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本編第一章

新しい商売のアイデア大募集です6

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 ライトネルから新しい構想を貰った後も、私たちは話し合いを続けていた。ライトネルの提案してくれたフランチャイズ方式を採用するのはいいとして、それじゃあどうすれば加盟店を増やせるのかという次なる壁についても検討しなければならなかった。

「まぁ、今のままじゃ無理だろうなぁ」
「知名度がなさすぎますものね」

 そうなのだ。ポテト料理が食されているのは現状ダスティン領とアッシュバーン領のみ。加盟してもらうためにはポテト料理自体の知名度を上げていかなければならない。今できるとすればアッシュバーン領のどこかの街に営業をかけてみることなのだが……いかんせん闇雲すぎる。

「ルシアンのお店はいろんな偶然が重なって開けたものなの。同じ方法が他の街で展開できるかというと、少し難しいのよね」

 私が唸るとミシェルも「そうだろうね」と相槌を打った。

「もしアンジェリカたちが別の街でも同じように料理教室を開きたいと言ったら、父は検討してくれると思う。ただ、その場合も今回みたいにダスティン領から誰か出向してくれることが条件になるかな」

 そうなのだ。昨年の秋にうちの領でポテト料理を学んでくれたアッシュバーン家の料理人たちは、今、領内に点在する騎士寮や砦に出向してポテト料理を作っているのだそうだ。まずは騎士たちに、というのがアッシュバーン伯爵の目標で、彼らにあまねく広がれば平民たちにも伝授してくれることになるかもしれないが、それもまた先の長い話だ。

「なんとか王都で店が出せたらな。王都は貴族や商人など、国中の人が集まってくるから、誰かが興味を持ってくれたら一気に伝播するんだけどな」
「でも王都で店を開くのはとても大変なことなんでしょう?」

 私は王都に出てくる道すがら継母から聞いた話を思い出した。いろいろな権利の問題で、王都で新しい商売を興すのは難しいと、継母が言っていたはずだ。

「それはそうだが、今ある店が新しく運営を始めるか、ポテト料理屋に鞍替えするのは比較的簡単なんだよ」
「あぁ、そう言えば継母もそんなことを言ってたわ」
「ですが、ある意味未知の食材を使った料理に手を上げるような勇気のある者がいるとは思えませんわ。それに実際のところ、じゃがいもは家畜のエサであるという認識を払拭するのも大変だと思います」

 自領で披露したときも、炭鉱の街で披露したときも、皆最初は尻込みしていた。そのことを思い出し、キャロルたちの言葉は尤もだと感じる。

「……まぁ、俺たちももうちょっと考えてみるよ」
「そうですわ。それに、もし騎士団での採用が決まれば、少なくとも王国中の騎士領には広がります。そこから各地でポテト料理が根付くのは必須と思いますから、アンジェリカ様が望む“王国中にポテト料理を広めたい”という目的は、将来的には叶うと思いますわ」
「そうだよ。まぁ時間はかかるかもしれないけどね。騎士寮に広がるのに数年、そこから地元に伝播するのにさらに数年……」

 ミシェルが指折り始めたのを横目で見ながら「そんな悠長なことは言ってられないんだけど……」と喉元まで出かかったのをぐっと抑え込んだ。

 私が焦る理由、それはミシェルが死ぬかもしれないこと。年が明けたのでミシェルは今年の春で10歳になる。彼の運命の日まで、あと2年ちょっとしかない計算だ。

(間に合うのかな……)

 ここにきて急に不安が襲ってきた。あと2年。そんな短い時間で私に何ができるというのだろう。マクスウェル宰相様にもフラれ、アッシュバーン領での幸先のいい展開はあったものの、今や足踏み状態。

(ただ、アッシュバーン領内に広がればトゥキルスとの国境近くにも広がることにはなるのよね)

 領内の北の砦にはアッシュバーン伯爵の弟君がおり、そこにもポテト料理が伝授されつつあるそうだから、そこから広がってくれてもいい。そのためには国境を行き来する誰か……たとえば商人たちの手を借りられたらいいのかもしれない。

 だがそのためにはまず、商人たちが喰いつくようなレベルまでこの話を膨らませなくてはいけない。儲からないものにはそっぽを向かれてしまうと、今し方習ったところだ。

(今はとにかくできることを探すしかない)

 ゆっくりだけと自分のあゆみが間違っているとは思えなかった。なぜなら自分の周りには次々と味方が増えている。

 だったら私にできることは、その状況に感謝しつつ、歩みを止めないことだ。

「みんなありがとう、これからもよろしくね」

 彼らに礼を述べつつ、決して見失ってはいないゴールの先目掛けて、とにかく顔をあげていこうと思った。





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