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番外編
シフィルの誕生日 3
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浴室から戻ったシフィルは、待ち構えていたようなユスティナたちにソファへと誘導された。
ぴかぴかに磨き上げられた肌はいつもよりしっとりとしているし、ユスティナが用意してくれた石鹸も、とてもいい香りだった。
まっすぐで扱いにくいことがコンプレックスな髪も、いつもより柔らかく感じる。城で使われるものはやっぱりどれもいいものなんだなぁとシフィルは感心してため息をついた。
「じゃあ、髪はわたしが結うわね」
腕まくりをしたローシェが、ブラシを手ににっこりと笑った。本当は、ユスティナ付きの侍女がしてくれる予定だったのだけど、ローシェにしてもらいたいと我儘を言わせてもらったのだ。朝、ローシェに結ってもらった髪型がとても嬉しかったし、プレゼントのワンピースにも似合っているような気がしたから。
「メイクは私ね」
カリンも、いつの間に持ち込んだのか、大きなメイクボックスを抱えている。彼女は手先が器用で、メイクも得意なのだ。
「その間にネイルも塗っちゃいましょ」
隣に座ったアレッタが、シフィルの手を取る。
「わたくしは何もできないから、ここでシフィルがお姫様に変身するところをじっくりと観察させてもらうわね」
向かいのソファに座ったユスティナが、わくわくとした表情でシフィルを見つめる。
ユスティナの言葉通り、本当にお姫様のようにシフィルは何もしないままにどんどん身支度が整えられていく。
「さぁ、仕上げにこれを」
芝居がかった口調でカリンが香水瓶の蓋を開ける。
ふわりとまるで魔法をかけるかのように甘い香りを身に纏ったあと、シフィルは何故か部屋の扉の前に誘導された。
「え、何で……」
突然帰れと言わんばかりの状況に、シフィルは戸惑って足を止めようとするけれど、ぐいぐいと背中を押されて止まれない。
「お待たせ、エルヴィン。もういいわよ」
「えっ」
シフィルが声をあげるのと、扉が開くのは同時だった。
そこに立っていたのはエルヴィンで、大きな花束を抱えて優しい笑みを浮かべている。
「シフィル、お誕生日おめでとう」
「エルヴィン……」
まさかこんなところで会えるとは思わなくて、シフィルは思わず息をのんで口元を押さえた。
「わたしたちの持てる力を結集して、シフィルを最高に可愛いお姫様にしたのよ」
シフィルのうしろから顔を出したローシェが、そう言って胸を張る。
「いつから……、こんな」
動揺を抑えつつ小さな声でつぶやくと、友人たちは顔を見合わせてくすくすと笑った。
「ふふ、秘密。シフィルは何も気にせず、素敵な夜を楽しんでらっしゃい」
ローシェに背中を押され、エルヴィンも微笑んで花束を差し出す。どうやら、彼もこの計画を知っていたらしい。
思いがけないサプライズに、涙がこみ上げる。淡い色合いでまとめられた可愛らしい花束を抱きしめて、シフィルは滲んだ涙を拭いながら笑った。
「行こうか、シフィル」
小さく笑ったエルヴィンが、シフィルの身体を抱き上げた。
「い、行くってどこに」
花束を落とさないようエルヴィンの首にしがみつきながら、シフィルは目を瞬く。ここから自宅まではそこそこ距離があるし、まさか抱き上げたまま移動するとも思えない。
エルヴィンは、悪戯っぽい笑みを浮かべてシフィルの耳元に唇を寄せた。
「マリウス様が、特別に城の貴賓室に泊まれるように取り計らってくれたんだ」
「嘘……」
思わず絶句したシフィルを見て、エルヴィンが楽しそうに笑う。
「今夜のシフィルは、お姫様だから。跪いて愛を誓う騎士の役目は、俺でいいかな」
「も、もちろんよ……」
エルヴィンの言葉は嬉しいけれど、城に泊まるなんて子供の頃にユスティナの部屋に泊まって以来だ。大人になった今、しかも貴賓室だなんて、緊張するなという方が間違っている。
