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第2章 《蜘蛛の意図決戦》
第2章11『ニ度目の依頼』
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それは。
映し出されたそれは、動画だった。
一本の、動画だった。
◆◆◆◆
『あー、あー! マイクテス、マイクテス。たーたータオ先生、私映ってます?』
『聞こえてるよ、つくしちゃん喋って喋って』
『それでは今から、不思議部副部長の私、白野つくしと』
『不思議部正顧問兼、カメラマンの我、タオ先生による校内インタビューを開始したいと思いまーす』
『えー、今回はですね、各委員会の委員長さんたちにあることをお伺いしたいと思いましてー』
『えー、あることって?』
『ちょっとー、タオ先生。あからさま過ぎて、反応がどこかの売れないユー○ューバーさんみたいになってますよ』
『ごめんごめん、レイ君が居ないからおふざけ担当は我かなって……』
『はいはい、くだらないお気遣いありがとうございますっ。で、今日のインタビューで何をお伺いするかといいますと。そう、我らが三年A組の臼居くんについて聞きたいと思いまして──』
◆◆◆◆
シオンさんは、固唾を飲んで動画に食いついていた。これは、ボクら不思議部が委員長の皆さんと協力をして作り上げたものだ。撮影も、インタビューも、何もかも。一緒に見守る臼居くんも、彼女と同じく、初めて見るのだ。
自信のないような二人の少年少女に、少しでも、何かが届いてくれればいいのだが。液晶の中ではつくし以外にもう一人、ある人が映し出されていた。
動画は続く。
◆◆◆◆
『──んん、臼居って、あのちんまい兄ちゃんのことかいな』
『そうです、ドヤ購買委員長』
『はーん、あの兄ちゃんの印象ねぇ』
『そうなんです、突撃インタビューなんです』
『せやなあ……別にあの子、突出した何かがある訳でも無いんやけどな。むっちゃイケメンって訳でもあらへんし、スポーツ万能って訳でも、人より弁が立つって訳でもない。言ってみれば安楽とたいして変わらんかもしれへんなぁ』
『そ、そうなんですか』
『せやせや───せやけど』
『?』
『人を惹く力ってのは、ウチよりあるかも分からんよ』
『魅力的ってことですか? えええ、ドヤさんより?』
『そりゃあ、まだまだウチの方が魅力的やけど……って、違うんよ。ウチらは自己主張が激しいから、でっかい事をして人を惹きつけるやんか。言うてな、でっかいことをせんかったら、誰もウチになんか付いて来んかったってことやねん』
『そういうもんですかねぇ』
『せやけど、臼居は違うんよ。あの子は、些細なことで、誰でもできるような努力の結晶で、人を惹きつける』
『誰でも、できるような……』
『そ。でも、できるようで誰もしてこおへんかった努力をやな。あの子、計算も速いんやけど、それも聞いてみればちっさい頃からの積み重ねやって言うやないの。しかも本人はそれを一つも誇ろうとせえへんのよ。それがまたなぁ、からかいたくなるていうか、背中叩きたくなるっちゅうか、なぁ……安楽味を感じるんや』
『どこで僕を感じてんのさ、ドヤ!』
『おう、安楽おったんか、影薄すぎて気付かんかったわ』
『そんな僕と一緒にされる臼居くんがいたたまれないよ。やあ、不思議部の女の子、こんにちは。整美委員長の安楽です、初めましてだね』
『あはは、どうも』
『アンタ、いくら九徳のこと真似ても手遅れやで。爽やかは作れるもんとちゃうやろ』
『僕の努力を粉砕しないでよ、第一印象は大事なんだからっ! で、一部始終は聞いてたけど臼居くんについてだろ? 僕も答えていい?』
『うっわぁー、アンタ盗み聞きとか最悪やでぇ』
『僕の初登場と、話の腰をいちいち折ろうとするな、ドヤぁ!』
『では、安楽先輩にお聞きしますね。ずばり、臼居くんはどのような人物でしょうか』
『ああ、臼居くんは──』
◆◆◆◆
動画は続く。
まだ早いような、風鈴の音を残しながら。
◆◆◆◆
『ほぉ、な、なよ家についてか……』
『はい、まあ臼居くんについてですね、ヤギ先輩』
