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本編第一章
【NEW!】犯人探しが終わりました6
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*2020.05.16の改稿前から読まれていた方へ。「アナザーストーリー(ルビィ視点)」は別小説として移動させました。
*本編はここから再スタートです。この内容は、「アナザーストーリー(ルビィ視点)」(=ルビィの独白)の要約のようになっており、内容がかぶります。
________________________
「ルビィには5歳下の妹がいたの。名前はセーラ。ルビィとは見た目はあまり似ていなくて、私と同じ、栗色のふんわりとした髪をした、愛らしい人だった。目を見張る美人というほどではないけれど、とても優しくて、穏やかで、私も子どもの頃、よく可愛がってもらっていたわ」
ルビィはもともと継母とケビンの家庭教師として、継母の実家であるウォーレス家に雇われたそうだ。継母が6歳のときのことだ。継母の父は芸術院のピアノ講師をしており、一家はその頃、領地のウォーレス領ではなく王都で暮らしていた。継母の父は領主ではなかったため、独立して生計を立てていた。
王立学院を優秀な成績で卒業したルビィだったが、就職活動が困難を極め、結果的に同族である継母の父が手を差し伸べることになったらしい。ルビィは以前話にも少し聞いていたが、ウォーレス子爵家のかなり遠縁にあたる存在らしかった。傍流とはいっても、継母のように主家との血筋が容易に辿れるほどの近い距離ではなく、何代も遡ってかろうじて繋がるくらいの遠い位置だ。当然爵位や領地とも縁がない生活を送っていた。
「ルビィのお父様は、私は会ったことがないのだけど、投資の仕事に熱中されていたそうなの。だけどいつもうまくいくとは限らなくて……ルビィたちは子どもの頃から落ち着いた生活を送れなかったそうよ。お父様の羽振りがいいときは豪勢な暮らしをしていたけど、ひとたび投資に失敗すると一家揃って夜逃げする、そうやって親戚の家を転々とすることも少なくなかったらしいわ。そのうちお母様はその暮らしに我慢ができなくて、ルビィとセーラを置いて家を出ていってしまったの。ルビィは苦労してなんとか王立学院には入学できたけど、卒業間際にお父様が投資に失敗して行方不明になってしまって。それでルビィは身元保証人のサインが貰えずに、どこにも就職ができなくて……結果的にルビィの境遇を知っている私の父が、住み込みの家庭教師として彼女を雇うことになったの」
王立学院を卒業した貴族の多くは、22、3歳頃までには結婚する。だが主家やそれにつながる血筋ではない、比較的身分が低い人たちは男性女性問わず就職することも多い。就職先は男性であれば王立騎士団や王宮の役人、女性であれば女官や学院の事務職などが一般的だ。
だが、それだけ国の中枢の機関に入るためには、きちんとした身元の保証が必要になる。たいてい親か一族の当主が引き受けてくれるものだが、その父が多額の借金を作って行方不明となったことで、彼女はまともな就職先を得ることができなかったのだろう。それを聞きつけた継母の父が、彼女に手を差し伸べた。
「私たち一家はルビィに来てもらって大正解だったと思っているわ。ルビィは卒業してからすぐうちで働きはじめたのだけど、妹のセーラはまだ王立学院に在籍していたの。学院は寮費がかかるから、ルビィはその面倒も見ていたみたい。王立学院はすぐ近くだったから、その縁でセーラも週末の外出時にうちに来てくれることが多くて、私たちとよく夕食をともにしていたわ。私が11歳のとき、学院を卒業したセーラが田舎に嫁ぐことが決まって、記念に刺繍入りのハンカチをプレゼントしたの。セーラはとても喜んでくれたわ」
セーラが卒業と同時に嫁いだ先は、田舎で農場を手広く運営している平民の一家だった。その頃事業が盛り返していた父親がもってきた縁談だったらしい。平民とはいえどその財を大きく、地元では領主に次ぐ名士として名を馳せるほどの家だった。
子どもの頃や学院に入学してからもお金に困る生活を送ることがしばしばあったセーラは、金持ちに嫁げば、これ以上姉に迷惑をかけることもない、と笑ったそうだ。たまたまお相手の男性が素敵な人だったこともあり、見合いをしたその日にセーラは恋におちた。幸せいっぱいといった笑顔の妹の様子を見て、ルビィも納得したらしい。
