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番外編

シフィルの誕生日 4

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 貴賓室なんて入ったこともなかったけれど、城勤めのエルヴィンは迷う様子もなく辿り着いたようだ。
 広く美しい部屋は、何度か訪ねたことのあるユスティナの私室に少しだけ雰囲気が似ていて、緊張するシフィルの心を和らげてくれる。
 部屋の中央に置かれた天蓋つきのベッドは、シフィルの家のものより数段豪華で華やかだ。たっぷりとしたレースのカーテンや、フリルのたくさんついたクッションなど、可愛らしい雰囲気に、シフィルの心も思わず弾む。
 そんなベッドの上にシフィルを降ろしたエルヴィンは、そっと花束を取り上げるとテーブルの上に置いた。そして、ベッドに腰掛けるシフィルの前に膝をつくと、手を握ってまっすぐに見上げた。
「お誕生日おめでとう、シフィル。本当は一日ずっと一緒にいたかったけど、そうできなくてごめん」
「お仕事だもの、仕方ないわ。それでも、こうして少しでも一緒に過ごせて幸せよ」
 握られた手を握り返すと、エルヴィンの表情が優しく緩み、そっと抱き寄せられる。
「本当は、一番に渡したかったんだけど」
 少しだけ残念そうな表情で、エルヴィンが胸元から小箱を取り出した。中に入っていたのは、リボンモチーフのネックレス。結び目部分には小さな宝石がきらきらと輝いていて、よく見るとそれは赤紫の石と青緑の石だった。それに気づいたシフィルは、ふたりの瞳の色が使われていることにも嬉しくなる。
「素敵……! ありがとう、エルヴィン。着けてみてもいい?」
「もちろん」
 笑ってうなずいたエルヴィンが、ネックレスを取り上げてシフィルに着けてくれる。胸元で揺れるリボンが可愛くて、シフィルは思わずエルヴィンに抱きついた。
「嬉しい。すごく可愛いわ」
「うん。よく似合う」
 愛おしそうに頬を撫でた手が、ゆっくりとシフィルを上向かせる。彼の意図を察知して瞳を閉じたシフィルの唇に、エルヴィンの柔らかな唇が重なった。
 
「いつもと、色が違うな」
 唇が離れた瞬間、シフィルの下唇を親指でなぞるようにしながら至近距離でエルヴィンが囁く。
「ユスティナ様にもらった、新しい口紅をつけてみたの。キスしたくなる唇になるんですって」
 どうだった? と首をかしげてみせると、返事のようにエルヴィンの唇がまた重ねられた。
「いつだって、シフィルを見ればキスしたくなるから効果は分からないけど、それは俺の前以外ではつけないで」
 危険すぎるとつぶやくエルヴィンの、小さな独占欲を向けられたことが嬉しくて、シフィルは笑って了解とうなずいた。

  
 何度も啄むように口づけながら髪を撫でていたエルヴィンの手が、ワンピースの背中のリボンをそっと引っ張った。微かに服が緩んだ感覚に目を開けると、すぐそばにある赤紫の瞳が、いつもより少し色を濃くしてシフィルを見つめていた。シフィルを求める時に見せるその色に、自然と鼓動が速くなっていく。
「……いい? シフィル」
 吐息のかかる距離で、エルヴィンが囁く。シフィルは小さくうなずくと、彼の首筋に腕を回した。

 一段と深まったキスを交わしながらも、ふたりはまだベッドの端に腰掛けたままだ。いつもならあっという間にベッドに押し倒されているはずなのに、と微かに戸惑った気持ちに気づいたのか、エルヴィンがくすりと笑って立ち上がった。
「おいで、シフィル」
「え……?」
「このままだと、せっかくの服がくしゃくしゃになってしまう」
 汚れても困るだろうと耳元で揶揄うように囁かれて、シフィルは一気に真っ赤になった。
 だけど確かにこのままベッドに行けば、皺だらけになってしまうことは間違いない。シフィルは赤くなった顔を見られないようにうつむきながら、手を引くエルヴィンに身を任せて立ち上がった。

 まるで宝物を包む布を取り払うかのような慎重な手つきで、エルヴィンがワンピースをそっと脱がせていく。お気に入りの下着で良かったと思いながら、シフィルも黙ってエルヴィンの手に協力した。
 一度床に落とされたワンピースは、エルヴィンが大切そうに取り上げて綺麗にハンガーにかけてくれる。
 ベッドサイドに腰掛けてそれを見つめていたシフィルのもとにエルヴィンが戻ってくると、彼は目の前に膝をついた。
「靴を脱ごうか、シフィル」
「……っ」
 恭しく剥き出しの膝にキスを落としたあと、エルヴィンはそっとシフィルの片足を持ち上げて、丁寧な手つきで靴を脱がせてくれる。普段とは違うエルヴィンの行動に、シフィルは翻弄されてばかりだ。
 ワンピースの色にもよく合ったその靴は、いつもより華奢なヒールの可愛いもの。踝のあたりにはビジューつきのリボンがあしらわれていて、お気に入りだ。誕生日のお祝いにと両親から贈られたその靴は、きっとローシェがワンピースに合わせて選んでくれたものだ。
「可愛い靴だな。シフィルによく似合う」
「うん、お気に入りなの」
「今日はもう脱がせてしまうけど、今度はこれを履いてまた出かけよう」
 誓うように足の甲に口づけを落とされて、くすぐったさにシフィルは小さく笑ってうなずいた。

 ようやく身につけているのは下着だけとなったシフィルを、エルヴィンが熱っぽい視線で見つめる。恥ずかしい気持ちを堪えて見つめ返すと、エルヴィンの大きな手が頭を撫でてくれた。そのままゆっくりとベッドに押し倒されて、シフィルはそっとエルヴィンの首に腕を回した。
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