『……差し入れ、くれる』
『え、ヤギ先輩にも!?』
『俺を何だと思ってるの? ……広報で……機材の調整やってると、お菓子くれたりする、よ……。ふ、振られて、俺が泣いてたときとか……励ましてくれるし……』
『えぇっ!? ヤギ先輩って三次元で恋するんですか。こ、鯉の間違いじゃ』
『……俺は何だと思われてるの……? とにかく、後輩にしては……気遣いが出来るいい子だと、思うよ……。名前は、知らないけど……』
◆◆◆
動画は、続く。
◆◆◆
『そーですねえ……あの子は、つっつきやすいというか何といいますか、わたしたちにも物怖じせずに笑ってくれるんです。それが、嬉しい。あと、頼んだ仕事はそれ以上の成果と共に返ってくる、出来た子だなあって思いますね』
『臼居くんか。僕としては、風紀委員として勧誘したいくらいの逸材だ。本当、うちの東条や寝上も見習ってもらいたいものだ……。生徒会長でなく、彼に相談する生徒も居るらしく、結構顔も広いと聞くぞ。付き合いは皆無に等しいくらいの僕だが、いつも世話になっている。──違う、氷雨レイにではない、臼居くんにだ』
『優しい子、だよ☆ 臼居ちってば、毎日シオンちゃんのお見舞いに来てくれて☆ 生徒会のお仕事で急がしいはずなのにねー☆ 治療にも付き合ってくれる、優しい子だってぼくは思うなぁ☆』
◆◆◆
耳に熱の昇るような、そんな賞賛賛美の嵐。皮肉を交えた委員長も居て、痛快に笑い飛ばした会長も居て、真摯に評価した人もあった。これが、嘘偽りの無い、臼居くんという人への評価だった。
そして、画面はいきなり黒く塗りつぶされる。
「終わり……ですか」
顔を上げた臼居くんに、ボクは首を振った。
「よく、聞け」
そして咄嗟に、顔を背けた。
声が、繋いでいて。
動画は、続いている。
『──やい、そこの貧弱軟弱虚弱の三弱少女』
「────ぇ」
恥ずかしい。彼女らの視線が完全にこちらに向いたのが分かった。
そう、なにを隠そうこの声の主は、ボクなのだ。
『臼居くんが自分以外友達いないとか、モテないとか、良い人なのに報われないとか。何様で、誰目線で、どれだけ臼居くんのこと過小評価してんだよ』
「う、だって……! それは、違くって……」
少女は思わず、赤面しながら動画に弁明を施していた。しかし、生放送でもないそれの前には、何の意味も成さない愚行に等しい。
『じゃあ何で、臼居くんが毎日業務に追われてて、ボクにも負けない隈を作るくらい疲れてるのか、知ってるか?』
「……知りません」
『信頼されてるからだよ』
『委員長の皆さんに、好かれているからなんです』
『だから、いつもへとへとなんだ。なっ、はるか』
『そうそう、臼居くんは頼りになるし、仕事も言われた以上のことをやってくれる。だから、仕事をついつい頼みすぎちゃうって。九徳先輩も言ってたよ』
『生徒会長も認めてるくらい、すごい奴なんだぜ。なぁ、シオンさん』
『──あなたの隣に居る人は、一人ぼっちに見えますか?』
「い、っいいえ」
『その人は、魔法使いを待つ灰かぶりのシンデレラに、見えますか』
「いいえ、み、見えません!」
彼女は、大きく、その首を振って。
すかしたような、画面の中の声は続ける。
『臼居くんはもう、主役を食っちまうほどに“モテモテ”だろ』
『臼居くんの周りには、シオンさんが居て、不思議部が居て、皆さんが居ます。どうでしょう。これにて、あなたの不思議は解決です』
◆◆◆
「良かった……っ、本当にこれで、私が居なくなっても──」
透き通ったカーテンが解き放たれるのと同時、泣き崩れる彼女に、
「やっぱりか。……なぁ、シオンさん、ボクまだ三つ目の動機、言ってなかったよな」
「あ、ぇ」
すっかり安堵したような彼女に、言う。
「君は、自分が近いうちに病気で死んでしまうと思ったから、臼居くんが孤独にならないように依頼を出したんだ」
「───っ!」
「そう、だったんですか、シオンさん……」
今さら弁明の余地も無いと思ったのか、少女はゆっくり口を開く。
「──病気、じゃないんです。これは、呪いなんです。絶対に死が訪れる、呪い」
彼女が口にしたそれは、病気よりも分かりやすくて、病気よりも悪質なもので。何より、非現実的なもの、だった。
