破壊は追憶の果てに

奏紫 零慈

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23 カイカ

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日曜の夜

【幹部の黒】が暗い部屋からモニター越しに貯水エリアに到着したAriz達を見る。

「そろそろ来てもいい頃だが案の定来たようだ」
粘液の入ったビーカーの中に球体を入れるとそれは動き出す。
「今日はどんなパフォーマンスを見せてくれるのかね?」




ここは貯水エリア。海水から真水を抽出し、β区だけでなく、テクノロジア各地に送り込む水の保管エリアだ。

皆体操着を着ていた。
「此処が今夜の現場だ。30機のドローンが待ち構えている」
「うっやっぱり怖いかも」
セリアが肩を縮ませて言った。
「心配するなって!ウチらは5人だぜ!余裕だぜ!」
「でも前回みたいに厄介なのがいるんだろうな~」
「や、厄介なのですぅ?」
頭を抱えるセトの方を折り畳みナイフを腰に納めていたメリルがチラッと見る。
「そもそも未成年の一般の子供が政府の機械を相手に戦うっていうのが凄いよねーまあ能力使いもいるんだけさー」
「アゲハの作る武器はスッゲーからな!コイツがありゃ負ける気がしねぇぜ!」
腕のガントレットを展開し、勢いよく拳をあげる。
「ツインテールお前!ごくたまに嬉しいことを言うなお前!だがすまんな、近いうちに身体のプロテクターを作ろうと思う。今日は運動着で我慢してくれ」
「それは楽しみだねーじゃボクは向こうで狙撃銃構えとくー」
狙撃銃を背中に構えたユウが遠くのコンクリートの塊の所に飛んでいく。

エリア内へと進んでいく。
ー  キュイーン  ー
10体程のドローンがセンサーでArizメンバーを探知し、起動する。
《侵入を探知   対象を撃破します》
ドローンから無機質な音声が流れる。
「さあて、俺たちの大義なる叛逆を始めようか」
インカムからアゲハの決め台詞を聞いた。

「うぅ…こわいですぅ」
セリアの後ろに隠れるメリルの膝が物凄く震えている
「アタシは左の金属野郎共倒すからセトは右頼む!」
足の赤いアーマーで地を蹴り、ドローンの方へと飛んでいく。
「オーケー僕も頑張るよ。アゲハ、ガンモード!」
羽の小型ロボをブラスターに変形させ、銃口をドローンに向けて走っていく。
「あ…」
スナイパーを構え、スコープを覗き込んだ時
「どうかしたのかユウ」
「弾忘れたー。致命的なミスなのさー」
「…仕方ない、スコープでAriz対ドローンの戦いを観察しておけ」
「了解っす」

「これで!10体目!」
エムが10機目を殴り倒した。
ポートエリアと変わらない奔歩型ドローンのため同じ要領で駆逐出来るようだ。
「凄い!セト君とエムちゃんの2人で倒しちゃうなんて!」
「コツは頭を狙うことだよ」
「次行こうぜ!」
エリアの更に中に入るとより多くのドローンがいた
「数えたところ19体だねー残り1体はどこにいるんだろうねー」
ユウはスコープからエリアを俯瞰している。
「ふわわ!?セリアしゃん危ないですぅ!」
ドローンが襲いかかって来たので、股をもじもじさせながらメリルがセリアにしがみつく。
「後ろにも居たかあ!!」
セリアとメリルに襲いかかってきたドローンをエムが炎の回し蹴りで倒す。
「ナイスキック。おっと僕の方にも多いな」
「私も行かなくちゃ」
「待っ、待ってなのですセリアしゃん、ふぇ!」
メリルの方に円盤が飛んできたので音速で後ろに下がる。
「うぅ~」
折り畳みナイフを展開し、しばらくそれを眺める。
「やっぱりメリルには恐怖なのです…」
ドローンの居ない所へとメリルは隠れた。

「ここからが本番だ」
【幹部の黒】は腕のボタンを押した。

貯水槽の下から黒い粘液が流れ出す。それはまるで大蛇のように。

「ふぇ!?やぁっ!た、助けてくだしゃい~!」
黒い粘液はメリルの足に絡みつき、上の方へと登っていく。慌てているうちに腕にも纏わりつき抵抗出来なくなる。
「ひやあ!!く、くすぐった…のでしゅ…!」
体操着をめくりあげ、メリルの様々な部位に侵食していく。

