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第二話 新たな出会い、旅立ち

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大森林から街に戻り、屋根伝いに走って大急ぎで屋敷まで戻った所で、リティアさんが見知らぬ女の子と門の前に立っているのに気付いた。

「遅かったので、娘を連れて来ました。私の家に最速で行くなら、ここを素通りするだろうと思いまして」

俺が謝罪すると、リティアさんの傍にいる女の子が一歩前に出た。

茶色く長い髪の毛をポニーテールに結った緩そうな雰囲気を纏う可愛い女の子だった。

ただ、その格好は見た目に似付かわしくなく、パンツ姿のロングブーツでボーイッシュな服装をしている。

「初めまして、フェリルと申します。よろしくお願いします、レイ様」

フェリルは微笑むと、小さくお辞儀をした。

「よろしくお願いします」

釣られて俺も軽くお辞儀をする。

そんな二人の様子を、リティアさんが微笑みながら見ていた。

「挨拶はこれくらいにして。娘を連れて行くかどうかをどうやって決めますか?娘と戦いますか?あっ!でも、仕える者としては主に刃を向けるのも…」

俺は少し腕を組んで考える。

「いや、そうしよう。こちらは攻撃せず、受けるか、避けるだけにする。俺に当てるか、俺が攻撃に転じた場合は、俺の負けということでどうだろう?ちなみに、危ない時はリティアさんが止めてくれればいい」

「それでよろしいかと。フェリルもいいですね?」

フェリルが小さく頷くと、場所を訓練場に移した。

相対して木剣を構えると、リティアさんが良く通る声で「はじめっ!」と言う。

その合図と共に、フェリルが駆けて来て、俺を間合いに捉えた所で木剣を振り下ろした。

俺は切っ先を傾けて剣を受け流し、そのままフェリルの後ろに回り込もうとしたが、木剣を振り上げる形で斬りかかって来た。

地面を蹴って横に飛ぶと、木製のクナイの様な物が飛んで来たのをしゃがんで躱す。

その隙にフェリルが再度距離を詰め、次は上から斜めに木剣を振り下ろす。

それを俺は剣で受け止め、鍔迫り合いになった所で押し返した。

(こちらが攻撃しないとはいえ、思っていたより強いな)

フェリルの纏う雰囲気が、不意に変化した事に気付く。

魔法を禁止していないのだから、どのタイミングで使うかは警戒していた。

(水属性の魔法…。確かに面で攻撃するなら、これが一番だな)

フェリルの魔法に、俺は同じく水魔法で応戦する。

「ウォーターランス!」

「ウォーターウォール!」

フェリルの周りに現れた五つのランスが真っ直ぐこちらに飛んでくるのを、発動した水の壁が飲み込んだ。

水が引くと、目の前にフェリルがいた。

真っ直ぐ突きの構えで突っ込んで来ていたのを、剣で払うとフェリルが屈む。

いつの間にか詠唱していたアイスニードルが、フェリルを通り過ぎて迫って来た。

魔法で相殺するのは間に合わないと判断して、横に跳んで回避を試みる。

フェリルが地面を蹴って俺と同じ様に跳ぶと、横薙ぎに木剣を振る。

木剣で受け止めた時の勢いを利用して、着地の方向を変える。

先に着地したフェリルは、魔法を詠唱していた。

(これだけやれるのなら…)

「ストーンクレイドル!…プリズン!」

フェリルが、土の壁と岩の檻の二重障壁で俺を囲んだ。

頭上は岩で出来た格子のみなので逃げれるのだが、恐らく水系の呪文で責めて来るだろう。

「参った!この場所…、最初の魔法の打合いをした時の場所だろう?誘い込まれた事に今気付いたよ」

足場が悪く、逃げられないと判断した俺は降参の意思を伝えると、土の壁と岩の檻が崩れ、その向こうにいるフェリルが、嬉しそうにこちらを見ていた。

「付いて来て欲しい。良いだろうか?」

そう言うと、フェリルが「はい!」という言葉と共に飛びついてきた。

その姿を見たリティアさんが、終わりを告げる言葉を掛けた。

翌朝…、俺は出発の準備をしていた。

腰に刀を下げ、荷物を入れたカバンを手に取り、傍に置いていたお金の入った袋を服の内ポケットに入れる。

カバンは面倒なので、空間収納魔法の中に入れる事にした。

「エクストラボックス」

魔法を唱えるとカバンがちょうど入るくらいの穴が空中に現れ、その中にカバンを突っ込むと穴が消えた。

(よしっ!行くか!)