「三弱少女。ボクは、君が安心して死ねるようにこの動画を見せたわけじゃないぜ」
ボクは、臼居くんの肘を大げさにつついてやった。あと君が話す番だ、と彼の携帯を拝借して。
「そ、そんな事言ったって……! 呪いは解けませんし、もう、っどうしようもないんです。とにかく、わ、私はずっと臼居くんのお友達でいることはできません」
悲痛に顔をおさえるシオンさんの手を、臼居くんが握った。
「いいえ」
こんな演出、どこで覚えたんだ。
「あなたはずっと、僕の友達です。僕の、自慢の友達です。呪いもちゃんと解けます、お出かけも出来ます。体育の授業にだって出られます、僕と一緒に、絶対!」
「は……、無責任なこと言わないでくださいっ」
「い、痛い!? 痛いですよシオンさん!」
少女の手は、確かに少年の手をつねり挙げていた。
「変な期待も、楽しみも、どうせ叶わない何もかもを。私の目の前に広げないで……! きっとどう頑張ったって、あと一年しか生きられないんです、だから」
「──それはどうかな」
開いたカーテンの前、いつの間にか、そこに居て。
「決め付けるのはまだ早いですよ、シオンさん」
「そ。僕たち不思議部のこと、忘れてない?」
ボクだけでなく、倒生先生を始めとする不思議部の四人が、三弱少女の前に勢ぞろいしていたのだ。
彼女は半べそをかいた赤い目をこすって、ウスイ君を見た。彼も、それに応えるように微笑み、
「今度は、僕が依頼していいですか?」
「ああ、勿論」
臼居くんは再度、こちらに向き直る。
「では、不思議部に依頼します。寝上シオンさんにかかった呪いを解いて、彼女を元気にしてあげてください」
「う、臼居くん!? そんなこと、頼んで……」
「これで、おあいこですよ、シオンさん」
はにかんで舌を出す彼には、彼女も押し黙るしかなかったのだろう。
「いやあ、不思議部も依頼続きで忙しくなりそうだな」
「そうですねぇ、初依頼からなんとまあ」
「うん、次も頑張って解決しようね、レイ君」
こうして、ボクら不思議部が彼女の呪いについて奮闘するのはまた別の怪キ譚である。
映し出されたそれは、動画だった。
一本の、動画だった。
◆◆◆◆
『あー、あー! マイクテス、マイクテス。たーたータオ先生、私映ってます?』
『聞こえてるよ、つくしちゃん喋って喋って』
『それでは今から、不思議部副部長の私、白野つくしと』
『不思議部正顧問兼、カメラマンの我、タオ先生による校内インタビューを開始したいと思いまーす』
『えー、今回はですね、各委員会の委員長さんたちにあることをお伺いしたいと思いましてー』
『えー、あることって?』
『ちょっとー、タオ先生。あからさま過ぎて、反応がどこかの売れないユー○ューバーさんみたいになってますよ』
『ごめんごめん、レイ君が居ないからおふざけ担当は我かなって……』
『はいはい、くだらないお気遣いありがとうございますっ。で、今日のインタビューで何をお伺いするかといいますと。そう、我らが三年A組の臼居くんについて聞きたいと思いまして──』
◆◆◆◆
シオンさんは、固唾を飲んで動画に食いついていた。これは、ボクら不思議部が委員長の皆さんと協力をして作り上げたものだ。撮影も、インタビューも、何もかも。一緒に見守る臼居くんも、彼女と同じく、初めて見るのだ。
自信のないような二人の少年少女に、少しでも、何かが届いてくれればいいのだが。液晶の中ではつくし以外にもう一人、ある人が映し出されていた。
動画は続く。
◆◆◆◆
『──んん、臼居って、あのちんまい兄ちゃんのことかいな』
『そうです、ドヤ購買委員長』
『はーん、あの兄ちゃんの印象ねぇ』
『そうなんです、突撃インタビューなんです』
『せやなあ……別にあの子、突出した何かがある訳でも無いんやけどな。むっちゃイケメンって訳でもあらへんし、スポーツ万能って訳でも、人より弁が立つって訳でもない。言ってみれば安楽とたいして変わらんかもしれへんなぁ』
『そ、そうなんですか』
『せやせや───せやけど』
『?』
『人を惹く力ってのは、ウチよりあるかも分からんよ』