その後しばらくは平穏な暮らしが続いた。家庭教師として働いてくれるルビィは継母にとってとても頼りになるお姉さんで、継母は彼女のことが大好きだった。自身が王立学院に入学する歳になったときも、ルビィと離れるのが寂しかったという。そんな娘の意向も汲んで、継母の両親はルビィを上級メイドとして雇い続けることにした。継母は週末の外泊のたびに家に戻っては、変わらずルビィとの交流を持ち続けていた。
「だけど、ルビィにとっての平穏な暮らしは長くは続かなかった。嫁いで幸せに暮らしていたはずのセーラが突然、亡くなったの。死因は……自殺だったそうよ」
その不穏な死因を聞いた私たちは、その場で息を飲んだ。
「セーラは、子どもができない身体だったそうなの。それが嫁いでから数年後に発覚して。離縁を求められたそうなんだけど、ご主人を愛していた彼女はそれに応じることができなくて。わかってからもしばらくは婚家で暮らしていたそうなんだけど、そのうちご主人が愛人を作って、その間に子どもが生まれて……それを苦にした自殺だったと聞いているわ」
継母の昔話は、よく似た別の話を思い出させた。嫁ぎながらも子どもに恵まれず、夫は愛人を作り子を成したーーー。それはまさしく、このダスティン家でごく最近起こった出来事でもあった。
そのとき私は、なぜルビィがあれほどまで私の実母と私を目の敵にするのか、察した。同時に今回の事件をなぜ彼女が引き起こすことになったのか、その真相についても。
ルビィは、継母に亡くなった妹を重ねていたのだろう。幸せに嫁いで、夫に愛されていたにもかかわらず、子どもができない理由で虐げられ、挙句余所に子どもをもうけられてしまった妹。もちろん父は継母のことを蔑ろになどしていないし、離縁を求めてもいない。小さな差異はあれど、かつて自分が経験したストーリーが再び発動したようで、ルビィにとっては許せない事実となったのだ。
思いもよらぬ彼女の過去を知らされた私たちは言葉を失っていた。
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*ルビィの過去は別小説「アナザーストーリー・ルビィの独白」に詳しいです。
*本編はここから再スタートです。この内容は、「アナザーストーリー(ルビィ視点)」(=ルビィの独白)の要約のようになっており、内容がかぶります。
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「ルビィには5歳下の妹がいたの。名前はセーラ。ルビィとは見た目はあまり似ていなくて、私と同じ、栗色のふんわりとした髪をした、愛らしい人だった。目を見張る美人というほどではないけれど、とても優しくて、穏やかで、私も子どもの頃、よく可愛がってもらっていたわ」
ルビィはもともと継母とケビンの家庭教師として、継母の実家であるウォーレス家に雇われたそうだ。継母が6歳のときのことだ。継母の父は芸術院のピアノ講師をしており、一家はその頃、領地のウォーレス領ではなく王都で暮らしていた。継母の父は領主ではなかったため、独立して生計を立てていた。
王立学院を優秀な成績で卒業したルビィだったが、就職活動が困難を極め、結果的に同族である継母の父が手を差し伸べることになったらしい。ルビィは以前話にも少し聞いていたが、ウォーレス子爵家のかなり遠縁にあたる存在らしかった。傍流とはいっても、継母のように主家との血筋が容易に辿れるほどの近い距離ではなく、何代も遡ってかろうじて繋がるくらいの遠い位置だ。当然爵位や領地とも縁がない生活を送っていた。
「ルビィのお父様は、私は会ったことがないのだけど、投資の仕事に熱中されていたそうなの。だけどいつもうまくいくとは限らなくて……ルビィたちは子どもの頃から落ち着いた生活を送れなかったそうよ。お父様の羽振りがいいときは豪勢な暮らしをしていたけど、ひとたび投資に失敗すると一家揃って夜逃げする、そうやって親戚の家を転々とすることも少なくなかったらしいわ。そのうちお母様はその暮らしに我慢ができなくて、ルビィとセーラを置いて家を出ていってしまったの。ルビィは苦労してなんとか王立学院には入学できたけど、卒業間際にお父様が投資に失敗して行方不明になってしまって。それでルビィは身元保証人のサインが貰えずに、どこにも就職ができなくて……結果的にルビィの境遇を知っている私の父が、住み込みの家庭教師として彼女を雇うことになったの」
