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本編第一章
王都を後にします5
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その話を披露すると、エヴァンジェリンもエリオットも目を見開いて驚いていた。
「なんといいますか……すごいですわね」
「あぁ。あの父上とそんなやりとりができるとは……」
「私もやりすぎたかとは思ったのですが……宰相様の懐の広さのおかげです」
うまくいったからよかったものの、今回は侯爵夫人の実家事情からの推察など、かなり当てずっぽうなところもあり、運が良かったとも言える。
「前回、うちの父が“ハイネル家にもぜひポテト料理を教えてほしい”と依頼したときのお返事―――王都で孤児院によるポテト料理店を開店する予定ですーーーというのは、着実に進んでいるお話ですのね」
「はい、ハイネル公爵領の料理人をそのお店に派遣していただければ、ノウハウをきちんとお伝えできますわ」
「それはうちの料理人たちでもいいのだろうか」
「もちろんです。マクスウェル侯爵にも出資をいただいていますから」
おまけに双方の料理人が学びにきて手伝ってくれれば、開店初期の人手として大いに役に立ってくれるから一石三鳥くらいある。新たな出資者も常時募集中で、シンシア様が協力してくださっているから、開店資金もあっという間に集まるだろう。立ち上げに誰かうちの領から参加させなければならないと思うので、その人手をどうするかが取り急ぎの課題だが、それは戻ってから考えることにしている。
エリオットとともにエヴァンジェリンと「また来年会いましょう」と挨拶を交わし、私はハイネル公爵家を後にした。
そんなこんなで王都滞在もあとわずか。明後日にはここを発つ。
もうすぐ夕食という時間帯に、私はアッシュバーン家の居間でくつろいでいた。厨房ではこの家の料理人と、3ヶ月に渡る騎士団寮でのお役目を終えたマリサが立ち働いていることだろう。
そうそう、騎士団寮内ではポテト料理がすっかり定着した。彼らも汗水流す仕事、濃いめの塩味とじゃがいもの相性はばっちりで、今ではすっかり主食扱いだ。当然ながら契約は円満完了。近々我が家にお礼が支払われることになっている。バレーリ団長にもロイド副団長にもそれはそれは感謝された。浮いたお金で手付かずだった地方の砦の修復にかかれると大喜びだ。また、各砦にも料理人が次々と派遣されており、厨房で仲良くなった見習い少年のひとりが、料理人として派遣されていった。自分の故郷なのだそうで、胸を張って王都を旅立っていった。
(ポテト料理が広がるのも、案外あっという間かもなぁ)
そんな感慨深い気持ちで、居間のソファに深くもたれこんでいると、何やら騒がしい足音が近づいてきた。
「アンジェリカ、よかった、いた!」
ノックもなく扉を開けた先にいたのはミシェルだった。
「どうしたの、ミシェル。そんなに慌てて」
「頼む、助けてほしい」
「え、何? 何かあったの?」
「明日、私と一緒に王宮に来てほしいんだ」
「えぇっ!? 王宮なんて……そんなほいほい行けるとこじゃないと思うんだけど」
「本来はほいほい行けないけど、大丈夫、私と一緒ならフリーパスで通れるから」
「え、待って、なんか嫌な予感しかしない」
王宮と一言で行っても広い。私のような下位の貴族が入れる場所ももちろんあるが、中には上位貴族やそこで働いている人間しか入れない場所もある。
ミシェルは毎日王宮に行っているが、それは彼がカイルハート殿下の側付きだからだ。そんな彼が入れる場所といえば王宮のかなり中枢。そう、国王一家が住われる場所だ。
そんな場所に顔パスで入れるミシェル。そしてそんな彼に王宮に誘われている私。これが嫌な構図でなくてなんというのか。
嫌な予感ほどよく当たるのは今生でも同じらしかった。
「……カイルハート殿下が、君に会いたいって」
