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番外編
彼女のドレスを選ぶには 3
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「ごめんなさい、ユスティナお義姉様。わたしもエルヴィンに賛成だわ。シフィルは可愛らしいものは好きだけど、あまり派手に装うのは好きじゃないから」
「そう……、ローシェがそう言うなら、仕方ないわね。じゃあ、ドレスはどうかしら。ほら、これ見て。素敵だと思わない?」
一瞬うつむいたユスティナは、気を取り直したように顔を上げると、ドレスのカタログを開いた。大量に付箋の貼られたページをめくり、可愛らしいドレスを次々と指差す。
「これなんか、シフィルが好きそうだと思わない?」
「えぇ、とても素敵だわ。さすがお義姉様」
「でしょう。わたくしはシフィルの親友ですからね、あの子の好みだってちゃんと分かっているのよ」
ふふんと勝ち誇ったような笑みを浮かべたユスティナを見て、エルヴィンはムッとしたように眉間に皺を寄せる。
「ローシェ、俺が見立てたドレスはどう思う。ほら、シフィルはこういう花のついたデザインが好きだろう」
負けじとエルヴィンもデザイン画を押しつけてくるので、ローシェは苦笑しつつそれを受け取った。
「デザインはとても素敵だけど、あなたシフィルの痣のことを忘れていてよ。こんなに胸元の開いたドレスだと、痣が見えてしまうじゃない」
ローシェの手元をのぞき込んだユスティナが、ドレスのデザインを見て鼻で笑う。確かに、胸元の広く開いたそのデザインでは、シフィルの痣が見えてしまう。
「問題ない。今はもう、痣はほとんど見えなくなっていますから。顔を近づけてよく見ないと分からないくらいだ」
エルヴィンの言葉に、ユスティナは眉を顰めた。
「どうしてあなたがシフィルの痣のことをそんなに詳しく知っているの」
「どうしてって、俺とシフィルは夫婦ですから。シフィルの身体で知らない場所なんて、俺にはない」
得意げに宣言したエルヴィンの言葉に、ユスティナの顔は、みるみるうちに赤く染まっていく。
「なっ……なんて破廉恥なのっ!」
頬を押さえながら悲鳴をあげるユスティナを見て、エルヴィンは呆れたような表情を浮かべる。
「破廉恥も何も。……俺はすでに、シフィルから銀の星の女神の加護をうつしてもらっていますから」
「女神の加護を、ですって……?」
喘ぐようにつぶやいたユスティナは、一瞬意識を失ったようにふらりとよろめいた。
慌てて支えるために手を伸ばしたマリウスが、大きなため息をついてエルヴィンを見る。
「エルヴィン、姉様を揶揄わないでよ」
「揶揄うなんて、とんでもない。事実を述べただけです」
「……だろうね。はぁ、姉様も、少しはこういった話にも慣れてください。シフィルとエルヴィンは夫婦なのだから、彼女の持つ加護がエルヴィンにうつるのは当然のことでしょう」
「だ、だって、それは、分かってるけど、女神の加護は二人が結ばれ……っ、いやあぁぁ!」
更に顔を真っ赤にして悲鳴をあげたユスティナを見て、ローシェもため息をついた。純真無垢な聖女様は、こういった話への耐性がないのだ。
「お義姉様、はい、深呼吸して。少し落ち着きましょう」
ローシェが背中をさすってやると、ユスティナは大きな深呼吸を繰り返し、涙目になりつつも落ち着きを取り戻したようだ。
うしろに黙って控える護衛騎士をちらりと振り返って、ローシェは内心でため息をついた。ユスティナが月の女神の加護を得た時から、ずっと専属で身辺警護をしている少し年上のその人が、彼女に密かな想いを抱いていることはローシェとマリウスだけが知っている秘密。ユスティナも、彼の前でだけはいつもより甘えた表情を見せるので、きっと二人の気持ちは同じだと思うのだけど、色恋に疎いユスティナとの関係を深めるのは、シフィルとエルヴィンよりも難しそうだ。
愛を司る女神の加護を受けていながら、ユスティナは自分のことになると全くなのだ。
「悔しいけれど、……本当に悔しいけれど、エルヴィンのセンスだけは認めてあげるわ」
ものすごく眉間に皺を寄せながら、ユスティナはエルヴィンの持ってきたドレスのデザイン画を見つめる。
「……きっと、シフィルにはよく似合うと思うわ。シフィルのことを一番分かっているのは、親友であるわたくしだと思っていたから悔しいけれど…!」
悔しそうなユスティナを見て、エルヴィンはくすりと笑うとデザイン画を指差した。
「では、ユスティナ様には、このドレスに合うヘッドドレスを選んでもらえませんか」
「ヘッドドレス……?」
「ええ。ローシェとも相談していたのですが、シフィルは髪を下ろしているのがよく似合う。だから、少し華やかなヘッドドレスを着けたらどうかと」
エルヴィンの言葉に、ユスティナの表情はみるみるうちに明るくなった。
「分かったわ! 任せておいて。とっても素敵なヘッドドレスを探してみせるから」
「わたしにも、お手伝いさせてね、お義姉様」
