破壊は追憶の果てに

奏紫 零慈

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3 ケツイ

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      「セト。お天道さんが顔を出したよ」
布団からゴソゴソするやいなや、セトの上に馬乗りで話しかける
      「ん…うぅ…」
いつものより早い時間帯で慣れないためか、起きそうにない。するとレナはすぅーと顔を耳元に近づけ
        「フゥー…」
      「んぅあ!?」
突然の刺激で目を覚ます

      「もう時間なんだ…」
  2人は身支度をし、外に繋がる玄関の扉を開けるのであった。

2人は家の敷地の芝生を渡り、階段を下り、坂を下り、川に沿って進み、《ブロック23 リーフ橋前》という駅でモノレールを待つ。

ここは産業、商業に富んだβ区の南端。β区は能力者がほぼ存在せず、安全と見なされているため、多くの人間はここに住み、また交通輸送、海運業も盛んに行われている。基本的に1つの区は複数のブロックで構成されており、β区の場合、中心部には学園都市がある。正確には学園の規模が広すぎて、そう呼ばれているだけではあるが。学園の部門は様々であり、それぞれの専門的な技術や知識を学び、世界に貢献するエリートを何人も生み出してきた。そのため、エリートを目指すために別の区からくる生徒も多く見られる。
そういったことから寮も設けられた。そんな学園に2人は今日も向かうわけだが。
「あのさ、レナちゃん?」
不安げに話しかける
「レナでいいん。どうかした?」
「学園の生徒に擬態した、ドローンっているかな?ほら、人型みたいな?」
「見たことないよん」
「じゃあ平気だよね?」
「大丈夫。何かあっても全力で止めるから」
「ホント頼もしいよ~僕に超能力とかあれば女の子に頼らなくて済むのに。情けないね僕…」
「そんなことないんっ…」
ほんの少しだけ、彼女の声に力が入っているような気がした。
「え、」
「昔の君は勇ましかったよ」
「え?ホントに?」
セトの顔がぱぁっと明るくなる。
「…見たことないけど、そんな気がするん」
「なんとなくなんだね…」
不確かな返答に少々落胆している間にモノレールがやってくる。それからしばらく2人は車内で隣同士に座りながらも沈黙したまま時間は過ぎていき《アルフェリア学園前》に到着する。


  授業中窓側の一番後ろに座る2人のうち1人は初々しげに授業を受け、他方は机に突っ伏して寝ていた。流石に授業中はボディガードやらないんだな~と横をふと見て思った矢先前の方の空いた窓からの風により、紙がセトに飛んでくる。その瞬間レナがピクッと反応し、顔寸前に飛んできたプリントを音速で掴む。
    「…!!」
声も出ず、彼女には驚かされるばかりだ。
レナによるボディガードは四六時中続くのでは?と思えてしまう。つい早起きによる眠気で授業中に寝てしまった時に通勤ラッシュで人混みがひどい中、レナが自分を車両の端に身体を押し寄せて両手で覆ってくる夢を見るほどだ。

昼休みになり、昼食をどうしようか悩んでいるセトにレナは近寄り
   「購買で何か買って中庭で食べるん」
    「カフェテリア(食堂)もあるけど…」
    「購買…!」
静かに力強く言う彼女に押され、購買での飲み物食料を買い、中庭にあるベンチに腰をかける。
      「購買にこだわったのは何か理由があったり?カフェテリアみたいな人の多そうなところの方が安全な気もするけど」
      「カフェテリアは都合悪い。ドローンが来たときに能力使ったら大勢の人間に見られて乙るん。それに…レナは中庭が落ち着くのん」
足を組み、袋からパック状の紅茶を出し、ストローを刺して飲み始める。
「確かにここ、気持ちいよね~。緑が広がってて、花も綺麗で、空が見えるし」
自分も袋から菓子パンを取り出し、口に頬張る。
「っん、昨日ハマって今日も買っちゃってけどやっぱりこれ美味しいよ~」
「ん~……」
何やらレナはセトが満足そうに頬張っている菓子パンを物欲しそうにジッと見ている。
「あぇ?どうかしたの?」
ジト目が自分の菓子パンに向けられているのに気がつく。
「レナは君のボディガード…だからその毒が盛られているだろう菓子パンを毒味しなきゃなのん…」
いくらなんでもそれはないだろうと思い、レナの言いたいことを察したのか
「もしかしてレナもこれ食べたいの?あははなんだ、それなら言ってくれればいいのに~
はい、どうぞ~」
優しく微笑んで見せ、セトは菓子パンを2つに分け、彼女に一方を差し出す。
「ん~…あ…ありがと…//」
恥ずかしがっているのかレナは目を逸らしながらうけとり、礼を言う。
実は財布にあったお金が飲み物変えるほどしかなく食べるのは我慢するつもりだったが、セトが食べているのを見ていると腹を空かせてしまったらしい。恐らくこれが飯テロというものだろう。

