43 / 43
番外編
慣れないお酒に気をつけて 4
しおりを挟む
眩しい光を瞼の裏に感じて、シフィルは眉を顰めながらゆっくりと目を開けた。すぐそばに優しく見つめる赤紫の瞳があって、幸せな気持ちになる。
「おはよう、シフィル」
「ん……、おは、よう」
いつものように挨拶をしようとしたら声が掠れていて、シフィルは首をかしげた。
風邪でもひいたかと思いつつも、体調を崩した時のような怠さは感じられなくて、シフィルは軽く咳払いをしつつサイドテーブルの上の水差しを指差した。
「お水、取ってもらえる?」
「声が枯れてるな、シフィル。昨夜はいつもよりたくさん声をあげさせてしまったから」
くすくすと笑いながらエルヴィンが身体を起こし、グラスに水を注いでくれる。そして、悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「昨日みたいに、口移しで飲ませようか」
「……っ」
その瞬間、昨夜のことが頭の中に鮮明に蘇って、シフィルは無言で真っ赤になって悶えた。
エルヴィンを押し倒したり、口移しで水を飲ませろと迫ったり、そのほかにも色々とやらかした記憶がある。普段なら絶対やらないことをしでかしたのは、きっと昨晩飲んだあのお酒のせいだ。
「あの、えっと私、酔ってて……っ」
「昨夜は、頑なに酔ってないと言い張っていたけどな」
「うっ……」
酔ってない、自分はお酒に強いからと偉そうに宣言した記憶も確かにあって、シフィルは恥ずかしさから逃れるように毛布の中に潜る。
「シフィル」
笑いを含んだ声で、エルヴィンが毛布の上から抱きしめる。絶対顔は出さないと身を縮めながら、シフィルは昨夜の記憶を振り払うように目を閉じた。
「積極的なシフィルも、すごく可愛かった。シフィルから、もっと欲しいと求められるのもいいもんだな」
その言葉に、一度ならず二度三度とエルヴィンを求めた記憶が脳裏に浮かび、シフィルは羞恥で涙を浮かべながら首を振る。
「アレッタ嬢には、早速追加の発注を頼んでおかないとな」
「……っ、私はもう、飲まないから!」
機嫌の良さそうなその声に思わず毛布から顔を出して叫ぶと、楽しそうに笑ったエルヴィンにそのまま抱き寄せられる。
「シフィルも気に入っていただろう。どうやら昨夜の俺たちは、一度にたくさん飲みすぎたようだ。少しずつ飲めば、そう酷く酔うこともないと思う」
だからまた一緒に飲もうと微笑まれて、シフィルは渋々といった表情を浮かべてうなずいてみせる。また飲みたいと思うほどに美味しかったのは事実だし、量を加減すれば悪酔いすることもないだろう。エルヴィンと美味しいお酒を飲む時間は、何物にも代え難い大切な時間だ。
「でも、飲む量には、本当に気をつけるわ……」
絶対に飲みすぎ注意だと心に誓って、シフィルはため息をついた。
後日エルヴィンがアレッタに大量に注文したお酒が届き、また飲みすぎて酔っ払ったシフィルが、エルヴィンにあんなことやこんなことをしてしまうのを、シフィルはまだ知らない。
「おはよう、シフィル」
「ん……、おは、よう」
いつものように挨拶をしようとしたら声が掠れていて、シフィルは首をかしげた。
風邪でもひいたかと思いつつも、体調を崩した時のような怠さは感じられなくて、シフィルは軽く咳払いをしつつサイドテーブルの上の水差しを指差した。
「お水、取ってもらえる?」
「声が枯れてるな、シフィル。昨夜はいつもよりたくさん声をあげさせてしまったから」
くすくすと笑いながらエルヴィンが身体を起こし、グラスに水を注いでくれる。そして、悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「昨日みたいに、口移しで飲ませようか」
「……っ」
その瞬間、昨夜のことが頭の中に鮮明に蘇って、シフィルは無言で真っ赤になって悶えた。
エルヴィンを押し倒したり、口移しで水を飲ませろと迫ったり、そのほかにも色々とやらかした記憶がある。普段なら絶対やらないことをしでかしたのは、きっと昨晩飲んだあのお酒のせいだ。
「あの、えっと私、酔ってて……っ」
「昨夜は、頑なに酔ってないと言い張っていたけどな」
「うっ……」
酔ってない、自分はお酒に強いからと偉そうに宣言した記憶も確かにあって、シフィルは恥ずかしさから逃れるように毛布の中に潜る。
「シフィル」
笑いを含んだ声で、エルヴィンが毛布の上から抱きしめる。絶対顔は出さないと身を縮めながら、シフィルは昨夜の記憶を振り払うように目を閉じた。
「積極的なシフィルも、すごく可愛かった。シフィルから、もっと欲しいと求められるのもいいもんだな」
その言葉に、一度ならず二度三度とエルヴィンを求めた記憶が脳裏に浮かび、シフィルは羞恥で涙を浮かべながら首を振る。
「アレッタ嬢には、早速追加の発注を頼んでおかないとな」
「……っ、私はもう、飲まないから!」
機嫌の良さそうなその声に思わず毛布から顔を出して叫ぶと、楽しそうに笑ったエルヴィンにそのまま抱き寄せられる。
「シフィルも気に入っていただろう。どうやら昨夜の俺たちは、一度にたくさん飲みすぎたようだ。少しずつ飲めば、そう酷く酔うこともないと思う」
だからまた一緒に飲もうと微笑まれて、シフィルは渋々といった表情を浮かべてうなずいてみせる。また飲みたいと思うほどに美味しかったのは事実だし、量を加減すれば悪酔いすることもないだろう。エルヴィンと美味しいお酒を飲む時間は、何物にも代え難い大切な時間だ。
「でも、飲む量には、本当に気をつけるわ……」
絶対に飲みすぎ注意だと心に誓って、シフィルはため息をついた。
後日エルヴィンがアレッタに大量に注文したお酒が届き、また飲みすぎて酔っ払ったシフィルが、エルヴィンにあんなことやこんなことをしてしまうのを、シフィルはまだ知らない。
10
お気に入りに追加
667
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(9件)
あなたにおすすめの小説

