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第2章 《蜘蛛の意図決戦》
番外編②『華麗なる委員長の休日』
しおりを挟む「てなわけで────」
「委員長代議、お疲れさまでしたぁっ!」
「──はい乾杯! いやー、みんなお疲れさんやったなあ。ほれミナモ、乾杯」
「ああ、ドヤ先輩すみません。お疲れ様です」
「そないに堅苦しくならんくてもええんに……せや、今日は無礼講やから、なぁ」
「そうそうそうそうですよっ! ドヤに敬語なんて使わんくていいんですよ、ねー、ドヤ!」
「お前は、もっと自重するべきやろがいっ! このトド女! どさくさに紛れてウチのから揚げ取んなや」
「はむはふっ、ミナモぉー。むつかしい顔ばっかしてつまんなくなくなくないんですかぁ」
「無視すんなや、己は」
「──うるさい臭い。何で飲んでないのに酒の臭いにがするんだ、鯔生。やめろ、頬を擦りつけるな、息が臭い」
「ほほほ、トド、アンタ臭いって言われとるやないの。ほほほーっ、ざまぁ」
「……まぁ。わたし、毎日ここで酔っ払いさんに絡まれてますしぃ、お店のお手伝いもしているので仕方のないことかと」
「そっかー☆ ここトドっちの家なんだねー☆」
「そうなんですよー。わたしのおうちは居酒屋さんなんですよー! きよたんはここ来るの初めてなんですね」
「うんっ☆ ぼく三年生で初めて保健委員長になったからー、打ち上げに参加するのも今日が初めてなんだよね☆」
「清田君、覚悟しておけ。この、地獄の打ち上げパーティは、代議のたびに開かれる。さらにドヤ先輩の機嫌で、キャラにそぐわない一発芸をやらされたりするんだ……」
「去年はヤギとミナモが体張ってましたもんねぇ……くくくくっ」
「くっっ、膝からすっぽんが……! て……ぶっ、ふふふふっっ」
「や、くくくくくくっ、やめてくださいよ、ドヤ。す、すっぽん仮面の話は………ふふふ、ふ、腹筋が……」
「す、すっぽん仮面?」
「──その話はやめろ」
「だって……あ、あの、ミナモが、ふっひひひひひっ、くくくくっ」
「も、もうアレはすっぽんぽん仮面に近かったな、くくくっ、誰か動画撮ってへんかった?」
「ありますあります、決めポーズ前からのと必殺技のところなら」
「やめてください、司法に訴えますよ」
「ええよー、そしたらウチはこの一年前のミナモの頑張りを四方にばらまくだけやから」
「──ドヤさん。鼻に指突っ込みますよ」
「お?」
「…………すみません。無礼講と聞いたのでつい、ブレーキが利きませんでした」
「まだまだブレーキちゃんと利いてる方やけどな。てか、ミナモはホンマにめんこいなぁ。あともう一年くらい見守っていきたいもんやけど」
「どう足掻いても。あなたが留年でもしない限り、ドヤ伝説は今年で終わりです」
「せやな……来年はウチも、安楽も他の五年もこの場にはおらへん。他の誰かが、ウチらの後輩がここに座ることになるんやな。ウチらが卒業したあとも、ちゃあんとすっぽん仮面の歴史は、受け継がれてって欲しいもんやわぁ」
「いいえ。あんな変態ヒーローは今年で廃絶します」
「えー見たいなぁ☆ すっぽんぽん仮面☆」
「きよたん、あとで見せてあげますよ! というかドヤたちの卒業パーティでフルスクリーンに映しませんか? え、良くないですかこのわたしの提案」
「フルでフルを映すんか……トドにしてはええ案やなあ」
「フルじゃありません、しっかり穿いていました」
「あんなハイレグで……よう言うわ」
「やめてください。清田に誤解されます。僕は自分の貞淑だけは守りぬきましたからね。丸出しの安楽先輩とは違って」
「あー、一昨年の、忘年会んときの話やな」
「えー、わたし知らないやつじゃないですかー………って一昨年って言ったらミナモもまだ委員長じゃなくないですか?」
「僕はそのときの動画を見せてもらったんだ、風紀委員の先輩に」
「風紀乱しまくりのあの動画をなぁ」
「放送事故レベルでスベっている姿を見て、僕はこうなりたくないなぁと」
「──“放送事故”とはなんだ、放送事故とは! 僕だってがんばったんだぞ! ミナモー!」
「あ」
「安楽先輩だーっ☆ こんばんは☆」
「なんや、本編では初セリフですら途中でぶった切られたアンラクやないの、来てたんか」
「来てたよっ! 委員長になってから、打ち上げ出席率百パーセントの僕を忘れるなよ、ドヤ」
「ええ~、居っても居らんくても変わらん安楽やないのー」
