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本編第一章

プレゼンのお時間です1

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 アッシュバーン邸に戻った私は夕食もそこそこに部屋にこもり、今後の計画を練った。思いついたアイデアを箇条書きにして、そこから本当に使えそうなものをピックアップ、そしてそれを実行するための必要事項など、なるべく詳細に書き込んでいく。そうした中で、自分には絶対的に足りない知識も出てきた。

 たとえば予算、たとえば人員。たとえば必要なルート。この世界の知識は一応あるが、それをどうやって組み立てればいいのか、見当がつかない項目も多い。そしてこれはマクスウェル宰相に突っ込まれた部分でもある。またしてもやり手宰相様から突き詰められた爪の甘さが露呈して挫けそうになるが、それでも顔をあげて、とある計画を練り続けた。わからないところはわからないままで置いておこう。そして詳しい人に聞けばいいのだ。

 両親、シンシア様、ハムレット家の双子たち。私の周りには味方がたくさんいて、私に足りないものを補ってくれる。

 そうして丸1日かけて練った計画書を持ち、私はその人にお声がけした。

「ご提案申し上げたいことがあるんです。孤児院のことで……お話を聞いていただけないでしょうか、シンシア様」

 私が空いた時間を机にかじりついて作業するのに当てていたことを知っていたのか、シンシア様は目をぱちくりさせた後「あぁ」と納得の声をあげた。

「あなたなりに、何か考えてくれたのね」
「はい。使える計画かどうかはわかりませんが……」
「わかったわ。では、せっかくだから、みんなで聞かせてもらいましょうか」

 そうしてシンシア様の呼びかけで屋敷の応接室に集まったのは、両親、パトリシア様、ギルフォード。ちょうどミシェルが帰宅したタイミングで彼も加わり、6人の前で私はプレゼンをすることになった。

「皆様、本日は私のためにお時間をとっていただきましてありがとうございます」

 プレゼンは初めてではない。過去に伯爵老や両親、ハムレット家の双子、そしてバレーリ団長と、思えば何人もの人の前でいろんな計画を披露してきたものだ。

 そして今回のテーマは、私がこの数日で学んだ、新しいものについてだった。

「今回発表させていただくのは、王都孤児院の今後の運営に関する提言です」
「王都孤児院って、先日おまえがシンシア様に連れていってもらったところかい?」
「はい、そうです、おとうさま」

 私はそこで見聞きしたことをまず皆に説明した。王都孤児院の成り立ちや教育方針、子どもたちの置かれた状況、彼らの将来、長年に渡り孤児院が行ってきたことの成果について。

「孤児院の教育システムは素晴らしいものです。手に職を持つ子どもたちは、孤児院を出た後も自活の道を得られることになり、生きていくのに困りません。これによりたとえば犯罪などに走る子どもの率も下がることになります。実際、王都孤児院出身の子どもたちの犯罪率はかなり低いという明確な結果も出ているようです」

 このあたりはシンシア様の受け売りだ。一般的な知識はあっても孤児院活動には縁遠かった両親などは、なるほどと感心しながら聞いてくれている。

「ですが、一方で、この教育システムには残念なポイントもあります」

 私はここで、ルルやシリウスの話をした。ぜんそく持ちで体力仕事がさせられないルルは、苦手な針仕事の修練が進まず癇癪をおこしていること、音楽の才能があるシリウスは、孤児であるがためにその才を埋もれさせるよりほかない状況にあること。ピアノの話をしたとき、継母が軽く息を飲むのがわかった。

「つまり、孤児院で斡旋できる仕事には限りがあり、その仕事がむいていない子どもたちにとって、それは苦痛でしかない現状があるのです。それでも彼らは、それが規則だから、それ以外に生きる道がないから、とその問題を受け入れるよりほかありません」

 職員たちは、なるべく子どもたちの気が合う仕事を斡旋しようと頑張ってくれている。ただしどうしても使用人や職人系の仕事が多く、偏ってしまっている。両親が揃っている普通の家の子どもであれば得られる職業の選択肢を、孤児だからという理由で得られないのは、なんとももどかしい。

「ですから私は考えました。孤児院の子どもたちが職業選択をもっと幅広く行えるように、彼らがもし他の才能に秀でているのなら、その可能性を得られるように。シリウスのような特別な才能を持った子が、その才能を伸ばせる教育を受けられるようにするために……」

 もちろん、誰だって好きな仕事に就けるというわけではない。誰もが女優になりたいといって歌劇場の舞台に立てるなら、こんな簡単なことはないだろう。夢と現実は違う。それでも、現実を少しでも希望に沿うものにできるなら、違う未来が開けるかもしれない。

「これらのことを実行するために、私はいくつかのプランを立てました。一つ目は里親制度です」
「「「里親???」」」

 耳慣れた言葉に、全員がぽかんとしながら首を傾げていた。




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