1 / 5
1
しおりを挟む
ベッドの上、奈緒は身体をよじって与えられる快楽から逃れようとする。両手首を縛られてベッドのパイプに固定されているし、広げた脚も押さえつけられているから、ほとんど逃れられないのだけど。
ウィーンという無機質な機械音と、奈緒の喘ぐ声が、静かな部屋を満たしていく。
「あ、やぁっ……晴翔、くん……、もう無理っ」
首を振り、涙目で訴えてみても、晴翔は笑って奈緒の秘所に玩具をより強く押し当てる。何も着ていない奈緒とは反対に、晴翔は服を着たままだ。
「無理じゃねぇだろ。まだイけるって、ほら」
「も、嫌……っ、あぁっ」
悲鳴と共に奈緒の身体が大きく震え、秘所から勢いよく水分が噴き出して晴翔のジーンズを濡らした。それを確認して、晴翔は呆れたように笑う。
「あーあ、また潮吹いた。奈緒、ほんと嫌だってのは口だけだな。服濡れたし」
「あ……、ごめんなさ……」
必死で息を整えていた奈緒は、慌てて晴翔を見上げる。彼の身につけている服はいつも高級なものばかりで、それを汚してしまったことに焦りを隠せない。
「あの、クリーニング代、払うから……」
「別に、そういうのいいから」
奈緒の申し出をあっさりと跳ね除けると、晴翔は服を脱いだ。そして手早くゴムをつけると奈緒の脚を広げる。
「や、待っ……んんっ」
イったばかりの敏感な身体は、待ち望んだ晴翔のものを歓迎するように締めつける。絶え間なく快楽を与えられて、奈緒は何も考えられなくなっていく。
「奈緒、締めすぎ。力抜けって」
「そんな、分かんない……っ」
「あーほんと、奈緒の中、最高」
少し掠れた声で笑いながら、晴翔は奈緒の手を縛っていた紐を解く。
「ほら、ちゃんと抱きつけよ」
促されて、奈緒はゆっくりと腕を晴翔の首に回す。縛られていたせいで少し腕が痺れているけれど、密着が深まって温もりを感じられるのが嬉しい。晴翔にこうして抱きつくことができるのは、身体を重ねるこの時だけだから。
奈緒がしっかりと抱きついたのを確認して、晴翔は腰の動きを速める。勢いよく奥を突かれて、奈緒の口からは悲鳴のような喘ぎ声が漏れた。
「だめ、もう……っ」
「……っと、まだイくなよ」
「あ……」
あと少しで絶頂を迎えそうだったのに、晴翔は動きを止めてしまう。もどかしさで、奈緒は恨めしそうに晴翔を見上げた。
「生意気な顔して。こういう時は、何て言うんだった?ちゃんと教えただろ」
「……っ」
晴翔は楽しそうな表情で奈緒の顔をのぞきこむけれど、奈緒は思わず視線を逸らしてしまう。教えられた言葉は、奈緒にとっては直接的すぎて、口にするのはいつも躊躇ってしまう。
それでも、黙ってやり過ごすことが許されるはずもなく。奈緒はこくりと唾を飲み込むと、口を開いた。
「お願いします、……せて、ください」
「ん?何?聞こえない」
分かっているはずなのに、晴翔は楽しそうに聞き返す。そうしながらゆるゆると中を擦られて、その中途半端な刺激に、奈緒は涙目になりながら、晴翔の腕をつかんだ。
「……お願いっイかせ、て……くださ、あぁっ」
小さく叫ぶようにそう言った瞬間、晴翔が激しく奈緒の身体を突き上げる。懇願の言葉は、そのまま嬌声に変わった。
今度こそ、絶頂を与えられて、奈緒は甘い悲鳴をあげながら必死で晴翔にしがみついた。
◇
目を覚ますと、晴翔の姿はなかった。奈緒は怠い身体を叱咤しながらゆっくりと起き上がる。夜通し抱かれ、眠りについたのは明け方だった。
枕元の時計を確認すると、時刻は午前9時半過ぎ。晴翔はもう、大学に行ったのだろう。今日は、講義前に図書館に行くと言っていたから。
