【R18】媚薬の効かない魔女と、天使で策士な元王子 〜森で拾った子供を育てたら、いつの間にか成長して迫ってくるのですが〜

夕月

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番外編

早く大人になりたかった、あの日々のこと。

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番外編です。
リアン視点で、過去の回想とか。
たまには、こんな気分になる日もある。






「リアン、いいもの見つけちゃった!」
 リカルドのところにおつかいに行って戻ってきたら、満面の笑みのシャルに出迎えられた。
 シャルに笑顔を向けられて嬉しいけれど、そのご機嫌の理由が分からなくて、リアンは首をかしげる。
「どうしたの、シャル。何かいいことがあった?」
「ほら見て!これ、リアンが子供の頃に着てた服よ。ちっさくて可愛いわぁ。片付けしてたら、出てきたの」
 シャルが見せてくれたのは、古びた服。小さな子供用のその服は、確かにリアンがシャルのところに来てすぐの頃に着ていた記憶がある。

「こんなに小さかったのねぇ」
 シャルは自分の胸に服を当てて、その小ささにため息をつく。保護された頃のリアンは、幽閉されていた時の環境の悪さから、3つは幼く見えるほどに身体が小さかった。
 シャルのおかげで健康を取り戻し、スクスクと成長したリアンは、今ではシャルより随分と身体も大きくなった。
 だけど、なんだか今でも子供扱いされているような気がして、リアンは少し面白くない。その小さな服を着ていた頃は、早く大きくなりたくて仕方なかったから。シャルの隣に立つのに相応しい男に早くなりたかった、あの焦燥感を思い出すから。

「もう、そんな小さな子供じゃないんだけど?」
 うしろから抱きしめて耳元で囁くと、シャルの身体がぴくりと震えた。
「わ、分かってるわよ。ただ、ちょっと懐かしくて」
 腕の中で、逃れようとするのを抑え込んで、リアンはシャルの耳にそっと舌を差し込んだ。
 途端に悲鳴を上げて、シャルの頬が赤くなる。耳まで赤く染まっているのを確認しながら、リアンはわざと水音を響かせるようにシャルの耳に口づけた。

「や、リアン……っ、待って」
「だめ。僕を子供扱いしたから、今ちょっと拗ねてるの」
「してないってば。っていうか、拗ねてる時点で子供だし……っ」
 シャルのもっともな突っ込みに、それもそうかと笑いつつ、リアンはやめるつもりはない。
 耳が弱いシャルが、ろくに抵抗できないのをいいことに、リアンはシャルの服のボタンを外し始める。
 少しはだけたその隙間から手を差し入れて、柔らかな胸をそっと掴む。まるで待っていたかのように、存在を主張し始める蕾に、思わず小さく笑みがこぼれた。

「ね、もう固くなってるよ、シャル」
「し、知らない……っ」
「ベッド行く?それとも、ここでしちゃおうか」
「だめ……っ、ね、リカルドに頼んでた本は?」
 逃げるようにそんなことを口にするシャルに、リアンは唇を尖らせた。そして、お仕置きとばかりに蕾を指先できゅっと摘む。

「なんで僕以外の男の名前なんて口にするの、シャル」
「何言って……っ、リカルドはそんなんじゃ、あんっ」
「だめ。シャルが僕以外の男の名前を呼ぶなんて、許せないもん」
 リカルドは信頼できるよき友人だし、本気でそう言っているわけではないけれど、なんとなく面白くない。
 きっと、あの古い小さな服を見て、子供の頃を思い出したせいだ。あの頃は、大人のリカルドにシャルを奪われてしまうんじゃないかと、毎日心配だったから。

 リアンは、そのままシャルを抱き上げた。
「僕の名前だけ呼んでてよ、シャル」
 こちらを見上げる灰青の瞳を、じっと見つめてそう言うと、シャルは少し困ったような表情で、それでも優しく微笑み、そっと頭を撫でてくれる。
「大好きよ、リアン。私には、リアンだけ」
 そんな一言で、リアンの気持ちは一気に上向く。きっといつまでも、リアンはシャルに夢中だ。