「絶対NOおおおおおぅぅぅぅっ!!!!」
―――間髪入れず怒鳴り返した私を、どうか誰も責めないでほしい。
「なんといいますか……すごいですわね」
「あぁ。あの父上とそんなやりとりができるとは……」
「私もやりすぎたかとは思ったのですが……宰相様の懐の広さのおかげです」
うまくいったからよかったものの、今回は侯爵夫人の実家事情からの推察など、かなり当てずっぽうなところもあり、運が良かったとも言える。
「前回、うちの父が“ハイネル家にもぜひポテト料理を教えてほしい”と依頼したときのお返事―――王都で孤児院によるポテト料理店を開店する予定ですーーーというのは、着実に進んでいるお話ですのね」
「はい、ハイネル公爵領の料理人をそのお店に派遣していただければ、ノウハウをきちんとお伝えできますわ」
「それはうちの料理人たちでもいいのだろうか」
「もちろんです。マクスウェル侯爵にも出資をいただいていますから」
おまけに双方の料理人が学びにきて手伝ってくれれば、開店初期の人手として大いに役に立ってくれるから一石三鳥くらいある。新たな出資者も常時募集中で、シンシア様が協力してくださっているから、開店資金もあっという間に集まるだろう。立ち上げに誰かうちの領から参加させなければならないと思うので、その人手をどうするかが取り急ぎの課題だが、それは戻ってから考えることにしている。
エリオットとともにエヴァンジェリンと「また来年会いましょう」と挨拶を交わし、私はハイネル公爵家を後にした。
そんなこんなで王都滞在もあとわずか。明後日にはここを発つ。
もうすぐ夕食という時間帯に、私はアッシュバーン家の居間でくつろいでいた。厨房ではこの家の料理人と、3ヶ月に渡る騎士団寮でのお役目を終えたマリサが立ち働いていることだろう。
そうそう、騎士団寮内ではポテト料理がすっかり定着した。彼らも汗水流す仕事、濃いめの塩味とじゃがいもの相性はばっちりで、今ではすっかり主食扱いだ。当然ながら契約は円満完了。近々我が家にお礼が支払われることになっている。バレーリ団長にもロイド副団長にもそれはそれは感謝された。浮いたお金で手付かずだった地方の砦の修復にかかれると大喜びだ。また、各砦にも料理人が次々と派遣されており、厨房で仲良くなった見習い少年のひとりが、料理人として派遣されていった。自分の故郷なのだそうで、胸を張って王都を旅立っていった。
(ポテト料理が広がるのも、案外あっという間かもなぁ)
そんな感慨深い気持ちで、居間のソファに深くもたれこんでいると、何やら騒がしい足音が近づいてきた。
「アンジェリカ、よかった、いた!」
ノックもなく扉を開けた先にいたのはミシェルだった。
「どうしたの、ミシェル。そんなに慌てて」
「頼む、助けてほしい」
「え、何? 何かあったの?」
「明日、私と一緒に王宮に来てほしいんだ」
「えぇっ!? 王宮なんて……そんなほいほい行けるとこじゃないと思うんだけど」
「本来はほいほい行けないけど、大丈夫、私と一緒ならフリーパスで通れるから」
「え、待って、なんか嫌な予感しかしない」
王宮と一言で行っても広い。私のような下位の貴族が入れる場所ももちろんあるが、中には上位貴族やそこで働いている人間しか入れない場所もある。
ミシェルは毎日王宮に行っているが、それは彼がカイルハート殿下の側付きだからだ。そんな彼が入れる場所といえば王宮のかなり中枢。そう、国王一家が住われる場所だ。
そんな場所に顔パスで入れるミシェル。そしてそんな彼に王宮に誘われている私。これが嫌な構図でなくてなんというのか。
嫌な予感ほどよく当たるのは今生でも同じらしかった。
「……カイルハート殿下が、君に会いたいって」
「絶対NOおおおおおぅぅぅぅっ!!!!」
―――間髪入れず怒鳴り返した私を、どうか誰も責めないでほしい。
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