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本編第二章
滞在を満喫します
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リカルド様との商談を現実化すべく、ほかにも詰めなければならないことがたくさんあった。マリウムはサボテンに関する知識をもっと得たいとマリアさんの元に通うことになり、彼女の助けの元、トゥキルスの美容に関する情報収集を始めた。いろいろ規格外で時折暴走するのが玉に瑕だけど、化粧品技術者としてのマリウムの技量や情熱はピカイチだ。リカルド様の姉であるマリアさんは一歩引いたたおやかな女性に見えがちだが、接しているうちに締めるところは締める堅実タイプだとわかった。リカルドさんがある意味破天荒で深く考えない性質だから、彼とマリウムの組み合わせはまあまあ恐ろしいのだけど、マリアさんのような常識人になら彼を預けられると判断した私は、マリウムと別行動をとることにした。
リカルド様はリカルド様で、今回のチャレンジを実現すべく、各方面に働きかけを始めてくれた。私は……というとお留守番だ。正直ビジネスに関して、前世アラサーの私にはある程度の知識と経験がある。この世界でもじゃがいもの食用化からポテト料理店の運営までいろいろこなしてきた自負はあるが、9歳の子どもの意見がまかり通ったのはセレスティア王国の貴族だったから、というのと、周囲の大人たちの理解が良かったからだとわかっている。右も左もわからないこのトゥキルスという国では、いくら王族の一員であるリカルド様が敬意を払ってくれているとはいえ、ただの子どもだ。私がビジネスの交渉の場にしゃしゃり出るのが無茶な話だと弁えているから、この国の中のことはリカルド様に任せることにした。この商談が波に乗り、細かな契約ごとが必要になったら、父の力を借りることにしようと思う。
というわけで身体の空いた私。2日ほどかけて今一度王都を見学したり、トゥキルスに出店しているポテト料理の店の視察を行ったりした。トゥキルスにしかない香辛料などを入手し、王都の事務所で働いているケイティへのお土産にする。かつて母親のサリーと一緒に、アッシュバーン領でポテト料理の普及に努めた娘のケイティは、今では部下も数名従えるキャリアウーマンに成長した。今はチェーン店のメニュー開発を手がけるほか、王国内の店舗を管理する仕事を担ってくれている。170センチ近いスレンダーな長身を、動きやすい女性用のスーツに包んで働く彼女からは、以前のような内気な性格は見受けられない。かといってでしゃばりすぎるわけでもなく、颯爽と振る舞う姿は輝いて見える。私や父が王都を空けても安心していられるのは彼女の管理能力のおかげだ。つくづくいい人材をスカウトできたなと思う。ダスティン領で執事のロイと再婚し、1歳の娘の育児に追われるメイドのサリーも鼻高々だろう。
ちなみに香辛料やトゥキルス独特の料理を参考にするのにギルフォードが大変役に立った。食欲脳筋魔神は健在で、慣れない香辛料ごときで彼の胃が潰れるはずもなく、「うまい」か「普通」か一言ですべての料理を判別する(「まずい」という言葉は彼の辞書にはない)。彼の「うまい」だけを拾って香辛料を買い付け、レシピを入手した。もう売れる匂いしかしない。
そんなふうに仕事をこなしつつ、あっという間に過ぎたトゥキルスの滞在。明日にはセレスティアへ出発するという日、かねてから願い出ていた許可が私たちの元にもたらされた。
それは私が、というより伯爵老が強く希望していたこと。トゥキルス国軍の見学の許可だった。
リカルド様はリカルド様で、今回のチャレンジを実現すべく、各方面に働きかけを始めてくれた。私は……というとお留守番だ。正直ビジネスに関して、前世アラサーの私にはある程度の知識と経験がある。この世界でもじゃがいもの食用化からポテト料理店の運営までいろいろこなしてきた自負はあるが、9歳の子どもの意見がまかり通ったのはセレスティア王国の貴族だったから、というのと、周囲の大人たちの理解が良かったからだとわかっている。右も左もわからないこのトゥキルスという国では、いくら王族の一員であるリカルド様が敬意を払ってくれているとはいえ、ただの子どもだ。私がビジネスの交渉の場にしゃしゃり出るのが無茶な話だと弁えているから、この国の中のことはリカルド様に任せることにした。この商談が波に乗り、細かな契約ごとが必要になったら、父の力を借りることにしようと思う。
というわけで身体の空いた私。2日ほどかけて今一度王都を見学したり、トゥキルスに出店しているポテト料理の店の視察を行ったりした。トゥキルスにしかない香辛料などを入手し、王都の事務所で働いているケイティへのお土産にする。かつて母親のサリーと一緒に、アッシュバーン領でポテト料理の普及に努めた娘のケイティは、今では部下も数名従えるキャリアウーマンに成長した。今はチェーン店のメニュー開発を手がけるほか、王国内の店舗を管理する仕事を担ってくれている。170センチ近いスレンダーな長身を、動きやすい女性用のスーツに包んで働く彼女からは、以前のような内気な性格は見受けられない。かといってでしゃばりすぎるわけでもなく、颯爽と振る舞う姿は輝いて見える。私や父が王都を空けても安心していられるのは彼女の管理能力のおかげだ。つくづくいい人材をスカウトできたなと思う。ダスティン領で執事のロイと再婚し、1歳の娘の育児に追われるメイドのサリーも鼻高々だろう。
ちなみに香辛料やトゥキルス独特の料理を参考にするのにギルフォードが大変役に立った。食欲脳筋魔神は健在で、慣れない香辛料ごときで彼の胃が潰れるはずもなく、「うまい」か「普通」か一言ですべての料理を判別する(「まずい」という言葉は彼の辞書にはない)。彼の「うまい」だけを拾って香辛料を買い付け、レシピを入手した。もう売れる匂いしかしない。
そんなふうに仕事をこなしつつ、あっという間に過ぎたトゥキルスの滞在。明日にはセレスティアへ出発するという日、かねてから願い出ていた許可が私たちの元にもたらされた。
それは私が、というより伯爵老が強く希望していたこと。トゥキルス国軍の見学の許可だった。
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