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番外編
ふたりでお茶を 1
しおりを挟む「……ねぇ、エルヴィン。その眉間の皺、もう少し何とかならない?」
ため息混じりのシフィルの言葉に、エルヴィンは唇を引き結び、更に険しい表情になってしまう。
明るいカフェにいるはずなのに、二人の座っているこの一角だけは妙な緊張感が漂っている。
新しくできたこのカフェに行ってみたいと言ったシフィルの希望を叶えてくれた、久しぶりのデートのはずなのに、エルヴィンはずっと不機嫌な顔をしている。本当に不機嫌でないことは、シフィルだってもう見分けられるようになったけれど、それでも険しい顔をしたエルヴィンと向かい合って座るより、笑顔で笑い合いたいと思ってしまう。
「こんな、店だとは思わなかった」
ため息と共につぶやいたエルヴィンは、にらみつけるように店内を見回す。
新しい店ということもあってか、客層は若い女性が多数を占める。あちこちで、抑えめだけど華やいだ声が響くのを聞いて、エルヴィンはまた眉を顰めた。
「あぁ、ごめんなさい。女性客ばかりのお店だと、居心地が悪いかしら。でも、ここのチョコレートタルトが美味しいって聞いて、どうしても食べてみたかったの」
少し眉を下げたシフィルを見て、エルヴィンは慌てたように首を振った。
「いや、それは構わないんだけど、何というか……」
言葉を探すように黙り込んだエルヴィンを見て、シフィルは首をかしげた。
その時、二人のテーブルのそばに店員の男性がやってきた。
「ご注文は、お決まりですか?」
爽やかな笑顔を浮かべる店員を見た瞬間、エルヴィンの表情は更に冷え冷えとしたものになる。
「あ、えっと……」
「まだ決めかねているので」
答えようとしたシフィルの言葉にかぶせるように、エルヴィンが低い声で言う。
「かしこまりました。では、お決まりになりましたら、こちらのベルでお知らせください」
店員がにっこりと笑って離れていくのを見送って、ようやくエルヴィンが警戒を解くように身体の力を抜いた。
「店員が、何故男ばかりなんだ」
不満そうにつぶやいたエルヴィンを見て、シフィルは目を瞬く。意識していなかったけれど、言われてみれば確かに店員は若い男性ばかりで、女性は見当たらない。女性客がほとんどなのも、どうやら店員目当てだからのようだ。
「アレッタが、カフェ店員の制服も良いものだわってうっとりしてたけど、そういうことだったのかしら」
「知っていたら、シフィルを連れて来なかったのに」
苦い表情を浮かべるエルヴィンを見て、シフィルはくすくすと笑った。
「私は、制服の男性にそんなに興味はないわ」
「そんなに、ってことは、少しは興味があるんだろう」
拗ねたような口調にまた小さく笑いながら、シフィルはそっとエルヴィンに向かって身を乗り出した。
「私が好きなのは、エルヴィンが着る騎士の制服かな」
「……っ、シフィル、外でそういうことを言うのは……」
途端に険しい表情になったエルヴィンが、うろうろと視線をさまよわせる。手で押さえた口元が微かに緩んでいるのを見て、シフィルは笑みを浮かべた。
「ね、だから心配しないで。それに、今一番興味があるのは、チョコレートタルトだし」
「それはそれで、何だか負けたような気がして複雑なんだが」
落ち着かせるように水を飲んだエルヴィンが、大きなため息をつくので、シフィルは声をあげて笑った。
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