上 下
16 / 99
第2章 幼児期

16 オーバーキル

しおりを挟む
 サムライゴーレム達が足を肩幅に開き、巨大な弓へこれまた1.5メートルはあろうかという巨大な矢をつがえる。その動作は一糸乱れず、良く訓練された軍隊のようだ。遠くからは「ギャッ! ギャッ!」と笑い声が聞こえてくる。
 これが『ゴブリンの笑い声』か。実際には鳴き声なんだそうだが、笑っているように聞こえるため、そう呼ばれるそうだ。
 聞いてるだけですっごい不快感だ。それに加えて、顔も醜悪だという。あんまり近づいて欲しくないな。サムライゴーレムに弓を装備させておいて良かった。

「全員、その場で待機! 鈴音殿の指示を待て!」

 村民へ声を張り上げる龍一郎じいさん。
 村民達は、ゴーレムの10メートル程後で息を詰めるようにして待機している。

「龍一郎、恐らく村民の出番は無いぞ。主がやり過ぎたからな」
「はっはっは。念のためですよ。それに、ここは私たちの村ですから。孫に頼りきりでは申し訳ない」

 龍一郎が俺にウィンクをする。お茶目なじいさんだ。

「……来る! バカ弟子構えろ! 一匹たりとも打ち漏らすな!」
「はいです!」

 森の奥から火の灯りが複数揺らめくのが見え始める。時刻は午後8時をまわっている。恐らくゴブリン達が持つ松明の光だろう。思ったより知能があるようだ。

 ザッ!
 ゴーレム達が一斉に矢を引き絞る。
 エマニエルさんと千春が魔法を唱え始める。
 村民達が緊張で武器を握り直すのが見えた。

 全員がじっと森を見つめる。
 ゴブリンの笑い声がどんどん大きくなる。
 目の前の茂みがガサッと音を立てる。
 サムライゴーレムの弓が目一杯に引き絞られる。

「皆、来るぞ!」

 鈴音が叫ぶと同時にサボテンのように着飾ったゴブリンが5体躍り出る!

 ……サボテン?

 5体のゴブリンはそのまま地面へ倒れる。よく見れば、頭を中心に体中から矢を生やしたまま絶命していた。

「ギャッ! ギャッ!」

 次は20体以上の団体さんだ。先ほどと同じように茂みを飛び越え躍り出る……が、そこまで。機械のように正確なサムライゴーレムの矢に頭を射抜かれて絶命する。
 ゴブリンは学習能力が無いのか、次々と現れては同じ場所でサムライゴーレムの矢の餌食となっていくため、まるで土嚢のようにゴブリンの死体が積み重なっていく。

「す、凄いです! 矢が速すぎて目追えないです! それに加えてあの正確さ! まさか身体強化をゴーレムに? そんな事が可能なんです? あーもう、巧魔氏! やり方を教えて下さいです!」
「バカ弟子が! 油断して詠唱を中断するな! ゴーレムの矢は残り少ないぞ!」

ゴーレムは20本用意してあった矢を速くも使い切っていた。これは今回の反省点だ。例えば、始めに躍り出た5体のゴブリンに84体のゴーレムが一斉射撃をしてしまったが、明らかにオーバーキルである。おかげで予想よりも速く矢を使い切ってしまった。行動プログラムを見直す必要がありそうだ。

「は、はいです師匠!」

 千春が魔法を唱え始める。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。 ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。 ※短いお話です。 ※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。

皇太子の子を妊娠した悪役令嬢は逃げることにした

葉柚
恋愛
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢のレイチェルは幸せいっぱいに暮らしていました。 でも、妊娠を切っ掛けに前世の記憶がよみがえり、悪役令嬢だということに気づいたレイチェルは皇太子の前から逃げ出すことにしました。 本編完結済みです。時々番外編を追加します。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

私を裏切った相手とは関わるつもりはありません

みちこ
ファンタジー
幼なじみに嵌められて処刑された主人公、気が付いたら8年前に戻っていた。 未来を変えるために行動をする 1度裏切った相手とは関わらないように過ごす

【完結】婚約を解消して進路変更を希望いたします

宇水涼麻
ファンタジー
三ヶ月後に卒業を迎える学園の食堂では卒業後の進路についての話題がそここで繰り広げられている。 しかし、一つのテーブルそんなものは関係ないとばかりに四人の生徒が戯れていた。 そこへ美しく気品ある三人の女子生徒が近付いた。 彼女たちの卒業後の進路はどうなるのだろうか? 中世ヨーロッパ風のお話です。 HOTにランクインしました。ありがとうございます! ファンタジーの週間人気部門で1位になりました。みなさまのおかげです! ありがとうございます!

【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。 23歳の公爵家当主ジークヴァルト。 年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。 ただの女友達だと彼は言う。 だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。 彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。 また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。 エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。 覆す事は出来ない。 溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。 そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。 二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。 これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。 エルネスティーネは限界だった。 一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。 初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。 だから愛する男の前で死を選ぶ。 永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。 矛盾した想いを抱え彼女は今――――。 長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。 センシティブな所へ触れるかもしれません。 これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。

処理中です...