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本編第一章

ひらめきました

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 図書室に飛び込んだ私は、本棚を隈なく検索した。端から背表紙のタイトルをものすごい速さで確認していく。

 そして、目当ての物に近いと思われるものをいくつかひっぱりだした。

「これじゃない……ここも違う」

 ページをざっと確認しながら、頭の中身を整理していく。

 日本には多くの火山があった。小学生のとき修学旅行で行った先にも、火山と温泉があった。火山と温泉は元来、密接な関係にある。その旅行先で見た火山の火口からは噴煙が上っていたのを覚えている。「押すなよ!押すなよ!」と男の子たちがふざけあっていたのも懐かしいが、あの火山は「活火山」だった。つまり、今現在活動をしている火山。そのとき学んだ意外な事実についても覚えている。日本一の山、富士山も火山のひとつなのだと。ただし、現在活動を停止している休火山だ。そのほかにも活動を終了した死火山もある。

 ダスティン領の近くには、休火山か死火山があるのかもしれない。両親の記憶にないくらい遠い昔に活動を停止した火山。それなら温泉があることにも説明がつく。

「それに、作物が育ちにくいことも……」

 火山がある土地には火山灰が堆積する。それも、人々の記憶にないくらい大昔のことだとすれば、この領自体が火山灰を主にした土壌の上に成り立っているのかもしれない。

「……これ、もしかして」

 私はある書物の一説に目を留めた。それはセレスティア王国の国史の中の、気象について書かれているパートだった。

 今から150年ほど昔、この地域で大きな地震があったらしい。その際に隣のアッシュバーン領の一部である山から噴煙が上がったと記録されている。噴煙は一週間ほどでおさまり、山自体にほかの異常は認められなかったということだ。

(間違いない、あの山は火山だ)

 高台から見渡した山々の一部なのか全てなのかは定かでないが、あれらは火山の可能性が高い。休火山か死火山かはわからないが、とにかくその恩恵で温泉が湧いているのだろう。もしかすると反対のアッシュバーン領の方にも湧く可能性はあるのかもしれない。ただ、反対側は地形的に絶壁に近く、作物を育てるような状況でなく、鉱山もないため、人もほとんど住んでいない。仮に温泉が湧いたとしても実用性は低いだろう。

 ということは、我が領で温泉が独占できる可能性がある。一時的に計画を保留にしているとはいえ、まだ温泉パラダイス構想(どんどん名前が変わっていくな)は白紙に戻したわけではない。

 それよりも実り豊かにするための土壌の問題が先決だ。だがこれも糸口が見つかった。そもそも火山灰が堆積した土地は農作業に向かないのだ。理由は土壌の成分にある。細かい成分の名前などは忘れてしまったが、うっすらとなら覚えている。ざっくりいえば土壌の酸性度が強すぎるのだ。

 私は前世で研修中に訪れた南米の高地の村を思い出した。すぐ近くに活火山を抱くその村は、ここと同じで作物が育ちにくく、産業支援の前に農業支援が必要だった。研修中だったので1ヶ月ほどで村を後にすることになったが、そこで先輩たちがやっていたことは覚えている。酸性度が強い土壌にアルカリ成分を注入することでpHペーハーをあげること、それに酸性度が強めでも育ちやすい作物を推奨することだ。

(酸性度を調整するためには確かアレを混ぜて……)

 記憶を掘り起こして私は大きく頷いた。土に混ぜるアレ、ちゃんとこの世界にもあるじゃない!


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