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第6章 呉との闘い
90 小さい来訪者
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龍街の広場に戻ると、先に戻っていた千春さんが俺たちに声をかけてきた。
「おーい巧魔氏ー、こっちですー。ここで討伐報酬が貰えますよー」
そこは冒険者が長蛇の列をなしていた。俺と鈴音は千春さんが並んでいたところに入れさせてもらった。
「ありがとうございます千春さん。そっちは大丈夫でしたか?」
「巧魔氏の召還した2体の強力なゴーレムがほとんど片付けてくれましたです」
「赤い方のゴーレムもちゃんと仕事してました?」
赤武者は青武者と違って戦闘を楽しみすぎる癖があるのでかなり心配だ。
「うーん。ちょっと危なっかしい戦い方ではらはらしましたが。赤いゴーレムの片腕がちぎれた時はぞっとしましたです」
え。そんな馬鹿な。赤武者の戦闘能力なら、あのグレータゴーレムを圧倒出来たはずだと踏んだのだが、目測を誤ったか。
「どうやって腕が取れたんですか?」
「しばらくは、グレータウルフと赤武者の戦いは拮抗してたです。グレータウルフが2体で交互に赤武者を攻撃して、赤武者は大剣でそれを弾く。どちらも譲らず両者の実力は拮抗してました。しかししばらくするとグレータウルフの体力に底が見え始め、赤いゴーレムの剣が体を掠め始めたです。そのまま行けば赤いゴーレムが無傷で勝利するように見えましたですが……」
うーん。そうだよな。俺が見たときも、赤武者とグレータウルフ2体は同じぐらいか、やや赤武者が有利に見えた。その条件なら、100回戦っても100回赤武者が勝つ。赤武者の強固な鎧はちょっとやそっとじゃ壊すことが出来ないし、ゴーレムに体力という概念は無い。長期戦なら圧倒的にゴーレムが有利なのだ。
「赤いゴーレムが右腕を差し出しちゃったんです。『かったるい攻撃だなあ。ほら右腕あげるから攻めてきなよ☆』とか言って。右腕を壊されたと同時に大剣で一体撃破。そのまま反動を利用して後ろのゴーレムもざっくりと真っ二つにしてましたです。敵の返り血を雨のように浴びながら『やっぱあたし最強☆』とか叫んでました。……いったいどんな作り方をしたらあんなゴーレムが出来ちゃうですか巧魔氏……。規格外の強さではありますが、性格に難がありすぎだと思うです」
「えっと、実は英霊の箱という契約者の能力で勝手にああいう性格になってしまって。今のあいつは自分の意思を持っているので、ゴーレムという枠に当てはまるかも微妙な存在ですね」
「ああ、もう理解不能です。まあ巧魔氏なら何が出来ても不思議じゃないですが……」
千春さんがあきれ気味にため息をついた。
しかし赤武者にはまいったな。肉を切らせて骨を断つどころか、骨を切らせて骨を切ってるじゃないか。死なない体だからといって無茶苦茶してるな。もし倒されていたら千春さんや冒険者さん達がどうなっていたか。あとできっちり言っておかないと。
「あるじ、次でわしらの番じゃ」
いつの間にか列の先頭あたりまで来ていた。龍選隊の皆さんが報酬を配っている。
「討伐数0か。では銀貨1枚だな。はい、次の者」
「ご苦労様です、龍選隊の皆さん」
「おおお! これは巧魔様ご一行ではないですか!」
龍選隊の1人が大きな声を上げると、周りに居た冒険者達が皆こちらを注目し始めた。……というか、並んでいるときからちらちらと視線は感じていたんだが、龍選隊の声をきっかけに遠慮無く見始めたようだ。いったいなんだんだろう。
「いやあ素晴らしい活躍でした。そちらの魔法使いのお嬢さんも詩詠唱を使いこなす手練れの方でしたし、なにより巧魔氏のゴーレムは規格外の強さでした! この戦いに同席できて真に光栄です!」
