私のことを嫌いなはずの冷徹騎士に、何故か甘く愛されています ※ただし、目は合わせてくれない

夕月

文字の大きさ
上 下
27 / 43
番外編

ふたりでお茶を 1

しおりを挟む

「……ねぇ、エルヴィン。その眉間の皺、もう少し何とかならない?」
 ため息混じりのシフィルの言葉に、エルヴィンは唇を引き結び、更に険しい表情になってしまう。
 明るいカフェにいるはずなのに、二人の座っているこの一角だけは妙な緊張感が漂っている。
 新しくできたこのカフェに行ってみたいと言ったシフィルの希望を叶えてくれた、久しぶりのデートのはずなのに、エルヴィンはずっと不機嫌な顔をしている。本当に不機嫌でないことは、シフィルだってもう見分けられるようになったけれど、それでも険しい顔をしたエルヴィンと向かい合って座るより、笑顔で笑い合いたいと思ってしまう。
 
「こんな、店だとは思わなかった」
 ため息と共につぶやいたエルヴィンは、にらみつけるように店内を見回す。
 新しい店ということもあってか、客層は若い女性が多数を占める。あちこちで、抑えめだけど華やいだ声が響くのを聞いて、エルヴィンはまた眉を顰めた。
「あぁ、ごめんなさい。女性客ばかりのお店だと、居心地が悪いかしら。でも、ここのチョコレートタルトが美味しいって聞いて、どうしても食べてみたかったの」
 少し眉を下げたシフィルを見て、エルヴィンは慌てたように首を振った。
「いや、それは構わないんだけど、何というか……」
 言葉を探すように黙り込んだエルヴィンを見て、シフィルは首をかしげた。
 その時、二人のテーブルのそばに店員の男性がやってきた。
「ご注文は、お決まりですか?」
 爽やかな笑顔を浮かべる店員を見た瞬間、エルヴィンの表情は更に冷え冷えとしたものになる。
「あ、えっと……」
「まだ決めかねているので」
 答えようとしたシフィルの言葉にかぶせるように、エルヴィンが低い声で言う。
「かしこまりました。では、お決まりになりましたら、こちらのベルでお知らせください」
 店員がにっこりと笑って離れていくのを見送って、ようやくエルヴィンが警戒を解くように身体の力を抜いた。

「店員が、何故男ばかりなんだ」
 不満そうにつぶやいたエルヴィンを見て、シフィルは目を瞬く。意識していなかったけれど、言われてみれば確かに店員は若い男性ばかりで、女性は見当たらない。女性客がほとんどなのも、どうやら店員目当てだからのようだ。
「アレッタが、カフェ店員の制服も良いものだわってうっとりしてたけど、そういうことだったのかしら」
「知っていたら、シフィルを連れて来なかったのに」
 苦い表情を浮かべるエルヴィンを見て、シフィルはくすくすと笑った。
「私は、制服の男性にそんなに興味はないわ」
「そんなに、ってことは、少しは興味があるんだろう」
 拗ねたような口調にまた小さく笑いながら、シフィルはそっとエルヴィンに向かって身を乗り出した。
「私が好きなのは、エルヴィンが着る騎士の制服かな」
「……っ、シフィル、外でそういうことを言うのは……」
 途端に険しい表情になったエルヴィンが、うろうろと視線をさまよわせる。手で押さえた口元が微かに緩んでいるのを見て、シフィルは笑みを浮かべた。
「ね、だから心配しないで。それに、今一番興味があるのは、チョコレートタルトだし」
「それはそれで、何だか負けたような気がして複雑なんだが」
 落ち着かせるように水を飲んだエルヴィンが、大きなため息をつくので、シフィルは声をあげて笑った。

しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

【完結】お飾りの妻からの挑戦状

おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。 「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」 しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ…… ◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています ◇全18話で完結予定

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

〖完結〗私はあなたのせいで死ぬのです。

藍川みいな
恋愛
「シュリル嬢、俺と結婚してくれませんか?」 憧れのレナード・ドリスト侯爵からのプロポーズ。 彼は美しいだけでなく、とても紳士的で頼りがいがあって、何より私を愛してくれていました。 すごく幸せでした……あの日までは。 結婚して1年が過ぎた頃、旦那様は愛人を連れて来ました。次々に愛人を連れて来て、愛人に子供まで出来た。 それでも愛しているのは君だけだと、離婚さえしてくれません。 そして、妹のダリアが旦那様の子を授かった…… もう耐える事は出来ません。 旦那様、私はあなたのせいで死にます。 だから、後悔しながら生きてください。 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 全15話で完結になります。 この物語は、主人公が8話で登場しなくなります。 感想の返信が出来なくて、申し訳ありません。 たくさんの感想ありがとうございます。 次作の『もう二度とあなたの妻にはなりません!』は、このお話の続編になっております。 このお話はバッドエンドでしたが、次作はただただシュリルが幸せになるお話です。 良かったら読んでください。

元彼にハメ婚させられちゃいました

鳴宮鶉子
恋愛
元彼にハメ婚させられちゃいました

私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。

石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。 自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。 そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。 好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

【完結】結婚式前~婚約者の王太子に「最愛の女が別にいるので、お前を愛することはない」と言われました~

黒塔真実
恋愛
挙式が迫るなか婚約者の王太子に「結婚しても俺の最愛の女は別にいる。お前を愛することはない」とはっきり言い切られた公爵令嬢アデル。しかしどんなに婚約者としてないがしろにされても女性としての誇りを傷つけられても彼女は平気だった。なぜなら大切な「心の拠り所」があるから……。しかし、王立学園の卒業ダンスパーティーの夜、アデルはかつてない、世にも酷い仕打ちを受けるのだった―― ※神視点。■なろうにも別タイトルで重複投稿←【ジャンル日間4位】。

私の知らぬ間に

豆狸
恋愛
私は激しい勢いで学園の壁に叩きつけられた。 背中が痛い。 私は死ぬのかしら。死んだら彼に会えるのかしら。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にノーチェの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、ノーチェのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。