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本編第一章
栗の実拾いにやってきました
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赤く色づいた落ち葉を踏みながら、私とスノウは山道を歩いていた。目指す木はもう少し先だ。
「本当においしくなるんだろうな」
「大丈夫よ。もう実験済みだから。じゃがいもやサツマイモみたいに一度にたくさん手に入らないから、こうして小分けに取りにくるしかないの」
言いながらお目当ての木に近づく。そこには見上げるほどの大きな栗の木があった。そして足元にはぽつぽつといがぐりが落ちている。もう秋の終わりなので量は少ない。おそらくこれが今年最後の収穫になるだろう。
「あっ、スノウ、だめよ、怪我しちゃう」
落ちているいがぐりに手を伸ばそうとした彼を制する。そのまま彼の前に出て、私はもう割れて中身が見えている栗のトゲの部分を器用に足で踏みつけた。
「ほら、こうして割れているものだけを選ぶの。手では触れずに、足でいがの部分だけ踏んで、出てきた実をトゲに触らないように慎重にとるといいわ」
私が実践でやってみせるのを興味深そうに彼が見つめている。町育ちの彼にとって、山の中を歩くことも珍しければ、栗の実拾いなどは初めての経験だ。
そう、私とスノウは屋敷を出て、裏山で栗の実を集めていた。フローラは山道を歩くにはまだ小さいため今日はお留守番だ。台所で先週拾ってアク抜きした栗の実を煮るお手伝いをしていることだろう。
栗はこの世界にもあった。ただ、芋類と同じで苦くて食べられない木の実とされていた。裏山でそれを見つけた私は持ち帰って、芋類と同じ方法でアク抜きをしたら思ったとおり、前世と同じ栗が誕生した。ちなみに栗と一緒にほかの木の実も適当に拾って持ち帰り試してみたが、食用に向くものはなかった。アンジェリカが山遊びで拾ってきた栗がたまたま食用に向いていた、ということにしてある。
栗のいいところは硬い殻に覆われていることだ。おかげで芋類と同じ時間煮込んでも形崩れが少ない。そう、前世のようなころんとした食感が楽しめる。
マリサや継母と一緒にいろいろ試した結果、一番は鶏のおなかの詰め物にちょうどいいかも、というものだった。あとは甘露煮だ。領内では栗派とサツマイモ派にわかれており、マリサは栗派、継母はサツマイモ派だ。ちなみに私はやっぱりじゃがいもが一番好きなので争いに加わっていない。
栗は芋類と違って作付けができないから、山からとってきて楽しむのみである。季節限定の料理というのもまたいいものだ。
宰相様からの手紙を受け取ってから早1ヶ月。もう11月だ。これから本格的な冬がやってくる。
実りの秋とはいえど、我が領の農作物は今年も不作だった。とはいえ地の聖霊石のおかげでなんとかぎりぎり食べていくだけのものは確保できたらしい。それでもこの冬、例年通り隣のアッシュバーン領の鉱山に出稼ぎに出る者たちが一定数いる。
じゃがいもやサツマイモを流通させたことで食料事情は多少改善できたが、十分ではない。というのも、もともと家畜用にしか作っていなかったので、もともとの量が十分ではなかったのだ。来年はその他の野菜の面積を減らして、じゃがいもに充てるよう、父が領主の立場を使っておふれを出した。他の野菜より手間がかからない上に食料になることを知った領民たちは概ね賛同してくれている。
(カメの歩みかもしれないけど、少しずつ進んではいる)
ルシアンのお店も変わらずの人気ぶりだ。そして最近、新たなサービスを始めたばかりだった。お料理教室で作った余り物を、夕方にお惣菜として販売するようになったのだ。
きっかけはお店に通ってきている若い生徒だった。彼女には婚約者がいて、彼が教室終わりに彼女を迎えにきて、そのままデートに行くことがよくあったのだという。ところがある日、情報が行き違い、彼女が帰ってしまったあとに彼が迎えにきてしまった。空振りした彼をかわいそうに思ったサリーが、余り物を包んで彼にもたせてやった。そのおいしさに感動してポテト料理のファンになった彼が、翌日店を訪れ「この料理を売ってもらえませんか?」と頼んできたそうだ。
話を聞いたルシアンたちは皆で相談した。幸いお料理教室は順調で、毎日一定数の生徒が集まってくれるから、お料理も余りがちだ。余った分はまかないとして皆で食べているが、さすがに毎日だと飽きてくる。それよりは販売した方がお金も稼げていいのではという結論に至った。
ルシアンからこの件を相談された私は二つ返事で快諾した。今、彼女たちのお給料はアッシュバーン家から出ている。そして彼女たちは料理教室を無償で提供している。つまりこれはアッシュバーン家が領民に対して行なっている、いわばボランティアみたいなものだ。そのため現在、生徒やその他の人たちと金銭的なやりとりはない。だがもし、ここで料理を売ってお金を稼ぐことができれば未来が広がる。このお料理教室は半年の契約だが、その後も店を買い取って、食堂などにして運営することもできるかもしれない。
私は手紙の返事に、儲けはルシアンの采配に任せるので、担保してもよし、臨時収入としてサリーたちに配当するのもよし、と好きなようにしてほしいと伝えた。また今までにない金銭を取り扱うことになるので、防犯面にはくれぐれも注意するよう、強くアドバイスした。
ところがルシアンから早々に帰ってきた返事には、儲けはダスティン男爵家のものとして納めさせてほしいとしたためられていた。サリーたちやダニエルさんとも相談した結果、満場一致でそうなったのだ、と。