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

立派な王太子妃~妃の幸せは誰が考えるのか~
矢野りと
恋愛
ある日王太子妃は夫である王太子の不貞の現場を目撃してしまう。愛している夫の裏切りに傷つきながらも、やり直したいと周りに助言を求めるが‥‥。
隠れて不貞を続ける夫を見続けていくうちに壊れていく妻。
周りが気づいた時は何もかも手遅れだった…。
※設定はゆるいです。

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」
将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです
きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」
5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。
その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?
【完結】忘れてください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。
貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。
夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。
貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。
もういいの。
私は貴方を解放する覚悟を決めた。
貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。
私の事は忘れてください。
※6月26日初回完結
7月12日2回目完結しました。
お読みいただきありがとうございます。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。
石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。
自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。
そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。
好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。
この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
子持ちの私は、夫に駆け落ちされました
月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。
過去1ヶ月以内にノーチェの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、ノーチェのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にノーチェの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、ノーチェのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
酔いどれシフィルちゃんが可愛い〜💕💕
酔っ払いほど酔ってないって言うやつあるある…( ◜ω◝ )
今までも腹筋触りたかったのね(わかる)
そして戸惑うエルヴィン…だけどやっぱりすぐにノリノリなるのさすがです🤣
しあわせな番外編ありがとうございました🥰
レイラさん、ありがとうございます!
酔っ払いは、絶対酔ってるとは認めない🤣
シフィルはずっと、割れた腹筋触りたかったらしいですよ🤭
お酒のおかげでついに…💕
エルヴィンは順応力高いから、すぐにノリノリになります(笑)
襲うのも、襲われるのも、どっちも楽しめちゃうw
きっとあのお酒は、常備されることになる…🍶💕
読んでいただきありがとうございました!
にまにましながら読みました。
二回目は飲み過ぎたのか、上手く誘導されて『飲まされ過ぎた』のか怪しいですね😏
お酒の失敗は「忘れている方がまし」なことが多いし、覚えていると羞恥プレイですよね。お酒の上での積極的な閨事は特に!
でも照れる姿はまた良いし、積極的なのもよいから家に欠かせないお酒になりそうですね🥂
アサクラさん、ありがとうございます🥰
2回目はきっと、上手く誘導されて飲まされすぎた気がしますね😂
新しい瓶開けちゃったし、飲みきっちゃおうとか何とか言ってw
シフィルはまた、翌朝涙目になること間違いなしです🤣
そしてあのお酒は、絶対に常備されてると思いますw
(エルヴィンが大量購入してくれるので、アレッタ大喜びです💰✨笑)
更新嬉しいです✨
酔っぱらいは酔ってるほどに「酔ってない」が定番の言葉ですよね😉✨ひゃー誘ってる!誘ってるよー💕可愛い。大変なことになるのに煽るの性癖に刺さります💘
アサクラさん、ありがとうございます!
そうなんです、酔っ払いは決して自分が酔っていると認めないのです🤣💕
お酒のせいで本能のおもむくままに行動しているシフィルがこのあとどうなるのか…🤭
続きも楽しんでもらえたら嬉しいです💕