ちょっとした期待感を胸に、勢いよく良くドアを開けて部屋を出た。

門の所まで来ると、家族や使用人たちが勢揃いしていた。

みんなとの別れを済ませてリティアさんの家に向かうと、既に準備を済ませていたフェリルが家の前にいた。

昨日とは打って変わって、白を基調としたフリルのついたふわふわした格好だった。

「おはようございます。レイ様」

フェリルが軽くお辞儀をして挨拶する。

「おはよう、ただ、様はやめてくれないかな?君と俺は対等なんだし、堅苦しくない方がいい」

少し渋った様子を見せるが、すぐに納得したのか頷いた。

フェリルの傍には、いつもなら屋敷にいるリティアさんがいた。

「それでは行ってきます。フェリルは必ず守ります」

「行って参ります。お母様」

リティアさんに向かってフェリルが丁寧に一礼すると、リティアさんが微笑んだ。

「どうかご無事で。…それと、フェリルを宜しくお願いします」

リティアさんがこちらに顔を向けると、俺に向かって丁寧に一礼する。

軽く一礼して返すと、フェリルを連れてその場を後にした。

「まずはどこを目指しますか?」

街を抜けてエラル平原に出た所で、少し後ろを歩くフェリルが尋ねてきた。

「当面の目的地は王都だけど、先ずは隣街のベレルへ行こう。父上の領地だし、冒険者ギルドの登録もここでやっておけば後が楽だろうからね。ベレルから先は別の領主が治めているから、情報収集したいし」

父上に言われていたので、目先の目的地を王都にして、その間の街で情報収集を行おうと考えていた。

「ベレルへ向かうなら馬車に乗りますか?」

「急ぎの旅じゃないから、歩いて行こう。この街からベレルまで近いし、魔物も少ないからね」

「そうですか。では、何かあった時に備えておきましょう」

そう言って、フェリルが感知魔法を発動する。

一定の範囲内にいる何かが敵意を持つか判別する魔法だ。

「他にどんな魔法が使える?適性は水と土かな?」

今後を考えると、フェリルが出来る事を知っておきたくて聞いてみた。

「初歩的な無属性魔法は一通り。それと魔法適性は水、土、他に聖属性ですね。武器は基本杖ですが、ダガーも使います。お母様に鍛えられましたので、それなりには戦えますよ」

「三属性に適性があるなんて珍しいね。ひょっとして、フェリルもかなり強いんじゃない?」

「ありがとうございます。ですが、レイを支える為にもっと強くならないと!レイはどうなんです?」

「強くならないと!」の所で、気負うフェリルが少し可愛かった。

「魔法は全属性使えるよ。得物は見ての通りだね」

フェリルの気配が遠ざかったのを感じて足を止めて振り返ると、フェリルが少し離れた所で驚きの余り言葉を失った顔をしていた。

「それ…本当ですか!?本当なら神話に出て来るようなレベルですよ?!」

(まぁ、こうなるよな…)と思いつつ、困った顔をしながらフェリルに告げる。

「誰にも言わないでね?この事を知ってるのは、父上とせんせいだけだから」

「言えませんよ…。言った所で、正気を疑われるだけです」

疲れた顔をしたフェリルが答える。

「なら、いいや。面倒をわざわざ買って出るのもね?ちょっと見せようか?」

「見せていただけるのですか?!」

戯けて言ってみると、フェリルが俺の手を握って身を乗り出してきた。

息がかかる位の位置に顔が来たので、恥ずかしくなって顔を避けて咳払いする。

気付いたフェリルが恥ずかしそうに離れると、「コホン」と1つ咳払いした。

「この辺りに魔物が居るか確認してくれる?出来れば、群れがいいね。後、周りに俺たちしかいない場所で」

「分かりました。…。この辺りには居ないようですね。もう少し先に森があったはずです。そこなら…」

「そう言えば、街に来ていた商人のおじさんが、最近この辺りでワイルドウルフとグレイウルフが出て困るとか言ってたから、ちょうどいいね」

俺たちは森に寄り道する事にした。

「1キロ位先に進めば、魔物がいますね。数は十五程です」

森に入ってしばらく経った所で、フェリルが反応した。

「なら、そいつらで実演しようか。悪いけど、群れの近くまで来たら少し離れてくれる?」

少し開けた場所に出ると、ワイルドウルフとグレイウルフが向かい合って威嚇し合っているのが見えた。

縄張り争いだろうか、こちらに気付くと二種類のウルフがこちらに体を向けて警戒する。

(ワイルドウルフが7、グレイウルフが8か…。先にワイルドウルフを叩くか)