◇◆◇


 ベッドの上で身体を起こし、リアンは隣で眠るシャルの頭をそっと撫でた。サラサラの長い黒髪は、少しひんやりとしていて気持ちがいい。
 リアンにとって、シャルは唯一の人で、決して失いたくない最愛の人。シャルも同じ気持ちだと信じているけれど、それでも年の差は時々リアンを不安にさせる。
 思わずこんな明るい時間からシャルをベッドに連れ込んでしまったけど、リアンの不安を感じ取ったのだろう、シャルは笑って受け入れてくれた。
 いつもより優しく、たくさん、リアンが好きだと言ってくれたのは嬉しいけれど、やっぱりシャルの方が大人だなと、リアンは少し反省する。


 あの服をリアンが着ていた頃、シャルはもう成人していた。リアンの身長はシャルのお腹ほどまでしかなかったし、今みたいにシャルを抱き上げることなんて絶対できなかった。
 暗く狭い地下牢に幽閉されていたから、文字だって読めなかったし、自分の身の回りのことすら、満足にできなかった。そんなリアンに優しく接してくれたシャルに、恋に落ちるなという方が無理だった。
 だけどリアンはまだ小さな子供で、シャルの隣に立つには何もかもが足りなくて。
 そんな時にあらわれた、隣人のリカルド。背が高く、がっちりした体型は男らしい。まさに大人の男、という感じだったのだ。
 初めて会った時は、それはそれは焦ったものだ。



 

「おう、シャルが拾ったってのが、その小さいのか?」
 突然たずねてきて、シャルに気安く声をかける男。シャルが笑顔で応対するのも気に食わない。
 だけど、シャルは笑ってリアンをその男の前に押し出した。
「そう、リアンっていうの。リアン、この人はリカルド。怖そうに見えるけど、悪い人じゃないから怖がらなくて大丈夫よ」
「ほんっと小さいなー。腕なんか、折れそうだ」
 リカルドが頭を撫でようとしたのを察知して、リアンは飛び退くとシャルのスカートのうしろに隠れた。そして、スカートの陰から顔だけ出して、リカルドを睨みつける。

「触るな!僕にも、シャルにも触るなっ」
 リカルドは、そんなリアンの様子を見て、大きな声で笑った。
「おぉ、めちゃくちゃ威嚇されてる」
 精一杯睨みつけているのに、リカルドが余裕のある表情を崩さないのが悔しくて、リアンはシャルのスカートを握る手に力を込める。
「リアン、リカルドは怖い人じゃないってば」
 困ったようなシャルの声に首を振って、リアンはシャルにしがみつく。リカルドに怯えているんじゃない、シャルをとられてしまいそうで怖いだけなのに。

「ははっ、初っ端から嫌われたなぁ。ま、心配すんな。俺には愛する妻がいるからな」
「今日は、アリアは忙しいの?」
「実家に顔出してるんだよ。親父さんが腰を痛めたらしくてさ。大分良くなったらしいから、来月には戻ってくるけど」
「それまでの間、大変じゃない?良かったら、夕食だけでもうちで一緒に、」
「絶対だめっ!!」
 リカルドに妻がいることは分かったけれど、シャルと過ごす時間に、この男が入ってくるなんて耐えられない。
 思わず叫ぶと、シャルは驚いたように目を瞬き、リカルドは、くすりと笑った。

「ありがたい申し出だけど、そこのチビが俺のこと嫌がってるから、やめとくよ」
 そう言って、リカルドはリアンの頭をガシガシと撫でて、帰っていった。
 大きな手も、その力強さも、何もかも敵わない気がして、リアンは乱された髪の毛もそのままに、リカルドの出て行ったドアをずっと睨みつけていた。


