【R18】初夜に「きみを愛すことはできない」と言われたので、こちらから押し倒してみました。―妖精姫は、獣人王子のつがいになりたい!

夕月

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55 リリベルの指輪

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 ルフィナの疑いが晴れてから、表面上は何もない穏やかな日々が続いている。
 手紙を偽造したのはやはりサラハに違いないようで、その証拠も見つかったそうだ。だが、彼女を捕えるのも時機を見ているのだとカミルから説明を受けている。
 騎士団長は一度、ルフィナのもとを訪ねてきて深々と頭を下げ、手打ちにしてくれと剣を差し出してきた。もちろんそんなことできるわけないので、慌ててお引き取り願ったのだが。カミルは代わりに一発殴っておくと言っていたが、それも止めておいた。(だが、その後頬を大きく腫らした騎士団長を見かけたので、カミルの言葉は本気だったのかもしれない)

 ◇
 
「お義姉様、とっても素敵!」
 アイーシャの言葉に、ルフィナは微笑んだ。
 相変わらず部屋からあまり出ない生活をしているルフィナだが、本日の夜会には出席を予定している。そのための身支度を、アイーシャが手伝ってくれているのだ。
 今夜の夜会はアルデイル国王の誕生日と、夫妻の結婚二十五周年を祝う会ということで、かなり規模の大きなものだ。
 いい機会だからと、カミルがホロウードにも招待状を出した。ルフィナとヴァルラムの関係をはっきりとさせるためにも、皆の前でホロウードとの国交を断つことをカミルは考えているという。
 野蛮だと蔑まれてまで関係を維持する必要性を感じないからだというカミルの言葉に、ルフィナはうなずいた。
 しばらくして、ヴァルラムからも出席すると最低限の内容だけしたためた返事が来ていた。几帳面な兄にあるまじき投げやりな筆跡のサインを見て、ルフィナはため息をつくことしかできなかった。
 久しぶりに兄と対面することを考えると少し気持ちは落ち着かないが、これが彼に会う最後の機会になるだろう。ルフィナはもう、アルデイルで生きていくと決めているから。
 
 カミルが仕立ててくれたドレスは、金色の華やかなものだ。婚礼の時にも着たアルデイルの伝統的なドレスによく似た刺繍が全面に施されていて美しい。たくさんのビーズや宝石を縫いつけた刺繍は、ルフィナが身動きするたびにきらきらと輝く。長いトレーンの裾に刺繍されているのは、リリベルの花だ。
 身体にぴったりと沿うデザインのロングドレスは、ルフィナをいつもより大人びて見せていた。
「本当に素敵。よく似合ってるわ」
「ありがとう、私もとっても気に入っているの」
「お兄様の執着をめちゃくちゃ感じるけどね。金色のドレスだなんて、お義姉様を自分の色で染め上げる気満々って感じよ」
 くすくすと笑いながらアイーシャが言う。確かにドレスもアクセサリーも、カミルの髪や瞳の色によく似た金色で統一されている。
 だけどルフィナは、その色も含めて気に入っている。だって、カミルに抱きしめられているような気がするし、彼がそれほど自分に執着してくれているということが嬉しくてたまらないから。
「さぁ、おしゃべりは一旦終了ですよ。お化粧ができませんからね」
 そう言ってイライーダが鏡台の鏡越しにルフィナをのぞき込んで笑う。
 反逆の疑いで共に捕らえられて酷い目に遭った彼女だが、今も変わらずルフィナのそばにいてくれる。消耗はしていたが傷つけられていなかったことにルフィナは心から安堵したし、彼女も気丈にルフィナの無実を訴えてくれていたことを知って本当に嬉しかった。
 慌てて口をつぐんだルフィナを見て笑いながら、イライーダがルフィナの唇にそっと紅を差す。いつもより少しだけ濃い色合いは、ドレスの輝きに負けないためだろうか。メイクも、いつもより華やかだ。
 
 準備が整ったのを見計らったかのように、カミルがやってきた。アルデイルの正装だという丈の長い上衣は、背の高い彼によく似合う。
 生地にはルフィナのドレスと似た刺繍が施されているし、胸元には薄紫の石が輝くピンが留められており、それはルフィナの髪の色。二人が並んで立てば、お互いの色を身につけていることは一目瞭然だろう。
「ルフィナ、とっても綺麗だ」
「ありがとうございます。カミル様もとても素敵ですよ」
「仕上げにこれを」
 そう言ってカミルが小さな箱を取り出す。中に入っていたのは、金色の指輪だ。小さな釣鐘状の花が連なったデザインは、間違いなくリリベルの花がモチーフ。着ければ、まるで指に花が咲いているように見えるだろう。
「リリベルの花……!」
 思わず小さく叫んだルフィナを見て、カミルは照れくさそうに笑う。
「前に約束しただろう。いつかきみにリリベルの花をデザインした指輪を贈るって」
「覚えててくださったなんて……」
「きみの、その決して折れない強い心に俺は惹かれたんだ。だけどこれからは、辛いことを感じる暇などないほどに幸せにしたい。きみをあらゆるものから守ると誓うから、どうかずっとそばにいて」
 膝をついたカミルが、ルフィナの手の甲に口づけた。結婚式での誓いの時よりももっと真摯な響きで伝えられた言葉に、ルフィナは涙を堪えつつうなずく。
「もちろんです。ずっとあなたのおそばにいさせてください、カミル様」
 まっすぐに見つめて答えると、嬉しそうに笑ったカミルがそっと指輪を薬指に滑らせた。
「本当は誓いのキス……といきたいところだが、せっかくの可愛い化粧が落ちてしまっては困るからな。今は我慢しておこう」
 悪戯っぽく笑ったカミルが、その代わりというようにルフィナの指先に唇を落とした。

「ねぇ、あたしたちの存在は、完全に空気よね……」
「いつものことですわ、アイーシャ様」
 壁際で息をひそめるアイーシャとイライーダが、小さな声でそう言って肩を震わせた。
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