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起
33 タイコウ
しおりを挟む果てしなく広がった白い空間。
『この子、目覚める日がくるかしら? 』
何処からか女性の声が響いた。
『封印されているからね。目覚めるの
は何年も先だよ』
男性の声。
白い卵の中に誰か包まれている。
『まぁこの1年で世界がガラッと変わっ
たからね。10年後なんてどうなって
いるか考えただけでゾッとするよ』
白い空間は黒い水しぶきに赤く染まっていく。
ゴウゴウと、異様な暴風に似た音。
『やだァ!!!パパママコロサないでえ!!!』
真上の光の球が赤い空間を溶かし、モノクロの茶色い空間に照らしあげる。
その球だけハッキリと黄色く主張している。
『みんなが……ボクをキタイしてくれる…仲間もマチノヒトタチも…そしてキット…アノ娘も』
光の球体が落下して、建物や地が白くなっていく。
紺色の空に数えきれぬ無限の光が散らばっている。
『姫サマの…ノゾム所へどこまでモ………セカイをヘイワ………』
レンズを取り替えるように空間が横に揺れると、光の塊が照らす茶色がかったモノクロに戻り
『ボクは最強…になる……ンダ!!』
また白と紺色の世界に戻り
『フフ……マイゴに…ならないように…ソバにいて…ネ』
色が中央に縮小していって何もない白い世界になる
『ああ。幸せに生きてもらうのが
僕達の仕事であり願いなんだ』
『てめえは寝ていろ雑魚』
視界はテレビの砂嵐の中に引きずり込まれ、鎖で腕を繋がれた人影が見えた。
垂れた頭をゆっくり持ち上げ、赤く光る眼をセトに向けてきた。
_ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _
「はっ…!!?」
目を見開き、勢いよく背を起こす。
「…夢?」
安心して、ゆっくりと寝床に背中を預けると生温い感触がした。
冷や汗をかいていたようだ。
恐る恐ると胸に手を当てた。
「胸騒ぎが、消えてない?」
「メリルもですぅ」
「昨日の夕方おさまったのにさー」
「また変なドキドキが止まんなくなっちゃった~」
学園に登校してすぐ、一同は本部室に集まった。
「それもヘプターナとセトの兆候のようだな。しかし原因として考えられるのは…」
「他のヘプターナが危ない状況にいるのかもしれねぇ!」
「もしかすると、SOGの幹部が言ってた【闇】のヘプターナの危険信号が伝わってるんだと思う」
ー ゴォー ー
巨大な影が本部室の窓の光を遮った。
「何ですかあれぇ」
震えるメリルに表情一つ変えないアゲハは言った。
「飛空艇だ。しかも複数」
「どうしてβ区に」
ー ヴォオオオオオ ー
果てしなく響く轟音。
「異能力者大規模殲滅警報だと!?」
ようやくアゲハの顔にも戦慄が走った。
「とうとうボクらを潰しにきたのかなー?」
《警報が発令されました。β区にいらっしゃる方々は速やかに他の区へと避難願います》
「逃げた方がいいですぅ?」
「でも私達が狙いだとしたら、追って来ちゃって他の人達にも被害あるかも」
「キーとヘプターナの力は底が知れないって幹部が言ってた。多分僕らはヘプターナと戦わないといけない」
「そんなぁ!仲間割れなんて!」
「いいや!ウチらはそのヘプターナを助けに行くんだ!SOGの勝手にさせてたまるか!」
*
黒い飛空艇が中庭に止まる。
「貴方方!!わたくしの庭に入り込むなんて何様のおつもりかしら!!?」
金髪ロールのお嬢様がブーツの音をカッカッカッカッと奏でながら、早歩きで黒い軍服のリヒター達に詰め寄り、ビシッと指を差す。
「何様は貴様だ!名を名乗れ!」
リヒターの一人がお嬢様の向ける指を払い、怒鳴り返す。
「よく聞いてくれましたわね!わたくし、エレベートはβ区長の娘!ここの所有者みたいなものですわ!」
リヒターの中には笑い出す者もいた。
「嘘こけ!高慢も甚だしくて見苦しい!現在のテクノロジアの最高権力は【幹部の黒】だ!何処の馬の骨とも知らぬ娘が偉そうに!さっさと失せろ!」
ー ペチン ー
お嬢様エレベートはリヒターのマスクに平手打ち。
「わたくしに侮辱は許しませんわ?わたくし、知っているのよ?政府が新兵器の実験の為β区を利用しようとしているってことをですわ!」
エレベートの言葉に生徒や教官達がどよめく。
「どういうことなんだ、聞いていた話と違うぞ」
「凶悪なソフィキエータを始末してくれるんじゃなかった?」
リヒターの一人が慌てて叫ぶ。
「この小娘のデタラメに真に受けるな!!」
「この女ぁ!!政府に仇なすとは良い根性してんなあ!!しつけが足りていない!此奴を捕らえろ!」
リヒターがエレベートを取り囲み、身体を掴む。
「ちょっと!薄汚い手で触らないで下さいまし!!
あぁん!何処触っていやがりますの!!?」
エレベートは飛空艇の中に吸い込まれていった。
「学園の者に告ぐ!直ちに避難しろ!さもなくば先ほどの娘のようにキツいお仕置きが待っている。運が悪ければ危険因子と見なされ収容牢獄で飯を食うことになるぞ!!」
*
「幹部はヘプターナを秘密兵器として利用する気か。奴の企みを阻止しよう」
ーバタン ー
「本当に挑むのですか」
「生徒会の人達!」
表向きは生徒会として、裏はLIBERATORとして人間(オーマニティ)と異能力者(ソフィキエータ)の共存を推し進める活動をしている4人組が入って来た。
「僕達は政府SOGを倒す。それに今回はヘプターナを助けださないといけないんです」
セトの真っ直ぐな目を見て、会長ミサカは頷いた。
「やはり意志は固いようだ。いいでしょう。私達も加勢します。油断しないように気をつけて。それとセト君。貴方に後ほど話があります」
「は、はい!」
「心強いねー」
「ヘプターナは勿論だが、キーも回収したい。いずれArizの戦局を左右するかもしれないからな」
「見て!空中にドローン飛んでるー!」
大きな窓を指差すセリアにメリルは身を縮め
「ふぇ!恐怖ですぅ!」
「ぶっ飛ばしがいがあって楽しみだぜ!」
エムは早速プロテクターと武器を装備し、ガントレット同士をぶつけ合っている。
*
ハイウェイエリア、ポートエリア、天空から数百を超えるドローンがやってくる。
「【クイーン】の力を試すときが来た!」
空中で金属の柱に座ていた【幹部の黒】は言った。
「β区をどれほど破壊出来るか試すのだ。なあに凶悪なソフィキエータが壊滅させたことにすれば良い!ここはもう戦場なのだよ!」
Ariz、LIBERATORも戦争の準備は整い、腹をくくっている。
「さあ!俺達の叛逆(リベレーション)を始めよう」
「おおー!!」
今、大規模な大戦が始まる。
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