奈緒は今日、午後からの講義なので、午前中はゆっくりできる。シャワーを浴びて着替え、キッチンに行くと、奈緒の好きなパン屋の紙袋が目に入った。どうやら晴翔が買いに行ってくれたらしい。大好きなクロワッサンサンドが入っていて、奈緒は思わず笑みを浮かべた。
食事を終えた奈緒は、部屋の掃除と洗濯を始める。
晴翔が住むこの部屋は、一人暮らし用とは思えないほど広い。本当は、掃除も洗濯も、週に数回来ているという家政婦に任せればいいと晴翔には言われているけれど、色々なもので汚れたリネンの洗濯やゴムの残骸の処理なんて、他人に任せられない。
洗濯機のスイッチを入れて、奈緒は小さくため息をついた。
◇
晴翔は、奈緒の通う大学の同級生だ。
180近い長身に、甘い顔立ちをした彼は、まるで王子様のよう。晴翔の父親は誰もが知る大企業の社長なので、王子というのもあながち間違いではないと思う。
誰にでもにこやかに接するので、男女問わず好かれていて、彼のまわりにはいつも大勢の人がいる。
奈緒は、そんな晴翔の一応彼女を名乗っているけれど、その実態はセフレだ。大学に入学してから、毎日のように告白されるのにうんざりした晴翔が、隠れ蓑として奈緒を恋人に仕立て上げたのだ。
大学内で恋人として振る舞うかわりに、奈緒は晴翔に抱かれる。嗜虐的な性向を持つ晴翔と、被虐的な性向の奈緒。一致したふたりの欲を満たすための、誰にも言えない関係。
華やかな晴翔が、何故地味な奈緒と付き合っているのかと、不思議に思う人は多い。実際奈緒は、何人もの女子に嫌味を言われたり直接的な言葉を投げられたりしているから。
いつまでもこの関係が続くわけがないことは、奈緒が一番よく分かっている。
◇
セフレになる前から、晴翔のことは一方的に知っていた。地味で目立たない奈緒とは反対に、晴翔は入学式の時からすでに目立っていたから。
キラキラした人たちに囲まれて、その中でも一番輝いているのが晴翔だった。同じ学科とはいえ、そうそう話すこともないだろうと思っていたのだけど、大学2年の夏、奈緒は偶然、晴翔と交流を持つことになる。
ウィーンという無機質な機械音と、奈緒の喘ぐ声が、静かな部屋を満たしていく。
「あ、やぁっ……晴翔、くん……、もう無理っ」
首を振り、涙目で訴えてみても、晴翔は笑って奈緒の秘所に玩具をより強く押し当てる。何も着ていない奈緒とは反対に、晴翔は服を着たままだ。
「無理じゃねぇだろ。まだイけるって、ほら」
「も、嫌……っ、あぁっ」
悲鳴と共に奈緒の身体が大きく震え、秘所から勢いよく水分が噴き出して晴翔のジーンズを濡らした。それを確認して、晴翔は呆れたように笑う。
「あーあ、また潮吹いた。奈緒、ほんと嫌だってのは口だけだな。服濡れたし」
「あ……、ごめんなさ……」
必死で息を整えていた奈緒は、慌てて晴翔を見上げる。彼の身につけている服はいつも高級なものばかりで、それを汚してしまったことに焦りを隠せない。
「あの、クリーニング代、払うから……」
「別に、そういうのいいから」
奈緒の申し出をあっさりと跳ね除けると、晴翔は服を脱いだ。そして手早くゴムをつけると奈緒の脚を広げる。
「や、待っ……んんっ」
イったばかりの敏感な身体は、待ち望んだ晴翔のものを歓迎するように締めつける。絶え間なく快楽を与えられて、奈緒は何も考えられなくなっていく。
「奈緒、締めすぎ。力抜けって」
「そんな、分かんない……っ」
「あーほんと、奈緒の中、最高」
少し掠れた声で笑いながら、晴翔は奈緒の手を縛っていた紐を解く。
「ほら、ちゃんと抱きつけよ」
