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本編第二章

棚ぼた的な何かが手に入りました1

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【なろうからおいでの皆様へ】
おいでいただいてありがとうございます!
こちらには誤字脱字報告機能がありませんため、放置しています。なろうの全文テキストをDLしましたので、それを少しずつ移植していく予定です。過去分の訂正に関しましては移植をお待ちください。ここから未来分の誤字脱字・訂正に関しましては感想欄をご利用いただけますと助かります。
引き続きよろしくお願いいたします。
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 数日後、再びガイさんと面会した。

「それで、結局どうなったんですか?」
「はい。父がようやく認めてくれました。ロッテのことも、私のこともです」

 あれからオコーナー家では大騒動が巻き起こったらしい。ただでさえロッテさんのことで憔悴していたガイパパ。その上、一人息子までが家を継がず小説家になる宣言だ。平静でいられるはずがない。ガイパパは怒り、ガイママは泣き崩れ、それでも確固たる意志で話し合いに望んだガイさんだったが、最終的には思わぬところから応援が入ったのだとか。

「え、イトコさんが家業を継ぐことになったんですか?」

 そう、ガイ親子の言い争いの最中に、もうひとりのイトコ、ロッテさんの実の兄にあたる人が「僕に商売を継がせてください!」と懇願したらしい。

「イトコは今年十八になるんですが、故郷に恋人がいるんです。その彼女と結婚するためには、今のような中途半端な立場でなく、ちゃんとした仕事に就きたいと前々から思っていたようでして。確かにうちで働いているとただの家事手伝いみたいなものですからね。こちらも身内だし、去年までは未成年だったということもあって、給料もあってないようなものでしたし。もちろん、そこはゆくゆくはちゃんとするつもりで父もいたようなんですが、まぁ、どうせなら家業手伝いよりも跡取りとなった方が、先方の家にも心象がいいはずだと、そう考えたようです」

 家を出て新たな職を得ようかと考えていた矢先の、ガイさんの脱後継宣言に、ここぞとばかりに手をあげたそうな。

「父はそれでもなかなか首を縦に振らなかったのですが、最後には母が説得してくれました。ロッテが家出して自分たちと縁を切ろうとしていることだけでも辛いのに、この上私とまで完全に縁が切れてしまうのは耐えられないと。こうして跡を継いでもいいといってくれる甥っ子もいるんだから、ここは穏便に、子どもたちそれぞれのやりたいことを応援してやるべきだ、と」

 既にロッテさんのことがかなり重く響いていたガイパパは、それでとうとう折れてくれたのだとか。その足で再び精霊庁に出向き、ロッテさんに王立学院で学ぶことを許可した。納得したロッテさんは再び、家族の元に帰ってきてくれたそう。

「学院の受け入れの準備もあるので、しばらくは家族で過ごすことになります。その後は離れ離れになるかもしれませんが、いつかは故郷に帰って、両親に楽をさせてあげたいと言っていました」
「よかったですね、丸くおさまって。それで、ガイさんはこの後どうされるんですか?」
「今の仕事をイトコに引き継いだ後、王都でアパートを借りようかと思っています。故郷で家族の近くに住もうか悩んだのですが、近くにいれば逆に父も辛いかと思いまして」

 長年の習慣や考えというのは、そう簡単に変わるものではない。すぐ近くに息子がいれば、また自分の価値観を押し付けようと行動しないとも限らない。そのたびに衝突して距離が離れるくらいなら、最初から適度な距離を保ちつつ、家族として繋がり続ける方法もいいのではないかと考えたそうだ。

「特に王都に思いがあるわけでもないのですが、出版社もありますし、サウル副会頭も協力してくださるということですので、住んでみようかと」

 そうなれば香りビジネスに関する打ち合わせもきっとスムーズに進むだろう。私は領地に帰るけれど、王都にはケイティがいるし、調香師のラファエロもいるわけだから、問題はない。むしろプラスだ。

「こちらとしても助かります。シャティ・クロウ先生の感性で、素敵なサシェが販売できそうです」

 既に前評判も上々の、”恋月夜”と”永遠の祈り”の名を冠したサシェ。今後の新作はどうしようかと、嬉しい悩みが尽きない。

「そうだわ! ガイさん、まだお時間はあるかしら。せっかくだから一緒に香りの新店舗に行ってみませんか? 今ならラファエロが仕事中のはずです。それにマリウムのことも紹介したいですし」
「いいですね。ぜひお願いします」

 そうして私たちは事務所を出た。ここから新店舗までは大した距離ではない。シャティ・クロウ先生の新作の予定やサボテンの乾燥花のことで話に花を咲かせながら歩いていると、不意に前方から「アンジェリカ様!?」と声がかかった。

