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番外編
わたしのドレスは、どう選ぶ? 1
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引き続き、ローシェ視点の番外編。
ユスティナの部屋をあとにしたローシェは、ふと隣を歩くマリウスの顔を見上げた。
「ん? どうしたの、ローシェ」
視線に気づいたのか、マリウスは優しい微笑みを浮かべて軽く首をかしげる。一見可愛らしく爽やかなこの少年が、実はとても冷静で頭のきれる人であることを、知る人は少ない。
「ううん、何でもないわ。ただ、結婚式って素敵だなって思っただけ」
「そうだね。ローシェのドレス姿も、きっととても可愛いだろうね。僕らの結婚式も、楽しみだよ」
「本当に?」
首をかしげたローシェを見て、マリウスはくすりと笑った。
「きみのドレスに僕が全く口を出さないからって、拗ねてるの?」
「……っ」
心の中を言い当てられて、ローシェは思わず言葉に詰まった。
第三王子であるマリウスは幼い頃から優秀で、それでも王位を巡る争いが起きないよう、自ら希望して隣国にずっと留学していた。十七歳になって帰国したマリウスは、王太子である兄を支えていくと宣言すると同時に、ローシェに婚約を持ちかけてきた。
表向きは、可憐なローシェに一目惚れしたのだと語るマリウスだけど、本心が違うことはローシェ自身が一番よく分かっている。
だって二人きりになった時に、彼は爽やかに笑ってこう言ったのだ。
――きみは、僕と同じ種類の人間だね。
人を惹きつける容姿も、それを生かして人の心の中に滑り込む術も、まわりに求められる人物像を思うがままに演じられることも。
誰からも愛され、可憐で純真無垢な娘と言われるローシェに、それは演技だろうと突きつけてきたのはマリウスが初めてで。
両親ですら気づいていないのに、と反発する思いを抱くのと同時に、どこかホッとしたのも事実だった。
マリウスは、王になる資質を充分に備えていたけれど、気楽な第三王子でいることを望んでいた。誰からも愛される天真爛漫な王子を演じながら、王や王太子を陰で支え、不穏な気配を探ることこそ自分の使命だと言って。
可愛らしく無邪気なマリウスには、誰もが心を開いて警戒心を抱かないから。
実際、彼の働きによって不正が暴かれたのを、ローシェも何度か目にしている。
――きみがそばにいてくれたら、僕の仕事はもっとやりやすくなる。
こっそりと、ローシェだけに囁かれたマリウスの本心。同じように、可憐な容姿を武器にまわりの人々の心の中に入り込むことの得意なローシェと組めば、二人はきっと無敵だ。
マリウスの前では演じる必要がなくて気が楽だったし、心から自分らしくいられるような気もした。
マリウスのことを好ましく思う気持ちは確かにあるし、それは彼も同じだろう。
だけど、エルヴィンに愛されるシフィルを見ていると、自分はどうなのだろうと思ってしまう気持ちもある。
マリウスは、ローシェのことをそこまで愛しているとは思えない。彼のすべきことを考えれば、それでいいと思っていたけれど、幸せそうなエルヴィンの顔を見たからだろうか。ローシェは少しだけ、切ない気持ちになっていた。
姉のように、たった一人に心から愛されたいと、そう思うことは贅沢だろうか。
ユスティナの部屋をあとにしたローシェは、ふと隣を歩くマリウスの顔を見上げた。
「ん? どうしたの、ローシェ」
視線に気づいたのか、マリウスは優しい微笑みを浮かべて軽く首をかしげる。一見可愛らしく爽やかなこの少年が、実はとても冷静で頭のきれる人であることを、知る人は少ない。
「ううん、何でもないわ。ただ、結婚式って素敵だなって思っただけ」
「そうだね。ローシェのドレス姿も、きっととても可愛いだろうね。僕らの結婚式も、楽しみだよ」
「本当に?」
首をかしげたローシェを見て、マリウスはくすりと笑った。
「きみのドレスに僕が全く口を出さないからって、拗ねてるの?」
「……っ」
心の中を言い当てられて、ローシェは思わず言葉に詰まった。
第三王子であるマリウスは幼い頃から優秀で、それでも王位を巡る争いが起きないよう、自ら希望して隣国にずっと留学していた。十七歳になって帰国したマリウスは、王太子である兄を支えていくと宣言すると同時に、ローシェに婚約を持ちかけてきた。
表向きは、可憐なローシェに一目惚れしたのだと語るマリウスだけど、本心が違うことはローシェ自身が一番よく分かっている。
だって二人きりになった時に、彼は爽やかに笑ってこう言ったのだ。
――きみは、僕と同じ種類の人間だね。
人を惹きつける容姿も、それを生かして人の心の中に滑り込む術も、まわりに求められる人物像を思うがままに演じられることも。
誰からも愛され、可憐で純真無垢な娘と言われるローシェに、それは演技だろうと突きつけてきたのはマリウスが初めてで。
両親ですら気づいていないのに、と反発する思いを抱くのと同時に、どこかホッとしたのも事実だった。
マリウスは、王になる資質を充分に備えていたけれど、気楽な第三王子でいることを望んでいた。誰からも愛される天真爛漫な王子を演じながら、王や王太子を陰で支え、不穏な気配を探ることこそ自分の使命だと言って。
可愛らしく無邪気なマリウスには、誰もが心を開いて警戒心を抱かないから。
実際、彼の働きによって不正が暴かれたのを、ローシェも何度か目にしている。
――きみがそばにいてくれたら、僕の仕事はもっとやりやすくなる。
こっそりと、ローシェだけに囁かれたマリウスの本心。同じように、可憐な容姿を武器にまわりの人々の心の中に入り込むことの得意なローシェと組めば、二人はきっと無敵だ。
マリウスの前では演じる必要がなくて気が楽だったし、心から自分らしくいられるような気もした。
マリウスのことを好ましく思う気持ちは確かにあるし、それは彼も同じだろう。
だけど、エルヴィンに愛されるシフィルを見ていると、自分はどうなのだろうと思ってしまう気持ちもある。
マリウスは、ローシェのことをそこまで愛しているとは思えない。彼のすべきことを考えれば、それでいいと思っていたけれど、幸せそうなエルヴィンの顔を見たからだろうか。ローシェは少しだけ、切ない気持ちになっていた。
姉のように、たった一人に心から愛されたいと、そう思うことは贅沢だろうか。
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