破壊は追憶の果てに

奏紫 零慈

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13 サンサク

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リニアモーターエリアにて

「うわ、これがリニアモーターカー!?」
白い筒状の先端の尖った長い乗り物が目の前にあった。
「あは!セトは初めて乗るんだもんなー速いんだぜー」
《他の区に行きたい時はこれに乗るんだ。アルフェリア学園に行く交通手段としても使われている》
インカムからアゲハの声がする。
リニアの中に入り、待つこと数分。扉は閉まり、浮くような感覚を味わったと思ったらこの乗り物は吸い込まれるようにトンネルに流れていった。
「速いねー」
《地面の抵抗を受けないからな》
「見ろよ!窓から景色見えるぜ!」
トンネルを出ると、見覚えのある港や街並み、H字灯台が見えては窓の外へと走り去って行ってしまった。β区の全体像がなんとなく分かる。β区とγ区を繋ぐ車の走る巨大な橋の上を颯爽と駆けるリニアモーターカー。青い海が日差しに照らされている。

10分程楽しむとη区に到着した。

「うひょー!これが、のすたるじー、ってやつぅ!!?」
時代が逆流したかのような街並み。原始的な演奏、木やレンガで作られた建物、グルグルと回る巨大な肉の丸焼き、馬車に井戸。古臭い物がかえって新鮮味を帯びていた。五感をくすぐられる。
《ここには世界が【第弍の崩壊】を迎える前の文化が保存されている。前にも言った【亡世の伝(ロストワールドストーリー)】の世界観を擬似的に再現しているんだ。旧風習の復興とも言える》
「なんかまるで異世界に来てしまったみたいだよ」
道行く人の独特の格好を見ながら呟く。
《すまない、俺はこれからセリアの特訓を手伝いに行く。その間街を散策してくれないか》
「おうよ!ウチらに任せとけ!」

「!?見ろよ、RICHTOR(リヒター)がいる」
全身黒い軍服にマスク付きのヘルメットをした兵士が徘徊していた。その横に小型のドローンも飛んでいた。

「ねぇねぇエム~。変装するのってどうかな?」
「変装?」
「うん。変装した方が特定されにくそう」
「なるほどー!確かにアイツらを巻けそうだな!」
2人はコスチュームショップに入る。
「色々あるー」
「この中から良さそうなの貰ってこうぜ」
セトは長い帽子を被り分厚いつけ髭を付け、マントの下にオーバーオールを着て杖を持った。エムは白いくるくるのウィッグを被り、未開の部族のような仮面を付け、フリフリの長いドレスに身を包んだ。
「なぁなぁ、せっかくだし楽しもうぜ!」
市場で珍しいオブジェを見たり、屋台の物を食べたりしていた。
「なんか凄いお店があるよ!」
「かっけええ!!」
中に入ると剣などの武器や鎧が飾られていた。【亡世の伝】では鎧を着た騎士が出てくるらしい。テクノロジアの外で発見したといわれる状態の良い新品に近いものまであり、騎士というのは現世でも存在するのではと想像したりした。
「この銀色のつるぎ、どこかで見たことある気がする」
錬成され直した剣らしい。【白鳥様専用】と札に書かれていた。

「銃売り場もあるのかー!!」
隣の店を覗いてみる。ズラッと銃器が並んでいる。
入り口にはOpenと書かれた札が置いてあり、外から緑髪の男性とも女性とも見分けがつかない若者が机に突っ伏して寝ているのが見える。
《待たせたな》
インカムからアゲハの声が再び聞こえる。戻ってきたようだ。
「ある程度街は見て回ったぜ」
「ソフィキエータっぽい人は今のところ見てないね」
《というかお前ら、なんて格好してるんだよ》
アゲハの操縦しているメカを通じて見える2人の姿を見て苦笑いする。
「変装した方が上手く相手を巻けそうだからな!」
エムは誇らしげに腕を組む。隠れる胸はない。
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