「いえ、僕は何も。あれはゴーレム達が頑張っただけでして」
「なにをご謙遜を! そのゴーレムを生み出したのは他でもない巧魔様ではないですか」
「まあ、そうなんですが」
はたから見るとそうなるんだな。俺としては、赤武者と青武者が勝手にやっつけてくれた印象しかない。やっぱり俺自身の手で倒さないと、戦ってる実感が沸かない。戮と戦う時が来る時までにはなんとかしないとな。やることはいっぱいだ。
「それではお二方のプレートを回収します」
俺と千春さんのプレートを手渡す。それを龍選隊が石版のようなものにかざすと、青白い文字が石版に浮かんだ。凄いな。どんな仕組みで作られてるんだろう。これを応用すれば電光掲示板のようなものを作れるかもしれないな。
「ウルフ討伐数58体、グレータウルフ討伐数2体。報奨金はウルフが1体で銀貨1枚、グレータウルフが1体で金貨2枚となりますので、合計で金貨9枚と銀貨8枚となります」
金貨が1枚10万円くらいの価値、銀貨が1万円くらいの価値だから……約100万稼いだことになる。
「えーっと、こんなにもらってしまっていいのでしょうか。皆さんの取り分をうばってしまったみたいで悪いですね」
「何をおっしゃいますか! これは巧魔様の正当な取り分です。それに、今回はグレーターウルフが出現したんですよ! 巧魔様がいらっしゃらなければ報酬どころか皆の命も危ういところでした。本来であればもっと金額を増やしてもいいくらいです。しかし今は……」
龍選隊の人は周りを見渡すと、声を落として俺にささやく。
「巧魔様は当然ご存じかと思いますが、呉との戦争が起こりかねない情勢ですので、国の財政も切り詰めているのですよ。なので、追加報酬が出せないということなのです」
そうか、龍選隊の人達にはその話がいっているんだな。当然か、国を守る警察のような役割をしている人達だ。当然そういった情報は上から落ちてくるんだろう。
「いえ、追加報酬なんてとんでもない。では、こちらはありがたくちょうだいしておきます」
「ええ、どうぞお受け取り下さい」
俺は龍選隊の人からずっしりと重たい金貨袋を受け取った。
「あるじ、その金はどうする気じゃ?」
「そうですね……店での売り上げ以外では初の収入ですし。せっかくですから、このお金は僕のおこずかいにしたいと思います」
今まで守谷商店で稼いでいたお金は、極力村の為に使ってきたが、今回のお金は完全に個人で稼いだものだ。俺のために使わせてもらおう。
「勉強もかねて、魔道具とかを買ってみたいですね」
「魔道具ですか。どんな魔道具が欲しいです?」
「うーん、今僕の課題は防御力なんです。今の僕では、その辺の雑魚モンスターでも一発当たれば死んでしまいます。なので、それを補強する魔道具があれば」
「……そう、それ疑問だったんです。巧魔氏、いつも夕暮れ時に正体不明のモンスターと戦ってましたよね。回復魔法も使えないのに、どう対処していたんです?」
「回復は必要なかったんですよ。……一度も怪我をしたことが無かったので」
「ああ、それで。それなら納得――出来ませんよ! なんで一度も怪我をしてないんです!」
「それは……まあ契約者の特約というやつで……」
真実は、コン先生が《右に2歩避けて下さい》《しゃがんで――すぐ右斜め方向へ跳躍、すぐさま前に3歩》などと脳内ナビゲートしてくれていたので、俺は目をつぶっていても攻撃を食らわなかったのだ。コン先生さまさまである。だが、いつまでもコン先生におんぶにだっこではいられない。コン先生に楽をして頂くためにも自立をしていかなくてはいけないのだ。
「おい、あるじ。ミニゴーレムは龍街にまで配置しているのか?」
「は? しているわけないだろ。なんだよ突然」