促されて、奈緒はゆっくりと腕を晴翔の首に回す。縛られていたせいで少し腕が痺れているけれど、密着が深まって温もりを感じられるのが嬉しい。晴翔にこうして抱きつくことができるのは、身体を重ねるこの時だけだから。
奈緒がしっかりと抱きついたのを確認して、晴翔は腰の動きを速める。勢いよく奥を突かれて、奈緒の口からは悲鳴のような喘ぎ声が漏れた。
「だめ、もう……っ」
「……っと、まだイくなよ」
「あ……」
あと少しで絶頂を迎えそうだったのに、晴翔は動きを止めてしまう。もどかしさで、奈緒は恨めしそうに晴翔を見上げた。
「生意気な顔して。こういう時は、何て言うんだった?ちゃんと教えただろ」
「……っ」
晴翔は楽しそうな表情で奈緒の顔をのぞきこむけれど、奈緒は思わず視線を逸らしてしまう。教えられた言葉は、奈緒にとっては直接的すぎて、口にするのはいつも躊躇ってしまう。
それでも、黙ってやり過ごすことが許されるはずもなく。奈緒はこくりと唾を飲み込むと、口を開いた。
「お願いします、……せて、ください」
「ん?何?聞こえない」
分かっているはずなのに、晴翔は楽しそうに聞き返す。そうしながらゆるゆると中を擦られて、その中途半端な刺激に、奈緒は涙目になりながら、晴翔の腕をつかんだ。
「……お願いっイかせ、て……くださ、あぁっ」
小さく叫ぶようにそう言った瞬間、晴翔が激しく奈緒の身体を突き上げる。懇願の言葉は、そのまま嬌声に変わった。
今度こそ、絶頂を与えられて、奈緒は甘い悲鳴をあげながら必死で晴翔にしがみついた。
◇
目を覚ますと、晴翔の姿はなかった。奈緒は怠い身体を叱咤しながらゆっくりと起き上がる。夜通し抱かれ、眠りについたのは明け方だった。
枕元の時計を確認すると、時刻は午前9時半過ぎ。晴翔はもう、大学に行ったのだろう。今日は、講義前に図書館に行くと言っていたから。
奈緒は今日、午後からの講義なので、午前中はゆっくりできる。シャワーを浴びて着替え、キッチンに行くと、奈緒の好きなパン屋の紙袋が目に入った。どうやら晴翔が買いに行ってくれたらしい。大好きなクロワッサンサンドが入っていて、奈緒は思わず笑みを浮かべた。
食事を終えた奈緒は、部屋の掃除と洗濯を始める。
晴翔が住むこの部屋は、一人暮らし用とは思えないほど広い。本当は、掃除も洗濯も、週に数回来ているという家政婦に任せればいいと晴翔には言われているけれど、色々なもので汚れたリネンの洗濯やゴムの残骸の処理なんて、他人に任せられない。
洗濯機のスイッチを入れて、奈緒は小さくため息をついた。
◇
晴翔は、奈緒の通う大学の同級生だ。
180近い長身に、甘い顔立ちをした彼は、まるで王子様のよう。晴翔の父親は誰もが知る大企業の社長なので、王子というのもあながち間違いではないと思う。
誰にでもにこやかに接するので、男女問わず好かれていて、彼のまわりにはいつも大勢の人がいる。
奈緒は、そんな晴翔の一応彼女を名乗っているけれど、その実態はセフレだ。大学に入学してから、毎日のように告白されるのにうんざりした晴翔が、隠れ蓑として奈緒を恋人に仕立て上げたのだ。
大学内で恋人として振る舞うかわりに、奈緒は晴翔に抱かれる。嗜虐的な性向を持つ晴翔と、被虐的な性向の奈緒。一致したふたりの欲を満たすための、誰にも言えない関係。
華やかな晴翔が、何故地味な奈緒と付き合っているのかと、不思議に思う人は多い。実際奈緒は、何人もの女子に嫌味を言われたり直接的な言葉を投げられたりしているから。
いつまでもこの関係が続くわけがないことは、奈緒が一番よく分かっている。
◇
セフレになる前から、晴翔のことは一方的に知っていた。地味で目立たない奈緒とは反対に、晴翔は入学式の時からすでに目立っていたから。
