私のことを嫌いなはずの冷徹騎士に、何故か甘く愛されています ※ただし、目は合わせてくれない

夕月

文字の大きさ
上 下
32 / 43
番外編

エルヴィンの誕生日 2

しおりを挟む
「くっ……、嵌められたわ」
 下着を握りしめて、シフィルは大きなため息をつく。
 あの時は酔っていたけど、今は全くの素面だ。その状態でこんな薄い下着を着るなんて、恥ずかしくてたまらない。
 あらためて広げてみても、本当に頼りないほどに薄い。向こう側が綺麗に透けて見える。
「……これ、着る意味あるのかしら」
 着たところで、何も隠せないと思う。かといって、それならいっそ裸で、と開き直れるわけではないけれど。
 ため息をつきながら、シフィルはこの薄い下着を身につけるべく、ゆっくりと夜着を脱ぎ捨てた。
 

「や、やっぱり無理……」
 慣れない下着の構造に四苦八苦しながらも、ようやく身につけたシフィルは、鏡に映った自分のあまりの姿に半泣きになった。色々と見えすぎて、似合うとか似合わないとかいう次元を超えているような気がする。
「シフィル?」
 外からエルヴィンの声がして、シフィルはびくりと肩を震わせた。
「待って、今……行くから」
「そうか、良かった。あまりに遅いから、中で倒れてるんじゃないかと心配で」
「だ、大丈夫よ」
 返事をしながら、体調が悪くなったと逃げれば良かったと少しだけ後悔する。とはいえ、こんな日に体調を崩したなんてことになったら、明日の誕生日が台無しになってしまうから、そんな嘘はつけないけれど。
 とりあえず、そばのガウンを羽織って、シフィルは恐る恐る扉を開けた。

「何でガウンを着てるんだ」
 不満そうなエルヴィンに出迎えられて、シフィルは唇を尖らせる。
「こんな明るい部屋で……無理に決まってるでしょう」
「じゃあ、今すぐ明かりを消そうか」
 くすりと笑ったエルヴィンが、部屋の明かりを消したから、シフィルは少しだけ安心してため息をつく。それでも真っ暗ではないから、落ち着かない気持ちに変わりはないけれど。

 
 あっという間にベッドの上に連れて行かれたシフィルは、自分を組み敷くエルヴィンの顔を見上げた。
「あの、ね。お願いがあるんだけど」
「お願い?」
 シーツの上に広がる髪を愛おしそうに撫でながら、エルヴィンが首をかしげる。
「えっと、あの……、ほら、明日はエルヴィンの誕生日でしょう。だから、あんまり夜更かしはしたくないかなって」
「……この状況で、それを言う? シフィル」
「だ、だって! 明日はいっぱいお祝いしたいんだもの。色々と準備だってしてるし、だからその、動けなくなったら、困るから」
 シフィルの必死の訴えに、エルヴィンは小さく唸った。
「なるべく、努力はするけど」
「エルヴィンとこうするのが嫌ってわけじゃないのよ。だけどほら、睡眠は大事でしょう」
 不満気なエルヴィンに、シフィルは一生懸命に言い募る。
「それなら、シフィルにも色々と協力してもらわないといけないな」
「協力……?」
 意地悪な笑みを浮かべたエルヴィンに嫌な予感がする。
 頬を引き攣らせたシフィルの唇に一度優しくキスを落としたあと、エルヴィンは壁の時計を指差した。

「日付が、変わったな」
「あ……、本当。お誕生日おめでとう、エルヴィン。こうして一番にお祝いを言えて嬉しいわ」
 思わず目の前のエルヴィンに抱きついてそう言うと、エルヴィンの大きな手が優しく頭を撫でてくれる。
「俺も、一番にシフィルに祝ってもらえて嬉しい。――ということで、今日は誕生日だからシフィルに俺の我儘をきいてもらいたいな」
「え?」
「夜更かしをせず、早く寝るためには、シフィルの協力が不可欠だと思う」
「んん? そういう……もの、かしら」
 釈然とせず、微妙な表情を浮かべるシフィルに、エルヴィンはにっこりと笑いかける。
「だからまずは、その邪魔なガウンを脱ごうか、シフィル」
「え、え……」
 いつかは脱がなければならないことは覚悟していたけれど、自分で脱ぐというのはかなり勇気がいる。
 言葉に詰まるシフィルを見て、エルヴィンは楽しそうに笑った。
「誕生日には、いっぱいお祝いしてくれるってさっきシフィルも言っただろう」
「そういう意味じゃないのに……っ」
 唇を尖らせつつも、ここで抵抗していてもどんどん時間が過ぎるだけだ。睡眠時間を確保したいシフィルは、ため息をつくと一度起き上がり、ガウンの腰紐に手をかけた。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

最後に、お願いがあります

狂乱の傀儡師
恋愛
三年間、王妃になるためだけに尽くしてきた馬鹿王子から、即位の日の直前に婚約破棄されたエマ。 彼女の最後のお願いには、国を揺るがすほどの罠が仕掛けられていた。

【完結】お飾りの妻からの挑戦状

おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。 「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」 しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ…… ◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています ◇全18話で完結予定

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

元彼にハメ婚させられちゃいました

鳴宮鶉子
恋愛
元彼にハメ婚させられちゃいました

〖完結〗私はあなたのせいで死ぬのです。

藍川みいな
恋愛
「シュリル嬢、俺と結婚してくれませんか?」 憧れのレナード・ドリスト侯爵からのプロポーズ。 彼は美しいだけでなく、とても紳士的で頼りがいがあって、何より私を愛してくれていました。 すごく幸せでした……あの日までは。 結婚して1年が過ぎた頃、旦那様は愛人を連れて来ました。次々に愛人を連れて来て、愛人に子供まで出来た。 それでも愛しているのは君だけだと、離婚さえしてくれません。 そして、妹のダリアが旦那様の子を授かった…… もう耐える事は出来ません。 旦那様、私はあなたのせいで死にます。 だから、後悔しながら生きてください。 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 全15話で完結になります。 この物語は、主人公が8話で登場しなくなります。 感想の返信が出来なくて、申し訳ありません。 たくさんの感想ありがとうございます。 次作の『もう二度とあなたの妻にはなりません!』は、このお話の続編になっております。 このお話はバッドエンドでしたが、次作はただただシュリルが幸せになるお話です。 良かったら読んでください。

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」 5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。 その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

【完結】忘れてください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。 貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。 夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。 貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。 もういいの。 私は貴方を解放する覚悟を決めた。 貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。 私の事は忘れてください。 ※6月26日初回完結  7月12日2回目完結しました。 お読みいただきありがとうございます。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にノーチェの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、ノーチェのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。