破壊は追憶の果てに

奏紫 零慈

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30 フアン

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翌日、放課後 セトは胸騒ぎがしてAriz本部室に急いで寄ってきた。

「どうした、今日は休養日だぞ」

「アゲハさん!エムは何処に?」

「彼奴はもう知らん。管理局に乗り込んだとさ。向こうの警備がどれほど厳重か釘を刺してやったのにあのバカは…」

眼鏡を拭いている。

「僕も行きます!」

拳を上げて意志表明する。アゲハはため息をつき、

「セト、お前までバカが移ったか?失敗のリスクが高すぎる。LIBERATORは俺達の活動を許さないだろうな」

「それじゃあエムをこのまま行かせたら…」

セトの顔に少しずつ戦慄が歩き始めた。胸が騒ついた。

「ああ、真っ先に捕まってテクノロジアの肥やしになるな」

「なのにこのまま放っておくと言うのですか??」

セトは僅かに声を荒げた。

「少しは反省して慎重に思考することを覚えるだろう」

アゲハの発言にひどく驚き、顔をしかめた。この人はこんなにも薄情だっただろうか。

「肥やしにされたら遅いじゃないですか!僕は行きますよ!アゲハさんがどう言おうとも!」

「…勝手にしろ」

白衣のポケットに手を突っ込み、冷めた目つきでセトを一瞥する。

「可能なら政府の心臓を破壊します。無理そうならエムを連れ出して真っ先に逃げます!」

「…」

アゲハばなにも言わず後ろ姿を見せていた。巨大な窓の外を眺めている。

ーガチャガチャー

ー  バタン  ー

ラボの部屋から道具が弄られる音がしたと思ったら、すぐに本部室の扉からセトが出て行った。

「何故そんなに純情になれる?…利用されて最も損するのはお前らなんだぞ…」

誰もいない部屋でアゲハ呟き、荒々しく椅子に座り込む。



カルティベーションエリアで鮮度をなくし始めた植物に治癒をかけるセリアの手はふと止まる。ついてきていたラミィという兎のような生き物も止まり首をかしげる。

「なんか、胸ザワザワする~」



「胸騒ぎかな?」

η区の鉄砲屋で店番しているユウの、ゲーム機のボタンを触る指に汗が滲む。



「なんなのでしょう?」
住宅エリアにあるひっそりとした家でメリルもぬいぐるみを縫う手を震わせていた。

セリア、ユウ、メリルは胸に手を当てた。



ー  フォーン   ー

リニアモーターカーで海を繋ぐ巨大なブリッジを渡り、テクノロジアの中心メトロポリス、γ区に向かう。

所々錆びた鉛色のまだらな地が広がっていた。

遠くの方に、視界に収まりきらない巨大な建物の影が見え、それを無数の摩天楼が囲っている。

進めば進むほど見えてくるビルは増え、高くなり、すっかり大都会の景色になった。

「ここが、γ区。SOG管理局がある所」

β区の駅よりも遥かに広く、生活感を漂わせないこの駅を出ると、左右上下高層ビルに囲まれていた。

自分の上を車が走っており、さらに上を飛行船が、自分の下を人が、さらに下をモノレールが動いていた。

炭酸飲料の立体映像が音を立てながら容器から吹き上げている。

あちらはモデルの女性が次々に衣装を変えながら歩く立体映像。

呆気に取られていると人にぶつかりそうになる。

人は忙しそうにズカズカと目的地を目指し、まるでγ区では1.5倍の速さで時間が流れているようだった。

「おっといけない、エムを見つけないと」

心臓を何かが強く握ったり引っ張ったりしてくるような不快感。

管理局に向かえば向かうほど強くなってくる胸騒ぎ。

「やっぱりこの建物が」

様々な方向を行くエスカレーターに乗った先に、摩天楼に囲まれていたあの巨大な建物があった。

斜めに沿った白い円錐の形に青いガラスの球体が付いている。

その形状は利便性を超え、一種の芸術作品を思わせる。

設計者にどうしてこんな形にしたのか伺ってみたい。

「…上手く引っ掛けられるかな?」

放射状の道の先の入り口を中型二機、小型三機、RICHTOR(リヒター)四人が見張っていた。

「これを使おう」

ラボから取ってきた手のひらサイズのアヒル型のロボを三機取り出して見張りの方へ放った。

《ガガガ     ガガガ》

「なんだあれは?」

アヒルの嘴からBB弾程の球がドローンを当てて

《対象の攻撃を探知。撃破します》

ドローンがアヒルに気を取られている内に靴のフリクションフリーを起動し、真っ先に入り口まで滑っていく。

「おい待て!侵入者か!?」

「何?」

それに気づいたリヒターに追いかけられる。

「ならこれで!」

入り口の所に球を数個投げそこから粘液が溢れて四方八方のバリケードになる。

「ぬはぁ!こんなものがあったなんて!」

「動けぬ!」

アゲハの開発した道具達。

お蔵入りの予定だったらしいが、大活躍してくれた。

