからな」
アゲハドローンを銃に変形させ、女の子の方に全速力で走る。
「危ないっ…!」
円盤から守るために女の子に飛び込み、女の子と一緒に奥の芝生に転がり落ちる。

「……!」
2人の目が合う。
目を見開いた女の子の瞳から大粒の涙がこぼれ始める。
「怖いよね、ごめんね、僕、君を助けたくて」
「『…パパ………マァ…マ』」
「パパ?…え  」
「『やだぁ!!パパママころさないでえ!!!』」
「え、ええ??」
急に子供のように泣きじゃくり始めた彼女に戸惑うセト。
「一体どうした?て、おいセト、ドローンがこっちに来ているぞ!」
「…!!そうだ、倒さなくちゃ!」
ブラスターを向ける。腕がプルプルと震える。未だドローンが怖い。
「それでも克服しないと!強くなるんだ!!」
「よし行け!」
「この子に手出しはさせない…!えいやあ!!」
思い切ってトリガーを引き青白い光線がドローンの頭部を押し飛ばす。


ー   ブォスゥ  ー

ドローンはその場で倒れる。どうやら機能停止したらしい。

ー  倒した?僕が?ドローンを?  ー

嬉しさや達成感がセトを満たし、清々しさも彼の心いっぱいに広がる。
余韻に浸って数秒後、女の子のことを思い出し後ろを振り返る。
いつの間にか気絶している。というよりスゥスゥと眠っている。
「怪我は、なさそうだね、良かった」

「セト、エムから通信が来た。そろそろ行くぞ」
「うん、わかった」
そう言い、小さな羽の生えた機械と黒い髪に三束の天然白メッシュの入った少年は去って行く。

スイカ籠から出てきたラミィは女の子の元に駆け寄りペロペロと舐める。先ほどとは打って変わって女の子はいい夢でも見るように頬を赤らませて眠っている。
「…うむぅ…王子様…えへへ」





「なぁ、これからどうすんの?駅で待ち合わせ?」
「いや、今日はこのまま解散にしよう。それとエム、すぐにその場から離れた方がいい。ドローンを破壊したのを誰かに見られたら通報されるからな」
「了解したぞ」
エムとの通信を切り、アゲハはセトに言う
「今日はお疲れ様。明日はゆっくり休むといい。」
「うん、サポートありがとね」
アゲハの操縦するドローンはラボを目指して飛んでいく。
「はぁ、今日は充実した日だったなぁ」
スゥーと息を吸い込み、またまた余韻に浸りながらモノレールを待つ。
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