『魅力的ってことですか? えええ、ドヤさんより?』
『そりゃあ、まだまだウチの方が魅力的やけど……って、違うんよ。ウチらは自己主張が激しいから、でっかい事をして人を惹きつけるやんか。言うてな、でっかいことをせんかったら、誰もウチになんか付いて来んかったってことやねん』
『そういうもんですかねぇ』
『せやけど、臼居は違うんよ。あの子は、些細なことで、誰でもできるような努力の結晶で、人を惹きつける』
『誰でも、できるような……』
『そ。でも、できるようで誰もしてこおへんかった努力をやな。あの子、計算も速いんやけど、それも聞いてみればちっさい頃からの積み重ねやって言うやないの。しかも本人はそれを一つも誇ろうとせえへんのよ。それがまたなぁ、からかいたくなるていうか、背中叩きたくなるっちゅうか、なぁ……安楽味を感じるんや』
『どこで僕を感じてんのさ、ドヤ!』
『おう、安楽おったんか、影薄すぎて気付かんかったわ』
『そんな僕と一緒にされる臼居くんがいたたまれないよ。やあ、不思議部の女の子、こんにちは。整美委員長の安楽です、初めましてだね』
『あはは、どうも』
『アンタ、いくら九徳のこと真似ても手遅れやで。爽やかは作れるもんとちゃうやろ』
『僕の努力を粉砕しないでよ、第一印象は大事なんだからっ! で、一部始終は聞いてたけど臼居くんについてだろ? 僕も答えていい?』
『うっわぁー、アンタ盗み聞きとか最悪やでぇ』
『僕の初登場と、話の腰をいちいち折ろうとするな、ドヤぁ!』
『では、安楽先輩にお聞きしますね。ずばり、臼居くんはどのような人物でしょうか』
『ああ、臼居くんは──』
◆◆◆◆
動画は続く。
まだ早いような、風鈴の音を残しながら。
◆◆◆◆
『ほぉ、な、なよ家についてか……』
『はい、まあ臼居くんについてですね、ヤギ先輩』
『……差し入れ、くれる』
『え、ヤギ先輩にも!?』
『俺を何だと思ってるの? ……広報で……機材の調整やってると、お菓子くれたりする、よ……。ふ、振られて、俺が泣いてたときとか……励ましてくれるし……』
『えぇっ!? ヤギ先輩って三次元で恋するんですか。こ、鯉の間違いじゃ』
『……俺は何だと思われてるの……? とにかく、後輩にしては……気遣いが出来るいい子だと、思うよ……。名前は、知らないけど……』
◆◆◆
動画は、続く。
◆◆◆
『そーですねえ……あの子は、つっつきやすいというか何といいますか、わたしたちにも物怖じせずに笑ってくれるんです。それが、嬉しい。あと、頼んだ仕事はそれ以上の成果と共に返ってくる、出来た子だなあって思いますね』
『臼居くんか。僕としては、風紀委員として勧誘したいくらいの逸材だ。本当、うちの東条や寝上も見習ってもらいたいものだ……。生徒会長でなく、彼に相談する生徒も居るらしく、結構顔も広いと聞くぞ。付き合いは皆無に等しいくらいの僕だが、いつも世話になっている。──違う、氷雨レイにではない、臼居くんにだ』
『優しい子、だよ☆ 臼居ちってば、毎日シオンちゃんのお見舞いに来てくれて☆ 生徒会のお仕事で急がしいはずなのにねー☆ 治療にも付き合ってくれる、優しい子だってぼくは思うなぁ☆』
◆◆◆
耳に熱の昇るような、そんな賞賛賛美の嵐。皮肉を交えた委員長も居て、痛快に笑い飛ばした会長も居て、真摯に評価した人もあった。これが、嘘偽りの無い、臼居くんという人への評価だった。
そして、画面はいきなり黒く塗りつぶされる。
「終わり……ですか」
顔を上げた臼居くんに、ボクは首を振った。
「よく、聞け」
そして咄嗟に、顔を背けた。
声が、繋いでいて。
動画は、続いている。
『──やい、そこの貧弱軟弱虚弱の三弱少女』
「────ぇ」
恥ずかしい。彼女らの視線が完全にこちらに向いたのが分かった。
そう、なにを隠そうこの声の主は、ボクなのだ。
『臼居くんが自分以外友達いないとか、モテないとか、良い人なのに報われないとか。何様で、誰目線で、どれだけ臼居くんのこと過小評価してんだよ』
「う、だって……! それは、違くって……」
少女は思わず、赤面しながら動画に弁明を施していた。しかし、生放送でもないそれの前には、何の意味も成さない愚行に等しい。