なんだかんだで放課の時間になり、後はレナと一緒に帰るだけだと一息つき鞄を持って教室から出ようとしたとき、聞き覚えのない自分の名前を呼ぶ声がした。
「おーっす!セトとかいうやついるかー?」
男口調だが声からして女子生徒だろう
「え、あの、僕…だけど?」
人混みの中、声の主の所へ行こうとする。
「あ!やっぱ、お前かー」
早く帰りたいがために一番最初に教室の扉を開ける生徒よりも先に扉を開いたのはセトのひと頭、いやふた頭以上背の低い女子生徒だった。ブレザーは羽織っておらず、代わりに腰に黒いカーディガンが巻きついていた。一番特徴的なのが釣り上がり気味でキャンドルの灯りのようなオレンジの瞳と、燃え上がるような赤そのものの色をした髪を小悪魔のツノのような髪留めで2つに括った髪だ。赤髪は毛先になればなるほど瞳の色に近づく。

「ちょっとこっち来い!」
「え?ちょっ待ってくださいぃ」
セトの了解を得ることもなくその少女は彼の腕を掴み、廊下に引っ張る。セトは引っ張られながらもレナのいる方を振り向いたが、人混みで彼女がどこにいるのかわからない。それどころかレナの方が追って来て赤髪ツインテールの傍若無人な腕を払いのけに来る気配もない。双眸をキラキラさせて、どこか活き活きとした赤髪ツインテールの顔を見る限り、異能力者(と言っても何もできないが)がバレて何処かに監禁または物理的に処理されることもなさそうなのでセトもされるがまま、流れに任せて連れ去られていく。

渡り廊下を超え、そこには、【Ariz本部室】という文字の入ったパネルがはめられた黄金模様が無数にある扉があった。お洒落で貴族でもいそうな畏敬に満ちたその扉を赤髪ツインテールは豪快に開き、
「おいアゲハ、言われた通り連れて来たぞー!!」
扉の中に潜んでいた部屋は思っていたよりも現代的であり縦に広い開放感のある空間で、向かいの奥は壁の面積全てがガラス窓になっていた。

高層ビルの大手企業の社長が居座っていそうな椅子と机に挟まれた白衣を纏った青年、いや少年だろうか、後ろ姿を向けて外の方を眺めている。
「来たか」
セミロングの髪に眼鏡をかけた顔。
「来たか。ここはAriz本部室だ。         
   おっと、自己紹介が遅れたな。俺は
   ここの司令塔と装備品の提供などの
    バックアップを担当するアゲハだ。」
カチャッと眼鏡をいじってから言葉を付け足した。
     「ちなみに機械いじりが趣味みたいな
      ものだな。」
「それじゃー次はアタシの番だなー!アタシはなー」
「あーそこのちっさい絶望的に貧乳過ぎるツインテールはエムとでも呼んでおけ」
  アゲハは真顔のままエムの自己紹介を遮り、悪口とも言える他己紹介で彼女の顔を怒りで染める。
「あ?ってめー「過ぎる」ってなん
                 だよ!!殺されてぇーのか!!?

「言い忘れたがそいつはガサツでもあ
    る。全く、普通の女の子のようにし      
     しておけばまだ可愛かったものを…」

「決めた。キモメガネ殺す」
微かに残っていた頰の緩みが消え失せ、ティーポットのように湯気を出しながら小さな拳の骨を鳴らす。

「ングッ!!ヌオッ  わかったわかっ
  た。俺が悪かったよ。で、何故ここに君を連れて来たのか教えないとな。」

小さな悪魔の怒りを買い、フルボッコされかけたアゲハはふぅと息を吐き、余裕を取り戻した声で茶番劇(笑)の傍観者にこう告げる。
「セト。実は君は超能力者なんだ…!」              「あーうん。実は知ってたんだよね」
予想外な反応に2人は口をアングリ。                             「「軽っ!!」」
    「昨日ドローンに襲われたからねー」                         「そ、そうだろ?それでだ。もっと
    言うと君はただの能力者じゃない
    アレイザーと呼ばれる超能力者の王
    とも呼ばれるほどの圧倒的な力を持
    った存在なんだ。さらに言えば政府はアレ
      イザーを駆逐出来た試しがない。」

