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本編第二章

家出娘の突撃です2

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小説「恋月夜」についてですが、過去投稿で「月のしずく」としていたシーンがあります。「恋月夜」に統一させていただきます。作者もこのネタがここまで大きくなるとは全然思ってなかったもので……筆の進むまま、その場の思いつきで書いていることの弊害ですね。
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 シュミット先生が来る前に事情を確認すべく、応接室から出てきたロイと話をした。事務所のマネージャーでもあるチャーリーさんと従兄弟のスノウも耳をそばだてている。

「お嬢様、お忙しいところ呼び出してすみません」
「いいのよ、新店舗の方はマリウムに預けてきたから。それより、訪ねてきたのはエリザベス・リンドさんで間違いないのね?」
「はい。侍女殿も一緒です。その、2人で今朝方、家を出てきたと」
「今朝のこと? ということはまだ家出はご実家にはバレてない?」
「そのようです。ただし、ご実家のお部屋に置き手紙を残してきたとか。それがご家族の目に触れれば、一気に発覚してしまいますね」

 うわぁ、それって時限爆弾と一緒だ。私はますます天を仰いだ。

「一刻も早くご自宅にお帰りいただいて、手紙を回収しないとまずいわね」
「そうお伝えしたのですが、その、かなり興奮されているようで、お話を聞いていただける状態にありません」
「興奮? 嘆いたり怖がったりしているのではなく?」
「えぇ。“月の光は、愛する2人を引き裂く障壁すらも美しく照らすもの。そこに希望が煌めく限り、私たち2人を結ぶこの月光の糸が切れることはありません”と、声高らかにおっしゃっておられました」
「……待って、その言い回し、なんか聞き覚えがあるわ」
「おや、お嬢様も“恋月夜”の読者でいらっしゃる?」

 またしても恋月夜。人気作家シャティ・クロウさん(=本名:ガイ・オコーナーさん)、あなたの功罪がこんなところにまで波及していますよ。

 そんなことより。

「むしろロイが知ってる方が驚きだわ。しかも完コピ」
「妻が愛する物を知ることも夫の勤めですので」

 ロイの妻でメイドのサリーの愛読書がまさしく恋月夜だった。サリーと前夫との娘であるケイティがまずハマって、それを母親に紹介した流れだ。……まぁ、冷徹感情なしロボットだったロイに「愛する」なんて言葉を使わせるに至ったサリーの存在の大きさってすごいんですけどね。改めてサリーに感謝を寄せるとともに、私は話を戻した。

「で、肝心の家出の原因だけど」
「シュミット先生から事前に聞いていた通りですね。彼女が望まないお見合いをセッティングされてしまい、それが嫌で逃げ出してきたそうです」
「確か、彼女の父親は貧乏医師のシュミット先生が気に入らなくて、初めは反対していたけど、最終的に折れて、シュミット先生が医学の世界で名を挙げれば結婚を許可してくれるって話に落ち着いていたのよね」
「ええ。ですが最近、彼女の父親が怪我で引退して、実質長兄がリンド馬車を運営しているそうです。その長兄がなかなかの野心家で、妹を商売の利につながる家に嫁がせたいのだとか」

 エリザベスさんは現況を手紙でシュミット先生に伝えていた。それを読んだシュミット先生が激しく落ち込み、かつ暴走しかけたのはつい最近の話だ。

「具体的なお見合いの日取りが決まってしまって、それでいても立ってもいられず飛び出してきたとのことですが……」

 ロイが聴取した内容を共有してくれていた、その最中のことだった。

「エリザベス! ここにいるんですか!」
「シュミット先生!」

 ロイの話を遮るかのように事務所に転がり込んできたのは、渦中のシュミット先生その人。丸いメガネが鼻からずり落ちそうになっている。冬の初めとはいえそこそこ寒い王都で、コートも羽織らず着古した薄手の上着だけのところを見ると、慌てて飛び出してきたようだ。

「ゲイリー? その声はゲイリーね!」

 呼応するかのように、奥の応接室から若い女性の声が返ってきた。ばん!と勢いよく扉が開かれる。

「エリザベス!!」
「ゲイリー!!」

 止める間もなく若い恋人たちはひしと抱き合い、声を振るわせた。

「ゲイリー、どうか私をここから連れ出してください! 月の光が導くその先に、きっと誰にも邪魔されぬ、私たちの安寧の地があるはずです!」
「あぁ、エリザベス! 君が望むなら、私は水面に浮かべた小舟の船頭となり、月の光を辿りましょう……! たとえそれが、2度と戻らぬ旅路となろうとも!」
「ゲイリー!!」
「エリザベス!!」

 若い恋人たちの感傷的な逢瀬を見せつけられた私たちが思ったことはーー。

「「「シュミット先生、おまえもか」」」

 こうなったらもう覆面作家シャティ・クロウ女史(と思われているが成人男性)にも責任とってもらいたいぞと、思わず溢れたツッコミがてら、もう何度目になるのかわからない空を仰ぐことになった。




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