3 / 5
後編
しおりを挟む
一年後、無事卒業したニナとエリスは辺境に居た。
ニナは魔法師団所属の軍人として辺境に配属。
エリスは辺境伯の軍に治癒魔術師として採用された。
何故か、第四王子リーゲルも辺境の現状を記録して中央に報告する官吏として赴任してきた。
「リーゲル何でここに居る?」
「こら、ニナ。殿下と呼びなさい」
「いいのですよ、エリス様。私はもう王位継承権を放棄し、第一王子に仕える只の臣下ですから」
在学中、エリスとニナが二人でいるとちょくちょくリーゲルが加わっていた。明らかにエリスに秋波を送っていた為、鈍いニナでもこいつは要警戒と認識していた。
「そういえば、最近中央の方はどうなっていますか? 王太子は第一王子に決まりそうだとか」
第二王子が公然と愛しいと呼んだルコットが侮辱罪で有罪になったことで、虚言を信じた第二王子は無能だと証明されたも同然。いくら第二王子を傀儡にして甘い汁を吸おうとした派閥の者が優秀でも挽回するのは困難。
「そうですね。ほぼ決まりでしょう」
「アホの王子が王太子にならなくて良かった」
「こら、ニナ。思っていても口には出してはいけません」
へへへ……と反省していないニナを見詰めるエリスの眼差しは優しい。そんな二人を一瞬羨ましそうにするが、すぐにいつもの微笑みに戻るリーゲル。
三人の前にある人物が通りがかる。
「あ、辺境伯ーおっすおっす」
「こら、ニナ。その挨拶はやめなさい。すみません、辺境伯様」
辺境伯と呼ばれた艶やかな黒髪で凛々しい顔つきの男は無表情だが、穏やかな口調で、
「構わない。それより、エリス。例の返事はまだか」
「ええと、その……」
言葉に詰まり、苦笑するエリス。
リーゲルがニナを捕まえて小声で問い詰める。
「例の返事とは何ですか」
「何かー休みの日に馬で遠乗りしようってー。でもエリスは私と辺境の街ぶらつきたいから断りたいってー」
小声で聞いた意味なく、普通の声量で答えたニナの口をリーゲルが抑える。
「遠乗りよりも、散策の方が良かったか」
「ええ、まあ」
「ならば私が案内しよう。もちろんニナも付いてきて構わない」
非常に断り難くなったエリスにリーゲルが助け舟を出す。
「すみません、辺境伯。エリスとニナは辺境に来たばかりの私を案内してくれると話していた所でした」
「…………ならばお前には部下に案内させよう」
「いえ、不要です。同窓生である二人と積もる話もありますので」
「……お前も散策に付いてくれば良い」
「いえ、辺境伯がいてはできない話もありますので。三人で過ごしたいのです」
無表情で冷めた視線の辺境伯、にこにこだが眼が笑っていないリーゲル。バチバチと音が聞こえそうなほど睨み合う二人。
「お前らいらないんだって、空気読めよ」
ニナの一言に全員停止する。
「友達二人で気楽に遊びたいんだってば、わかれよ」
「こら、ニナ。言葉遣いに気をつけなさい」
「こいつらはっきり言わないとわからないし」
エリスは否定せずに困った顔した後、
「ええと、ではそういうことで。失礼します」
ニナの手を引いて歩き出す。
しばらく歩いて、ニナの方を向く。
「助かったわ。辺境に来てから貴方に助けられてばかりね」
「お役に立ててなによりー」
どうも辺境伯に気に入られたらしいエリスは戸惑っていた。自分より一回り年上で、落ち着きがある男性に好意を向けられるのは嫌ではない。
だがどうしても自分は不釣り合いだと思ってしまうエリスだった。
「エリス、リーゲルと辺境伯だったらどっちがいい?」
「え? 何で殿下が出てくるの?」
心底不思議な表情を浮かべるエリスにニナは珍しく口籠る。ニナでも分かったというのに、エリスは気付いていない、リーゲルの気持ちを。
辺境伯のようにわかりやすく好意を示さなければ鈍いエリスには伝わらないのだ。一応第二王子と結婚すれば義理の弟だったので、全く異性として認識していないせいもあるが。
「がんばれりーげるくん……」
ニナはボソッと呟いて、同窓生の健闘を祈った。
