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1 エレノアの悩み事
しおりを挟むエレノアは、大きなため息をついてベッドの上に転がった。真珠を思わせる淡いピンク色の髪が、くしゃくしゃになってシーツの上に広がる。
姫らしくないと、いつもなら侍女に叱られるけれど、今は平気だ。だって、ここには誰もいないから。
昨日から、エレノアは自国を離れて隣国ロヴィーザへ来ている。目的は、婚約者であるロヴィーザの第三王子であるフィニアスとの交流を深めること。
毎年、春と秋にお互いの国を訪問しあうことが慣例になっていて、今回はエレノアがフィニアスを訪ねる番。それは、2人が幼い頃から繰り返されてきた、半ば年中行事のようなもの。昔は両親も交えた訪問だったので大がかりな移動だったけれど、エレノアが大きくなると、どうぞ勝手に行ってらっしゃいとばかりに送り出されるようになった。
仮にも一国の王女が、婚約者とはいえ男性のもとに滞在することに誰も突っ込まないのかと思わなくもないけれど、今年もエレノアは両親に『フィニアス様によろしくね』と笑って見送られた。
色々と思うところはあるものの、ロヴィーザの人々はいつもあたたかくエレノアを迎えてくれるし、毎年の訪問は楽しみだ。それに、婚約者のフィニアスはとても素敵な人なのだ。
ひとつ年上の彼は、柔らかな金の髪に透き通るような青い瞳を持つ美しい人。いつだってエレノアに優しく微笑みかけてくれるし、時折頭を撫でるその手の優しさに、何度だってときめいている。
つい先日、エレノアは成人を迎えた。フィニアスからは素敵なネックレスがお祝いに送られてきたし、手書きのカードには、会える日が楽しみであることに加えて、結婚式には是非このネックレスを身につけて欲しいとも書いてあった。
彼の瞳の色によく似た青い石のついたネックレスは美しくて、自分の色を身につけて欲しいというフィニアスからのほのかな独占欲を感じるのも嬉しくてたまらない。
生真面目なフィニアスは、エレノアが成人するまでは手を出さないと宣言していて、そのことに少しの不満を抱かない訳ではないけれど、前回彼がエレノアの国に来た時には、優しく触れるだけのキスをしてくれた。
初めてのキスはうっとりするほどロマンティックで、思い出すたびに真っ赤になって1人悶えて、侍女らに呆れられていたものだ。
だから、エレノアが成人を迎えた今回の滞在では、きっともっと2人の関係は進むと思っていた。両国とも婚前交渉には寛大だし、何ならエレノアは、出発前に母親と姉から避妊薬を手渡されている。
なのに。
エレノアは大きなため息を、またひとつこぼした。
どうも、フィニアスの様子がおかしいのだ。
いつものように優しく笑ってエレノアを歓迎してくれたけれど、微妙に距離をおかれている。頑なに2人きりになるのを避けているようなその態度に、エレノアはこっそりと傷ついていた。
――他に好きな人でも、できたのかしら。
フィニアスの態度が変わった理由として、最初に考えたのはそれだ。だけど、彼のまわりにそれらしき人物はいない。会わない間も、フィニアスはたくさんの手紙をエレノアに送ってくれた。そこに綴られた愛の言葉に嘘はないと信じたいし、婚約の証である揃いの指輪を、今も常に身につけているところを見ると、心変わりではないような気がする。
だとすれば、理由は何なのだろう。
また大きなため息をついた時、部屋の窓がかたんと開く音がした。城の高い場所にあるこの部屋は、外からの侵入は不可能だ。
風で窓が開いただろうかと身体を起こして窓の方を見たエレノアは、驚きに目を見開いた。
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