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聖女の役目
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侯爵家の娘として生まれたブランシュは、七つの時にこの国の第一王子アルマンと婚約した。
当時彼は十三歳。六つも年下のブランシュのことを、彼は決して子供扱いしなかった。
アルマンは将来この国を背負っていくことが決まっていて、ブランシュはそんな彼の支えになるべく様々な勉強に励んでいた。
二人の婚約は政略的な意味合いが強かったが、交流を重ねるうちに、優しく穏やかなアルマンにブランシュはほのかな恋心を抱くようになった。
アルマンもブランシュを好きだと言ってくれたし、共に過ごす未来を疑いもしなかった。
ブランシュがこの春に成人を迎えたこともあり、数カ月後のアルマンの誕生日には、正式に二人の婚約を発表する予定だった。
それが音を立てて崩れ落ちたのは、つい先月のこと。
突然訪ねてきた神官が、ブランシュが聖女であるというお告げがあったと言うのだ。
何も分からないまま神殿に連れて行かれ、そこに祀られていた聖石にブランシュが触れた途端、真っ白だったその石は赤く輝いた。
聖石を赤く輝かせることができるのは、聖女だけ。
これまで誰が触れても変わらなかった聖石は、お告げ通りブランシュが触れたことで赤くなった。
神の力を身体に宿すと言われる聖女には、ひとつの役目がある。
それは、神の子と呼ばれる者の妻となり、彼に力を与えること。純潔を捧げることで、それは成されるという。
ブランシュが聖女となった瞬間、アルマンとの未来は断ち切られた。
そして、アルマンの双子の弟であるジスランは、神の子として知られていた。
生まれた時から赤い瞳を持つ彼は、神に愛された子だ。
その証に、ジスランは神力という癒しの力を持っている。その力は、聖女と交わることでさらに強くなるという。
ブランシュの意志に関係なく、気づいた時にはアルマンとの婚約は解消され、聖女としてジスランの妻になることが決まっていた。
もちろんジスランとも交流はあったし、彼のことは嫌いではない。アルマンと結婚することで、彼とも縁続きになれることを喜んですらいた。
だけど、同じ顔をしていても、明るく無邪気な性格のジスランよりも、落ち着いていて大人びたアルマンの方が、ブランシュは好きだった。
聖女となった自分はジスランの妻になり、彼に抱かれるということを頭では理解していても、心がついていかない。
長年温め続けたアルマンへの想いをそう簡単に捨て去れるわけがないし、ジスランをすぐに愛せるかも分からない。
それでもせめて、最後に一度だけでもアルマンに会って直接別れを告げることができたなら、この想いも吹っ切れると思っていた。
だが、穢れがつくと困るからとブランシュは神殿から出ることを許されなかったし、アルマンからは何の連絡もなかった。
この国において大きな力を持つ神殿には、たとえ王であっても逆らえないことは分かっていたし、アルマンがどれほど望んでもブランシュとの結婚が許されないことも分かっていた。
無理に奪って欲しかったなんて、そんな我儘は言わない。
アルマンも確かにブランシュを愛していたと、それを教えてもらえるだけで良かったのに。
家にも、神殿にも、何の連絡も寄越さないアルマンに、ブランシュは少しだけ裏切られたような気持ちになっていた。
そんな彼が、まさかこの場にいるなんて。
かつて将来を誓い合ったブランシュが、双子の弟に抱かれるのを見るアルマンは今、何を思うのだろう。
黙って寝台のそばに立つアルマンの表情からは、彼が何を考えているのかは全く読み取れない。
当時彼は十三歳。六つも年下のブランシュのことを、彼は決して子供扱いしなかった。
アルマンは将来この国を背負っていくことが決まっていて、ブランシュはそんな彼の支えになるべく様々な勉強に励んでいた。
二人の婚約は政略的な意味合いが強かったが、交流を重ねるうちに、優しく穏やかなアルマンにブランシュはほのかな恋心を抱くようになった。
アルマンもブランシュを好きだと言ってくれたし、共に過ごす未来を疑いもしなかった。
ブランシュがこの春に成人を迎えたこともあり、数カ月後のアルマンの誕生日には、正式に二人の婚約を発表する予定だった。
それが音を立てて崩れ落ちたのは、つい先月のこと。
突然訪ねてきた神官が、ブランシュが聖女であるというお告げがあったと言うのだ。
何も分からないまま神殿に連れて行かれ、そこに祀られていた聖石にブランシュが触れた途端、真っ白だったその石は赤く輝いた。
聖石を赤く輝かせることができるのは、聖女だけ。
これまで誰が触れても変わらなかった聖石は、お告げ通りブランシュが触れたことで赤くなった。
神の力を身体に宿すと言われる聖女には、ひとつの役目がある。
それは、神の子と呼ばれる者の妻となり、彼に力を与えること。純潔を捧げることで、それは成されるという。
ブランシュが聖女となった瞬間、アルマンとの未来は断ち切られた。
そして、アルマンの双子の弟であるジスランは、神の子として知られていた。
生まれた時から赤い瞳を持つ彼は、神に愛された子だ。
その証に、ジスランは神力という癒しの力を持っている。その力は、聖女と交わることでさらに強くなるという。
ブランシュの意志に関係なく、気づいた時にはアルマンとの婚約は解消され、聖女としてジスランの妻になることが決まっていた。
もちろんジスランとも交流はあったし、彼のことは嫌いではない。アルマンと結婚することで、彼とも縁続きになれることを喜んですらいた。
だけど、同じ顔をしていても、明るく無邪気な性格のジスランよりも、落ち着いていて大人びたアルマンの方が、ブランシュは好きだった。
聖女となった自分はジスランの妻になり、彼に抱かれるということを頭では理解していても、心がついていかない。
長年温め続けたアルマンへの想いをそう簡単に捨て去れるわけがないし、ジスランをすぐに愛せるかも分からない。
それでもせめて、最後に一度だけでもアルマンに会って直接別れを告げることができたなら、この想いも吹っ切れると思っていた。
だが、穢れがつくと困るからとブランシュは神殿から出ることを許されなかったし、アルマンからは何の連絡もなかった。
この国において大きな力を持つ神殿には、たとえ王であっても逆らえないことは分かっていたし、アルマンがどれほど望んでもブランシュとの結婚が許されないことも分かっていた。
無理に奪って欲しかったなんて、そんな我儘は言わない。
アルマンも確かにブランシュを愛していたと、それを教えてもらえるだけで良かったのに。
家にも、神殿にも、何の連絡も寄越さないアルマンに、ブランシュは少しだけ裏切られたような気持ちになっていた。
そんな彼が、まさかこの場にいるなんて。
かつて将来を誓い合ったブランシュが、双子の弟に抱かれるのを見るアルマンは今、何を思うのだろう。
黙って寝台のそばに立つアルマンの表情からは、彼が何を考えているのかは全く読み取れない。
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