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59 本性

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「それから、もうひとつ」
 声を張ったカミルに、再び会場の視線が集まる。カミルはサラハをにらむように見下ろした。
「手紙は、ルフィナが祖国の兄に向けて宛てたものを装っていた。書かれている内容は嘘まみれだったが、俺がルフィナに贈ったネックレスについて詳細に記した箇所があった。ネックレスの裏に描かれた言葉など、それを知っているのは俺とルフィナ、そしてこれを売っていた屋台の店主のみだ。どうしてお前がそれを知っている? 似たものを作らせてもいたようだが、ルフィナは人前ではネックレスをほとんど身につけていなかったはずだ。どこで知った?」
 詰問されて、サラハは投げやりなため息をついた。そして薄笑いを浮かべてカミルを見上げる。
 その顔は、さっきまでのか弱さなど微塵も感じさせない。
「えぇ、そうですわ。ご想像通り、部屋に入りましたの。だって、カミル様が本当にその方を抱いていないか、気になって仕方なかったんですもの。そんな安物をわざとらしく大切にしてみせてカミル様の気を引こうだなんて、あざとすぎて吐き気がしますわ。こっそり捨ててやればよかった」
 憎々しげにルフィナをにらみつけながら、サラハはなおも震える口を開く。
「わたくしがカミル様の妻になるはずだったのに、横からあらわれてそれを奪ったのよ。獣人の血も引いていない、ひ弱な人族のくせに……! 何が妖精姫よ、あなたなんかにカミル様を奪われてたまるものですか。手紙を偽造して、反逆罪で捕まると思っていたのに、どうしてまだここにいるの! カミル様の妻になるのは、このわたくしなのに……!」
 金切り声をあげながら、サラハはルフィナに掴みかかろうとする。すぐに取り押さえられて身動きできなくなるが、髪を振り乱しながら彼女はルフィナをにらみつけている。
「おまえを婚約者として扱ったことなど、一度もない。俺の妻は、ルフィナただ一人だ。ルフィナこそ、誰よりも愛しい、俺のつがいだ」
 サラハから守るように抱きしめて、カミルはルフィナの首筋にそっと口づけを落とした。
 それを見た瞬間サラハはぎりっと唇を噛みしめた。
「つがいだなんて……信じない、わたくしは信じないわ。だってわたくしの方がカミル様に相応しいもの……!」
「連れて行け。もう二度と顔も見たくない」
 カミルが命じると、サラハは拘束されたまま会場の外へと連れて行かれた。彼女が必死にカミルの名を叫ぶ声だけが、微かに響いていた。
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