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本編第二章

裏お見合い大作戦どころではありません4

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 バレーリ団長による法律の話にロイド副団長が頷きつつ、話を進めた。

「とはいえ、今回のことを受けて、今後は法整備と取り決めがさなれるでしょう。とりわけ今回の技術が平民から生まれたということは大きいです。精霊石は自由に売買が許されてはいますが、ある意味貴族の特権であることには変わりありません」

 それはもっともな話だろう。誰もが自由に精霊石を加工したり流用したりということにまで自由を与えてしまったら、貴族の既得権益が侵され、この国の存続を揺るがす自体にもなりかねない。身分制度の是非は前世日本人の私の中にまったくないわけではないけれど、この世界がそれなくしては成り立たないことくらいは理解している。

「そしてリンド馬車のことですが、仮にリンド馬車がこの技術に目をつけ、身内と結婚させることでオコーナー家を取り込み、新たに購入した土地に工場を建てて、この布を量産したとしても、それを罰する法もないのです」

 おおっと直球できたな。エミール新社長の企み、完全にバレてるじゃん。自業自得だけど、ちょっと御愁傷様だ。

「では、リンド馬車にもお咎めはないのですね」
「えぇ。そういうことになります。仮にリンド馬車がこの技術を隠蔽して我々の取り調べの要請に応じないともなれば、また話は別でしたが、新社長の話では、例の布について“国への報告義務があるとは思っていなかった、あくまで自分たちの商売に役立ちそうだから購入したいと思っただけ”とのことですからね」

 騎士団の取り調べに対し、そう言い逃れたエミール新社長はさすがと言えなくもない。彼の話を信じたのかと、ちらりとバレーリ団長に視線を向けると、首をコキコキと鳴らしながらどうでも良さそうに言い放った。

「まぁ、この技術開発の報告を秘匿せず、国にあげてくれさえすれば、それがオコーナー家からであろうとリンド家からであろうと、もちろん今回のようにダスティン家からであろうと、我々としてはどこからでも良かったということだ」

 つまり騎士団としては新技術が秘匿されず、その情報がきちんと手に入れば問題なしという態度を取るつもりだったということだ。ただし、報告をあげた家が優遇され、莫大な利益を得る可能性は十分にあった。エミール新社長は、オコーナー家を乗っ取ってこの技術を手にし、新たに建てた工場で布を量産、それを販売して利益を得る計画だったはずだ。途中、騎士団から横槍が入っても、「報告が必要とは知らなかった、今後はもう手を出さない」と言い逃れできる。国としてもこの画期的な新技術を一方的に奪うのは心象が悪く、リンド家になんらかの見返りは与えただろう。布を販売できる間はそれで儲け、販売にストップがかかった後は、その技術をダシに国に恩を売る。どちらにしても相当な利益を生む話。

 そこまでのストーリーが見えてきたとき、心底エミール新社長のことが嫌いだと思った。今までは話の通じにくそうな人、という印象だけだったのが、お金のために身内や他人を犠牲にしてなんとも思わない冷徹な人、という印象に格下げされた。正直徹底的に糾弾して再起不能にしてやろうかとも思ったけれど、エリザベスさんの実家が没落してしまうのは本意ではない。

 なので私は、騎士団にリークすることでエミールさんの野望を打ち砕くことに留めた。オコーナー家や、実際に画期的な技術を開発したガイさんのイトコが不幸にならないように、ということも考えた。その上で、この問題を預けるには、信頼できるバレーリ団長率いる騎士団が最適だと思ったのだ。

 彼であれば、この一連の流れを読み解き、人のいいオコーナー家の人々を助けてくれると、そう信じて、結果はこの通りだ。技術は早々に騎士団を通じて精霊庁や国の知るところとなり、オコーナー家にも調査の手が入ったものの、オコーナー家は悪巧みとは無縁の家だから、素直に調査に応じて、穏便に話は進んでいる。もっともガイさんの話では、騎士団に乗り込まれたことでガイパパは卒倒してしまったそうで、そこだけは穏便じゃなかったかもしれない。




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