中に進み、管理局の模型を目にする。

「まずはリヒターに変装しないとね。武装室は此処か」

エレベーターで地下に向かい、軍服、マスク、武器を補充する。





「ほーう。侵入?もしやこの小娘の仲間か?」

【幹部の黒】が大の字で、強力な磁気によって拘束されている赤髪の少女の顎を掴む。

「ちょっ離せ!てめえみたいな変態オヤジに触られたまるかよ!」

「はーん可愛げがないなヘプターナよ。折角の容貌も性格で台無しだ」

幹部が頰を握ってくるのを首で振り払い

「てめえらみたいな野郎は最後は負けるって決まってんだよ!」

「はっ!管理局に入る前に真っ先に捕まった小娘がよく言うわ!」

「ちげえ!調子悪かったんだよ!本当なら見張りなんて倒せたのに」

「我々が怖いのだね。自分に素直になりなさい。エム」

「そ、そんなもんか!アタシは強いんだぞ!」

「見栄をはるか。君は身動きが出来ない。そんな中で我々に何されるか分からぬまま好き放題されるのだ。拷問、調教、人体実験。怖いだろう?想像しただけで今夜のオカズになるなあ!」

幹部はエムのワイシャツの中に腕を入れ、腹を撫でた後、胸を掴む。

「うぐっ、てめぇ止めろ!何しやがる!」

「なんと!これほど小ぶりだったとは!この程度ならミルクも出まい!異能力者の娘の体液はどんな味がするのか試してみたかったのだが。仕方あるまい、他のヘプターナの乳を絞る日を待つとするか」

エムは幹部の黒の発言に類を見ない寒気を覚えた。

「てめぇ…いいかげんに!アタシの異能力で…あぁん!」
「これまた驚きだ!ちゃんと女の子らしい声が出せるじゃないか。これは没落アレイザー君も科学ばかり君も知らない発見をした。ほれ、異能力を発現するんじゃなかったのか?乳を弄られて力が出せんのか??んー??」

声を弾ませる幹部の黒。こんな人がこの国(テクノロジア)を統治していると民衆が知ったらどうおもうだろう。

「おぃ…?他のソフィキエータの女にもこんなこと…あぁ!…してたら許さ…あぁん!」

未知の混乱と恐怖がエムを襲う。何故こんなことをされるのか理解が追いつかなかったが、好ましい状況ではないことだけ、その身をもって確信した。

「ふはっはっは。楽しいオモチャだなあ」




「胸騒ぎが激しくなった。エム大丈夫かな?それと、他のリヒターにバレたらどうしようっていう緊張感もあって心臓爆発しそうだ」

兵士に変装して、フラフラと歩いているとエレベーターから他のリヒター達が出てきた。

「侵入者はどんな奴かは分からん。出来る限り武器を持っていけ」

「しかし火力が高いのを持っていくと、管理局に傷がつくぞ」

「部外者を追っ払うためだ。犠牲はつきものだろ」

「おう、お前、仕事が早いな。もう武装したんか」

リヒター達はセトを疑うことなくすれ違っていった。

「びっくりした」

エレベーターに乗っていると45階でリヒター達が乗ってきた。

「この階にはいなかった。もっと下か?」

他のリヒターに合わせていたらエムの所に辿り着けない。降りようとすると

「どうした?」

後ろから声かけられ

「…ちょっとお手洗いに」

普段より低い声を出して答えた。

「あそう。早めにな」

なんとかその場を切り抜けた。

「それにしても、こんなに階とか部屋が多くて何に使うんだろう」

覗いてみれば、空きの部屋もある。

「向こうから何か音がする」

その部屋にはずらっとコンピューターが並んでおり、電子機器や印刷機などの音がしていた。

暗い部屋を青白い画面が照らしている。

「なんだろうこれ?町が破壊されてる?」

荒れ果てた町の中に数人の人影が見えた。

《ψ(プサイ)区荒廃(強)負傷者(多)行方不明者(多)
ソフィマフィア【地獄絵図】アレイザー【鬼】による大規模な損害略奪》

「やっぱりソフィキエータにも悪い人はいるんだ。しかもアレイザーが僕以外にもいたなんて」

他の資料をタップする。

「う、うそでしょ」

《ヘプターナ【闇】捕獲。【クイーン計画】始動》

長い薄紫の髪の少女が裸で台の上に乗せられていた。身長体重など細かい情報が記載されている。

「クイーン計画って?というかこの子は何処に」

「おいアンタ!そこで何やってる!!」

PCルームにリヒターが一人入ってきた。

「……」

黙って硬直している。

「聞いてるんだシカトするぬわっなんだこれは!?」

地面にあった球を踏み、そこから伸びるゴムが絡みつき、倒れこみ、他の球からも絡みつき身動き出来なくなる。

「こうゆうこともあろうかと罠をかけておいたのさ。悪く思わないでね。今日捕まった女の子の居場所を教えて欲しい」

「誰がおしえるか!!」

「あんまりこうゆう手段は好きではないけど…これで答える気になるかな?」

セトは相手のマスクを外し、ブラスターを突きつける。

「わかったわかった!教えるから!勘弁してくれ」
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