「じゃあ、あるじのズボンをくいくいしとるそいつは何だ?」
「へ?」
俺の足元へ視線を移す。
そこには間抜けづらのマスコットキャラ、ミニゴーレムが立っていた。
「おーい巧魔氏ー、こっちですー。ここで討伐報酬が貰えますよー」
そこは冒険者が長蛇の列をなしていた。俺と鈴音は千春さんが並んでいたところに入れさせてもらった。
「ありがとうございます千春さん。そっちは大丈夫でしたか?」
「巧魔氏の召還した2体の強力なゴーレムがほとんど片付けてくれましたです」
「赤い方のゴーレムもちゃんと仕事してました?」
赤武者は青武者と違って戦闘を楽しみすぎる癖があるのでかなり心配だ。
「うーん。ちょっと危なっかしい戦い方ではらはらしましたが。赤いゴーレムの片腕がちぎれた時はぞっとしましたです」
え。そんな馬鹿な。赤武者の戦闘能力なら、あのグレータゴーレムを圧倒出来たはずだと踏んだのだが、目測を誤ったか。
「どうやって腕が取れたんですか?」
「しばらくは、グレータウルフと赤武者の戦いは拮抗してたです。グレータウルフが2体で交互に赤武者を攻撃して、赤武者は大剣でそれを弾く。どちらも譲らず両者の実力は拮抗してました。しかししばらくするとグレータウルフの体力に底が見え始め、赤いゴーレムの剣が体を掠め始めたです。そのまま行けば赤いゴーレムが無傷で勝利するように見えましたですが……」
うーん。そうだよな。俺が見たときも、赤武者とグレータウルフ2体は同じぐらいか、やや赤武者が有利に見えた。その条件なら、100回戦っても100回赤武者が勝つ。赤武者の強固な鎧はちょっとやそっとじゃ壊すことが出来ないし、ゴーレムに体力という概念は無い。長期戦なら圧倒的にゴーレムが有利なのだ。
「赤いゴーレムが右腕を差し出しちゃったんです。『かったるい攻撃だなあ。ほら右腕あげるから攻めてきなよ☆』とか言って。右腕を壊されたと同時に大剣で一体撃破。そのまま反動を利用して後ろのゴーレムもざっくりと真っ二つにしてましたです。敵の返り血を雨のように浴びながら『やっぱあたし最強☆』とか叫んでました。……いったいどんな作り方をしたらあんなゴーレムが出来ちゃうですか巧魔氏……。規格外の強さではありますが、性格に難がありすぎだと思うです」
「えっと、実は英霊の箱という契約者の能力で勝手にああいう性格になってしまって。今のあいつは自分の意思を持っているので、ゴーレムという枠に当てはまるかも微妙な存在ですね」
「ああ、もう理解不能です。まあ巧魔氏なら何が出来ても不思議じゃないですが……」
千春さんがあきれ気味にため息をついた。
しかし赤武者にはまいったな。肉を切らせて骨を断つどころか、骨を切らせて骨を切ってるじゃないか。死なない体だからといって無茶苦茶してるな。もし倒されていたら千春さんや冒険者さん達がどうなっていたか。あとできっちり言っておかないと。
「あるじ、次でわしらの番じゃ」
いつの間にか列の先頭あたりまで来ていた。龍選隊の皆さんが報酬を配っている。
「討伐数0か。では銀貨1枚だな。はい、次の者」
「ご苦労様です、龍選隊の皆さん」
「おおお! これは巧魔様ご一行ではないですか!」
龍選隊の1人が大きな声を上げると、周りに居た冒険者達が皆こちらを注目し始めた。……というか、並んでいるときからちらちらと視線は感じていたんだが、龍選隊の声をきっかけに遠慮無く見始めたようだ。いったいなんだんだろう。
「いやあ素晴らしい活躍でした。そちらの魔法使いのお嬢さんも詩詠唱を使いこなす手練れの方でしたし、なにより巧魔氏のゴーレムは規格外の強さでした! この戦いに同席できて真に光栄です!」
「いえ、僕は何も。あれはゴーレム達が頑張っただけでして」
「なにをご謙遜を! そのゴーレムを生み出したのは他でもない巧魔様ではないですか」