「だからーセトが超能力使えばどんな
    軍艦ドローンも敵じゃない、ヨ・ユ
    ウ♪って感じ!」
エムは跳ねるように軽いステップでセトに近づき
両袖をガシっと掴む。
しかしセトは申し訳なさそうにエムに視線を落とし、
「あ、あのー…実は僕、能力が使えな
             いみたいで…」
「え?そうなの?」
目を点にするエム。
それをみて慌てて空気をフォローしようとする。
「いや、でも!もしかしたらアウラ核を見つけていけば力を解放できるんじゃない…かな?」
曖昧なセトの解決方法に細い目をパッと開いてアゲハが何かを悟る。
「やはりそうか。セト、お前のアウラはここにある」
アゲハがエムを捕まえ指し示す。
「ちょっ」
「その子の中に?」
「一部だけな。5日前にネットで能力者についての情報収集を行なっていたんだが、このβ区にアレイザーが能力を失ってやって来たという情報を目にしたんだ。」
「一部だけって言ってたけどそれって複数に等分されてるってことなのかな?」
  「そうだ。さらに調べたところ、核は7等分されているということがわかった」
「じゃあ他の6人を見つけないと能力は取り戻せないってことか」
  「なぁアゲハ、アタシその話聞いてねーんだけど」
「まぁ能力が使えなくても安心してほしい。核を分けたのは君を守る為だ。」
「なぁアゲハ、シカトすんなよぉ」
エムから湯気が出ている。
「面白いことに核を等分された7人の該当者は異能力を2つ使える…ったたたたたあっつあつ!!?やめろ!怒るんじゃないエム」
無視されたことに怒りを覚えたのかエムがアゲハの腕をひねる。そのときに火の粉が散っていたので恐らくエムの能力者の1つが火や熱に携わるものなのだろう。そしてエムはセトの方へと向き直り、
「だからね、セト!うちらとチーム組もうぜ!」
今度はもっとセトの両袖を力強く握りる。
気のせいだろうか。根拠はないが絶対的な英雄の像がセトの脳裏に一瞬焼きつく。
「急な話だが、君の力が必要なんだ
                協力してもらえると嬉しい。」
           
           ーー僕が必要とされてるーー

       何故か喜びを覚えた。誰かの為に手助けをする。セトもエムやアゲハ同様無実な異能力者(ソフィキエータ)の迫害を快く思っていない。同志と何かに努め、何かを達成していく。こんなにも素晴らしいことがあるだろうか。彼らがやろうとしているのはぶっ飛んだことかもしれない。しかし、それも一種の青春のようだ。

「うん!協力するよ!」
ゆるっとしていた表情がキリッと締まり、胸に手を当て、1人の戦士のように勇ましげに決意表明する。

「よし!これでAriz結成だ。俺は頭脳、
エムは肉体、そしてセト、お前はArizの魂だ」

アゲハの手の甲に、2人は順番に手を重ね、

「打倒!!SOG(対能力者処理局)!!!」
「おう!!」
今、絆の物語が始まる。

と言いたいところだが、セトはあることを忘れていた。
--レナ?--
Ariz本部室から出た時に壁際に銀髪の少女が立っていたことに気づく。
彼女は忠実にもボディガードを続けていたらしい。
「随分と盛り上がってたね」
放置されていたからか、少しムスッとしている。相変わらずジト目を向けてくる。
「あーごめん!待たせたね。2人ともいい人だったよ。でね、聞いてたと思うけど、僕、Arizの一員として、組織を駆逐するんだ~。エムとアゲハ先輩(上履きの色が違ったので年上と判断)となら力を取り戻せると思うんだ!」
「そう…」
レナは少し、寂しそうに、しかし微笑んでからセトに背中を向ける。
「ちょうど良かったのん。実は明日からこの区を出ないと行けなかったから、代わりのボディガードどうしようと思ってた」
「え?じゃあレナとは当分会えないの?」
「そうなるん。レナは君らと同じような理由で戦わないと行けないから」
「でも、どうせなら一緒にー」
「ううん。セト達Arizはβ区をお願い。
レナはそれ以外の区のドローンとかリヒター(人間で構成されるソフィキエータ駆逐特殊部隊)を殲滅するから。それにレナにも待たせてる仲間がいるから」
セトの言葉を遮り、屋上の扉を開き、網の上にジャンプする。
「れ、レナ!?危ないよ!?」
「ふへっ♪また会おうねセト君」
長い前髪で彼女の瞳は見れなかったが口は柔らかく微笑んでいた。それからレナはしなやかに網から飛び降りる。
「レナ…!!」
慌てて網の方に駆け寄り、下を見るが、彼女の姿は既にフェードアウトしていた。
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