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番外編
エルヴィンの誕生日 2
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「くっ……、嵌められたわ」
下着を握りしめて、シフィルは大きなため息をつく。
あの時は酔っていたけど、今は全くの素面だ。その状態でこんな薄い下着を着るなんて、恥ずかしくてたまらない。
あらためて広げてみても、本当に頼りないほどに薄い。向こう側が綺麗に透けて見える。
「……これ、着る意味あるのかしら」
着たところで、何も隠せないと思う。かといって、それならいっそ裸で、と開き直れるわけではないけれど。
ため息をつきながら、シフィルはこの薄い下着を身につけるべく、ゆっくりと夜着を脱ぎ捨てた。
「や、やっぱり無理……」
慣れない下着の構造に四苦八苦しながらも、ようやく身につけたシフィルは、鏡に映った自分のあまりの姿に半泣きになった。色々と見えすぎて、似合うとか似合わないとかいう次元を超えているような気がする。
「シフィル?」
外からエルヴィンの声がして、シフィルはびくりと肩を震わせた。
「待って、今……行くから」
「そうか、良かった。あまりに遅いから、中で倒れてるんじゃないかと心配で」
「だ、大丈夫よ」
返事をしながら、体調が悪くなったと逃げれば良かったと少しだけ後悔する。とはいえ、こんな日に体調を崩したなんてことになったら、明日の誕生日が台無しになってしまうから、そんな嘘はつけないけれど。
とりあえず、そばのガウンを羽織って、シフィルは恐る恐る扉を開けた。
「何でガウンを着てるんだ」
不満そうなエルヴィンに出迎えられて、シフィルは唇を尖らせる。
「こんな明るい部屋で……無理に決まってるでしょう」
「じゃあ、今すぐ明かりを消そうか」
くすりと笑ったエルヴィンが、部屋の明かりを消したから、シフィルは少しだけ安心してため息をつく。それでも真っ暗ではないから、落ち着かない気持ちに変わりはないけれど。
あっという間にベッドの上に連れて行かれたシフィルは、自分を組み敷くエルヴィンの顔を見上げた。
「あの、ね。お願いがあるんだけど」
「お願い?」
シーツの上に広がる髪を愛おしそうに撫でながら、エルヴィンが首をかしげる。
「えっと、あの……、ほら、明日はエルヴィンの誕生日でしょう。だから、あんまり夜更かしはしたくないかなって」
「……この状況で、それを言う? シフィル」
「だ、だって! 明日はいっぱいお祝いしたいんだもの。色々と準備だってしてるし、だからその、動けなくなったら、困るから」
シフィルの必死の訴えに、エルヴィンは小さく唸った。
「なるべく、努力はするけど」
「エルヴィンとこうするのが嫌ってわけじゃないのよ。だけどほら、睡眠は大事でしょう」
不満気なエルヴィンに、シフィルは一生懸命に言い募る。
「それなら、シフィルにも色々と協力してもらわないといけないな」
「協力……?」
意地悪な笑みを浮かべたエルヴィンに嫌な予感がする。
頬を引き攣らせたシフィルの唇に一度優しくキスを落としたあと、エルヴィンは壁の時計を指差した。
「日付が、変わったな」
「あ……、本当。お誕生日おめでとう、エルヴィン。こうして一番にお祝いを言えて嬉しいわ」
思わず目の前のエルヴィンに抱きついてそう言うと、エルヴィンの大きな手が優しく頭を撫でてくれる。
「俺も、一番にシフィルに祝ってもらえて嬉しい。――ということで、今日は誕生日だからシフィルに俺の我儘をきいてもらいたいな」
「え?」
「夜更かしをせず、早く寝るためには、シフィルの協力が不可欠だと思う」
「んん? そういう……もの、かしら」
釈然とせず、微妙な表情を浮かべるシフィルに、エルヴィンはにっこりと笑いかける。
「だからまずは、その邪魔なガウンを脱ごうか、シフィル」
「え、え……」
いつかは脱がなければならないことは覚悟していたけれど、自分で脱ぐというのはかなり勇気がいる。
言葉に詰まるシフィルを見て、エルヴィンは楽しそうに笑った。
「誕生日には、いっぱいお祝いしてくれるってさっきシフィルも言っただろう」
「そういう意味じゃないのに……っ」
