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夏の断章 -Romance-
夏の断章①-2
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その日は、沙山市のある中学校へ来ていた。
その体育場で、サッカーの地区大会が開催されるのだ。
俺は幼馴染の三年間の成果を見届けるため、わざわざ電車に乗ってそこまで出向いていた。
気温はゆうに三十度を超えている。
茹だるような炎天下の中、試合は進んでいった。
この悲惨な環境の中、あちらこちら駆け回る気力がよくあるものだ。
試合の模様を眺めながら、俺は学生たちの体力に感心しきりだった。
最初は関係ない学校の試合も観戦していたが、暑さと熱気に根負けてしまった。
結局、康太が出る試合以外は、校舎裏の日陰で本を読んで時間を潰すことにした。
陣西中学は、午前中に行われた一回戦を七—五で無事に勝ち抜いた。
午後に行われる二回戦を勝ち抜けば、八月に行われる県大会まで出場できるらしい。
昼の休憩が終わるとすぐに、陣西中学サッカー部と沙山第一中学サッカー部の試合が行われた。
康太はいつになく真面目腐った表情で、無秩序に行き交うボールの軌跡を追いかけていた。
俺の周りにも、康太目当てで応援に来ている生徒が何人かいる様子だった。
女子のグループが、康太がボールを蹴るごとに黄色い声を漏らした。
実際、サッカーに打ち込んでいる康太の横顔は、他のどの部員よりも凛々しく輝いて見えた。
戦況は芳しくはなかった。
前半の終了時点で、すでに相手に二点のリードを取られていた。
後半戦開始を告げるホイッスルが鳴ると同時に俺は願い、そして祈った。
どうか勝てますように。彼らの実直な努力が実を結びますように。
しかしその想いは、天に届かなかったようだ。
試合は結局、五—六の僅差で向こうのチームが勝利を収めた。
試合終了の笛が鳴った後、康太は全ての力が抜けたようにその場で突っ立っていた。
彼の中で一つの時代が静かに、だけど確かな終わりを告げたのだ。
しばらくして、ようやく我に返ったらしい。
今にも泣き出しそうだった近くのチームメイトに励ましの声をかけて、その背中を優しく叩いていた。
そのまま俺は、彼に挨拶せずに帰ることにした。
こんな時、どんな言葉をかけてやればいいのか分からなかった。
幼馴染があんなにも張り裂けそうな顔をしているのを、俺は生まれてこの方初めて見たのだ。
その体育場で、サッカーの地区大会が開催されるのだ。
俺は幼馴染の三年間の成果を見届けるため、わざわざ電車に乗ってそこまで出向いていた。
気温はゆうに三十度を超えている。
茹だるような炎天下の中、試合は進んでいった。
この悲惨な環境の中、あちらこちら駆け回る気力がよくあるものだ。
試合の模様を眺めながら、俺は学生たちの体力に感心しきりだった。
最初は関係ない学校の試合も観戦していたが、暑さと熱気に根負けてしまった。
結局、康太が出る試合以外は、校舎裏の日陰で本を読んで時間を潰すことにした。
陣西中学は、午前中に行われた一回戦を七—五で無事に勝ち抜いた。
午後に行われる二回戦を勝ち抜けば、八月に行われる県大会まで出場できるらしい。
昼の休憩が終わるとすぐに、陣西中学サッカー部と沙山第一中学サッカー部の試合が行われた。
康太はいつになく真面目腐った表情で、無秩序に行き交うボールの軌跡を追いかけていた。
俺の周りにも、康太目当てで応援に来ている生徒が何人かいる様子だった。
女子のグループが、康太がボールを蹴るごとに黄色い声を漏らした。
実際、サッカーに打ち込んでいる康太の横顔は、他のどの部員よりも凛々しく輝いて見えた。
戦況は芳しくはなかった。
前半の終了時点で、すでに相手に二点のリードを取られていた。
後半戦開始を告げるホイッスルが鳴ると同時に俺は願い、そして祈った。
どうか勝てますように。彼らの実直な努力が実を結びますように。
しかしその想いは、天に届かなかったようだ。
試合は結局、五—六の僅差で向こうのチームが勝利を収めた。
試合終了の笛が鳴った後、康太は全ての力が抜けたようにその場で突っ立っていた。
彼の中で一つの時代が静かに、だけど確かな終わりを告げたのだ。
しばらくして、ようやく我に返ったらしい。
今にも泣き出しそうだった近くのチームメイトに励ましの声をかけて、その背中を優しく叩いていた。
そのまま俺は、彼に挨拶せずに帰ることにした。
こんな時、どんな言葉をかけてやればいいのか分からなかった。
幼馴染があんなにも張り裂けそうな顔をしているのを、俺は生まれてこの方初めて見たのだ。
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