「まあ、そうなんですが」
はたから見るとそうなるんだな。俺としては、赤武者と青武者が勝手にやっつけてくれた印象しかない。やっぱり俺自身の手で倒さないと、戦ってる実感が沸かない。戮と戦う時が来る時までにはなんとかしないとな。やることはいっぱいだ。
「それではお二方のプレートを回収します」
俺と千春さんのプレートを手渡す。それを龍選隊が石版のようなものにかざすと、青白い文字が石版に浮かんだ。凄いな。どんな仕組みで作られてるんだろう。これを応用すれば電光掲示板のようなものを作れるかもしれないな。
「ウルフ討伐数58体、グレータウルフ討伐数2体。報奨金はウルフが1体で銀貨1枚、グレータウルフが1体で金貨2枚となりますので、合計で金貨9枚と銀貨8枚となります」
金貨が1枚10万円くらいの価値、銀貨が1万円くらいの価値だから……約100万稼いだことになる。
「えーっと、こんなにもらってしまっていいのでしょうか。皆さんの取り分をうばってしまったみたいで悪いですね」
「何をおっしゃいますか! これは巧魔様の正当な取り分です。それに、今回はグレーターウルフが出現したんですよ! 巧魔様がいらっしゃらなければ報酬どころか皆の命も危ういところでした。本来であればもっと金額を増やしてもいいくらいです。しかし今は……」
龍選隊の人は周りを見渡すと、声を落として俺にささやく。
「巧魔様は当然ご存じかと思いますが、呉との戦争が起こりかねない情勢ですので、国の財政も切り詰めているのですよ。なので、追加報酬が出せないということなのです」
そうか、龍選隊の人達にはその話がいっているんだな。当然か、国を守る警察のような役割をしている人達だ。当然そういった情報は上から落ちてくるんだろう。
「いえ、追加報酬なんてとんでもない。では、こちらはありがたくちょうだいしておきます」
「ええ、どうぞお受け取り下さい」
俺は龍選隊の人からずっしりと重たい金貨袋を受け取った。
「あるじ、その金はどうする気じゃ?」
「そうですね……店での売り上げ以外では初の収入ですし。せっかくですから、このお金は僕のおこずかいにしたいと思います」
今まで守谷商店で稼いでいたお金は、極力村の為に使ってきたが、今回のお金は完全に個人で稼いだものだ。俺のために使わせてもらおう。
「勉強もかねて、魔道具とかを買ってみたいですね」
「魔道具ですか。どんな魔道具が欲しいです?」
「うーん、今僕の課題は防御力なんです。今の僕では、その辺の雑魚モンスターでも一発当たれば死んでしまいます。なので、それを補強する魔道具があれば」
「……そう、それ疑問だったんです。巧魔氏、いつも夕暮れ時に正体不明のモンスターと戦ってましたよね。回復魔法も使えないのに、どう対処していたんです?」
「回復は必要なかったんですよ。……一度も怪我をしたことが無かったので」
「ああ、それで。それなら納得――出来ませんよ! なんで一度も怪我をしてないんです!」
「それは……まあ契約者の特約というやつで……」
真実は、コン先生が《右に2歩避けて下さい》《しゃがんで――すぐ右斜め方向へ跳躍、すぐさま前に3歩》などと脳内ナビゲートしてくれていたので、俺は目をつぶっていても攻撃を食らわなかったのだ。コン先生さまさまである。だが、いつまでもコン先生におんぶにだっこではいられない。コン先生に楽をして頂くためにも自立をしていかなくてはいけないのだ。
「おい、あるじ。ミニゴーレムは龍街にまで配置しているのか?」
「は? しているわけないだろ。なんだよ突然」
「じゃあ、あるじのズボンをくいくいしとるそいつは何だ?」
「へ?」
俺の足元へ視線を移す。
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