私のことを嫌いなはずの冷徹騎士に、何故か甘く愛されています ※ただし、目は合わせてくれない

夕月

文字の大きさ
上 下
35 / 43
番外編

シフィルの誕生日 1

しおりを挟む
お誕生日番外編、ラストはシフィル。




「おはよう、シフィル。朝よ、起きて」
 明るい声と眩しい光に、シフィルはゆっくりと目を開けた。
 いつもと違う天井と顔をのぞき込むローシェを見て、昨夜から実家に泊まりに来ていることを思い出す。
「お誕生日おめでとう、シフィル」
「おはよう、ローシェ。ありがとう」
 抱きついてきた可愛い妹を受け止めて、シフィルは微笑んだ。

 今日は、結婚して初めてのシフィルの誕生日だけど、エルヴィンは昨日から泊まりの仕事で一緒に過ごすことができなかった。仕方ないと笑うシフィルよりもエルヴィンの方が落ち込んでいたけれど、誕生日をひとりで過ごすことはさすがに寂しかったので、実家に帰ってきているのだ。
 幼い頃のようにローシェと一緒のベッドに入り、眠りに落ちる直前までずっと話をしていた。両親にもたくさん祝ってもらったし、幸せな誕生日を迎えられたと思う。
 夜にはエルヴィンも帰ってくるので、少しだけとはいえ一緒に過ごすこともできそうだ。

 ベッドから降りてうんと伸びをしたシフィルに、ローシェがにっこりと笑ってハンガーにかかった服を指差した。
「シフィル、今日はこの服を着てね。わたしからの誕生日プレゼントよ」
「え、嘘っ……」
 淡い水色をした繊細なレースのワンピースを見て、シフィルは驚きに目を見開いた。それは、以前に店で見かけて気になっていたもの。袖口や胸元のパールボタンが華やかで、後ろ側の編み上げになったリボンも可愛くて、かなりの時間買おうかどうか悩んだのだ。
 だけど、やっぱりこんなに可愛い服を買うことがまだ少し恥ずかしくて諦めたのに。
「シフィル、こういう服好きでしょう。きっと似合うと思ったから」
「嬉しい……! ありがとう、ローシェ」
 思わず妹に抱きついてそう言うと、ローシェは満足そうな表情でうなずいた。
「誕生日だもの、今日はシフィルが大好きなものにいっぱい囲まれる一日にしたいの」

 ◇

 着替えて身支度を整えたシフィルは、いつもよりふわふわとした気持ちで鏡の中の自分を見つめた。
 ワンピースは着てみたらやっぱりとても可愛かったし、髪の毛もローシェが器用にリボンを編み込んでくれた。光によって青くも見える銀のリボンは、ワンピースとも色合いがぴったりで、そんなことにも嬉しくなる。
 幸せな気持ちでいっぱいなせいか、我ながら表情もいつもより柔らかく見えて、だからこそエルヴィンにこの姿を見せられないことが、少しだけ残念になる。なるべく早く帰るとは言っていたけれど、きっと彼の帰宅は夕食にも間に合わないだろうから。

「シフィル、そろそろ行きましょ。お義姉様が待ってるわ」
 ローシェに声をかけられて、シフィルは少し沈みかけた気持ちを慌てて振り払った。ユスティナもシフィルの誕生日を祝いたいと、たくさんのお菓子を用意して待っているらしい。大好きな幼馴染とのお茶会を、シフィルだって楽しみにしている。
「今、行くわ」
 最後に確かめるように鏡をのぞき込み、いつもより華やかに纏められた髪にそっと触れたあと、シフィルはローシェの方へと駆け出した。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

【完結】お飾りの妻からの挑戦状

おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。 「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」 しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ…… ◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています ◇全18話で完結予定

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

元彼にハメ婚させられちゃいました

鳴宮鶉子
恋愛
元彼にハメ婚させられちゃいました

〖完結〗私はあなたのせいで死ぬのです。

藍川みいな
恋愛
「シュリル嬢、俺と結婚してくれませんか?」 憧れのレナード・ドリスト侯爵からのプロポーズ。 彼は美しいだけでなく、とても紳士的で頼りがいがあって、何より私を愛してくれていました。 すごく幸せでした……あの日までは。 結婚して1年が過ぎた頃、旦那様は愛人を連れて来ました。次々に愛人を連れて来て、愛人に子供まで出来た。 それでも愛しているのは君だけだと、離婚さえしてくれません。 そして、妹のダリアが旦那様の子を授かった…… もう耐える事は出来ません。 旦那様、私はあなたのせいで死にます。 だから、後悔しながら生きてください。 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 全15話で完結になります。 この物語は、主人公が8話で登場しなくなります。 感想の返信が出来なくて、申し訳ありません。 たくさんの感想ありがとうございます。 次作の『もう二度とあなたの妻にはなりません!』は、このお話の続編になっております。 このお話はバッドエンドでしたが、次作はただただシュリルが幸せになるお話です。 良かったら読んでください。

【完結】旦那様は、妻の私よりも平民の愛人を大事にしたいようです

よどら文鳥
恋愛
 貴族のことを全く理解していない旦那様は、愛人を紹介してきました。  どうやら愛人を第二夫人に招き入れたいそうです。  ですが、この国では一夫多妻制があるとはいえ、それは十分に養っていける環境下にある上、貴族同士でしか認められません。  旦那様は貴族とはいえ現状無職ですし、愛人は平民のようです。  現状を整理すると、旦那様と愛人は不倫行為をしているというわけです。  貴族の人間が不倫行為などすれば、この国での処罰は極刑の可能性もあります。  それすら理解せずに堂々と……。  仕方がありません。  旦那様の気持ちはすでに愛人の方に夢中ですし、その願い叶えられるように私も協力致しましょう。  ただし、平和的に叶えられるかは別です。  政略結婚なので、周りのことも考えると離婚は簡単にできません。ならばこれくらいの抵抗は……させていただきますよ?  ですが、周囲からの協力がありまして、離婚に持っていくこともできそうですね。  折角ですので離婚する前に、愛人と旦那様が私たちの作戦に追い詰められているところもじっくりとこの目で見ておこうかと思います。

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」 5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。 その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

【完結】忘れてください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。 貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。 夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。 貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。 もういいの。 私は貴方を解放する覚悟を決めた。 貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。 私の事は忘れてください。 ※6月26日初回完結  7月12日2回目完結しました。 お読みいただきありがとうございます。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にノーチェの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、ノーチェのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。