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本編第一章
現世について整理してみます2
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以上が母と、生まれてから今までの私の物語。
そして今、私は父親であるダスティン男爵と一緒に馬車に揺られている。向かう先はダスティン男爵家だ。私は、父親であるダスティン男爵に正式にひきとられることになった。
通いのメイドのダリアは暇を出され、私はほとんど何も持たず住み慣れた家を離れた。持ち出すものなどほとんどなかったのだ。服も靴もどれもサイズが合わないし、母の身に付けていた宝飾品は手に取る気にもならず、餞別代わりにダリアにあげてしまった。もっともほとんど酒代に消えていたので、残っていたものは二束三文程度の品だ。それでもダリアの退職金くらいにはなるだろう。
言葉少なな私を、男爵は隣の席から心配そうに見ていた。今日から父と呼ばなければいけない。
でも、本当にそれが許されるのだろうか。
今から行く家には父と相愛の妻がいる。彼女は、突然迎え入れられる私をどう思うだろう。
馬車の揺れに身をまかせながら私は必死に妹との会話を思い出そうとしていた。ひきとられた後のアンジェリカはどうなるんだっけ? 男爵家でうまくやっていけるの? 本妻との関係は? 疑問はたくさん浮かべど感じの答えのよすがはどこにもない。
それもそうだ。乙女ゲームとやらが始まるのはヒロインが13歳になったとき。セレスティア王立学院に入学したその日からのことがメインで、彼女の過去についてはエピソードのひとつとしてさらっと付け加えられているのみ。妹の話の中にも彼女の過去についてはほとんど出てこなかった。それよりもゲームの内容と攻略対象について微に入り細を穿つように教えてくれた。もっとも私は話半分にしか聞いていなかったけれど。
確か、王太子とか宰相の息子とか騎士見習いとか裕福な商家の息子とかが出てくるのよね。そしてヒロインを邪魔する悪役令嬢がいて、さらには国をゆるがす大事件が起きて……。
そこまで思い出してはっとする。そう、これは乙女ゲームだ。ヒロインを操作して、ゲームの中に出てくるキャラクターとの好感度を上げ、最後にそのヒーローと結ばれる恋愛絵巻。
(今からそれをするの? 私が? ……はい?)
見た目はきらきらゆるふわ女子だけど、中身純日本人の地味目アラサー女が、10代のきらきらしい男の子たちと恋愛? え、今から思春期もっかいやれって? 冗談きつい。
思わず顔をしかめた私をどうか咎めないでほしい。いやどう考えても無理ゲー。ちなみに無理ゲーという言葉も妹から教わったのだっけ。
ここまで思い出して、私はようやく、本当に仕方なく、納得することにした。どうやら現実世界で死んだ私は乙女ゲームの世界に転生したらしい。セレスティア王国という架空の国で、末端貴族の端くれとして。
私はさらにぐるぐる回る頭を突っつき回して、妹が「絶対読んで!」と推薦してきたパステルカラー色の表紙の小説を思い出した。それは『とぅるらび』ではなかったが、ごく普通の日本人が死んでファンタジー世界に転生し人生を謳歌する物語だった。普段専門書しか読まない私には受け入れ難く、かといってかわいい妹を落ち込ませるわけにもいかず、斜め読みだけして当たり障りのない感想を述べた、あの手の本。日本で流行っていると妹が言っていたが……。
神様、あんまりです。なぜ興味のない私がこんな目に!
いっそのこと妹だったら大喜びだったろうに。いやでも妹に死なれるのは困るから、やっぱり私でよかったのか。
「アンジェリカ、あの、大丈夫かい? さっきから、その、顔がおかし……いや、顔色がすぐれないみたいだけど」
隣で伯父、もとい父が心配顔でそわそわしている。元はと言えばこいつが母に手を出したことが原因だと思うと、今まで援助してくれたことはひとまず置いておいて怒りがふつふつと湧いてくる。
(何よ、男ってほんと勝手なんだから! 愛した妻がいるのに適当な女に手を出して、子ども生ませて! 女の人生なんだと思ってんのよ、妻にも母にも私にもあやまれこのすっとこどっこい!!)