キラキラした人たちに囲まれて、その中でも一番輝いているのが晴翔だった。同じ学科とはいえ、そうそう話すこともないだろうと思っていたのだけど、大学2年の夏、奈緒は偶然、晴翔と交流を持つことになる。
11
お気に入りに追加
77
あなたにおすすめの小説
一夜限りのお相手は
栗原さとみ
恋愛
私は大学3年の倉持ひより。サークルにも属さず、いたって地味にキャンパスライフを送っている。大学の図書館で一人読書をしたり、好きな写真のスタジオでバイトをして過ごす毎日だ。ある日、アニメサークルに入っている友達の亜美に頼みごとを懇願されて、私はそれを引き受けてしまう。その事がきっかけで思いがけない人と思わぬ展開に……。『その人』は、私が尊敬する写真家で憧れの人だった。R5.1月
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
そんな目で見ないで。
春密まつり
恋愛
職場の廊下で呼び止められ、無口な後輩の司に告白をされた真子。
勢いのまま承諾するが、口数の少ない彼との距離がなかなか縮まらない。
そのくせ、キスをする時は情熱的だった。
司の知らない一面を知ることによって惹かれ始め、身体を重ねるが、司の熱のこもった視線に真子は混乱し、怖くなった。
それから身体を重ねることを拒否し続けるが――。
▼2019年2月発行のオリジナルTL小説のWEB再録です。
▼全8話の短編連載
▼Rシーンが含まれる話には「*」マークをつけています。
溺愛されていると信じておりました──が。もう、どうでもいいです。
ふまさ
恋愛
いつものように屋敷まで迎えにきてくれた、幼馴染みであり、婚約者でもある伯爵令息──ミックに、フィオナが微笑む。
「おはよう、ミック。毎朝迎えに来なくても、学園ですぐに会えるのに」
「駄目だよ。もし学園に向かう途中できみに何かあったら、ぼくは悔やんでも悔やみきれない。傍にいれば、いつでも守ってあげられるからね」
ミックがフィオナを抱き締める。それはそれは、愛おしそうに。その様子に、フィオナの両親が見守るように穏やかに笑う。
──対して。
傍に控える使用人たちに、笑顔はなかった。
氷の艶やかな青年
はなおくら
恋愛
人の人格が様々あるようにこの世界もまた人によってさまざまな魔法があった。そんな中、誰でも使える治癒能力を持つ主人公がいた。見た目も平凡、そんな主人公にも学園に通う日がやってきた。入学しても平凡…誰からも気にも止められない中、自分を見つめる青年がいた。年の割には幼く見えたがどこか艶やかで寒々しい印象の彼と出会う。
貴方もヒロインのところに行くのね? [完]
風龍佳乃
恋愛
元気で活発だったマデリーンは
アカデミーに入学すると生活が一変し
てしまった
友人となったサブリナはマデリーンと
仲良くなった男性を次々と奪っていき
そしてマデリーンに愛を告白した
バーレンまでもがサブリナと一緒に居た
マデリーンは過去に決別して
隣国へと旅立ち新しい生活を送る。
そして帰国したマデリーンは
目を引く美しい蝶になっていた
ヤクザの若頭は、年の離れた婚約者が可愛くて仕方がない
絹乃
恋愛
ヤクザの若頭の花隈(はなくま)には、婚約者がいる。十七歳下の少女で組長の一人娘である月葉(つきは)だ。保護者代わりの花隈は月葉のことをとても可愛がっているが、もちろん恋ではない。強面ヤクザと年の離れたお嬢さまの、恋に発展する前の、もどかしくドキドキするお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる