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本編第二章
裏お見合い大作戦どころではありません1
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2024/3/16、「裏お見合い大作戦どころではありません」の1と2の内容を入れ替えました。先にこちらの精霊石の説明パートを出しておいた方が、2以降の場面転換をせずにすみ構成上スムーズであると判断しました。読者の皆様には混乱とご迷惑をおかけしますが、ご容赦ください。
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我が国、セレスティア王国は精霊に愛された国である。このへんがTHEファンタジーという感じだなと、転生したときに思った。
精霊は元来、人間が大好きで、特にお気に入りの者を当主として選び、自分たちが住まう土地に縛ろうとする。それが貴族社会における当主像。私もダスティン領の精霊に愛され、次期当主に任命された。当主として自立するのは18歳の成人を迎えてからというのが慣例なので、それまではあちこち出かけることができるけれど、当主ともなればその土地から離れることはできない。例外は精霊が冬眠する社交シーズンの冬場と、精霊が王都に一時的に里帰りすると言われている夏の1ヶ月ほどだけ。
そんな精霊たちからの恩恵として、この国で大切にされているのが「精霊石」だ。火・土・風・水の4大精霊の力を宿した石が、各地から産出される。ダスティン領は火の精霊の加護を受けているから、火の精霊石がとれる。ちなみにこの精霊石は見た目はただの石ころで、領地のあちこちに転がっている。貴族にはこの精霊石を一定数物納することが義務付けられているので、うちでも領民に手伝ってもらいながら毎年せっせと石ころ拾いをしている。見た目ただの石ころであるこれらの石は精霊庁に集められ、そこで神官たちが特殊な力を使って研磨する。彼らの研磨という加工があって初めて、精霊石は本来の輝きと用途を取り戻す。研磨された石の一部は国に納められ、残りは納めた領地にリターンされることになっている。領主同士で交換しあったり、適正価格での販売・購入が許されたりなど、各所で融通し合いながらありがたく使用させていただいている。なお販売は精霊庁か領主の特権だが、購入は平民でも可能だ。価格は国が定めているのでそれほど高額というわけではないが、かといって安価でもない。裕福な平民でようやく日常的使用ができるという程度で、たとえばうちの領民たちにはあまり馴染みがない代物だ。
火の精霊石は文字通り「火」に関わる用途に使用される。火打石のように擦り合わせると火花が飛び、それが火種となるし、火の中に投げ入れれば火力を増す。そのほか水に入れればお湯になる。うちのお風呂はこれでよく沸かしている。火の精霊石だけはたくさんあるのでかなり贅沢な使い方だ。
水の精霊石は浄化の力を持っている。汚れた水に入れれば飲水可能な真水になるし、傷口にこの精霊石を滑らせると殺菌してくれたり治りが早くなったりする。小さな切り傷程度ならあっという間に治ってしまうほどだ。水を凍らせることもできるので、氷を作ったりアイスクリームを作るときに使ったりしたこともある。ちなみに継母の実家であるお隣のウォーレス領が水の加護を受けている土地なので、毎年ウォーレス領と円満に物々交換している。
土の精霊石は土壌改良に役立ち、土に混ぜて耕すことで作物の育ちが良くなる。そのほか、土やレンガ、モルタルの中に一緒に練り込むと強度が増すので建築現場では重宝される。そのほか、なぜか陶器やガラス、鋳物や打物などの金属加工時にもお役立ちで、こちらも一緒に練り込むことで強度が増すので、職人たちにも人気だ。我が家が拠り所とさせていただいているお隣アッシュバーン領では土の精霊石が産出されるので、こちらも交換し合いながらのお付き合いだ。
風の精霊石は文字通り風にまつわるものだが、用途が幅広くて少し特殊だ。まずは文字通り、風を増幅する。以前、私がカイルハート殿下の誕生日プレゼントとして送った星見という道具。ハムレット商会の双子の妹・キャロルが開発したもので、前世でいうところの簡易なプラネタリウムだったのだけど、あれを回転させるときの増幅剤として風の精霊石を使用していた。始めだけ人力でくるっと回してやると、その後は風の精霊石の力で、精霊石が消耗するか取り出すかするまで回り続けてくれる。ちなみにあの商品、貴族を中心に大ヒットしたそうな。この力を利用して風車を回して小麦を挽くのに使うのが割と一般的。そのほか軍事利用も可能なため、4種ある精霊石の中でこれだけは管理が厳重だ。
ものすごく便利な魔法の道具みたいな精霊石だけど、どれも「生活をちょっと便利にする」といったものだ。石そのものが火や水や土や風を生み出すわけではなく、何かと合わせて使用しつつ、その力を増強させるのが特徴。なお、使用した精霊石は摩耗してやがては消える。水に入れた精霊石はお湯になったら消えているし、土に埋めた精霊石の効能期限はせいぜいが1クール程度だ。そしてこの精霊石、なんと王国から一歩でも外に持ち出せば、効果を失い、ただの石ころになる。故に輸出品にはなり得ない。
繰り返しになるけれど、精霊石は何かと組み合わせて使用するのが特徴。もっと詳しく言えば、石ころの形のまま何かに入れたり混ぜたり掛け合わせたりして使うもの。これ、平民でも知っている一般常識。私もこの世界で暮らし始めてはや数年なので覚えてるヨ!
