私のことを嫌いなはずの冷徹騎士に、何故か甘く愛されています ※ただし、目は合わせてくれない

夕月

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番外編

シフィルの愛読書 1

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 シフィルの趣味のひとつは、読書だ。なかでも甘い恋愛小説を読むのが好きで、お気に入りの作家の新刊が出るたびに、ホクホクとしながら買い集めている。
 少し官能的な描写に、ドキドキしながら読むのも楽しい。
 
 今日は、エルヴィンは一日部屋に篭って仕事をすると言っていたから、シフィルはゆっくり読書をしながら過ごすつもりだ。
 ポットにたっぷりと紅茶を淹れ、時々つまめるようにお菓子も準備した。
 ソファの上に、いつもより多めにクッションを乗せて座り心地を良くして、シフィルは鼻歌交じりでご機嫌に本棚へと向かう。

 本棚の奥にひっそりと並べられたのは、シフィルのお気に入りの小説たち。
 甘く時に激しい恋愛小説なのだけど、タイトルや表紙が少し刺激的だったりするので、なんとなく隠してしまうのだ。
 シフィルはその中からまだ読んでいなかった本を取り出すと、ウキウキとした足取りでソファへと戻った。


 
「シフィル」
 夢中で読んでいると、不意に背後から声をかけられて、シフィルは飛び上がった。
「……きゃあぁっ」
「そんなに驚かなくても」
 苦笑しながらエルヴィンは、驚いた拍子にシフィルが床に落としてしまった本を拾おうと手を伸ばす。
「あ、待っ……」
 エルヴィンにどんな本を読んでいるのかを知られるのが気恥ずかしくて、シフィルは慌てて手を伸ばすものの、先にエルヴィンが本を拾い上げてしまった。

「……なかなか刺激的な本を読んでるんだな、シフィル」
 タイトルを確認したエルヴィンは、くすりと笑って本を撫でる。
「や、あの、それは……っ、返してっ」
 一気に顔を真っ赤にしたシフィルは、本を取り返そうとするけれど、エルヴィンは笑いながら手を高く挙げてしまう。
 中を確認するようにパラパラとページをめくったエルヴィンは、悪戯っぽい笑顔を浮かべてシフィルを見た。

「……騎士とお姫様、か」
 幼い頃から変わらない、と言われているようで、シフィルは唇を尖らせてぷいと顔を背ける。
「わ、悪い?」
「いや、全然。……ふぅん、シフィルはこういうことをしたかったのかな?」
 にっこりと笑って開いたページを差し出され、シフィルは真っ赤になって目を見開く。
 美しい絵柄の挿絵が広がるそのページには、服をはだけた状態で、更にレースのアイマスクで目隠しをされたヒロインのお姫様と、妖艶な表情でその肌に口づけを落とすヒーローである騎士の様子が描かれていた。

「ち、違……っ! っていうか、ネタバレ……っ!」
 まだ全部読んでいなかったのに、今後の展開をバラされてしまって、シフィルは真っ赤になりつつも頬を膨らませる。楽しみにしていた新刊だったのに。
 どんな展開であの挿絵のようなことになるのか、気になって仕方がない。
「もう、返して……」
 取り返そうと伸ばした手を取られ、シフィルの身体はソファに押しつけられた。
 くすりと妖艶な笑みを浮かべたエルヴィンが、しゅるりとタイを首から外すと、シフィルの目を覆うようにして頭に結んだ。
「……っ、んん!?」
 視界を奪われて、驚きに声をあげようとしたら、口づけでそれも阻止されてしまう。
「え、ちょっ……エルヴィン?」
 唇が離れていった瞬間に慌てて目元に手を伸ばそうとするものの、エルヴィンに手首を掴まれてしまった。
 何も見えない状況だけど、すぐそばでエルヴィンが微かに笑ったのが気配で分かる。
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