ぐっと睨みをきかせてみたが、何せ元の造作がかわいいこの顔でどこまですごめたかはわからない。元の私の純和風顔なら、高校時代「姐さん」とあだ名をつけられ男子から恐れられていたドスのきいた睨みをきかせられただろうに。
不機嫌になった私におろおろする父を無視して、私は不貞寝することにした。
そして今、私は父親であるダスティン男爵と一緒に馬車に揺られている。向かう先はダスティン男爵家だ。私は、父親であるダスティン男爵に正式にひきとられることになった。
通いのメイドのダリアは暇を出され、私はほとんど何も持たず住み慣れた家を離れた。持ち出すものなどほとんどなかったのだ。服も靴もどれもサイズが合わないし、母の身に付けていた宝飾品は手に取る気にもならず、餞別代わりにダリアにあげてしまった。もっともほとんど酒代に消えていたので、残っていたものは二束三文程度の品だ。それでもダリアの退職金くらいにはなるだろう。
言葉少なな私を、男爵は隣の席から心配そうに見ていた。今日から父と呼ばなければいけない。
でも、本当にそれが許されるのだろうか。
今から行く家には父と相愛の妻がいる。彼女は、突然迎え入れられる私をどう思うだろう。
馬車の揺れに身をまかせながら私は必死に妹との会話を思い出そうとしていた。ひきとられた後のアンジェリカはどうなるんだっけ? 男爵家でうまくやっていけるの? 本妻との関係は? 疑問はたくさん浮かべど感じの答えのよすがはどこにもない。
それもそうだ。乙女ゲームとやらが始まるのはヒロインが13歳になったとき。セレスティア王立学院に入学したその日からのことがメインで、彼女の過去についてはエピソードのひとつとしてさらっと付け加えられているのみ。妹の話の中にも彼女の過去についてはほとんど出てこなかった。それよりもゲームの内容と攻略対象について微に入り細を穿つように教えてくれた。もっとも私は話半分にしか聞いていなかったけれど。
確か、王太子とか宰相の息子とか騎士見習いとか裕福な商家の息子とかが出てくるのよね。そしてヒロインを邪魔する悪役令嬢がいて、さらには国をゆるがす大事件が起きて……。
そこまで思い出してはっとする。そう、これは乙女ゲームだ。ヒロインを操作して、ゲームの中に出てくるキャラクターとの好感度を上げ、最後にそのヒーローと結ばれる恋愛絵巻。
(今からそれをするの? 私が? ……はい?)
見た目はきらきらゆるふわ女子だけど、中身純日本人の地味目アラサー女が、10代のきらきらしい男の子たちと恋愛? え、今から思春期もっかいやれって? 冗談きつい。
思わず顔をしかめた私をどうか咎めないでほしい。いやどう考えても無理ゲー。ちなみに無理ゲーという言葉も妹から教わったのだっけ。
ここまで思い出して、私はようやく、本当に仕方なく、納得することにした。どうやら現実世界で死んだ私は乙女ゲームの世界に転生したらしい。セレスティア王国という架空の国で、末端貴族の端くれとして。
私はさらにぐるぐる回る頭を突っつき回して、妹が「絶対読んで!」と推薦してきたパステルカラー色の表紙の小説を思い出した。それは『とぅるらび』ではなかったが、ごく普通の日本人が死んでファンタジー世界に転生し人生を謳歌する物語だった。普段専門書しか読まない私には受け入れ難く、かといってかわいい妹を落ち込ませるわけにもいかず、斜め読みだけして当たり障りのない感想を述べた、あの手の本。日本で流行っていると妹が言っていたが……。
神様、あんまりです。なぜ興味のない私がこんな目に!
いっそのこと妹だったら大喜びだったろうに。いやでも妹に死なれるのは困るから、やっぱり私でよかったのか。
「アンジェリカ、あの、大丈夫かい? さっきから、その、顔がおかし……いや、顔色がすぐれないみたいだけど」
隣で伯父、もとい父が心配顔でそわそわしている。元はと言えばこいつが母に手を出したことが原因だと思うと、今まで援助してくれたことはひとまず置いておいて怒りがふつふつと湧いてくる。
(何よ、男ってほんと勝手なんだから! 愛した妻がいるのに適当な女に手を出して、子ども生ませて! 女の人生なんだと思ってんのよ、妻にも母にも私にもあやまれこのすっとこどっこい!!)
ぐっと睨みをきかせてみたが、何せ元の造作がかわいいこの顔でどこまですごめたかはわからない。元の私の純和風顔なら、高校時代「姐さん」とあだ名をつけられ男子から恐れられていたドスのきいた睨みをきかせられただろうに。
不機嫌になった私におろおろする父を無視して、私は不貞寝することにした。
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