「やめてくれ、あんなに臼居くんについて熱弁したのに皆と言ってること被って全カットされた僕を笑わないで!」
「安楽先輩、こんばんは」
「よくもまあ平然としてられるもんだよ、ミナモ。先輩は悲しいぞ、まさか僕の悪口で盛り上がってるなんて」
「そないに落ち込まんで、なぁ? 安楽、いつものことやないの」
「いつものことなのかよっ」
「あーせやせや、安楽来たったらなんか冷めたなぁ──ちょっと拷問してもええか?」
「何っだお前、何なんだお前! 親友に拷問とか何だお前っ! 全っ然えくないよ!」
「あーちゃうちゃう、尋問やった尋問」
「まぁそっちでもヤダけど……何? ドヤ」
「なんで昨日の代議、遅れてきたん? 木先、頭下げてたで」
「え、木先が!? それは悪いことをしたなぁ。ごめん、でも外せない用事があってさぁ」
「なんでいっちいち語尾に“ぁ”付けてくんねん。それで爽やかになれる思たら大間違いやぞ? うっわ腹立つわぁ………」
「お前の方こそ、いちいち僕の言葉に難癖を付けてくるのをやめたらどうだ?」
「そないなこと言うてへんで、早う話し」
「……昨日は、整美委員会初の活動日だったんだ。ほら、正当な理由だろ?」
「代議に活動日被せるとか、アホちゃうん、おのれ?」
「どう足掻いても僕が悪いんだな、ドヤ」
「あったり前やんか。代議の日程なら前々から知らせてある。ちゃぁんと重ならずにやっといたったらええだけの話や。アンタ何年委員長やってるん?」
「三年だよ」
「ウチは五年や」
「知ってるよドヤ購買委員会委員長! この、伝説のドヤっ!」
「……というかさ、……あの、く、隈がすごい子もさ、整美委員……だよね……」
「──わあっ!? や、ヤギ君じゃないか……! 登場の仕方がちょっとぬるって、び、びっくりした」
「ラク家に……ドヤ家……それに、えぇーっと」
「……長谷川」
「あぁ、ごめんハセ家……ツノがあるのが、ハセ家……」
「ツノ……」
「あああ、てか、あー……あれやな、きよたんとトド女は、どないしたん?」
「あぁ、それならさっき、二階で動画見てくるって……」
「───っ! まさか」
「まぁまぁ、ミナモは座っとき。アンタまで行ったら寂しいやろ」
「ああー、もしかして去年のすっぽ」
「──安楽先輩、枝豆でも食べてください」
「痛い痛い、ミナモ、鼻に入ってるよ! しかも枝豆の皮だよね!? い、普通に痛いっ」
「で、でさぁ……ラク家。あ、あの、………代議のときの……」
「ごめんヤギ君! 僕、代議途中参加でさ」
「ん、と………あの、インタビュー撮影頼んできた、隈の……濃い男の子」
「隈の濃い!? そんなんヤギちゃんやないの」
「ぅ、ううう……ドヤ家ぇぇ……」
「わー悪かった悪かった! ほんの軽い冗談やないの、泣かない泣かない」
「えー、氷雨君も整美だったのか……」
「なんや安楽。アンタ委員長のくせして知らんかったんか」
「知らんかったよ。だってあの子あれでしょ? 四月の終わりに突然編入してきて、変な部活の部長やってるあの」
「確か、ミナモの妹と同じクラスの男子やったろ」
「そうですね。思い出すだけで胃に穴が開きそうです」
「仲ええんやったよな」
「氷雨レイと僕が? ……心外ですね、帰ってもいいですか?」
「ちょっ、待ちや! てか、あの兄ちゃんには感謝してるんよ」
「か、感謝……?」
「──お前の作戦が上手く行ったから、だろ? ドヤ」
「え」
「え、っと……。ど、ドヤ家、そ、……それってどういう」
「よう分かったなあ、安楽。アンタにしては冴えた指摘や。サヤエンドウくれたる」
「あのな……しかもこれは枝豆だ!」
「待ってくださいドヤ先輩。……ということは、ウスイ君を巻き込んだあの“手紙”騒動、依頼は全て、寝上シオンではなく」
「ドヤ家が仕組んだこと………だった、の?」
「ま、ウチがやったっていうより、おねーちゃんの作戦やけどな」
「お、おねーちゃん?」
「お、安楽、こっちは分からんようやな。苦しゅうない苦しゅうない。分からんくてもしょーのないこっちゃ」
「で、おねーちゃんって誰なんだよ」
「簡単なこっちゃ。寝上シオンの“おねーちゃん”、そいつが今回の黒幕ってわけやな」
「てことは……」
「図書委員会委員長、《眠り姫》の寝上カノンが」
「──依頼を出したということですか」
「まさかミナモまで知らんとは思ってへんかったわ。ま、残りの共犯者は、ウチと木先やけどな」
「で、そのカノンちゃんに話聞きたいんだけど……カノンちゃんは?」