「アンジェリカ様! お久しぶりです!」
「あなた、アニエス!?」

 なんと偶然通りかかったのは、孤児院出身で劇団員をしているアニエスだった。

「びっくりしたわ、アニエス! あなた、また背が伸びたんじゃない?」
「はい……成長期がまだ終わってなかったみたいで。今では女性物の服もなかなか手に入らなくて、いつもこんな格好です」

 以前から170センチほどあった彼女の身長はさらに伸びて、今やケイティよりも大きくなっていた。そんな彼女はややゆったりとしたシャツに細身のパンツを履き、足元はブーツだった。ロングコートを羽織り颯爽と歩く姿はもはやイケメンの域だ。

「とてもかっこいいわ、アニエス! 下手な男は裸足で逃げ出すわね」
「劇団でもついに女性の役はもらえなくなりました。でもいいんです。アンジェリカ様のおかげで、新しい夢ができたので!」
「女性だけの歌劇団のことね? その件についても、冬の間にあなたと話をしたいと思っていたの。そろそろダスティン領に移住してもらって、劇団の立ち上げを始めたくて」
「私も、アンジェリカ様に報告したいことがあったんです。歌劇団のことを知り合いの女優たちに話したら、自分も参加したいって言ってくれた子たちがいまして。中には私と同じくらいの身長の子もいますし、歌が得意な子や踊りのセンスがある子もいます」
「本当に!? それは嬉しいわ。みんなまとめてスカウトするから、ぜひうちの領地に来てちょうだい」
「ありがとうございます! あ、ごめんなさい、私、突然アンジェリカ様に話しかけてしまって。どこかにお出かけ中でしたよね」

 言いながらアニエスは私の背後に立つガイさんにちらりと視線を向けた。

「そうなのよ。今度、新しく香りのビジネスを始めることにしたんだけど、そのお店に向かうところで……あぁこの方はガイさんといって、そのビジネスを手伝ってくださる方なの」

 アニエスも生粋のシャティ・クロウファンだが、ガイさんの許可もないうちに正体を明かすのも悪いだろうと、一旦は彼の紹介のみに留めることにした。

「ガイさん、こちらはアニエスといって、劇団の女優さんです。うちの領地で歌劇団を作る構想があるんですけど、そこの看板女優になってくれる予定なんです」
「そんな! 看板女優だなんて、アンジェリカ様言い過ぎです。はじめまして、アニエスと申します。どうぞよろしく」

 きりりとした瞳を緩めて微笑むアニエス。対してガイさんはすぐに挨拶を……返さなかった。

「あの、ガイさん?」

 見上げたガイさんはなぜか口を半開きにして、食い入るようにアニエスを見つめていた。

「ガイさん? どうかしました?」
「……月の女神だ」
「はい?」

 掠れた声でそう呟くガイさんは、雷にでも打たれたかのようにまったく動かない。これはもしかしなくとも……アレだ、アレに違いない。

「あの、アンジェリカ様、私、何か失礼なことしましたでしょうか」
「……いえ、アニエスはまったく悪くないわ。でも、ちょっと失礼」

 そうして私はガイさんの袖をひっぱり、アニエスから引き剥がした。

「ガイさん、あの子は女優なんですけど、なんと、シャティ・クロウの大ファンなんです」
「わ、私のファン!? あの麗しい方が……!?」
「えぇ。彼女は恋月夜の騎士と姫君が特に好きで、貴族のサロンに招かれては朗読劇を披露していたんです。そこからパトロンがついて、王立芸術院の聴講生にもなりました。そして今は女優です。シャティ・クロウの作品のおかげで未来が開けたこともあって、シャティ・クロウにはとっても感謝しているはずです」
「う、噂には聞いたことがあります! 貴族の方の間で、騎士に扮した男装の麗人が小説の一説を演じていると。それが、あの方……。なんてことだ! イメージにぴったりじゃないか!」
「ちなみに歌劇団の柿落こけらおとし公演についてもそろそろ企画しなくちゃいけないんですけど、アニエスが演じる恋月夜の騎士って、とっても素敵だろうなって思っていたところなんです。ガイさんどう思われます?」
「あの方が、私の…騎士……素晴らしい、素晴らしすぎる! いい作品になる予感しかありません!」
「そうですか! ガイさんも見たいですか! つきましてはぜひとも恋月夜の上演権利をうちの新劇団にいただけません? もちろん、ガイさんには初演の特等席をご用意します」
「私もぜひ見たいです! アンジェリカお嬢様、ぜひ上演してください! よろしければ台本にも挑戦しますし、なんなら舞台演出のお手伝いもさせていただきます!」
「まぁ素敵! 交渉成立ですね」
「はいっ! 立派な歌劇にしましょう!」

 道の往来でガイさんとがっちり握手する私。よっしゃ! 柿落とし公演の演目ゲットだぜ! もう成功する未来しか見えないわ!



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なんと今日で300話らしいですよ! よくやるなぁ、と思われた方はご祝儀いいねをいただけると嬉しいです。



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