唇を尖らせつつも、ここで抵抗していてもどんどん時間が過ぎるだけだ。睡眠時間を確保したいシフィルは、ため息をつくと一度起き上がり、ガウンの腰紐に手をかけた。
下着を握りしめて、シフィルは大きなため息をつく。
あの時は酔っていたけど、今は全くの素面だ。その状態でこんな薄い下着を着るなんて、恥ずかしくてたまらない。
あらためて広げてみても、本当に頼りないほどに薄い。向こう側が綺麗に透けて見える。
「……これ、着る意味あるのかしら」
着たところで、何も隠せないと思う。かといって、それならいっそ裸で、と開き直れるわけではないけれど。
ため息をつきながら、シフィルはこの薄い下着を身につけるべく、ゆっくりと夜着を脱ぎ捨てた。
「や、やっぱり無理……」
慣れない下着の構造に四苦八苦しながらも、ようやく身につけたシフィルは、鏡に映った自分のあまりの姿に半泣きになった。色々と見えすぎて、似合うとか似合わないとかいう次元を超えているような気がする。
「シフィル?」
外からエルヴィンの声がして、シフィルはびくりと肩を震わせた。
「待って、今……行くから」
「そうか、良かった。あまりに遅いから、中で倒れてるんじゃないかと心配で」
「だ、大丈夫よ」
返事をしながら、体調が悪くなったと逃げれば良かったと少しだけ後悔する。とはいえ、こんな日に体調を崩したなんてことになったら、明日の誕生日が台無しになってしまうから、そんな嘘はつけないけれど。
とりあえず、そばのガウンを羽織って、シフィルは恐る恐る扉を開けた。
「何でガウンを着てるんだ」
不満そうなエルヴィンに出迎えられて、シフィルは唇を尖らせる。
「こんな明るい部屋で……無理に決まってるでしょう」
「じゃあ、今すぐ明かりを消そうか」
くすりと笑ったエルヴィンが、部屋の明かりを消したから、シフィルは少しだけ安心してため息をつく。それでも真っ暗ではないから、落ち着かない気持ちに変わりはないけれど。
あっという間にベッドの上に連れて行かれたシフィルは、自分を組み敷くエルヴィンの顔を見上げた。
「あの、ね。お願いがあるんだけど」
「お願い?」
シーツの上に広がる髪を愛おしそうに撫でながら、エルヴィンが首をかしげる。
「えっと、あの……、ほら、明日はエルヴィンの誕生日でしょう。だから、あんまり夜更かしはしたくないかなって」
「……この状況で、それを言う? シフィル」
「だ、だって! 明日はいっぱいお祝いしたいんだもの。色々と準備だってしてるし、だからその、動けなくなったら、困るから」
シフィルの必死の訴えに、エルヴィンは小さく唸った。
「なるべく、努力はするけど」
「エルヴィンとこうするのが嫌ってわけじゃないのよ。だけどほら、睡眠は大事でしょう」
不満気なエルヴィンに、シフィルは一生懸命に言い募る。
「それなら、シフィルにも色々と協力してもらわないといけないな」
「協力……?」
意地悪な笑みを浮かべたエルヴィンに嫌な予感がする。
頬を引き攣らせたシフィルの唇に一度優しくキスを落としたあと、エルヴィンは壁の時計を指差した。
「日付が、変わったな」
「あ……、本当。お誕生日おめでとう、エルヴィン。こうして一番にお祝いを言えて嬉しいわ」
思わず目の前のエルヴィンに抱きついてそう言うと、エルヴィンの大きな手が優しく頭を撫でてくれる。
「俺も、一番にシフィルに祝ってもらえて嬉しい。――ということで、今日は誕生日だからシフィルに俺の我儘をきいてもらいたいな」
「え?」
「夜更かしをせず、早く寝るためには、シフィルの協力が不可欠だと思う」
「んん? そういう……もの、かしら」
釈然とせず、微妙な表情を浮かべるシフィルに、エルヴィンはにっこりと笑いかける。
「だからまずは、その邪魔なガウンを脱ごうか、シフィル」
「え、え……」
いつかは脱がなければならないことは覚悟していたけれど、自分で脱ぐというのはかなり勇気がいる。
言葉に詰まるシフィルを見て、エルヴィンは楽しそうに笑った。
「誕生日には、いっぱいお祝いしてくれるってさっきシフィルも言っただろう」
「そういう意味じゃないのに……っ」
唇を尖らせつつも、ここで抵抗していてもどんどん時間が過ぎるだけだ。睡眠時間を確保したいシフィルは、ため息をつくと一度起き上がり、ガウンの腰紐に手をかけた。
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