王立学院を卒業した貴族の多くは、22、3歳頃までには結婚する。だが主家やそれにつながる血筋ではない、比較的身分が低い人たちは男性女性問わず就職することも多い。就職先は男性であれば王立騎士団や王宮の役人、女性であれば女官や学院の事務職などが一般的だ。
だが、それだけ国の中枢の機関に入るためには、きちんとした身元の保証が必要になる。たいてい親か一族の当主が引き受けてくれるものだが、その父が多額の借金を作って行方不明となったことで、彼女はまともな就職先を得ることができなかったのだろう。それを聞きつけた継母の父が、彼女に手を差し伸べた。
「私たち一家はルビィに来てもらって大正解だったと思っているわ。ルビィは卒業してからすぐうちで働きはじめたのだけど、妹のセーラはまだ王立学院に在籍していたの。学院は寮費がかかるから、ルビィはその面倒も見ていたみたい。王立学院はすぐ近くだったから、その縁でセーラも週末の外出時にうちに来てくれることが多くて、私たちとよく夕食をともにしていたわ。私が11歳のとき、学院を卒業したセーラが田舎に嫁ぐことが決まって、記念に刺繍入りのハンカチをプレゼントしたの。セーラはとても喜んでくれたわ」
セーラが卒業と同時に嫁いだ先は、田舎で農場を手広く運営している平民の一家だった。その頃事業が盛り返していた父親がもってきた縁談だったらしい。平民とはいえどその財を大きく、地元では領主に次ぐ名士として名を馳せるほどの家だった。
子どもの頃や学院に入学してからもお金に困る生活を送ることがしばしばあったセーラは、金持ちに嫁げば、これ以上姉に迷惑をかけることもない、と笑ったそうだ。たまたまお相手の男性が素敵な人だったこともあり、見合いをしたその日にセーラは恋におちた。幸せいっぱいといった笑顔の妹の様子を見て、ルビィも納得したらしい。
その後しばらくは平穏な暮らしが続いた。家庭教師として働いてくれるルビィは継母にとってとても頼りになるお姉さんで、継母は彼女のことが大好きだった。自身が王立学院に入学する歳になったときも、ルビィと離れるのが寂しかったという。そんな娘の意向も汲んで、継母の両親はルビィを上級メイドとして雇い続けることにした。継母は週末の外泊のたびに家に戻っては、変わらずルビィとの交流を持ち続けていた。
「だけど、ルビィにとっての平穏な暮らしは長くは続かなかった。嫁いで幸せに暮らしていたはずのセーラが突然、亡くなったの。死因は……自殺だったそうよ」
その不穏な死因を聞いた私たちは、その場で息を飲んだ。
「セーラは、子どもができない身体だったそうなの。それが嫁いでから数年後に発覚して。離縁を求められたそうなんだけど、ご主人を愛していた彼女はそれに応じることができなくて。わかってからもしばらくは婚家で暮らしていたそうなんだけど、そのうちご主人が愛人を作って、その間に子どもが生まれて……それを苦にした自殺だったと聞いているわ」
継母の昔話は、よく似た別の話を思い出させた。嫁ぎながらも子どもに恵まれず、夫は愛人を作り子を成したーーー。それはまさしく、このダスティン家でごく最近起こった出来事でもあった。
そのとき私は、なぜルビィがあれほどまで私の実母と私を目の敵にするのか、察した。同時に今回の事件をなぜ彼女が引き起こすことになったのか、その真相についても。
ルビィは、継母に亡くなった妹を重ねていたのだろう。幸せに嫁いで、夫に愛されていたにもかかわらず、子どもができない理由で虐げられ、挙句余所に子どもをもうけられてしまった妹。もちろん父は継母のことを蔑ろになどしていないし、離縁を求めてもいない。小さな差異はあれど、かつて自分が経験したストーリーが再び発動したようで、ルビィにとっては許せない事実となったのだ。
思いもよらぬ彼女の過去を知らされた私たちは言葉を失っていた。
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*ルビィの過去は別小説「アナザーストーリー・ルビィの独白」に詳しいです。
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