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本編第一章
王都を後にします3
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そうしてーーー。
用意したポトフをゆっくり完食された侯爵夫人のために、マクスウェル家では奥方向けの食事が見直されることになった。私とマリサはその場でいくつかのメニューを伝え、足りない分は後日レシピを提供することで話がついた。
マクスウェル宰相は「リーガル領から料理人を招聘する」とまで言い出したそうだが、それを夫人がやんわり止めたらしい。実家の状況を夫である宰相に知られたくないと思っているのは奥方本人かもしれないと思い、私もそれ以上は口出しすることを控えた。
「その日の夜はビーフシチューをやめて、教えてもらった料理を提供したのだ。すると母上はそれも召し上がってくださった。“懐かしい味がする”とおっしゃていたぞ」
侯爵家を辞した2日後、ハイネル公爵家に再び招かれた私の前で、同じく賓客として迎えられていたエリオットが嬉しそうに告げた。今日はエヴァンジェリン嬢主催の2度目のお茶会。結末を知りたがった彼女のために、私たちが招かれたのだ。
「本当にようございました。侯爵夫人が一刻も早く復調されますことを願っていますわ」
心からほっとしているエヴァンジェリンの様子をみるに、幼馴染とその母親のことを心配していたのだろう。報告を手紙に済ませず、きちんと対面で伝えられてよかったと思った。
「そうそう、アンジェリカ様は宰相様から、今回のお礼に褒美を頂いたのだと聞いておりますわ。今をときめく宰相様からのお礼ですもの、さぞかし素晴らしいものだったのでしょうね」
「はい、厚かましくもおねだりをしてしまいましたわ」
「まぁ、なんですの?」
目を輝かせるエヴァンジェリン嬢を前に、私は怒涛の2日前のその後について語った。
「ダスティン男爵、それに……アンジェリカ嬢。この度は礼を言う。そなたたちのおかげで妻が久々にまともな食事を口にしてくれた」
「とんでもないことでございます。侯爵夫人のお口に合って誠にようございました」
父もほっとしながら礼を返す。その傍らで私も同じように頭を下げた。正直うまくいくかどうかは賭けだった。ダメならポテトクッキーだけ伝授して帰ろう、そう思いながらの挑戦だったけど……事前に情報収集しておいて本当によかったと胸を撫で下ろす。
「この礼をしなければなるまい。そうだな……そなたたちが望むものがあれば言ってほしい。なんでも用意するとは約束できぬが、できる限りの便宜をはかろう」
「そんな、もったいないお言葉です。私どもは侯爵夫人がお元気になられましたら、それだけで十分でございます」
父も私も最初から見返りなど求める気はない。これは純粋に人助けだと思っている。今回はこの人にポテト料理を知ってもらえただけで十分だ。
だが敏腕宰相は引き下がらなかった。
「それではこちらの気がすまぬ。男爵が何もとらないというなら、アンジェリカ嬢、そなたはどうだ? 何か欲しいものはないだろうか」
「私、ですか?」
思わぬ流れが自分にきて、一瞬戸惑う。
「そうだ。そなたが今回のメニューを考案したと聞く。妻の実家に関するリサーチなど、正直私でも考えが及ばなかった。その手腕にぜひとも報いたい」
「アンジェリカ、宰相様がああ言ってくださっている。何か申し上げなさい」
父を見上げると、彼は力強くうなづいてくれた。これは、すべてを私に任せるという合図だ。
お礼をいただく気は本当になかった。しかしこの状況において、私は少し欲ばってみることにした。
用意したポトフをゆっくり完食された侯爵夫人のために、マクスウェル家では奥方向けの食事が見直されることになった。私とマリサはその場でいくつかのメニューを伝え、足りない分は後日レシピを提供することで話がついた。
マクスウェル宰相は「リーガル領から料理人を招聘する」とまで言い出したそうだが、それを夫人がやんわり止めたらしい。実家の状況を夫である宰相に知られたくないと思っているのは奥方本人かもしれないと思い、私もそれ以上は口出しすることを控えた。
「その日の夜はビーフシチューをやめて、教えてもらった料理を提供したのだ。すると母上はそれも召し上がってくださった。“懐かしい味がする”とおっしゃていたぞ」
侯爵家を辞した2日後、ハイネル公爵家に再び招かれた私の前で、同じく賓客として迎えられていたエリオットが嬉しそうに告げた。今日はエヴァンジェリン嬢主催の2度目のお茶会。結末を知りたがった彼女のために、私たちが招かれたのだ。
「本当にようございました。侯爵夫人が一刻も早く復調されますことを願っていますわ」
心からほっとしているエヴァンジェリンの様子をみるに、幼馴染とその母親のことを心配していたのだろう。報告を手紙に済ませず、きちんと対面で伝えられてよかったと思った。
「そうそう、アンジェリカ様は宰相様から、今回のお礼に褒美を頂いたのだと聞いておりますわ。今をときめく宰相様からのお礼ですもの、さぞかし素晴らしいものだったのでしょうね」
「はい、厚かましくもおねだりをしてしまいましたわ」
「まぁ、なんですの?」
目を輝かせるエヴァンジェリン嬢を前に、私は怒涛の2日前のその後について語った。
「ダスティン男爵、それに……アンジェリカ嬢。この度は礼を言う。そなたたちのおかげで妻が久々にまともな食事を口にしてくれた」
「とんでもないことでございます。侯爵夫人のお口に合って誠にようございました」
父もほっとしながら礼を返す。その傍らで私も同じように頭を下げた。正直うまくいくかどうかは賭けだった。ダメならポテトクッキーだけ伝授して帰ろう、そう思いながらの挑戦だったけど……事前に情報収集しておいて本当によかったと胸を撫で下ろす。
「この礼をしなければなるまい。そうだな……そなたたちが望むものがあれば言ってほしい。なんでも用意するとは約束できぬが、できる限りの便宜をはかろう」
「そんな、もったいないお言葉です。私どもは侯爵夫人がお元気になられましたら、それだけで十分でございます」
父も私も最初から見返りなど求める気はない。これは純粋に人助けだと思っている。今回はこの人にポテト料理を知ってもらえただけで十分だ。
だが敏腕宰相は引き下がらなかった。
「それではこちらの気がすまぬ。男爵が何もとらないというなら、アンジェリカ嬢、そなたはどうだ? 何か欲しいものはないだろうか」
「私、ですか?」
思わぬ流れが自分にきて、一瞬戸惑う。
「そうだ。そなたが今回のメニューを考案したと聞く。妻の実家に関するリサーチなど、正直私でも考えが及ばなかった。その手腕にぜひとも報いたい」
「アンジェリカ、宰相様がああ言ってくださっている。何か申し上げなさい」
父を見上げると、彼は力強くうなづいてくれた。これは、すべてを私に任せるという合図だ。
お礼をいただく気は本当になかった。しかしこの状況において、私は少し欲ばってみることにした。
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