「あー、トド女のベッドで寝てるんとちゃう? 匍匐前進してたらいつか会えるで」
「地べたにしか生息しない生き物なのかよ、カノンちゃんは」
「何々? さっきから。アンラクの“ちゃん”付けほどキッショいもんは無いわ。あー鳥肌立ってしもた」
「え何、超理不尽なんだけど」
「まあ、それは置いといてー、やな」
「ああ、そうしてくれ。そしてそのまま無かったことにしよう、ドヤ」
「今回は、カノンに代わってウチが種明かしさせてもらうで」
「ドヤさん、よろしくお願いします」
「まず、カノンが妹から相談を受けるってとこから始まったんや」
「え……妹家は、なよ家についてわざわざ相談してきたの?」
「せやで、あの子、呪いのこともあって色んなことが不安定になっとったんや。周りの何もかもが心配に思えてきたんやろなあ。んで、そのこと全部聞いたカノンは、そん中から一つ選んだんや」
「悩みごとを、選んだってことか」
「じゃあ選ばれたのが、“臼居くんがモテない”って悩みごとだったんですね」
「そ。それが、ウチらが一番解決に協力しやすい悩みやったからやな」
「あくまで協力、って形をとったのかよ。で、大事なところは不思議部にやらせて?」
「そやそや。で、あとは不思議部の存在をほのめかして羽ペンも転がして、さらにシオンに手紙を書かせる。でも、本人の言うとおり、恥ずかしくなって一回シオンはそれを捨てたんや」
「だけど、お前たちがそれを回収して、不思議部に渡したんだろ」
「んー、だってせっかく書いた手紙やん。出さんのも勿体ないかなー、て思てな」
「“書かせた”んだろうが」
「てへっ」
「よく、あなたたちのシナリオ通りに事が進みましたね」
「んふー。まぁな、協力してくれた子ぉらのおかげやな」
「不思議部に居たのかよ、そんな子」
「その子の誘導のおかげで、何もかもが上手く行ったんや」
「かわいそうだな、ドヤに使われちゃって」
「人聞きの悪いこと言わんといてくれる? 解決したんはあの子らやし、ウチはそれに協力したっただけなんやから」
「はいはい、結局良かったな。シオンちゃんの呪いのほうに話が持ち込めたんだから」
「持ち込めたんは良いんやけど……。どーやろなぁ、あの子の呪いが解けんのも何も、あとは不思議部次第なんやからなあ」
「今度は………手伝って、……あげないの?」
「じゃあ、ヤギちゃんが手伝う?」
「え………お、俺じゃ多分、力不足………」
「そないなことないと思うけどな? どっちにしろ、ウチらがしたんはきっかけ作り。……寝上もな、少しは気負ってんのや。自分がほぼ寝たまんまになって、妹まであんな呪いかけられてしもて」
「治療と言いつつも、病院も保健委員も、何も出来ませんでしたからね。今年からずっと、この状態で……」
「足踏みしてる今の状況を、少しでも変えたかったんよ。何も出来ないって分かっててもな。せやからウチは協力した、木先も協力した。もちろん、不思議部の子ぉもや」
「何か、急に何もしてない自分がここに居て良いのかなって思えてきたんだけど」
「せやな安楽、あんたの見せ場ゼロやないかい」
「そうですね、代議にも参加せず。美味しいところを持っていこうと狙った挙句、台詞をほぼカットされ」
「し、しまいには……俺よりも影が薄くなってる」
「ヤギ君にも言われちゃったんだけど。後輩手厳しくない!?」
「……あのな、反応ですらいまいち面白くないんやけど。もうアンタ四六時中鼻に枝豆の皮突っ込んどいたったらええんとちゃう?」
「そうですね。そうしましょう」
「ミナモもひどいっ!」
「て、もうこんな時間なんか。ウチらも学生やし、そろそろお開きにしとこか」
「では、僕が二階に居る三人を呼んできます」
「ん、頼むわ」
「俺も……あっちで飲んでるやつらに……声かけてくるね……」
「おうっ、ヤギちゃんもおおきに」
「また僕の役目がっ」
「役目とか見せ場とか……芯の芯までみみっちい男やなあ、安楽。じゃ、最後に面白いことなんかゆうてよ」
「えっ、えーっと脱いだ方が良い?」
「何でや、脱ぐなや」
「あああっじゃあもう、とにかく! 僕も、臼居くんみたいに、モテモテになりたい!」
「…………」
「え、どう?」
「…………」
「──やっぱり脱ごう」
「やめろや、アホ!」
ごんっ。
「痛いっ!」
「こないなひどい締めやったけど、これで打ち上げはお開きですー。ほな、皆さんおおきに」
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