「もちろんよ、ローシェ。あぁ、こうしてはいられないわ。早速どんなものがいいか、探さなくちゃ」
興奮したように頬を染めるユスティナを見て、ローシェはくすくすと笑った。
「そう……、ローシェがそう言うなら、仕方ないわね。じゃあ、ドレスはどうかしら。ほら、これ見て。素敵だと思わない?」
一瞬うつむいたユスティナは、気を取り直したように顔を上げると、ドレスのカタログを開いた。大量に付箋の貼られたページをめくり、可愛らしいドレスを次々と指差す。
「これなんか、シフィルが好きそうだと思わない?」
「えぇ、とても素敵だわ。さすがお義姉様」
「でしょう。わたくしはシフィルの親友ですからね、あの子の好みだってちゃんと分かっているのよ」
ふふんと勝ち誇ったような笑みを浮かべたユスティナを見て、エルヴィンはムッとしたように眉間に皺を寄せる。
「ローシェ、俺が見立てたドレスはどう思う。ほら、シフィルはこういう花のついたデザインが好きだろう」
負けじとエルヴィンもデザイン画を押しつけてくるので、ローシェは苦笑しつつそれを受け取った。
「デザインはとても素敵だけど、あなたシフィルの痣のことを忘れていてよ。こんなに胸元の開いたドレスだと、痣が見えてしまうじゃない」
ローシェの手元をのぞき込んだユスティナが、ドレスのデザインを見て鼻で笑う。確かに、胸元の広く開いたそのデザインでは、シフィルの痣が見えてしまう。
「問題ない。今はもう、痣はほとんど見えなくなっていますから。顔を近づけてよく見ないと分からないくらいだ」
エルヴィンの言葉に、ユスティナは眉を顰めた。
「どうしてあなたがシフィルの痣のことをそんなに詳しく知っているの」
「どうしてって、俺とシフィルは夫婦ですから。シフィルの身体で知らない場所なんて、俺にはない」
得意げに宣言したエルヴィンの言葉に、ユスティナの顔は、みるみるうちに赤く染まっていく。
「なっ……なんて破廉恥なのっ!」
頬を押さえながら悲鳴をあげるユスティナを見て、エルヴィンは呆れたような表情を浮かべる。
「破廉恥も何も。……俺はすでに、シフィルから銀の星の女神の加護をうつしてもらっていますから」
「女神の加護を、ですって……?」
喘ぐようにつぶやいたユスティナは、一瞬意識を失ったようにふらりとよろめいた。
慌てて支えるために手を伸ばしたマリウスが、大きなため息をついてエルヴィンを見る。
「エルヴィン、姉様を揶揄わないでよ」
「揶揄うなんて、とんでもない。事実を述べただけです」
「……だろうね。はぁ、姉様も、少しはこういった話にも慣れてください。シフィルとエルヴィンは夫婦なのだから、彼女の持つ加護がエルヴィンにうつるのは当然のことでしょう」
「だ、だって、それは、分かってるけど、女神の加護は二人が結ばれ……っ、いやあぁぁ!」
更に顔を真っ赤にして悲鳴をあげたユスティナを見て、ローシェもため息をついた。純真無垢な聖女様は、こういった話への耐性がないのだ。
「お義姉様、はい、深呼吸して。少し落ち着きましょう」
ローシェが背中をさすってやると、ユスティナは大きな深呼吸を繰り返し、涙目になりつつも落ち着きを取り戻したようだ。
うしろに黙って控える護衛騎士をちらりと振り返って、ローシェは内心でため息をついた。ユスティナが月の女神の加護を得た時から、ずっと専属で身辺警護をしている少し年上のその人が、彼女に密かな想いを抱いていることはローシェとマリウスだけが知っている秘密。ユスティナも、彼の前でだけはいつもより甘えた表情を見せるので、きっと二人の気持ちは同じだと思うのだけど、色恋に疎いユスティナとの関係を深めるのは、シフィルとエルヴィンよりも難しそうだ。
愛を司る女神の加護を受けていながら、ユスティナは自分のことになると全くなのだ。
「悔しいけれど、……本当に悔しいけれど、エルヴィンのセンスだけは認めてあげるわ」
ものすごく眉間に皺を寄せながら、ユスティナはエルヴィンの持ってきたドレスのデザイン画を見つめる。
「……きっと、シフィルにはよく似合うと思うわ。シフィルのことを一番分かっているのは、親友であるわたくしだと思っていたから悔しいけれど…!」
悔しそうなユスティナを見て、エルヴィンはくすりと笑うとデザイン画を指差した。
「では、ユスティナ様には、このドレスに合うヘッドドレスを選んでもらえませんか」
「ヘッドドレス……?」
「ええ。ローシェとも相談していたのですが、シフィルは髪を下ろしているのがよく似合う。だから、少し華やかなヘッドドレスを着けたらどうかと」
エルヴィンの言葉に、ユスティナの表情はみるみるうちに明るくなった。
「分かったわ! 任せておいて。とっても素敵なヘッドドレスを探してみせるから」
「わたしにも、お手伝いさせてね、お義姉様」
「もちろんよ、ローシェ。あぁ、こうしてはいられないわ。早速どんなものがいいか、探さなくちゃ」
興奮したように頬を染めるユスティナを見て、ローシェはくすくすと笑った。
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