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60 穏やかな日常
しおりを挟む夜会の場で祖国ホロウードと決別し、サラハが捕らえられた。
あれ以降ヴァルラムからは何も言ってこないし、ホロウードとアルデイルの鉱石の輸出入に関する取り決めも破棄された。
彼がホロウード行きの船に乗るところまで見送った騎士団長は、ヴァルラムが二度とこの国には来ないと涙目で吐き捨てていたと笑った。
実はかなり細身でひ弱なヴァルラムは、剣もろくに扱えないほどに運動神経が悪い。筋骨隆々のアルデイルの騎士に囲まれて、さぞ恐ろしかったに違いない。
国交を絶ったことで、アルデイルとホロウードを結ぶ連絡船も廃止となった。もともとほとんど交流のなかった国同士であり、結婚を機に就航した連絡船も月に一度出る程度のものだった。利用者もほとんどいなかったので、これからも両国が交流することはないだろう。
ヴァルラムの政治の手腕だけは、女に溺れて全てを放棄した父親よりも確かだ。彼はきっと、これからもそれなりにホロウード王国を治めていくのだろう。
唯一、ルフィナが祖国に残した気がかりは、母親代わりに育ててくれた乳母のこと。それを知ったカミルは、乳母をアルデイルに呼び寄せてくれた。イライーダの母親でもある彼女は、今は娘と共にルフィナに仕えてくれている。
サラハは、まだ自分はカミルの婚約者だと言い続けているという。現実を受け止めきれず、自分の妄想の世界に閉じこもることにしたのかもしれない。
手紙を白昼堂々運ばせようとしていたことからも、サラハも本気でホロウードに情報を流そうとしていたわけではない。彼女の目的は、ルフィナがアルデイルに反逆の意思を持っていると疑わせることだったのだから。
だが、客観的に見ればサラハのしたことは反逆罪と捉えられてもおかしくない。重い処罰を与えることも検討されたが、ルフィナとカミルに二度と接触しないことを条件に彼女は城から遠く離れた国境近くで、アルゥを育てる仕事につくことになったそうだ。
厳しい監視下で荒れた土地を一から耕し、アルゥを育てることはかなり困難な作業になるだろう。
アルゥの実を育てる一族でありながら、農作業は汚れるし疲れるから嫌いだと城に果実を届ける役ばかりを選んでいた彼女には、一番適した罰かもしれないとカミルは語った。
サラハの父親である宰相は、自分の娘がしでかしたことに酷くショックを受けて職を辞すと申し出てきたが、王がそれを断った。彼自身はサラハの企みに全く関与していなかったし、彼は王の右腕として優秀なのだ。それでも娘の監督責任を問われ、大幅な減給となったが、彼はそれで済むのならと喜んで受け入れたという。
穏やかな日常を取り戻したルフィナは、苦手だったアルゥの香りも少しずつ克服した。
まだ食べようとすると吐き気に襲われるが、匂いを嗅ぐくらいなら平気になったのだ。もともと、精神的なストレスからくるものだったのだろう。
それでもカミルは、ルフィナが嫌うならと好物だったアルゥの実を口にすることをやめてしまった。匂いのせいでまたルフィナに拒絶されたら立ち直れないからと、彼は笑う。
毎晩のようにカミルに抱かれているものの、まだルフィナのお腹に彼の子が宿る気配はない。
少し前までなら、一刻も早く世継ぎを産まねばならないと焦っていたかもしれないが、今はそんなに気にすることなく過ごせている。
それはきっと、優しく見守ってくれる義両親をはじめとするアルデイルの皆や、子供ができるかどうかなど関係なしにルフィナのことを愛してくれるカミルがいるからだ。
いつかは、カミルに似た子供を抱くことができたらいいなと思いつつ、そんな日が来るのかどうかは誰にも分からない。
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