『じゃあ何で、臼居くんが毎日業務に追われてて、ボクにも負けない隈を作るくらい疲れてるのか、知ってるか?』
「……知りません」
『信頼されてるからだよ』
『委員長の皆さんに、好かれているからなんです』
『だから、いつもへとへとなんだ。なっ、はるか』
『そうそう、臼居くんは頼りになるし、仕事も言われた以上のことをやってくれる。だから、仕事をついつい頼みすぎちゃうって。九徳先輩も言ってたよ』
『生徒会長も認めてるくらい、すごい奴なんだぜ。なぁ、シオンさん』
『──あなたの隣に居る人は、一人ぼっちに見えますか?』
「い、っいいえ」
『その人は、魔法使いを待つ灰かぶりのシンデレラに、見えますか』
「いいえ、み、見えません!」
彼女は、大きく、その首を振って。
すかしたような、画面の中の声は続ける。
『臼居くんはもう、主役を食っちまうほどに“モテモテ”だろ』
『臼居くんの周りには、シオンさんが居て、不思議部が居て、皆さんが居ます。どうでしょう。これにて、あなたの不思議は解決です』
◆◆◆
「良かった……っ、本当にこれで、私が居なくなっても──」
透き通ったカーテンが解き放たれるのと同時、泣き崩れる彼女に、
「やっぱりか。……なぁ、シオンさん、ボクまだ三つ目の動機、言ってなかったよな」
「あ、ぇ」
すっかり安堵したような彼女に、言う。
「君は、自分が近いうちに病気で死んでしまうと思ったから、臼居くんが孤独にならないように依頼を出したんだ」
「───っ!」
「そう、だったんですか、シオンさん……」
今さら弁明の余地も無いと思ったのか、少女はゆっくり口を開く。
「──病気、じゃないんです。これは、呪いなんです。絶対に死が訪れる、呪い」
彼女が口にしたそれは、病気よりも分かりやすくて、病気よりも悪質なもので。何より、非現実的なもの、だった。
「三弱少女。ボクは、君が安心して死ねるようにこの動画を見せたわけじゃないぜ」
ボクは、臼居くんの肘を大げさにつついてやった。あと君が話す番だ、と彼の携帯を拝借して。
「そ、そんな事言ったって……! 呪いは解けませんし、もう、っどうしようもないんです。とにかく、わ、私はずっと臼居くんのお友達でいることはできません」
悲痛に顔をおさえるシオンさんの手を、臼居くんが握った。
「いいえ」
こんな演出、どこで覚えたんだ。
「あなたはずっと、僕の友達です。僕の、自慢の友達です。呪いもちゃんと解けます、お出かけも出来ます。体育の授業にだって出られます、僕と一緒に、絶対!」
「は……、無責任なこと言わないでくださいっ」
「い、痛い!? 痛いですよシオンさん!」
少女の手は、確かに少年の手をつねり挙げていた。
「変な期待も、楽しみも、どうせ叶わない何もかもを。私の目の前に広げないで……! きっとどう頑張ったって、あと一年しか生きられないんです、だから」
「──それはどうかな」
開いたカーテンの前、いつの間にか、そこに居て。
「決め付けるのはまだ早いですよ、シオンさん」
「そ。僕たち不思議部のこと、忘れてない?」
ボクだけでなく、倒生先生を始めとする不思議部の四人が、三弱少女の前に勢ぞろいしていたのだ。
彼女は半べそをかいた赤い目をこすって、ウスイ君を見た。彼も、それに応えるように微笑み、
「今度は、僕が依頼していいですか?」
「ああ、勿論」
臼居くんは再度、こちらに向き直る。
「では、不思議部に依頼します。寝上シオンさんにかかった呪いを解いて、彼女を元気にしてあげてください」
「う、臼居くん!? そんなこと、頼んで……」
「これで、おあいこですよ、シオンさん」
はにかんで舌を出す彼には、彼女も押し黙るしかなかったのだろう。
「いやあ、不思議部も依頼続きで忙しくなりそうだな」
「そうですねぇ、初依頼からなんとまあ」
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こうして、ボクら不思議部が彼女の呪いについて奮闘するのはまた別の怪キ譚である。
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