どんな顔をすればいいのか分からなくて、結局花束に顔を埋めることにしたシフィルの額に口づけて、エルヴィンは城の廊下を歩き出した。
ぴかぴかに磨き上げられた肌はいつもよりしっとりとしているし、ユスティナが用意してくれた石鹸も、とてもいい香りだった。
まっすぐで扱いにくいことがコンプレックスな髪も、いつもより柔らかく感じる。城で使われるものはやっぱりどれもいいものなんだなぁとシフィルは感心してため息をついた。
「じゃあ、髪はわたしが結うわね」
腕まくりをしたローシェが、ブラシを手ににっこりと笑った。本当は、ユスティナ付きの侍女がしてくれる予定だったのだけど、ローシェにしてもらいたいと我儘を言わせてもらったのだ。朝、ローシェに結ってもらった髪型がとても嬉しかったし、プレゼントのワンピースにも似合っているような気がしたから。
「メイクは私ね」
カリンも、いつの間に持ち込んだのか、大きなメイクボックスを抱えている。彼女は手先が器用で、メイクも得意なのだ。
「その間にネイルも塗っちゃいましょ」
隣に座ったアレッタが、シフィルの手を取る。
「わたくしは何もできないから、ここでシフィルがお姫様に変身するところをじっくりと観察させてもらうわね」
向かいのソファに座ったユスティナが、わくわくとした表情でシフィルを見つめる。
ユスティナの言葉通り、本当にお姫様のようにシフィルは何もしないままにどんどん身支度が整えられていく。
「さぁ、仕上げにこれを」
芝居がかった口調でカリンが香水瓶の蓋を開ける。
ふわりとまるで魔法をかけるかのように甘い香りを身に纏ったあと、シフィルは何故か部屋の扉の前に誘導された。
「え、何で……」
突然帰れと言わんばかりの状況に、シフィルは戸惑って足を止めようとするけれど、ぐいぐいと背中を押されて止まれない。
「お待たせ、エルヴィン。もういいわよ」
「えっ」
シフィルが声をあげるのと、扉が開くのは同時だった。
そこに立っていたのはエルヴィンで、大きな花束を抱えて優しい笑みを浮かべている。
「シフィル、お誕生日おめでとう」
「エルヴィン……」
まさかこんなところで会えるとは思わなくて、シフィルは思わず息をのんで口元を押さえた。
「わたしたちの持てる力を結集して、シフィルを最高に可愛いお姫様にしたのよ」
シフィルのうしろから顔を出したローシェが、そう言って胸を張る。
「いつから……、こんな」
動揺を抑えつつ小さな声でつぶやくと、友人たちは顔を見合わせてくすくすと笑った。
「ふふ、秘密。シフィルは何も気にせず、素敵な夜を楽しんでらっしゃい」
ローシェに背中を押され、エルヴィンも微笑んで花束を差し出す。どうやら、彼もこの計画を知っていたらしい。
思いがけないサプライズに、涙がこみ上げる。淡い色合いでまとめられた可愛らしい花束を抱きしめて、シフィルは滲んだ涙を拭いながら笑った。
「行こうか、シフィル」
小さく笑ったエルヴィンが、シフィルの身体を抱き上げた。
「い、行くってどこに」
花束を落とさないようエルヴィンの首にしがみつきながら、シフィルは目を瞬く。ここから自宅まではそこそこ距離があるし、まさか抱き上げたまま移動するとも思えない。
エルヴィンは、悪戯っぽい笑みを浮かべてシフィルの耳元に唇を寄せた。
「マリウス様が、特別に城の貴賓室に泊まれるように取り計らってくれたんだ」
「嘘……」
思わず絶句したシフィルを見て、エルヴィンが楽しそうに笑う。
「今夜のシフィルは、お姫様だから。跪いて愛を誓う騎士の役目は、俺でいいかな」
「も、もちろんよ……」
エルヴィンの言葉は嬉しいけれど、城に泊まるなんて子供の頃にユスティナの部屋に泊まって以来だ。大人になった今、しかも貴賓室だなんて、緊張するなという方が間違っている。
どんな顔をすればいいのか分からなくて、結局花束に顔を埋めることにしたシフィルの額に口づけて、エルヴィンは城の廊下を歩き出した。
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