 後日、シャルがリカルドに食事を届けると言うので、リアンは渋々自分が届けると申し出た。
 シャルがまたリカルドに会うくらいなら、リアンが届けた方がマシだと思ったのだ。
 シャルの魔法の道案内と共に、不本意だけど、と書いてあるような表情で食事を持ってきたリアンを見て、リカルドは爆笑しながらも優しく頭を撫でてくれた。
 そして、自分とシャルは単なる友人であることを改めて説明され、シャルのことが好きなら長期戦で頑張れ、と激励された。リカルドの知っているシャルの情報――好きな食べ物や、好きな色など――を教えてもらい、リアンは一気にリカルドに懐いた。シャルは、突然リカルドに懐くようになったリアンを見て、首をかしげていたけれど。


 リカルドを味方につけても、リアンはまだまだ小さな子供で、シャルの隣に立つにはまだまだ色々なことが足りない。
 だから、リアンは毎日の食事にも気をつかった。まず、とにかくしっかり食べて大きくなることを目標に。そのうちシャルは料理があまり得意でないことを知ったので、アリアに頼み込んで料理も習った。
 文字の読み書きは、シャルに教えてもらった。その時間は、リアンにとって幸せな時間だった。優しい声でシャルが本を読んでくれるのを聞くのは、この上なく幸せだったし、上達するたびに、笑って頭を撫でてもらえるのは何よりのご褒美だったから。

 そして、リアンはシャルよりも背が高くなり、料理をはじめとして、家事全般を請け負うようになった。
 多少強引だったかもしれないけれど、ついにシャルの心だって手に入れた。
 大人になった今でも、シャルに頭を撫でてもらうのが大好きで、やっぱり子供っぽいかなと少し思ってしまうけど、シャルはいつだって笑って頭を撫でてくれる。
 我ながら呆れるほどに重たい愛情を向けていると思うけれど、それすら笑って受け入れてくれるシャルに、何度だって惚れ直す。





 リアンは、幸せそうな表情で眠るシャルの頬を突いた。一瞬眉を寄せるものの、目覚める様子はない。
 昼間から3回は、さすがにやりすぎたかな、と思いつつ、リアンはそっとベッドから出る。そろそろ夕食の支度をしなければならない。
 床に脱ぎ捨てていた服を拾い上げて、着替える。ベッドに腰掛けてボタンを留めていると、うしろから服を軽く引っ張られた。

「シャル、起きた?ごめんね、ちょっとやりすぎちゃった」
 振り返るとシャルは、ぼんやりとした表情で、まばたきを繰り返している。
「リアン……、どこ行くの?」
「そろそろ夕食の支度をしようと思って。シャル、今日は何食べたい?」
「行っちゃ……だめ」
 シャルは、服を掴む手に力を込めてリアンを見上げる。
「そばにいて。リアンがいなくなったら私……」
「シャル……?」
 どこか不安そうな表情を見せるシャルの手を、リアンは包み込むように握りしめた。その温もりに、シャルの表情が和らぐ。
 そのまま、シャルはまた眠りに落ちた。どうやら寝ぼけていたようだけど、リアンは口元が緩むのを堪えつつ、シャルの頭を撫でる。

「僕が、シャルから離れるなんて、絶対にないよ」
 シャルがリアンに向けた執着心が、たまらなく嬉しい。爆発しそうなくらいの、この愛おしく思う感情のままに、もう一度シャルを抱きたくなるけれど、さすがにやりすぎなので自重する。
 かわりに、リアンは眠るシャルにそっと顔を近づけた。
 柔らかな頬に口づけたあと、耳元に唇を寄せて囁く。
「シャル、愛してる」
 その言葉に、シャルの表情がふにゃりと柔らかくなった。
「……ん、私も、愛してる」
 半分眠りながらも、ちゃんと返事を返してくれるシャルに、リアンはもう一度、抱きたくなる衝動と戦う。

 シャルの右手は、リアンの指先をしっかりと握りしめていて、リアンはその温もりを愛しく思いながらベッドの中へと戻る。あと少し、シャルが目覚めるまでここにいようと決めて。
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