……なぜこんなに長々と精霊石の話を蒸し返したかというと、今回の一連の出来事に、この精霊石が大きく関わっていたからなんですよ。
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我が国、セレスティア王国は精霊に愛された国である。このへんがTHEファンタジーという感じだなと、転生したときに思った。
精霊は元来、人間が大好きで、特にお気に入りの者を当主として選び、自分たちが住まう土地に縛ろうとする。それが貴族社会における当主像。私もダスティン領の精霊に愛され、次期当主に任命された。当主として自立するのは18歳の成人を迎えてからというのが慣例なので、それまではあちこち出かけることができるけれど、当主ともなればその土地から離れることはできない。例外は精霊が冬眠する社交シーズンの冬場と、精霊が王都に一時的に里帰りすると言われている夏の1ヶ月ほどだけ。
そんな精霊たちからの恩恵として、この国で大切にされているのが「精霊石」だ。火・土・風・水の4大精霊の力を宿した石が、各地から産出される。ダスティン領は火の精霊の加護を受けているから、火の精霊石がとれる。ちなみにこの精霊石は見た目はただの石ころで、領地のあちこちに転がっている。貴族にはこの精霊石を一定数物納することが義務付けられているので、うちでも領民に手伝ってもらいながら毎年せっせと石ころ拾いをしている。見た目ただの石ころであるこれらの石は精霊庁に集められ、そこで神官たちが特殊な力を使って研磨する。彼らの研磨という加工があって初めて、精霊石は本来の輝きと用途を取り戻す。研磨された石の一部は国に納められ、残りは納めた領地にリターンされることになっている。領主同士で交換しあったり、適正価格での販売・購入が許されたりなど、各所で融通し合いながらありがたく使用させていただいている。なお販売は精霊庁か領主の特権だが、購入は平民でも可能だ。価格は国が定めているのでそれほど高額というわけではないが、かといって安価でもない。裕福な平民でようやく日常的使用ができるという程度で、たとえばうちの領民たちにはあまり馴染みがない代物だ。
火の精霊石は文字通り「火」に関わる用途に使用される。火打石のように擦り合わせると火花が飛び、それが火種となるし、火の中に投げ入れれば火力を増す。そのほか水に入れればお湯になる。うちのお風呂はこれでよく沸かしている。火の精霊石だけはたくさんあるのでかなり贅沢な使い方だ。
水の精霊石は浄化の力を持っている。汚れた水に入れれば飲水可能な真水になるし、傷口にこの精霊石を滑らせると殺菌してくれたり治りが早くなったりする。小さな切り傷程度ならあっという間に治ってしまうほどだ。水を凍らせることもできるので、氷を作ったりアイスクリームを作るときに使ったりしたこともある。ちなみに継母の実家であるお隣のウォーレス領が水の加護を受けている土地なので、毎年ウォーレス領と円満に物々交換している。
土の精霊石は土壌改良に役立ち、土に混ぜて耕すことで作物の育ちが良くなる。そのほか、土やレンガ、モルタルの中に一緒に練り込むと強度が増すので建築現場では重宝される。そのほか、なぜか陶器やガラス、鋳物や打物などの金属加工時にもお役立ちで、こちらも一緒に練り込むことで強度が増すので、職人たちにも人気だ。我が家が拠り所とさせていただいているお隣アッシュバーン領では土の精霊石が産出されるので、こちらも交換し合いながらのお付き合いだ。
風の精霊石は文字通り風にまつわるものだが、用途が幅広くて少し特殊だ。まずは文字通り、風を増幅する。以前、私がカイルハート殿下の誕生日プレゼントとして送った星見という道具。ハムレット商会の双子の妹・キャロルが開発したもので、前世でいうところの簡易なプラネタリウムだったのだけど、あれを回転させるときの増幅剤として風の精霊石を使用していた。始めだけ人力でくるっと回してやると、その後は風の精霊石の力で、精霊石が消耗するか取り出すかするまで回り続けてくれる。ちなみにあの商品、貴族を中心に大ヒットしたそうな。この力を利用して風車を回して小麦を挽くのに使うのが割と一般的。そのほか軍事利用も可能なため、4種ある精霊石の中でこれだけは管理が厳重だ。
ものすごく便利な魔法の道具みたいな精霊石だけど、どれも「生活をちょっと便利にする」といったものだ。石そのものが火や水や土や風を生み出すわけではなく、何かと合わせて使用しつつ、その力を増強させるのが特徴。なお、使用した精霊石は摩耗してやがては消える。水に入れた精霊石はお湯になったら消えているし、土に埋めた精霊石の効能期限はせいぜいが1クール程度だ。そしてこの精霊石、なんと王国から一歩でも外に持ち出せば、効果を失い、ただの石ころになる。故に輸出品にはなり得ない。
繰り返しになるけれど、精霊石は何かと組み合わせて使用するのが特徴。もっと詳しく言えば、石ころの形のまま何かに入れたり混ぜたり掛け合わせたりして使うもの。これ、平民でも知っている一般常識。私もこの世界で暮らし始めてはや数年なので覚えてるヨ!
……なぜこんなに長々と精霊石の話を蒸し返したかというと、今回の一連の出来事に、この精霊石が大きく関わっていたからなんですよ。
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