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本編第一章

新しいダスティン家を紹介します2

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「それで、リンダは今日も卵を回収できなかったのね?」

 くつくつと笑いながら継母が私の頭についた麦わらをとってくれた。横ではクレバー夫人が申し訳なさそうに項垂れている。

「リンダはメイドとして雇ったわけではないから、鶏小屋に入る必要はないと思うのだけど」
「私もそう言ったのですが、なぜか……変にやる気というか」

 鶏小屋から逃げ帰った私たち。リンダには卵を預け、そのままキッチンでマリサと朝の準備に取り掛かってもらった。最近料理担当が増えたので、継母は朝と昼はキッチンに出ず、お茶の準備やおやつ作りといった作業のみにとどめている。その分裁縫に精を出すようになり、見事なキルトやレース編みに打ち込んでいた。出来上がったものは王都孤児院のバザー用に寄付するそうだ。

「あの子は生まれつき頑固なところがあって……。亡くなった主人に似たんです。本当に申し訳ありません」
「気にしないでください、クレバー夫人。それにリンダが来てくれて助かってるの。ひとりで朝の仕事をするより楽しいし」
「えぇ本当に。若いお嬢さんたちが一気に増えてくれて、屋敷もずいぶん華やかになったってバーナードとも話していたところよ。ルシアンがお嫁にいってから、通いのメイドのミリーもひとりで大変だったけれど、今ではずいぶん楽になったって言ってたもの」
「クレバー夫人一家をお招きしたのも、サリーとケイティ親娘をおもいきって屋敷に雇い入れたのも正解でしたね」

 継母の話に私も相槌を打つ。そう、この春、我が家は新たに使用人を雇った。ルシアンのお料理教室の手伝いに行ってくれていたサリーとケイティ親娘である。

 ルシアンの料理教室は3月末で閉鎖となり、4月からは食堂としてのスタートを切っている。お店を切り盛りするのはルシアンと、彼女の夫であるダニエルさんのお母さんだ。そして、足の怪我が治って炭鉱の現場に復帰したダニエルさんだったが、鉱山の仕事を減らして食堂を手伝うことになった。怪我がつきものの危険な職場より、実家の家業を手伝う方がいいと判断した結果だ。いずれ食堂が軌道に乗れば鉱山からは手を引き、夜もお酒を出す形で運営したいと思っているそうだ。炭鉱の街で独身男性も多く、良心的な経営のお店は間違いなく儲かるだろう。

 サリーとケイティ親娘はもともと3月末までの契約で出張してもらっていた。4月以降はうちの領に帰ってくることになっていたが、もともと女手しかない家。実りのよくない畑を細々と耕していた生活にまた戻るのもと思ったらしい。炭鉱の街で新しい仕事を探そうかとも言っていたので、それならうちでメイドとして働かないかと声をかけたのだ。仕事はルシアンの代わりとなる下級メイドだが、2人は畑仕事よりは慣れているからと引き受けてくれた。毎日7時過ぎには自宅から親娘揃って出勤してくれている。

 彼女たちはマリサと同じレベルでポテト料理に精通しているから、今後もしまたうちのキッチンに新たな研修員を迎えることになっても手伝ってもらえるだろう。それに娘のケイティはレシピ考案の才能があるから、今後展開を予定しているフランチャイズ方式の出店にも知恵を貸してくれそうだ。

 というわけで、4月からの我が家は両親と私に加え、研修員2人、使用人6人の大所帯となった。それもこれも、騎士団からの謝礼と、この冬の居候計画からの節約術のおかげで、予算に余裕ができたおかげである。じゃがいも様様だ。

 もちろん、これだけ大所帯を構えたからには責任もしっかりとらなくてはいけない。以前のような貧乏(いや、今も貧乏だけどさ)に逆戻りしないよう、今後はしっかり「稼ぐ」ことを考えていこうと、父やロイとも話しているところだ。

 フランチャイズ方式についてロイに話すと「面白いアイデアですね……悪くありません」と、王立学院経営学専攻首席からのお墨付きももらえた。王都孤児院に併設したお店を旗艦店にし、そこで新規店舗経営希望者を募って教育する。彼らが自領に戻って出店し、我が家は毎月の上納金を徴収させてもらい、その返礼として季節ごとの新メニューや経営のノウハウを伝授する、というやり方だ。

「面白いアイデアですが、上納金はどうやって回収するのですか? 直接受け取ることはできませんし、送金してもらうにしても、信頼できるルートを持たなくてはなりません。その構築には手間も時間もお金もかかります」
「それは、借りることにしたの」
「借りる? どこから」
「ハムレット商会よ」

 私はロイに、ハムレット商会の双子たちの交わした契約についても伝えた。ハムレット商会は王国全土にまたがる商人ネットワークを既に構築している。商会の商品を扱うのは、彼らの眼鏡にかなった信頼おける者たちばかりだ。そして彼らの中には行商という形で王国中を行き来している者たちもいる。上納金の回収をハムレット商会の人間に肩代わりしてもらい、行商のネットワークを通じて運んでもらうのだ。見返りとして、我が家は彼らにポテト料理のノウハウを伝授し、さらに私は商品アドバイザーとして、彼らの開発する商品やシステムに助言することになった。

 王都ではたくさんの出会いがあったけれど、彼らと知り合えたのは本当に大きかった。彼らとの契約は主に信頼の上に成り立っている。ライトネルは「俺たちはあんたに賭けることにした」と言い、協力体制を持った上で、マクスウェル宰相夫人のご実家の情報を教えてくれた。だから私も生涯をかけて、彼らの身になることを返していかねばならない。

 そんな話をすると「いいご友人をもたれましたね」と、冷徹眼鏡執事にお褒めの言葉をいただいた。






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