「め、メリルちゃん!」
セト達が駆けつけた時にはもう遅く、殆ど粘液の中に飲み込まれてしまった。
「てめ!メリルを返せ!」
「待てエム!」
エムが粘液ドローンに飛びかかりそのまま飲み込まれる。
「く、動けね…アタシの炎で…う…」
しかし抵抗虚しく何も出来ないまま粘液の餌食になってしまった。
「もしかして、これが今回のチーフドローン?」
「そのようだな。今までとは異なるタイプ。あまり近づくなよ」

「な、なんて回復力なんだ!」
セトが撃ち続けるがすぐにゴムは再生する。巨大な人型となったチーフドローンは貯水タンクをネバネバで掴み、セト達にぶつけようとする。
「セリア!危ない!」
「きゃあ」
タンクが壊れ、水が溢れる。タンクの残骸を腕のゴムに接着させセトにぶつける。
「ぐはっ」
物凄い圧が腹部にかかり、セトは血を吐く。
「大丈夫か!?」
「セト君!今治してあげる!」
セリアが急いでセトを治癒する。
チーフドローンは貯水タンクを壊しまくり、洪水が起きる。
「おっとーあれじゃあ二人流されちゃうねー」
ユウが飛行能力でセトとセリアを救出する。貯水槽の上行く。
「ごめん、セリア、ユウ。もう少しで死んでた」
「ありゃー面倒だねーどうしょっかー?」
「これでチーフの特徴を確かめてみよう」
セトが特殊コンタクトレンズで遠くのチーフドローンをズームする。
「なんだろう、いくつかの銀色の球がゴムの中をグルグル回ってるよ」
「それを壊せば止められるかも!」
「ボクが向こうまで送るよー」
「お願いね!」
ユウがセリアを抱えて飛んでいく。
「えい!」
スピアのアームを開き、球体を掴み引っ張ると、粘液もそちらについていく。
「やっぱりこれが操ってたっぽい!」
槍を横に降ると、チーフドローンは横に飛んで行って倒れる。
「セリア危ない!」
チーフのゴムの腕が伸びていき、セリアとユウを飲み込もうとする。
「上手く避けれるもんさー」
「腕にも球みっけ!」
腕の中の球体をスピアで貫くと、腕を形成していた粘液がバラバラになって下に落ちていく。
「何これ楽しー!!」
チーフの頭部にあった球体を掴みグルグルと回すと、人型は崩れ、巨大な輪っかになって回る。
「面白いのは分かるけどー、中にエムとメリルがいるんじゃなかったかなー?」
「うぅ!そうでした!メリルちゃん、エムちゃんごめんなさい!!」
慌てて球体を下に落とすと粘液も下に落ちる。
「なんだか凄い光景だねー」
四方八方から粘液が球体目掛けて飛んでくる。
「セリア、球を壊せ!飲み込まれるぞ」
槍で球体を貫く。 粘液は動きを一時停止させ、洪水の中に落ちていく。同時にメリル、エムが洪水の中に落ちる。
「救出しないと!」
セトがメリルを助けようと水の中に飛び込む。
「じゃあボクはーエムを探そっかなー」
ユウはエムを空中から探す。
「待って私も、ひゃあ!」
セリアが足をつまずかせて水の中に落ちる。
「待っ!流れ速いよぉ!溺れちゃう」
水面でバタバタしてパニックになるセリア。
「まずい、ユウ、セリアも後で頼む」
そのまま水の中に溺れてしまった、と思った矢先
「……あれ?私浮いてる?」
小さな土地が出現する。
「まさか、というかやはり、セリアもヘプターナだったようだな。属性は【地】といったところか」
「わ、私こんなの初めて」
一歩一歩水面を踏もうとすると、一足分の土地が出現する。
「エム救出完了なのさー」
ユウは気絶したエムを洪水から離れた所に運ぶ。
「メリル!今上がれる所を探すから!」
セトはメリルを捕まえるが陸に上がれないまま漂流する。
「セト君もメリちゃんも!私が助けてあげる!」
セリアは床を出現させながらセトメリルの方へと向かい、拾い上げる。
「アゲハさん、記念にこれ、持って帰るかい?」
ユウが壊れた球体と粘液の塊を持っていた。
「助かる。それで面白い物が作れそうだ」

エムとメリルの意識は回復し無事に任務は完了した。



暗い部屋から拍手が聞こえる。
「いやあ、今回もやってくれたね。仲間で協力し合っていたよ」
【幹部の黒】はモニターの映像を消し、椅子をグルグルと回転させながら
「ヘプターナ達の力も徐々に発現を見せているようだな、少年少女達の成長に期待出来そうだ」
と言った。



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