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後編
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一年後、無事卒業したニナとエリスは辺境に居た。
ニナは魔法師団所属の軍人として辺境に配属。
エリスは辺境伯の軍に治癒魔術師として採用された。
何故か、第四王子リーゲルも辺境の現状を記録して中央に報告する官吏として赴任してきた。
「リーゲル何でここに居る?」
「こら、ニナ。殿下と呼びなさい」
「いいのですよ、エリス様。私はもう王位継承権を放棄し、第一王子に仕える只の臣下ですから」
在学中、エリスとニナが二人でいるとちょくちょくリーゲルが加わっていた。明らかにエリスに秋波を送っていた為、鈍いニナでもこいつは要警戒と認識していた。
「そういえば、最近中央の方はどうなっていますか? 王太子は第一王子に決まりそうだとか」
第二王子が公然と愛しいと呼んだルコットが侮辱罪で有罪になったことで、虚言を信じた第二王子は無能だと証明されたも同然。いくら第二王子を傀儡にして甘い汁を吸おうとした派閥の者が優秀でも挽回するのは困難。
「そうですね。ほぼ決まりでしょう」
「アホの王子が王太子にならなくて良かった」
「こら、ニナ。思っていても口には出してはいけません」
へへへ……と反省していないニナを見詰めるエリスの眼差しは優しい。そんな二人を一瞬羨ましそうにするが、すぐにいつもの微笑みに戻るリーゲル。
三人の前にある人物が通りがかる。
「あ、辺境伯ーおっすおっす」
「こら、ニナ。その挨拶はやめなさい。すみません、辺境伯様」
辺境伯と呼ばれた艶やかな黒髪で凛々しい顔つきの男は無表情だが、穏やかな口調で、
「構わない。それより、エリス。例の返事はまだか」
「ええと、その……」
言葉に詰まり、苦笑するエリス。
リーゲルがニナを捕まえて小声で問い詰める。
「例の返事とは何ですか」
「何かー休みの日に馬で遠乗りしようってー。でもエリスは私と辺境の街ぶらつきたいから断りたいってー」
小声で聞いた意味なく、普通の声量で答えたニナの口をリーゲルが抑える。
「遠乗りよりも、散策の方が良かったか」
「ええ、まあ」
「ならば私が案内しよう。もちろんニナも付いてきて構わない」
非常に断り難くなったエリスにリーゲルが助け舟を出す。
「すみません、辺境伯。エリスとニナは辺境に来たばかりの私を案内してくれると話していた所でした」
「…………ならばお前には部下に案内させよう」
「いえ、不要です。同窓生である二人と積もる話もありますので」
「……お前も散策に付いてくれば良い」
「いえ、辺境伯がいてはできない話もありますので。三人で過ごしたいのです」
無表情で冷めた視線の辺境伯、にこにこだが眼が笑っていないリーゲル。バチバチと音が聞こえそうなほど睨み合う二人。
「お前らいらないんだって、空気読めよ」
ニナの一言に全員停止する。
「友達二人で気楽に遊びたいんだってば、わかれよ」
「こら、ニナ。言葉遣いに気をつけなさい」
「こいつらはっきり言わないとわからないし」
エリスは否定せずに困った顔した後、
「ええと、ではそういうことで。失礼します」
ニナの手を引いて歩き出す。
しばらく歩いて、ニナの方を向く。
「助かったわ。辺境に来てから貴方に助けられてばかりね」
「お役に立ててなによりー」
どうも辺境伯に気に入られたらしいエリスは戸惑っていた。自分より一回り年上で、落ち着きがある男性に好意を向けられるのは嫌ではない。
だがどうしても自分は不釣り合いだと思ってしまうエリスだった。
「エリス、リーゲルと辺境伯だったらどっちがいい?」
「え? 何で殿下が出てくるの?」
心底不思議な表情を浮かべるエリスにニナは珍しく口籠る。ニナでも分かったというのに、エリスは気付いていない、リーゲルの気持ちを。
辺境伯のようにわかりやすく好意を示さなければ鈍いエリスには伝わらないのだ。一応第二王子と結婚すれば義理の弟だったので、全く異性として認識していないせいもあるが。
「がんばれりーげるくん……」
