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53 無実の証明

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 カミルに連れられて向かった先は、国王の執務室。そこには不安げな表情の王妃とアイーシャ、それからルフィナを四阿から連行した騎士の男がいた。ルフィナの尋問も主に担当していた男だ。役付きの騎士だろうとは思っていたが、騎士団長だったらしい。彼はまだルフィナへの疑いを捨てきれないようで、厳しい視線を向けてくる。
 ルフィナがソファに座ると隣にカミルが座り、守るように肩を抱いてくれた。それだけでルフィナは何も怖くないという気持ちになれる。だから、背筋を伸ばしてまっすぐに国王の視線を受け止めることができた。
 アルデイル国王は、カミルによく似ている。きっと彼が年を取ったらこうなるのだろうと思わせるような渋さを持ち、鋭い眼光を持つ金の瞳はカミルよりも少し細くつり上がって見える。
 厳しい表情はルフィナだけでなく騎士団長の男にも向けられていて、公平に物事を判断しようとする彼の姿勢を感じた。
「まずは、おまえたちが見つけたという証拠を見せてもらおうか」
 そう言って国王が騎士団長に証拠の提出を求める。彼は、懐から白い封筒を取り出すと、机の上に置いた。
「こちらが、その証拠です。先月入ったばかりの庭師見習いの男が持っていました。ルフィナ王女付きだと名乗った者から、この手紙を港へ持って行き、ホロウード行きの連絡船の船長に渡すようにと命じられたと話しています」
「ふむ。中をあらためても?」
 国王の問いに、騎士団長はもちろんとうなずく。封筒の中に入っていたのは三枚の紙。二枚はルフィナからヴァルラムへ向けた近況報告の手紙だった。崩した読みにくい字で、アルデイルに来てから問題なく過ごしていることや、兄をはじめとした家族の体調を気遣う文言が並んでいる。
 そして最後の一枚は、アルデイルの軍事力に関するメモだった。アルデイルが国の各地に配備している基地の名称と位置などが書かれているようだ。ルフィナにとっては初めて知る情報ばかりだったが、それが他国に渡れば問題があることは理解できる。
 王も同じことを考えたのだろう、メモを見るその表情は先程より更に厳しい。
「確かにこれを外部に流出させた人物は、我が国への反逆を企てていると考えてもおかしくないな」
 つぶやいた王は、静かな目でルフィナを見据えた。
「そなたの言い分があれば、聞こう」
「父上、ルフィナは」
「おまえには尋ねていない、カミル。黙っていなさい」
 声をあげようとしたカミルを低い声で制止すると、王は再びルフィナを見る。ルフィナは姿勢を正し、一度唾を飲み込むと口を開いた。
「私には、覚えのないことです。その手紙も、私が書いたものではありません」
「それを証明する術はあるか?」
「……証明、と言えるかどうかは分かりませんが」
 一度言葉を切ってルフィナはうつむき、決心したように顔を上げた。
「恥ずかしながら、私の母は平民です。父であるホロウード国王と村娘の間に産まれた子が、私です。王と王妃の間に産まれた私の兄、王太子ヴァルラムは私のことを卑しい生まれだと蔑んでいました」
 自らの出自を語ることに少し躊躇いはある。卑しい生まれの王女をカミルに差し出したのかと責められるかもしれない。
 だが、これを語らずに疑惑を晴らすことはできないだろう。
 ルフィナは小さく息を吐くと、手紙を見つめた。
「ですから、私から兄に手紙を出すようなことはありません。そのような親しげな内容など、ホロウードにいた時ですら、話したことはありませんでした」
 崩した字が語るような、アルデイルの生活のことなどヴァルラムに伝えるはずがない。
 ルフィナは手紙に目を落とすと、ある一文を指先で示した。そこに書かれていたのは、アルデイルへ両親を招待したいといった内容。母と王妃はきっと気が合うだろうとも書かれている。
 指先でなぞりながら読み上げて、ルフィナは苦い笑みを浮かべた。
「この手紙の中では、私の母は健在のようですが、実際には違います。母は数年前から毒によって昏睡状態が続いていて、外出はおろか起き上がることすらできません。もちろん意識がないので会話も無理でしょう。このことは公にはしていませんが、兄に確認していただいても構いません」
 手紙を書いた人物は、そこまでルフィナのことを詳しく調べなかったのだろう。側妃の状況は、ホロウード王城内では公然の秘密だ。
 ルフィナの言葉に、王は深くうなずいた。
「そなたの生まれや母君の病状は、こちらも把握している。兄君との関係についてもカミルから報告を受けていたから、そなたの言葉に嘘がないことも分かる」
 一度言葉を切り、王はルフィナをじっと見つめた。
「この手紙を書いた者は、そなたのことをよく知らないのだろうな。何とも粗末な」
 鋭い光を放つ金の瞳は、厳しくも微かな柔らかさを持ってこちらを見ている。その視線をまっすぐに受け止めたルフィナを支えるように、カミルがそっと肩を抱いてくれた。
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