そんなことを考えながら近づくと、ワイルドウルフ2匹がこちらを敵と見做したのか向かってくる。

俺は抜刀しながら駆け、2匹が前方から飛び掛かって来たのを、すれ違い様に右側の1匹を刀で斬り捨てた。

すぐさまもう1匹を目で追い、着地位置を予測して無詠唱のロックブラストを発動する。

もう1匹のワイルドウルフは、岩の槍に腹を貫かれて着地する事なく絶命した。

仲間をやられて、残りのウルフ達が一斉に襲って来たが、知能の低いワイルドウルフは何匹いようが攻撃が単調なので大した事は無かった。

一方で、グレイウルフは群れで、協力しながら獲物を仕留める習性があるので統率力があり、これが中々に厄介だ。

飛びかかってくるワイルドウルフを次から次へと剣で倒し、その隙をつくように襲い掛かるグレイウルフを躱して、ロックブラストで他のグレイウルフを牽制する。

そんな事を繰り返していると、ワイルドウルフが残り2匹になっていた。

刀の使い勝手は充分確認出来たので、此処からは魔法を中心で戦うスタイルに切り替えることにして納刀する。

「エアロバレット!」

空中に現れた数十もの空気の弾丸の大部分をワイルドウルフに向けて放ち、残りを周囲のグレイウルフに向けて放つ。

2匹とも左右に飛んで避けようとしたが、その内の1匹は避けきれずにエアロバレットの餌食になった。

グレイウルフの方も何匹かは命中したらしく数を減らしていた。

エアロバレットを避けたワイルドウルフに無詠唱で発動させたアイシクルランスを放つ。

アイシクルランスも躱したワイルドウルフが飛びかかってきた所で、ライトニングボルトが貫いた。

ワイルドウルフが動かなくなったのを確認すると、グレイウルフの方を見る。

(グレイウルフが残り5匹か…)

俺は身体強化魔法で肉体強化を施すと、再度刀を抜刀する。

「トルニトース!」

直後、周囲の天気が一気に悪くなると、周囲に激しく雷が落ちる。

いくつか落ちた雷の一つが一閃に向かって落ちると、一閃の刀身が雷を纏う。

今度は無詠唱で感知魔法を発動し、敵の数を確認する。

前方に2、右に1…

次の瞬間、右側のグレイウルフに向かって駆けた。

グレイウルフはこちらの動きに反応し切れずに逃げ出す間も無く、雷を帯びた一閃の一太刀で真っ二つになった。

切られたグレイウルフが血を吹くことは無かったが、その代わりに切り口は真っ黒こげになった。

「紫電一閃ってのはどうかな…」

父上の言葉を信じて試験的にやってみたが、思った以上の成果に満足する。

「さて、残り二匹か…。エアロブレイド」

残っているグレイウルフに向かって走り出すと、俺が放った五本の風の刄が一匹を切り裂くと同時に、もう一匹のグレイウルフを刀で斬り伏せた。

刀に付いた血を振り払い、斬り伏せたグレイウルフを一瞥して納刀する。

後ろを振り返って引き返すと、フェリルが笑顔で駆け寄って来ていた。

「凄いです!こうなると私はお守りするつもりで来たのに、役に立てそうにないですね…」

前半は興奮気味だったのに、後半になると元気なく俯いたフェリルの頭をポンポンっとニ回軽くと、俺は諭すように言った。

「そんな事ないよ。一人が持つには過ぎたる力だしね。俺が出来ない事はフェリルにお願いするよ」

言いながら恥ずかしくなった俺は頬掻きながら、視線を宙に彷徨わせる。

「はい!じゃぁ、気にせずお供します!あっ!でも、レイが使う魔法は絞った方が良いですね」

笑顔を取り戻したフェリルを見て安堵する。

「とりあえず、目立つ場所では風と水属性魔法に絞るよ。火は使う場所を選ぶし、雷は目立つし…。回復はフェリルに任せて良さそうだし」

「任せてください!そうなると、わたしは土と聖属性魔法に絞っておきましょう。いざという時は使っちゃうかもしれませんが」

「いいんじゃない?隠すの優先して死んだら、元も子もないし」

「それで…。レイはその二属性はどのレベルまで使えるんですか?」

「ん?風なら使い慣れてるからね。エデンズブレスとかなら使えるよ?」

「特級じゃないですか!さっきの雷魔法といい…絶対ダメですからね!注目を集めますよ?良い意味でも、悪い意味でも」

「分かってるよ…。とりあえず、牙だけ回収して戻ろうか。お金になりそうだし」

「そうですね。少し急ぎましょう」というフェリルの返事を聞いて森を後にした…。
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