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本編第一章
ただ開店するだけでは面白くありません4
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結論から言うと、ポテトお料理教室のお披露目は大成功だった。
ルシアンと、町に生まれたときから住むダニエルさんの結婚式ということで、彼らの知り合いがまず多く集まってくれた。中には「じゃがいもなんて」と思う人もいたかもしれないが、呼ばれた披露宴で出された料理を食べないという失礼はできない。恐る恐る口に運んで……そのあとは私が外でポテトボールを披露したときと同じ展開だ。
誰もがポテト料理の魅力にとりつかれた。一番人気はダニエルさんが連日格闘してくれたマッシュポテトだ。鶏の丸焼きとセットで食べるとデミグラスソースがいい具合に染みて、いくらでも食べられるとみんな大喜びだった。
子どもたちに人気だったのはクッキーとアイスクリーム。甘いものは嗜好品だから滅多に食べられない。みんなこぞって取り合うように食べていた。
ご婦人方にはシチューやグラタン、パイなど、日々の食卓に登る品が人気だ。ミートソースにマッシュポテトを混ぜて焼いたパイは、ケイティ発案の新作だ。サリーがコスパの良さをこれでもかと推したおかげで「こんなにおいしい上にこのボリュームで、しかもその値段で作れるの?」とご婦人方の目の色が変わった。続けてお料理教室(もちろん無料)を紹介すると「明日からきます!」とぞくぞく申込みが入ったそうな。
ルシアンたちがナイフを入れたウェディングケーキもポテト入りのスポンジを使っている。こちらはルシアンにバレないようにお店で作るのが困難だったので、継母と私で、ダニエルさんのご両親の家のキッチンを借りて焼いた。そのスポンジを町内のお菓子屋さんに運んでデコレーションしてもらった。感激したルシアンがまた泣いてしまって、ちょっぴりしょっぱいケーキをダニエルさんが食べることになったのだけど。
そんな大賑わいな店内で、私はあれもこれもと手を伸ばしているギルフォードに近づいた。
「ギルフォード、今日はありがとう」
前回のスノウ同様、彼が最初の突破口になってくれた。その後の伯爵老の一言は、まるで父のようだった。私ひとりではきっと成功に導けなかったと思う。ギルフォードはなぜお礼を言われるのかわからないといったふうに、きょとんと首を傾げた。もちろん、その間にパイを口に押し込むことはやめない。
「どれもうまいよな、うちの家でも、アンジェリカのところから戻ってきた料理人がポテト料理を作ってくれるようになったんだ。母上なんて“じゃがいもがおいしすぎて太ってしまう”と嘆いてたぞ。うまいもの食って太るなら全然問題ないと思うけどな」
「いや、問題あるでしょ」
アッシュバーン家でもポテト料理が浸透しつつあるようで嬉しい。
「来年の春は、じゃがいもの畑を増やそうって父上が言ってたな。砦や騎士寮があるところでは、じゃがいもの作付けを義務化するよう、新しい条例を作ってるらしいぞ」
「本当? すごいわ」
さすがはアッシュバーン家。使えるとわかったら即座に手配する、質実剛健のお家柄そのものだ。そして、子どもとはいえその流れを把握しているギルフォードもさすがは伯爵家令息だ。ただの脳筋食欲魔神じゃなかった(言い方)、ちょっと見直したぞ。
この流れでいけばアッシュバーン領で広まるのも早いかもしれない。まずは騎士たちに、同時進行で庶民たちにも。私には伯爵のような力はないけれど、私にしかできないことがある。
盛り上がる店内を見て、ここからがスタートだと、決意を新たにした。
このポテトお料理教室が後に発展し、王国全土に広がるフランチャイズ式レストランの1号店となることを、このとき誰も知らない。
ルシアンと、町に生まれたときから住むダニエルさんの結婚式ということで、彼らの知り合いがまず多く集まってくれた。中には「じゃがいもなんて」と思う人もいたかもしれないが、呼ばれた披露宴で出された料理を食べないという失礼はできない。恐る恐る口に運んで……そのあとは私が外でポテトボールを披露したときと同じ展開だ。
誰もがポテト料理の魅力にとりつかれた。一番人気はダニエルさんが連日格闘してくれたマッシュポテトだ。鶏の丸焼きとセットで食べるとデミグラスソースがいい具合に染みて、いくらでも食べられるとみんな大喜びだった。
子どもたちに人気だったのはクッキーとアイスクリーム。甘いものは嗜好品だから滅多に食べられない。みんなこぞって取り合うように食べていた。
ご婦人方にはシチューやグラタン、パイなど、日々の食卓に登る品が人気だ。ミートソースにマッシュポテトを混ぜて焼いたパイは、ケイティ発案の新作だ。サリーがコスパの良さをこれでもかと推したおかげで「こんなにおいしい上にこのボリュームで、しかもその値段で作れるの?」とご婦人方の目の色が変わった。続けてお料理教室(もちろん無料)を紹介すると「明日からきます!」とぞくぞく申込みが入ったそうな。
ルシアンたちがナイフを入れたウェディングケーキもポテト入りのスポンジを使っている。こちらはルシアンにバレないようにお店で作るのが困難だったので、継母と私で、ダニエルさんのご両親の家のキッチンを借りて焼いた。そのスポンジを町内のお菓子屋さんに運んでデコレーションしてもらった。感激したルシアンがまた泣いてしまって、ちょっぴりしょっぱいケーキをダニエルさんが食べることになったのだけど。
そんな大賑わいな店内で、私はあれもこれもと手を伸ばしているギルフォードに近づいた。
「ギルフォード、今日はありがとう」
前回のスノウ同様、彼が最初の突破口になってくれた。その後の伯爵老の一言は、まるで父のようだった。私ひとりではきっと成功に導けなかったと思う。ギルフォードはなぜお礼を言われるのかわからないといったふうに、きょとんと首を傾げた。もちろん、その間にパイを口に押し込むことはやめない。
「どれもうまいよな、うちの家でも、アンジェリカのところから戻ってきた料理人がポテト料理を作ってくれるようになったんだ。母上なんて“じゃがいもがおいしすぎて太ってしまう”と嘆いてたぞ。うまいもの食って太るなら全然問題ないと思うけどな」
「いや、問題あるでしょ」
アッシュバーン家でもポテト料理が浸透しつつあるようで嬉しい。
「来年の春は、じゃがいもの畑を増やそうって父上が言ってたな。砦や騎士寮があるところでは、じゃがいもの作付けを義務化するよう、新しい条例を作ってるらしいぞ」
「本当? すごいわ」
さすがはアッシュバーン家。使えるとわかったら即座に手配する、質実剛健のお家柄そのものだ。そして、子どもとはいえその流れを把握しているギルフォードもさすがは伯爵家令息だ。ただの脳筋食欲魔神じゃなかった(言い方)、ちょっと見直したぞ。
この流れでいけばアッシュバーン領で広まるのも早いかもしれない。まずは騎士たちに、同時進行で庶民たちにも。私には伯爵のような力はないけれど、私にしかできないことがある。
盛り上がる店内を見て、ここからがスタートだと、決意を新たにした。
このポテトお料理教室が後に発展し、王国全土に広がるフランチャイズ式レストランの1号店となることを、このとき誰も知らない。
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