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大切にしていたのに
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気を失うように眠りに落ちたブランシュに毛布をかけてやって、ジスランはそっと彼女の頭を撫でた。
まだ赤く色づいた頬には、汗で髪が貼りついている。
一度で満足できるはずもなく、立て続けに三度抱いたからか、ブランシュは疲れ切って深い眠りの中にいる。
朝になれば、今度は身体を清めがてら浴室で抱くのもいいなと考えつつ、ジスランは寝台の足元へと視線を向けた。
そこに佇むのは、双子の兄、アルマンだ。
ベッドの上で行われた聖女と神の子の交わりを、彼はずっとそこで見ていた。
愛した女性が、別の男に抱かれて淫らに乱れる様を、ひと時も目を逸らさず、まるで脳裏に焼きつけるかのように。
「立ち会い、ありがとう、兄さん」
笑顔でそう告げると、アルマンが顔を歪めた。ブランシュの前では必死に表情を取り繕っていたのだろうが、今は彼女も夢の中だ。真っ赤になって震えるその顔は、悲しみなのか怒りなのか。
「……聖女ブランシュが神の子に身体を捧げたこと、確かに見届けた」
吐き捨てるように言って踵を返そうとするのを、ジスランは笑って引き留めた。
「そう急ぐことないでしょう。神殿長だってもう休んでる時間だ、報告は明日の朝でいいだろう?」
「これ以上、俺に何をしろと言うんだ。おまえたちが仲良く眠りにつくのを夜通し見守っていろと? 眠れないなら、子守歌でも歌ってやろうか」
震える声でそう言ったアルマンを見て、ジスランは肩をすくめる。そして隣で寝息をたてるブランシュの頭を慈しむように撫でた。
「兄さんには悪いとは思ってるんだよ。まさかブランシュが聖女になるなんて、僕だって想像もしてなかったんだから」
「それは……聖女が神の子の妻となることくらい、俺だって理解している。だけど、どうしてブランシュなんだ……っ」
顔を歪めるアルマンを見て、ジスランは殊更に眉尻を下げた悲しげな表情を作る。
「神は、本当に残酷なことをなさる。でも、ブランシュは優しく、無垢で美しい。そんな彼女を神が欲するのも、僕には理解できるんだよ」
「……大切にしていたのに」
強く拳を握りしめて、食いしばる歯の間から漏れた言葉に、ジスランもうなずいてみせる。
「そうだね。結婚するまでは決して手を出さないように、大切に守っていたんだもんね。だからこそ、僕は兄さんにもブランシュに触ってもらったんだよ。きっと彼女も、兄さんだったからこんなにスムーズに身体を開いてくれたんだ。神殿長が立会人だったなら、こうはいかなかったと思うよ」
神の子らしく慈愛のこもった笑みを浮かべれば、アルマンも唇を噛みつつうなずいた。
「おまえがブランシュを好いていたことは分かってる。神は、おまえの希望を叶えたのだろう。どうか、幸せにしてやってくれ。ブランシュはとても優しく愛情深い子だ。きっと、おまえのことも心から愛してくれる」
「もちろんだよ。ブランシュは、必ず幸せにする」
笑顔でうなずいたジスランに、彼も想いを振り切るようにため息をついた。
最後に一度だけ、ブランシュの寝顔を黙って見つめたあと、アルマンは静かに部屋を出て行った。
まだ赤く色づいた頬には、汗で髪が貼りついている。
一度で満足できるはずもなく、立て続けに三度抱いたからか、ブランシュは疲れ切って深い眠りの中にいる。
朝になれば、今度は身体を清めがてら浴室で抱くのもいいなと考えつつ、ジスランは寝台の足元へと視線を向けた。
そこに佇むのは、双子の兄、アルマンだ。
ベッドの上で行われた聖女と神の子の交わりを、彼はずっとそこで見ていた。
愛した女性が、別の男に抱かれて淫らに乱れる様を、ひと時も目を逸らさず、まるで脳裏に焼きつけるかのように。
「立ち会い、ありがとう、兄さん」
笑顔でそう告げると、アルマンが顔を歪めた。ブランシュの前では必死に表情を取り繕っていたのだろうが、今は彼女も夢の中だ。真っ赤になって震えるその顔は、悲しみなのか怒りなのか。
「……聖女ブランシュが神の子に身体を捧げたこと、確かに見届けた」
吐き捨てるように言って踵を返そうとするのを、ジスランは笑って引き留めた。
「そう急ぐことないでしょう。神殿長だってもう休んでる時間だ、報告は明日の朝でいいだろう?」
「これ以上、俺に何をしろと言うんだ。おまえたちが仲良く眠りにつくのを夜通し見守っていろと? 眠れないなら、子守歌でも歌ってやろうか」
震える声でそう言ったアルマンを見て、ジスランは肩をすくめる。そして隣で寝息をたてるブランシュの頭を慈しむように撫でた。
「兄さんには悪いとは思ってるんだよ。まさかブランシュが聖女になるなんて、僕だって想像もしてなかったんだから」
「それは……聖女が神の子の妻となることくらい、俺だって理解している。だけど、どうしてブランシュなんだ……っ」
顔を歪めるアルマンを見て、ジスランは殊更に眉尻を下げた悲しげな表情を作る。
「神は、本当に残酷なことをなさる。でも、ブランシュは優しく、無垢で美しい。そんな彼女を神が欲するのも、僕には理解できるんだよ」
「……大切にしていたのに」
強く拳を握りしめて、食いしばる歯の間から漏れた言葉に、ジスランもうなずいてみせる。
「そうだね。結婚するまでは決して手を出さないように、大切に守っていたんだもんね。だからこそ、僕は兄さんにもブランシュに触ってもらったんだよ。きっと彼女も、兄さんだったからこんなにスムーズに身体を開いてくれたんだ。神殿長が立会人だったなら、こうはいかなかったと思うよ」
神の子らしく慈愛のこもった笑みを浮かべれば、アルマンも唇を噛みつつうなずいた。
「おまえがブランシュを好いていたことは分かってる。神は、おまえの希望を叶えたのだろう。どうか、幸せにしてやってくれ。ブランシュはとても優しく愛情深い子だ。きっと、おまえのことも心から愛してくれる」
「もちろんだよ。ブランシュは、必ず幸せにする」
笑顔でうなずいたジスランに、彼も想いを振り切るようにため息をついた。
最後に一度だけ、ブランシュの寝顔を黙って見つめたあと、アルマンは静かに部屋を出て行った。
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