ニナは魔法師団所属の軍人として辺境に配属。
エリスは辺境伯の軍に治癒魔術師として採用された。
何故か、第四王子リーゲルも辺境の現状を記録して中央に報告する官吏として赴任してきた。
「リーゲル何でここに居る?」
「こら、ニナ。殿下と呼びなさい」
「いいのですよ、エリス様。私はもう王位継承権を放棄し、第一王子に仕える只の臣下ですから」
在学中、エリスとニナが二人でいるとちょくちょくリーゲルが加わっていた。明らかにエリスに秋波を送っていた為、鈍いニナでもこいつは要警戒と認識していた。
「そういえば、最近中央の方はどうなっていますか? 王太子は第一王子に決まりそうだとか」
第二王子が公然と愛しいと呼んだルコットが侮辱罪で有罪になったことで、虚言を信じた第二王子は無能だと証明されたも同然。いくら第二王子を傀儡にして甘い汁を吸おうとした派閥の者が優秀でも挽回するのは困難。
「そうですね。ほぼ決まりでしょう」
「アホの王子が王太子にならなくて良かった」
「こら、ニナ。思っていても口には出してはいけません」
へへへ……と反省していないニナを見詰めるエリスの眼差しは優しい。そんな二人を一瞬羨ましそうにするが、すぐにいつもの微笑みに戻るリーゲル。
三人の前にある人物が通りがかる。
「あ、辺境伯ーおっすおっす」
「こら、ニナ。その挨拶はやめなさい。すみません、辺境伯様」
辺境伯と呼ばれた艶やかな黒髪で凛々しい顔つきの男は無表情だが、穏やかな口調で、
「構わない。それより、エリス。例の返事はまだか」
「ええと、その……」
言葉に詰まり、苦笑するエリス。
リーゲルがニナを捕まえて小声で問い詰める。
「例の返事とは何ですか」
「何かー休みの日に馬で遠乗りしようってー。でもエリスは私と辺境の街ぶらつきたいから断りたいってー」
小声で聞いた意味なく、普通の声量で答えたニナの口をリーゲルが抑える。
「遠乗りよりも、散策の方が良かったか」
「ええ、まあ」
「ならば私が案内しよう。もちろんニナも付いてきて構わない」
非常に断り難くなったエリスにリーゲルが助け舟を出す。
「すみません、辺境伯。エリスとニナは辺境に来たばかりの私を案内してくれると話していた所でした」
「…………ならばお前には部下に案内させよう」
「いえ、不要です。同窓生である二人と積もる話もありますので」
「……お前も散策に付いてくれば良い」
「いえ、辺境伯がいてはできない話もありますので。三人で過ごしたいのです」
無表情で冷めた視線の辺境伯、にこにこだが眼が笑っていないリーゲル。バチバチと音が聞こえそうなほど睨み合う二人。
「お前らいらないんだって、空気読めよ」
ニナの一言に全員停止する。
「友達二人で気楽に遊びたいんだってば、わかれよ」
「こら、ニナ。言葉遣いに気をつけなさい」
「こいつらはっきり言わないとわからないし」
エリスは否定せずに困った顔した後、
「ええと、ではそういうことで。失礼します」
ニナの手を引いて歩き出す。
しばらく歩いて、ニナの方を向く。
「助かったわ。辺境に来てから貴方に助けられてばかりね」
「お役に立ててなによりー」
どうも辺境伯に気に入られたらしいエリスは戸惑っていた。自分より一回り年上で、落ち着きがある男性に好意を向けられるのは嫌ではない。
だがどうしても自分は不釣り合いだと思ってしまうエリスだった。
「エリス、リーゲルと辺境伯だったらどっちがいい?」
「え? 何で殿下が出てくるの?」
心底不思議な表情を浮かべるエリスにニナは珍しく口籠る。ニナでも分かったというのに、エリスは気付いていない、リーゲルの気持ちを。
辺境伯のようにわかりやすく好意を示さなければ鈍いエリスには伝わらないのだ。一応第二王子と結婚すれば義理の弟だったので、全く異性として認識していないせいもあるが。
「がんばれりーげるくん……」
ニナはボソッと呟いて、同窓生の健闘を祈った。
28
お気に入りに追加
179
あなたにおすすめの小説

《完結》愛する人と結婚するだけが愛じゃない
ぜらいす黒糖
恋愛
オリビアはジェームズとこのまま結婚するだろうと思っていた。
ある日、可愛がっていた後輩のマリアから「先輩と別れて下さい」とオリビアは言われた。
ジェームズに確かめようと部屋に行くと、そこにはジェームズとマリアがベッドで抱き合っていた。
ショックのあまり部屋を飛び出したオリビアだったが、気がつくと走る馬車の前を歩いていた。
(完)悪役令嬢は惚れ薬を使って婚約解消させました
青空一夏
恋愛
私は、ソフィア・ローズ公爵令嬢。容姿が、いかにも悪役令嬢なだけで、普通の令嬢と中身は少しも変わらない。見た目で誤解される損なタイプだった。
けれど大好きなロミオ様だけは理解してくれていた。私達は婚約するはずだった。が、翌日、王太子は心変わりした。レティシア・パリセ男爵令嬢と真実の愛で結ばれていると言った。
私は、それでもロミオ様が諦められない・・・・・・
心変わりした恋人を取り戻そうとする女の子のお話(予定)
※不定期更新です(´,,•ω•,,`)◝


この国では魔力を譲渡できる
ととせ
恋愛
「シエラお姉様、わたしに魔力をくださいな」
無邪気な笑顔でそうおねだりするのは、腹違いの妹シャーリだ。
五歳で母を亡くしたシエラ・グラッド公爵令嬢は、義理の妹であるシャーリにねだられ魔力を譲渡してしまう。魔力を失ったシエラは周囲から「シエラの方が庶子では?」と疑いの目を向けられ、学園だけでなく社交会からも遠ざけられていた。婚約者のロルフ第二王子からも蔑まれる日々だが、公爵令嬢らしく堂々と生きていた。


頭の中が少々お花畑の子爵令嬢が朝から茶番を始めたようです
月
恋愛
ある日、伯爵令嬢のグレイスは頭の中が少しだけお花畑の子爵令嬢の茶番に付き合わされることになる。
グレイスを糾弾しているはずが、巻き込まれて過去を掘り返されていくクラスメイトたち……。
そこへグレイスの婚約者のリカルド殿下がきて……?
※10,000文字以下の短編です

(完結)無能なふりを強要された公爵令嬢の私、その訳は?(全3話)
青空一夏
恋愛
私は公爵家の長女で幼い頃から優秀だった。けれどもお母様はそんな私をいつも窘めた。
「いいですか? フローレンス。男性より優れたところを見せてはなりませんよ。女性は一歩、いいえ三歩後ろを下がって男性の背中を見て歩きなさい」
ですって!!
そんなのこれからの時代にはそぐわないと思う。だから、お母様のおっしゃることは貴族学園では無視していた。そうしたら家柄と才覚を見込まれて王太子妃になることに決まってしまい・・・・・・
これは、男勝りの公爵令嬢が、愚か者と有名な王太子と愛?を育む話です。(多分、あまり甘々ではない)
前編・中編・後編の3話。お話の長さは均一ではありません。異世界のお話で、言葉遣いやところどころ現代的部分あり。コメディー調。

破滅した令嬢は時間が戻ったので、破滅しないよう動きます
天宮有
恋愛
公爵令嬢の私リーゼは、破滅寸前だった。
伯爵令嬢のベネサの思い通り動いてしまい、婚約者のダーロス王子に婚約破棄を言い渡される。
その後――私は目を覚ますと1年前に戻っていて、今までの行動を後悔する。
ダーロス王子は今の時点でベネサのことを愛し、私を切り捨てようと考えていたようだ。
もうベネサの思い通りにはならないと、私は決意する。
破滅しないよう動くために、本来の未来とは違う生活を送ろうとしていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる