21 / 43
番外編
わたしのドレスは、どう選ぶ? 1
しおりを挟む
引き続き、ローシェ視点の番外編。
ユスティナの部屋をあとにしたローシェは、ふと隣を歩くマリウスの顔を見上げた。
「ん? どうしたの、ローシェ」
視線に気づいたのか、マリウスは優しい微笑みを浮かべて軽く首をかしげる。一見可愛らしく爽やかなこの少年が、実はとても冷静で頭のきれる人であることを、知る人は少ない。
「ううん、何でもないわ。ただ、結婚式って素敵だなって思っただけ」
「そうだね。ローシェのドレス姿も、きっととても可愛いだろうね。僕らの結婚式も、楽しみだよ」
「本当に?」
首をかしげたローシェを見て、マリウスはくすりと笑った。
「きみのドレスに僕が全く口を出さないからって、拗ねてるの?」
「……っ」
心の中を言い当てられて、ローシェは思わず言葉に詰まった。
第三王子であるマリウスは幼い頃から優秀で、それでも王位を巡る争いが起きないよう、自ら希望して隣国にずっと留学していた。十七歳になって帰国したマリウスは、王太子である兄を支えていくと宣言すると同時に、ローシェに婚約を持ちかけてきた。
表向きは、可憐なローシェに一目惚れしたのだと語るマリウスだけど、本心が違うことはローシェ自身が一番よく分かっている。
だって二人きりになった時に、彼は爽やかに笑ってこう言ったのだ。
――きみは、僕と同じ種類の人間だね。
人を惹きつける容姿も、それを生かして人の心の中に滑り込む術も、まわりに求められる人物像を思うがままに演じられることも。
誰からも愛され、可憐で純真無垢な娘と言われるローシェに、それは演技だろうと突きつけてきたのはマリウスが初めてで。
両親ですら気づいていないのに、と反発する思いを抱くのと同時に、どこかホッとしたのも事実だった。
マリウスは、王になる資質を充分に備えていたけれど、気楽な第三王子でいることを望んでいた。誰からも愛される天真爛漫な王子を演じながら、王や王太子を陰で支え、不穏な気配を探ることこそ自分の使命だと言って。
可愛らしく無邪気なマリウスには、誰もが心を開いて警戒心を抱かないから。
実際、彼の働きによって不正が暴かれたのを、ローシェも何度か目にしている。
――きみがそばにいてくれたら、僕の仕事はもっとやりやすくなる。
こっそりと、ローシェだけに囁かれたマリウスの本心。同じように、可憐な容姿を武器にまわりの人々の心の中に入り込むことの得意なローシェと組めば、二人はきっと無敵だ。
マリウスの前では演じる必要がなくて気が楽だったし、心から自分らしくいられるような気もした。
マリウスのことを好ましく思う気持ちは確かにあるし、それは彼も同じだろう。
だけど、エルヴィンに愛されるシフィルを見ていると、自分はどうなのだろうと思ってしまう気持ちもある。
マリウスは、ローシェのことをそこまで愛しているとは思えない。彼のすべきことを考えれば、それでいいと思っていたけれど、幸せそうなエルヴィンの顔を見たからだろうか。ローシェは少しだけ、切ない気持ちになっていた。
姉のように、たった一人に心から愛されたいと、そう思うことは贅沢だろうか。
ユスティナの部屋をあとにしたローシェは、ふと隣を歩くマリウスの顔を見上げた。
「ん? どうしたの、ローシェ」
視線に気づいたのか、マリウスは優しい微笑みを浮かべて軽く首をかしげる。一見可愛らしく爽やかなこの少年が、実はとても冷静で頭のきれる人であることを、知る人は少ない。
「ううん、何でもないわ。ただ、結婚式って素敵だなって思っただけ」
「そうだね。ローシェのドレス姿も、きっととても可愛いだろうね。僕らの結婚式も、楽しみだよ」
「本当に?」
首をかしげたローシェを見て、マリウスはくすりと笑った。
「きみのドレスに僕が全く口を出さないからって、拗ねてるの?」
「……っ」
心の中を言い当てられて、ローシェは思わず言葉に詰まった。
第三王子であるマリウスは幼い頃から優秀で、それでも王位を巡る争いが起きないよう、自ら希望して隣国にずっと留学していた。十七歳になって帰国したマリウスは、王太子である兄を支えていくと宣言すると同時に、ローシェに婚約を持ちかけてきた。
表向きは、可憐なローシェに一目惚れしたのだと語るマリウスだけど、本心が違うことはローシェ自身が一番よく分かっている。
だって二人きりになった時に、彼は爽やかに笑ってこう言ったのだ。
――きみは、僕と同じ種類の人間だね。
人を惹きつける容姿も、それを生かして人の心の中に滑り込む術も、まわりに求められる人物像を思うがままに演じられることも。
誰からも愛され、可憐で純真無垢な娘と言われるローシェに、それは演技だろうと突きつけてきたのはマリウスが初めてで。
両親ですら気づいていないのに、と反発する思いを抱くのと同時に、どこかホッとしたのも事実だった。
マリウスは、王になる資質を充分に備えていたけれど、気楽な第三王子でいることを望んでいた。誰からも愛される天真爛漫な王子を演じながら、王や王太子を陰で支え、不穏な気配を探ることこそ自分の使命だと言って。
可愛らしく無邪気なマリウスには、誰もが心を開いて警戒心を抱かないから。
実際、彼の働きによって不正が暴かれたのを、ローシェも何度か目にしている。
――きみがそばにいてくれたら、僕の仕事はもっとやりやすくなる。
こっそりと、ローシェだけに囁かれたマリウスの本心。同じように、可憐な容姿を武器にまわりの人々の心の中に入り込むことの得意なローシェと組めば、二人はきっと無敵だ。
マリウスの前では演じる必要がなくて気が楽だったし、心から自分らしくいられるような気もした。
マリウスのことを好ましく思う気持ちは確かにあるし、それは彼も同じだろう。
だけど、エルヴィンに愛されるシフィルを見ていると、自分はどうなのだろうと思ってしまう気持ちもある。
マリウスは、ローシェのことをそこまで愛しているとは思えない。彼のすべきことを考えれば、それでいいと思っていたけれど、幸せそうなエルヴィンの顔を見たからだろうか。ローシェは少しだけ、切ない気持ちになっていた。
姉のように、たった一人に心から愛されたいと、そう思うことは贅沢だろうか。
11
お気に入りに追加
668
あなたにおすすめの小説

【完結】お飾りの妻からの挑戦状
おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。
「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」
しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ……
◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています
◇全18話で完結予定

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです
きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」
5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。
その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?
【完結】忘れてください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。
貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。
夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。
貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。
もういいの。
私は貴方を解放する覚悟を決めた。
貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。
私の事は忘れてください。
※6月26日初回完結
7月12日2回目完結しました。
お読みいただきありがとうございます。
私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。
石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。
自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。
そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。
好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。
この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
過去1ヶ月以内にノーチェの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、ノーチェのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にノーチェの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、ノーチェのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。