ニナはボソッと呟いて、同窓生の健闘を祈った。
ニナは魔法師団所属の軍人として辺境に配属。
エリスは辺境伯の軍に治癒魔術師として採用された。
何故か、第四王子リーゲルも辺境の現状を記録して中央に報告する官吏として赴任してきた。
「リーゲル何でここに居る?」
「こら、ニナ。殿下と呼びなさい」
「いいのですよ、エリス様。私はもう王位継承権を放棄し、第一王子に仕える只の臣下ですから」
在学中、エリスとニナが二人でいるとちょくちょくリーゲルが加わっていた。明らかにエリスに秋波を送っていた為、鈍いニナでもこいつは要警戒と認識していた。
「そういえば、最近中央の方はどうなっていますか? 王太子は第一王子に決まりそうだとか」
第二王子が公然と愛しいと呼んだルコットが侮辱罪で有罪になったことで、虚言を信じた第二王子は無能だと証明されたも同然。いくら第二王子を傀儡にして甘い汁を吸おうとした派閥の者が優秀でも挽回するのは困難。
「そうですね。ほぼ決まりでしょう」
「アホの王子が王太子にならなくて良かった」
「こら、ニナ。思っていても口には出してはいけません」
へへへ……と反省していないニナを見詰めるエリスの眼差しは優しい。そんな二人を一瞬羨ましそうにするが、すぐにいつもの微笑みに戻るリーゲル。
三人の前にある人物が通りがかる。
「あ、辺境伯ーおっすおっす」
「こら、ニナ。その挨拶はやめなさい。すみません、辺境伯様」
辺境伯と呼ばれた艶やかな黒髪で凛々しい顔つきの男は無表情だが、穏やかな口調で、
「構わない。それより、エリス。例の返事はまだか」
「ええと、その……」
言葉に詰まり、苦笑するエリス。
リーゲルがニナを捕まえて小声で問い詰める。
「例の返事とは何ですか」
「何かー休みの日に馬で遠乗りしようってー。でもエリスは私と辺境の街ぶらつきたいから断りたいってー」
小声で聞いた意味なく、普通の声量で答えたニナの口をリーゲルが抑える。
「遠乗りよりも、散策の方が良かったか」
「ええ、まあ」
「ならば私が案内しよう。もちろんニナも付いてきて構わない」
非常に断り難くなったエリスにリーゲルが助け舟を出す。
「すみません、辺境伯。エリスとニナは辺境に来たばかりの私を案内してくれると話していた所でした」
「…………ならばお前には部下に案内させよう」
「いえ、不要です。同窓生である二人と積もる話もありますので」
「……お前も散策に付いてくれば良い」
「いえ、辺境伯がいてはできない話もありますので。三人で過ごしたいのです」
無表情で冷めた視線の辺境伯、にこにこだが眼が笑っていないリーゲル。バチバチと音が聞こえそうなほど睨み合う二人。
「お前らいらないんだって、空気読めよ」
ニナの一言に全員停止する。
「友達二人で気楽に遊びたいんだってば、わかれよ」
「こら、ニナ。言葉遣いに気をつけなさい」
「こいつらはっきり言わないとわからないし」
エリスは否定せずに困った顔した後、
「ええと、ではそういうことで。失礼します」
ニナの手を引いて歩き出す。
しばらく歩いて、ニナの方を向く。
「助かったわ。辺境に来てから貴方に助けられてばかりね」
「お役に立ててなによりー」
どうも辺境伯に気に入られたらしいエリスは戸惑っていた。自分より一回り年上で、落ち着きがある男性に好意を向けられるのは嫌ではない。
だがどうしても自分は不釣り合いだと思ってしまうエリスだった。
「エリス、リーゲルと辺境伯だったらどっちがいい?」
「え? 何で殿下が出てくるの?」
心底不思議な表情を浮かべるエリスにニナは珍しく口籠る。ニナでも分かったというのに、エリスは気付いていない、リーゲルの気持ちを。
辺境伯のようにわかりやすく好意を示さなければ鈍いエリスには伝わらないのだ。一応第二王子と結婚すれば義理の弟だったので、全く異性として認識していないせいもあるが。
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ニナはボソッと呟いて、同窓生の健闘を祈った。
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