これには私も驚いて、どうすべきか父に相談した。
「本当においしくなるんだろうな」
「大丈夫よ。もう実験済みだから。じゃがいもやサツマイモみたいに一度にたくさん手に入らないから、こうして小分けに取りにくるしかないの」
言いながらお目当ての木に近づく。そこには見上げるほどの大きな栗の木があった。そして足元にはぽつぽつといがぐりが落ちている。もう秋の終わりなので量は少ない。おそらくこれが今年最後の収穫になるだろう。
「あっ、スノウ、だめよ、怪我しちゃう」
落ちているいがぐりに手を伸ばそうとした彼を制する。そのまま彼の前に出て、私はもう割れて中身が見えている栗のトゲの部分を器用に足で踏みつけた。
「ほら、こうして割れているものだけを選ぶの。手では触れずに、足でいがの部分だけ踏んで、出てきた実をトゲに触らないように慎重にとるといいわ」
私が実践でやってみせるのを興味深そうに彼が見つめている。町育ちの彼にとって、山の中を歩くことも珍しければ、栗の実拾いなどは初めての経験だ。
そう、私とスノウは屋敷を出て、裏山で栗の実を集めていた。フローラは山道を歩くにはまだ小さいため今日はお留守番だ。台所で先週拾ってアク抜きした栗の実を煮るお手伝いをしていることだろう。
栗はこの世界にもあった。ただ、芋類と同じで苦くて食べられない木の実とされていた。裏山でそれを見つけた私は持ち帰って、芋類と同じ方法でアク抜きをしたら思ったとおり、前世と同じ栗が誕生した。ちなみに栗と一緒にほかの木の実も適当に拾って持ち帰り試してみたが、食用に向くものはなかった。アンジェリカが山遊びで拾ってきた栗がたまたま食用に向いていた、ということにしてある。
栗のいいところは硬い殻に覆われていることだ。おかげで芋類と同じ時間煮込んでも形崩れが少ない。そう、前世のようなころんとした食感が楽しめる。
マリサや継母と一緒にいろいろ試した結果、一番は鶏のおなかの詰め物にちょうどいいかも、というものだった。あとは甘露煮だ。領内では栗派とサツマイモ派にわかれており、マリサは栗派、継母はサツマイモ派だ。ちなみに私はやっぱりじゃがいもが一番好きなので争いに加わっていない。
栗は芋類と違って作付けができないから、山からとってきて楽しむのみである。季節限定の料理というのもまたいいものだ。
宰相様からの手紙を受け取ってから早1ヶ月。もう11月だ。これから本格的な冬がやってくる。
実りの秋とはいえど、我が領の農作物は今年も不作だった。とはいえ地の聖霊石のおかげでなんとかぎりぎり食べていくだけのものは確保できたらしい。それでもこの冬、例年通り隣のアッシュバーン領の鉱山に出稼ぎに出る者たちが一定数いる。
じゃがいもやサツマイモを流通させたことで食料事情は多少改善できたが、十分ではない。というのも、もともと家畜用にしか作っていなかったので、もともとの量が十分ではなかったのだ。来年はその他の野菜の面積を減らして、じゃがいもに充てるよう、父が領主の立場を使っておふれを出した。他の野菜より手間がかからない上に食料になることを知った領民たちは概ね賛同してくれている。
(カメの歩みかもしれないけど、少しずつ進んではいる)
ルシアンのお店も変わらずの人気ぶりだ。そして最近、新たなサービスを始めたばかりだった。お料理教室で作った余り物を、夕方にお惣菜として販売するようになったのだ。
きっかけはお店に通ってきている若い生徒だった。彼女には婚約者がいて、彼が教室終わりに彼女を迎えにきて、そのままデートに行くことがよくあったのだという。ところがある日、情報が行き違い、彼女が帰ってしまったあとに彼が迎えにきてしまった。空振りした彼をかわいそうに思ったサリーが、余り物を包んで彼にもたせてやった。そのおいしさに感動してポテト料理のファンになった彼が、翌日店を訪れ「この料理を売ってもらえませんか?」と頼んできたそうだ。
話を聞いたルシアンたちは皆で相談した。幸いお料理教室は順調で、毎日一定数の生徒が集まってくれるから、お料理も余りがちだ。余った分はまかないとして皆で食べているが、さすがに毎日だと飽きてくる。それよりは販売した方がお金も稼げていいのではという結論に至った。
ルシアンからこの件を相談された私は二つ返事で快諾した。今、彼女たちのお給料はアッシュバーン家から出ている。そして彼女たちは料理教室を無償で提供している。つまりこれはアッシュバーン家が領民に対して行なっている、いわばボランティアみたいなものだ。そのため現在、生徒やその他の人たちと金銭的なやりとりはない。だがもし、ここで料理を売ってお金を稼ぐことができれば未来が広がる。このお料理教室は半年の契約だが、その後も店を買い取って、食堂などにして運営することもできるかもしれない。
私は手紙の返事に、儲けはルシアンの采配に任せるので、担保してもよし、臨時収入としてサリーたちに配当するのもよし、と好きなようにしてほしいと伝えた。また今までにない金銭を取り扱うことになるので、防犯面にはくれぐれも注意するよう、強くアドバイスした。
ところがルシアンから早々に帰ってきた返事には、儲けはダスティン男爵家のものとして納めさせてほしいとしたためられていた。サリーたちやダニエルさんとも相談した結果、満場一致でそうなったのだ、と。
これには私も驚いて、どうすべきか父に相談した。
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