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番外編
シフィルの誕生日 1
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お誕生日番外編、ラストはシフィル。
「おはよう、シフィル。朝よ、起きて」
明るい声と眩しい光に、シフィルはゆっくりと目を開けた。
いつもと違う天井と顔をのぞき込むローシェを見て、昨夜から実家に泊まりに来ていることを思い出す。
「お誕生日おめでとう、シフィル」
「おはよう、ローシェ。ありがとう」
抱きついてきた可愛い妹を受け止めて、シフィルは微笑んだ。
今日は、結婚して初めてのシフィルの誕生日だけど、エルヴィンは昨日から泊まりの仕事で一緒に過ごすことができなかった。仕方ないと笑うシフィルよりもエルヴィンの方が落ち込んでいたけれど、誕生日をひとりで過ごすことはさすがに寂しかったので、実家に帰ってきているのだ。
幼い頃のようにローシェと一緒のベッドに入り、眠りに落ちる直前までずっと話をしていた。両親にもたくさん祝ってもらったし、幸せな誕生日を迎えられたと思う。
夜にはエルヴィンも帰ってくるので、少しだけとはいえ一緒に過ごすこともできそうだ。
ベッドから降りてうんと伸びをしたシフィルに、ローシェがにっこりと笑ってハンガーにかかった服を指差した。
「シフィル、今日はこの服を着てね。わたしからの誕生日プレゼントよ」
「え、嘘っ……」
淡い水色をした繊細なレースのワンピースを見て、シフィルは驚きに目を見開いた。それは、以前に店で見かけて気になっていたもの。袖口や胸元のパールボタンが華やかで、後ろ側の編み上げになったリボンも可愛くて、かなりの時間買おうかどうか悩んだのだ。
だけど、やっぱりこんなに可愛い服を買うことがまだ少し恥ずかしくて諦めたのに。
「シフィル、こういう服好きでしょう。きっと似合うと思ったから」
「嬉しい……! ありがとう、ローシェ」
思わず妹に抱きついてそう言うと、ローシェは満足そうな表情でうなずいた。
「誕生日だもの、今日はシフィルが大好きなものにいっぱい囲まれる一日にしたいの」
◇
着替えて身支度を整えたシフィルは、いつもよりふわふわとした気持ちで鏡の中の自分を見つめた。
ワンピースは着てみたらやっぱりとても可愛かったし、髪の毛もローシェが器用にリボンを編み込んでくれた。光によって青くも見える銀のリボンは、ワンピースとも色合いがぴったりで、そんなことにも嬉しくなる。
幸せな気持ちでいっぱいなせいか、我ながら表情もいつもより柔らかく見えて、だからこそエルヴィンにこの姿を見せられないことが、少しだけ残念になる。なるべく早く帰るとは言っていたけれど、きっと彼の帰宅は夕食にも間に合わないだろうから。
「シフィル、そろそろ行きましょ。お義姉様が待ってるわ」
ローシェに声をかけられて、シフィルは少し沈みかけた気持ちを慌てて振り払った。ユスティナもシフィルの誕生日を祝いたいと、たくさんのお菓子を用意して待っているらしい。大好きな幼馴染とのお茶会を、シフィルだって楽しみにしている。
「今、行くわ」
最後に確かめるように鏡をのぞき込み、いつもより華やかに纏められた髪にそっと触れたあと、シフィルはローシェの方へと駆け出した。
「おはよう、シフィル。朝よ、起きて」
明るい声と眩しい光に、シフィルはゆっくりと目を開けた。
いつもと違う天井と顔をのぞき込むローシェを見て、昨夜から実家に泊まりに来ていることを思い出す。
「お誕生日おめでとう、シフィル」
「おはよう、ローシェ。ありがとう」
抱きついてきた可愛い妹を受け止めて、シフィルは微笑んだ。
今日は、結婚して初めてのシフィルの誕生日だけど、エルヴィンは昨日から泊まりの仕事で一緒に過ごすことができなかった。仕方ないと笑うシフィルよりもエルヴィンの方が落ち込んでいたけれど、誕生日をひとりで過ごすことはさすがに寂しかったので、実家に帰ってきているのだ。
幼い頃のようにローシェと一緒のベッドに入り、眠りに落ちる直前までずっと話をしていた。両親にもたくさん祝ってもらったし、幸せな誕生日を迎えられたと思う。
夜にはエルヴィンも帰ってくるので、少しだけとはいえ一緒に過ごすこともできそうだ。
ベッドから降りてうんと伸びをしたシフィルに、ローシェがにっこりと笑ってハンガーにかかった服を指差した。
「シフィル、今日はこの服を着てね。わたしからの誕生日プレゼントよ」
「え、嘘っ……」
淡い水色をした繊細なレースのワンピースを見て、シフィルは驚きに目を見開いた。それは、以前に店で見かけて気になっていたもの。袖口や胸元のパールボタンが華やかで、後ろ側の編み上げになったリボンも可愛くて、かなりの時間買おうかどうか悩んだのだ。
だけど、やっぱりこんなに可愛い服を買うことがまだ少し恥ずかしくて諦めたのに。
「シフィル、こういう服好きでしょう。きっと似合うと思ったから」
「嬉しい……! ありがとう、ローシェ」
思わず妹に抱きついてそう言うと、ローシェは満足そうな表情でうなずいた。
「誕生日だもの、今日はシフィルが大好きなものにいっぱい囲まれる一日にしたいの」
◇
着替えて身支度を整えたシフィルは、いつもよりふわふわとした気持ちで鏡の中の自分を見つめた。
ワンピースは着てみたらやっぱりとても可愛かったし、髪の毛もローシェが器用にリボンを編み込んでくれた。光によって青くも見える銀のリボンは、ワンピースとも色合いがぴったりで、そんなことにも嬉しくなる。
幸せな気持ちでいっぱいなせいか、我ながら表情もいつもより柔らかく見えて、だからこそエルヴィンにこの姿を見せられないことが、少しだけ残念になる。なるべく早く帰るとは言っていたけれど、きっと彼の帰宅は夕食にも間に合わないだろうから。
「シフィル、そろそろ行きましょ。お義姉様が待ってるわ」
ローシェに声をかけられて、シフィルは少し沈みかけた気持ちを慌てて振り払った。ユスティナもシフィルの誕生日を祝いたいと、たくさんのお菓子を用意して待っているらしい。大好きな幼馴染とのお茶会を、シフィルだって楽しみにしている。
「今、行くわ」
最後に確かめるように鏡をのぞき込み、いつもより華やかに纏められた髪にそっと触れたあと、シフィルはローシェの方へと駆け出した。
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